18.
ロランの示した面、それは疑いなく、少女に対して少なからぬ敬意抱いたというやつだった。
「いや、というより、もうそれしか残されていないといった方がいいか」
しかも続けて、一つ息吐きながら静かにそう零したのを見れば。
「おい、ロラン、何言っているんだ。アリソンはまだ子供だぞ」
「そう、そしてあなたの血を確実に継いだ。それゆえ今ではアウゴエイデスを唯一操作できる存在。……違いますか?」
「ま、まあ、それは……いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて」
むろん対してリロイはたちまち、顔色変えて反論してきたものの。
「そう、いくら巨人を動かせるといっても、さすがに魔女たちを相手にするには」
「ならば、あなたが一から教えてあげればいい。技は確かに失われたかもしれませんが、その知識、経験はいまだ健在のはずですから」
「一からって、そんな無責任な!」
それも加えて吸血鬼が説得しようとしてくると、その声音は一層強くなり。
どことなく、狼狽したように。
「本当の戦いは、そんな甘いものじゃない! お前だって十分分かっているはずだ!」
――それゆえ彼の様相はそれ隠さんとしたか、次第に激高したものへさえ変化していったのである。
「だというのに、こんな経験の浅い子供へ教えろだなんて、さすがに」
「無茶ですか?」
「ああ、そうだよ! それ以外、どう答えようがある?!」
まるで荒ぶる王の如く。
そう、つまりはそれくらい、ロランの出した意見は彼にとって余りに予想外、無茶苦茶なものとしか思われず。
当然、受け容れようのない……。
「ちょっと待って、私の意見も聞いてよ!」
「!」
だがそのためか刹那、その焦眉の少女が力強く再び話へ入ってくると、彼は途端ハッとそちら振り返らざるを得なかったのであった。
◇
「ア、アリソン……」
「そうよ。ロランの言った通り、私だってちゃんと教えてもらえれば戦える! ひいお爺ちゃんの、歴とした曾孫なんだから」
「だが、相手は余りにも」
「でもその魔女たちだって元々は普通の女の子、そこへリロイから全てを教えられたんでしょ? だったら、私に出来ないはずないわ」
こうして今や真剣そのものの雰囲気漂わせ、こちら見つめ返しているアリソン。
まさしくかつて、命に替えても守ると誓ったあの最愛の女性と、どう考えてもうり二つな美しい少女。もっともそのメルティナに比べると、いささか気が強い感があるのが微妙な違和感ともなっていたが。特に時折、本当にメルティナが甦ったのかと思ってしまうことがあった以上。
いずれにせよそんな曾孫が、必死な思いで自分のこと見ているのだ。ゆえにそれは百戦錬磨の彼をして思わず気圧されたような風、見せてしまうに充分過ぎる程なのだった。
「だから、君はあいつらとは――」
従ってリロイの発した次なる声にも、妙に先程までの勢いが欠けていて、
「違わないわ! 私はあなたにとって最も才能のあった弟子、メルティナ・エイゼルの血も引いているんだから!」
「!」
さらにとどめの一撃と少女が声高く上げるや、知らずその石板色の瞳は動揺の光、今やはっきりと現わさざるを得ず。
「メ、メルティナ……」
はたしてそう呟くと、後は口ごもってしまったように。
そう、もはや反論する術、何もなくなってしまったと。
この誰に似たのか強気極まる曾孫の意志を、覆すための――。
「ハハ、何だか二人って、そっくりですね」
だが、そんな空気ゆえだろう。
そうして一瞬場には何とも言えない間が空いたが、しかしそこでふと妙に穏やかにロランが口を突っこんでくると、
「え?」
「ウソ!」
彼は、いやそれはなぜかアリソンもだったが、たちまちギョッとしたような様相、示しており、
まさに寝耳に水とばかりに。
「俺とこの娘が? まさか!」
「そうよ、一体どこが?!」
次の瞬間、その二人はまさしく息もピッタリ、口を揃えて否定していたのである。
◇
――だが、いずれにせよそんな色々あった中、一連の流れからリロイがアリソンのただならぬ決意認めたことは、紛れもない事実であり。
「どうです、リロイ様。決心なされましたか?」
ロランもその様相認め、改めてそんな一言、今度は静かに掛けてくる。つまりはもう、あなたにはこの道しかないのでしょう、と。
「……そうだな」
つまりはそのリロイも、もはやため息交じりの返事で、応答せざるを得ず。
ついに万策尽きたとばかりに。
「どっちにしろ、アウゴエイデスを復活させれば、必ずソーサリスたちに勘づかれるはず。そうなると、アリソンの身も……。だったら、もう戦って、自分で自分を守るしかないな」
「ひいお爺ちゃん!」
「とはいえすぐに君が巨人を動かせるとはさすがに思えない。だから訓練は相当厳しいものになると思うが」
特に大事な曾孫のこと、いまだ心配そうに見つめつつ。
「やる! 私、絶対やるわ!」
「そのやる気は結構だが、しかし想像以上に遥かにハードだぞ? それでもついてこられると言うなら」
何よりその声音には、いつしか重々しささえ含まれていて。
知らずアリソンに、ゴクリと唾飲みこませたくらい。
そう、その言耳にした途端この勝ち気な少女にも、自分をこれから待ち受けるものの余りの大きさ、厳しさがはっきりと自覚できたらしく。
もちろんその、まだ僅かたりと見えもしない遥か先には、自らの宿願へと必ず続いている……。
「……うん、絶対に弱音は吐かないし、逃げ出したりもしない!」
だが、ゆえに刹那現わしたその表情には、これまでにないくらい真摯な色が明々と、眩しい程に映っていたのだった。
「そうか、分かった」
つまりはそれ見たリロイにも、真剣な面持ちで頷くしか結局、応じようがなかったのだから。
「マジかよ、アリソンがアウゴエイデスを操縦するのか?!」
「凄いなあ、さすがリロイ様の曾孫ですね!」
「うん、やっぱり、ただ者じゃない……」
かくてその光景息を飲んで見守っていたガルフたちに、たちまち感嘆と驚きの声、上げさせながら。
ついにその時、巨人復活の日が来た、と。
長きに渡って、待ち続けた。
遥か遠い日の、燦然と輝く栄光が再生……。
「それで、この後はどうする?」
そう、それゆえ水を差すが如くその時突然嫌に冷静な声が聞こえてこなければ、そうした歓喜溢れた場面はなおもしばらく、一件落着と続いていたはずで。
「え、この後?」
……それは、やはりコールだった。つまりどうやら彼のみは、何やかやでアリソンが巨人の操り手となることほぼ確信していたらしく、要はそこにほとんど驚きの様子見られなかったのだ。
「ああ。ここはロランの夢の中だぞ。早いところ脱出しないと」
「あ、そうだった!」
そして当然ながらその一言は、アリソンたちをして途端現状をハッと思い出させてしまう。すなわち、今はゆっくり話し合いどころか、まさに激しい戦闘している真っ最中だったことを。そう、いくら途中ロランの突然の登場があったとはいえ、そうなるとその驚き、狼狽たるや筆舌に尽くせるものではない。
「あのバシリスクは?!」
「畜生、忘れていたぜ!」
「ロランが突然出てくるものだから……」
それゆえ大声上げるやガルフ中心に、リロイ&ロラン除く彼らは大慌てでそちら、いまだ怪物が立ちはだかっていると思われる方、振り返ったのだが。
むろん再度、戦端開くため。
「え?」
「あれ?」
しかし吸血鬼の背後、相変わらず薄闇支配するそこ見た、刹那。
「あの、女の子……?」
どういうわけか、いつしか見上げるような醜くも恐るべき巨躯は霞のように掻き消えていて――
予想外にも一同が認めたのは、黒髪に黒い瞳、そして漆黒のワンピース纏った、あのあどけない小柄な少女の姿なのだった。
「……」
――しかもなぜか、その両の瞳に今にも落ちてきそうなほどの涙、満々と湛えた。




