15.
リロイの解き放った声――それはたちまちにして、暗い空間全てに隙間なく響き渡っていた。すなわちその間はバシリスクも、なぜか凍りついたように攻撃、いや身動き一つしていなかったのだ。
「目覚める……」
「て、今ロランに向けて言ったの?」
そう、それ耳にしながら、ただ唖然とするしかなかったアリソンたちと全く同様。
つまりはその場にいた皆が皆、束の間魔道士の言葉に驚きと戸惑い覚えていた訳であり。
一体どういうことなんだ、と。
「どうした? みんなそんな顔して」
「いや、まさか、と思って」
「まさか? 何を言っている、ここは何度も言っているようにロランの夢だぞ。そう、大声出せば、あいつには必ず届くはず」
「ふうん……」
もっとも当のリロイ本人は全くそんなこと気にしていなかったようであり、普通の態で躊躇なく話しかけてくる。あくまで自分は当たり前のことをしたに過ぎないとばかりに。この夢の世界では、極めて常識的行動であるところの。
「さあ、それはそうと今のはあくまで第一弾。とにかくこれで後もう一押しすればさすがにロランも反応するはずだ。何と言っても、俺たちには最終兵器があるんだから」
それゆえ彼はそのままの勢いで半ば強引に話を進めていくと、次いでアリソンの方をふと見やり、
「え? 最終兵器?」
「ああ、それもとっておきの」
はたして何かを企んでいるかのように、刹那ニヤリと悪戯っぽい笑み、浮かべたのだった。
「とっておき、って」
……むろん面と向かってそれ言われた少女の方は、途端怪訝そうな表情、現わすしかなかったものの。少なからず抱いた嫌な予感とともに。
「ハハ、すぐ分かるさ。さて、では時間も時間だしさっさとやるか。……おい、ロラン。今日お前を探しに来たのは、俺たちだけじゃない! そう、何を隠そう俺とメルティナとの間の曾孫、アリソンも来ているんだ! お前だって気になるはず、だからさっさと姿を見せろ!」
「え?!」
しかも次の瞬間、そのリロイが突如さらなる大声遠慮なく轟かせると、その驚きたるやとても尋常なものではなかったはずで。
「な、何で私が……」
従ってその余りの内容に焦った少女は思わず曾祖父のこと問い質そうとしたのだが。吸血鬼相手にどんな効果があるのかも分からず。確かにいくらメルティナの血を引くとはいえ、間違いなく初見の、この自分の名前が。さらにその戸惑い増させるような、曾祖父のいかにも自信漲った様子ともあいまって。
……だがゆえに、その刹那、
「! 光が」
このまま混迷はひたすら深まっていくのかとすら思われた、――その時。
そう、リロイの言に応じたか、ふいにどこかから来た一条の光が一同とバシリスクの間に突然すっと射しこみ、
まるで天から降りて来た梯子の如く。
「あ!」
「あれは……」
「ロ、ロランさん?!」
そして一同が何事かと見守っている中、それから僅かの間もないうちにそのただ中に何と一人の青年が忽然と姿現わすと、
「え、嘘――」
アリソンはどうにも強烈過ぎる混乱、ここに来て一層覚えざるを得なかったのである。
◇
それは実に見目麗しい青年だった。
眩いばかりの金髪は少し長めで、前髪も額に掛かっている。そしてその下にはきりりとした眉と、涼しげだが、しかし同時に憂いも帯びた切れ長の緑瞳。鼻は高く、すっきりとし、唇は薄く、かつ肌は肌理が細やかでどこまでも白い――。
そんな得も言われぬ美青年が、深青の絹の膝丈ガウンと黒のズボンを纏い、じっとこちら、アリソンたちの方を見つめているのだ。
「あ……」
途端少女が、その圧倒的でさえある美しさに目を奪われてしまったのは、ゆえに当然のことでしかないのだった。
「あなたは」
そう、知らず誰何する声にも、震えがはっきりと含まれていて。
「メルティナ様の、曾孫。なるほど」
「!」
「確かに、そっくりだ。あの方と」
しかも相手がふいにその口を開くと、それが明らかに自分へ向けられたものでもあり、受けた衝撃はただならず。すなわち、思わず目を大きく見開いていたような。
「……私の名はロラン。お会いできて、大変嬉しく思います。アリソン様」
従ってさらに青年――吸血鬼ロランが実にたおやかな態度で一礼してくると、もはや少女としては狼狽えつつも顔を赤らめるくらいしか、取れる仕草はない。
「えっと……」
それゆえ当然というか、次いで年頃の娘らしく思わずもじもじと口ごもってしまうと、
「フフ、でも、そうだな」
「え?」
「少しだけ」
対する相手は、ふっとその美しい口許に微かな、穏やかな笑みを浮かべ、
「あなたには、あの人と違う所がある」
……そして同時になぜかどこか哀しさ含め、そんな一言告げてきたのだった。




