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ギガノクラスム ―サバトに踊る巨人―  作者: 水落 舜
第四章 ボイトの沼
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16.

 こうしてついに巡りあうこと適った、リロイ最後の家臣。しかしそれはやはり感動的というよりは、どう考えても驚きで満ちた一場面なのだった。


「そんな……凄い」


 何よりティコが口をあんぐり開けていたように、魔道士を除く全員が分かりやすくも唖然とした表情、浮かべていたのだから。余りに突然の事態だったこともあり。


「でも一体、どこから?」


 それゆえようやく先程のダメージから回復し起き上がったガルフなどは、だがすぐさま狐につままれたが如くそんなこと問うている。久々の再会のはずなのに、そこに涙一つなかったのは言うまでもない。つまり、どこまでも衝撃の方が大き過ぎて。


「ガルフか。それにティコとファムも。本当久しぶりだな」

「え? ああ……」

「ハハ、驚いているようだが、ここは私の夢だからな。いきなり現れたところで、驚くには当たらない」


 従って次の言葉がいくら親しげなものだったとしても、彼らの当惑はなかなか収まりゆくはずもなく。

「そして、リロイ様。相変わらずお元気なようで、私としても喜ばしい限りです」


 さらに青年がすっと前へ進み出て、古くからの主君の元へ近づくや、ハッと慌ててそのリロイの様子、窺っていたのだった。


「ロラン。また会えて嬉しいぜ。……ただし、こんな変な場所じゃなかったら、もっと良かったんだが」

「ええ、ここは夢、所詮は儚い虚構ですから。得体の知れない化け物たちで満ちた」

「ウム。だがそれは、お前じゃなくて夢魔が生み出したものなんだろ?」


 もっともリロイはリロイで、積もる話も何も、やけにあっさり応じていたのだが。それも挨拶も早々、さっさと次の話題へ入りたい感、満々で。

 つまり今はそんな昔の話より、すぐそこに横たわっている現実の方が遥かに重要、それが紛れもない事実だったわけであり――。


「……ええ。全ては彼女の仕業です」


 そう、その途端ロランの表情がきりりと怜悧さ増したのを見れば、明らかだったように。


「夢に取りこまれたか、ロラン?」

「確かにそういうことかも、しれません」

「――そしてアリソンの名を出さなければ、こうして現れることもなかった。そういうことか?」

「さあ、どうでしょう」


 いずれにせよ、そうしていつしか二人の主従の話は真剣味を帯びたものへと化していき。

 先程までの、怪物と対峙していた時とは打って変わって。

 他の皆が、じっと見守っている中。


「でも、まさしくあの方と生き写しで、かなり驚きましたが」

「ああ、実際俺もそうだったからな。まるで本人かと思ったくらい。しかも100年ぶりに見た……」

「あと、見知らぬ人が、もう一人いるようですが」


 と、そこでふいに視線を別の方向へ変えたロラン。むろんそれが少女の隣、黒衣の青年へ向けられたものなのは、言うまでもなかった。


「お、コールか。確かにお前は初めて会うな」


 魔道士にすかさず、気づかせていたくらい。


「あれはアリソンの仕事仲間さ。まあ、俺もまだよく知らないが、とにかく腕は立つ」

「なるほど。ではアリソン様もあの人も、何かを目的にリロイ様とともに旅しているわけですね?」

「何かを、――まあな」


 そしてその言葉は、この理知的な吸血鬼をしてすぐさま何かを感じ取らせたようで、

 余りにも明白、と。


「そしてリロイ様。あなたがファムやガルフとともにいる以上、その<何か>はもう明らか――」


 ふとその緑の瞳妖しく輝かせるや、そんな一言、告げてきたのである。


                  ◇


「明らか――?」


 むろん、その反応にかえってリロイは訝しげな声、洩らしていた。


「はい。紛れもない、この三人が揃った上は」

「!」

「そう、アウゴエイデスを復活させるという」


 何より、ロランが次いでそんな恐るべきこと告げてきたとすれば、それはたちまち驚きにすら変わっていて。


「なぜ、お前がそれを……」


 彼は途端、愕然とそう呟かざるを得なかったのだから。


「その様子だと、やはり二人にはまだこのこと話していなかったようですね」

「……まあな。というか、お前はとっくに気づいていたのか?」

「はい。あなたが我々に、ある魔法を掛けたことは」


 それ耳にした相手は、依然普通極まる様相だったとはいえ。特に大したことではないとばかりに。


「そしてこの魔法は、間違いなく三人の家臣が揃った時、発動させることが出来るはず。つまり例えば一人が魔女たちに捕えられても、それだけでは巨人復活に繋がらない……考えましたね?」

「100年前、あの時は切羽詰まって、他にやりようがなかったからな。それでお前たちを利用することを仕方なく思いついたんだ」

「その真実を、しかし伝えることはなく。秘密のまま」


 そうして主君からかうが如く、口許へ浮かんだ小さな笑み――。

 従って魔道士の方も、おのずとそれにつられて似たような軽口叩く感じとなってしまったものの。


「いや、それは本当に悪かったと思っているが、ただ知らない方が良い事実というのも、確かにあるからな。そう、例えばガルフなんかは、自分が巨人復活の鍵の一つだと知ると逆に何をしでかすか分からない」

「フフ、なるほど。彼ならかえってソーサリスにその鍵、売り渡しかねない」

「ああ、極端な話」


 しかも妙に鷹揚と。

 特に気兼ねも見せず。


「もちろんあくまで全ては想像だが」


 ……しかし、かくてもたらされた、その一時の油断ゆえだろう。

 はたしてそのままの流れでリロイがさらに冗談でも口にしてこの話を濁すかと思われた、まさにその時。


「――ですが、いずれにしてもやっとリロイ様は決心なされたのですね」

「え?」


 ふいにロランがその瞳の輝き、真摯なものとさせ、

 不意打ちというか、むろんそこにはまるで躊躇する素振り一つなく。

 魔道士が虚を衝かれたくらい。


「いよいよ、ソーサリスたちと戦うことを」

「!」


 そして突如究極ともいえる強烈な一言、のたまってくるや、


「な……」


 ――我知らずリロイは絶句、その場ですることと相成ったのであった。

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