17.
ソーサリスと戦う――それはリロイにとって、実際の所いまだはっきりと決めたことではなかった。すなわち100年前魔女たちの反乱に遭い、そして巨人操る技奪われた以上、それはなかなかおいそれと宣言できるものではなかったのだ。
そう、確かに曾孫アリソンの出現によってついにロクスム・ハラを脱出して、アウゴエイデス復活の旅に出ることにはなったのだが、しかしそれも結局は少女の望みに従った事象という程度に過ぎない。つまりは、彼女が要求してきたがゆえのものだったので。もちろんそんなアリソンが、はたして巨人の力で何を成し遂げようとしているのかは、いまだよく分からなかったが。
「いや、それは」
それゆえロランから直球で指摘された途端、魔道士はどうにも声詰まらせざるを得なくなったものの。
「どうしたのです? まさか、違うというのですか?」
しかし吸血鬼の方は構わず、さらに問いかけてくる。まさしく、それ以外の何があるのかと。この期に及んで。
「アウゴエイデスが復活するというのに」
「しかし、俺にはまだ」
「?」
「……あいつを動かす力が」
むろんそれでも、分かりやすく逡巡示す主君。
「ああ、そうですね。ソーサリスは確かにあの時、あなたから大いなる技を奪った。万能の巨人を動かせないように」
「それも二度と、な。それくらい、強力な呪いを掛けられたんだ。五人がかりで。だから、今さらあいつらと戦うなんて」
「――では、どうして今さらアウゴエイデスを目覚めさせようとしているんです? それだと、ただ徒に魔女たちを刺激するだけのような」
「! う、それは……」
だがそれでも容赦なく、ロランはついに痛烈ともいえる一言、付け加えてくる。あのリロイをして思わず気後れした面、現わさせたくらいの。氷の如く、どこまでも冷徹な。
すなわち、いつしかそんな魔道士へ迫る刃は実に鋭いものと化しており。
「まさか、ただ昔の栄光を思い出すためだけに?」
はたして今まで見たこともないほど、彼は追いこまれた様相、示してさえいたのだから。
「昔の栄光? 違う、そんなつもりじゃ」
「では、何のために。ソーサリスに追われる危険、抱えてまで」
「だが、だからといって、あいつらと戦うなんて――」
従ってその声音には、次第に沈痛なものが含まれ出し。それはある種の恐れ、だったとでもいうべきか。いずれにせよ、なかなか前へ一歩踏み出すこと、許してくれない。
「そう、そんなことしたところで、結局――」
余りにも絶望的な。
どうあがこうとも。
もはや、出来るわけが。
……だが。
そう、かくてそんなリロイが恐怖、あるいは不安の余り自らの裡へと閉じこもった、その時。
「リロイ様――」
そしてそれ見たロランが知らず失望の色その面に映しかけた、刹那――。
まるで必殺の矢でもあったかの如く。
「――待って!」
その何とも言えず重たい空気裂いて、突如聞こえてきた声は、
「リロイが駄目だったとしても、私がいるわ!」
「!」
「え?」
「ええ!」
主従二人、いや、その場にいた一同にたちまちそちら急ぎ振り返らせるに充分な程の衝撃、持っていたのだった。
◇
むろん、その声の主はアリソン以外ありえない。しかも朱眼の少女は、実に決然とした表情浮かべそこにすっくと立っていたのである。
「アリソン……?」
知らずリロイが唖然とした声、洩らしていたように。
「確かにリロイにはもう巨人を動かすこと出来ないかもしれない。だけど、あなたの血を引く私なら!」
「いや、しかし……」
「マリアお祖母ちゃんが昔言っていたわ。あなたは偉大なる魔道士の子孫。だから必ず、彼の力も受け継いでいるって」
「!」
だが曾孫娘は、さらに口ぶり強くして言ってくる始末。いや、むしろもうこれしか方法は残されていないと、彼女の中では既に強く決定済みですらあったようなのだ。
自らの宿願、それを果たすためには。
そう、ついに明かされた、余りにも大それた望み、
「そして五人のソーサリスは、私が絶対倒す!」
――打倒ソーサリスを。
「おい、本気で言っているのか?」
「もちろんよ。こんな所で冗談なんか言えないわ」
「……マジか」
当然曾祖父の途端示した当惑顔など、大して気にもかけずに。すなわちそこにあったのは、正真正銘、まさに心からの決意というやつだったらしく……。
「しかし、いくら何でも――」
その余りの大胆さ、無謀さに、魔道士をして愕然と言葉、失わせていたような。
「ほう、なるほど」
そう、それゆえその刹那、ふいに隣からいかにも感心した声が掛かってこなければ、
「! ロラン……」
「確かにそれは、一つの名案ですね。アウゴエイデスを動かすには」
彼はそのまま、何とかして自らの血を引く少女のそんな気持ち変えようと、さらに言葉尽くしていたのかもしれなかったのである。




