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ギガノクラスム ―サバトに踊る巨人―  作者: 水落 舜
第四章 ボイトの沼
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14.

 それはまたしても、実に突然のことだった。


「今度は何だ?!」

「また、変身する……?」


 そう、リロイたち睨みつけ眼前に聳えていた黄金の巨体が眩い輝きに包まれるや、再度その形が変化し始めたのだ。しかもめくるめくような、もの凄いスピードで。

 アリソンたちには、むろんどうしようもなく。まさしく手をこまねいたまま。


「え、ウソ……」


 そして、それは信じ難いことだが僅か数十秒のうちにどうやら完成へ至ったようで、


「これは」

「まさか、バシリスク?」


 ――気づけば、彼らの眼前にはむくつけき巨体誇る、一匹の醜い大トカゲが傲然と立ちはだかっていたのである。


「シャアア!」


 それも、余りにもはっきりとこちら側、威嚇する素振りすら見せた。

 その王冠の如き黄色いトサカ持った頭の中、巨大極まる口より真っ赤な舌、おぞましくも見せつけながら。


「ちょっと、どういうこと? 何で急にバシリスクになっちゃったの?」

「そ、それもあんな大きな。ただでさえ最強クラスの妖獣だっていうのに!」

「知らないよ、そんなこと! リロイ様に聞いてくれる?!」


 ゆえにその姿認めた一同が、途端ちょっとしたパニックへ陥ったのは言うまでもなく。いや、むしろ慌てて逃げ出さないだけ、まだ大分マシだったというべきか。


「とにかく、無闇に近づくな! 石にされるぞ!」


 何より、コールがつと叫んだようにその怪物が途轍もない力持つこと、皆が嫌というほど知っていた以上。

 全てを石に変える、魔性の視線。そして、石化ブレス。

 ……そんな、ほとんど致死的ともいえる攻撃力、持つことを。

 伝説にも謳われる、凶気に満ち満ちた魔獣。

 それゆえ先程のスフィンクスの時とはまた違う意味で、一同は凍りついたように束の間その場に立ち尽くさざるをえなかったのだが。

 その規格外の攻撃に、はたしてどう立ち向かうか、と。

 この六人の力だけで。

 いまだどことも知れぬ、暗い空間の中。



「――そうか、分かったぞ」


 そう、従ってそうした緊迫した空気流れていた最中だというのに、刹那なぜかリロイがやけに落ち着いて零したそんな呟きは、


「え?」

「な、何です?」


 当然残された者たちをして、思わずそう訊ね返させていたのであった。


                  ◇


「なるほど、防御重視のスフィンクスの次は、超攻撃型のバシリスク。状況に応じて、姿を自在に変えられるってことか」

「そ、そうだけど、それで何が分かったっていうの? 結局相手の正体は、不明のままじゃない」

「……いや、だがこれではっきりしたんだ」


 むろんすかさず曾祖父の方振り返ったアリソンの声音にも、思いきり怪訝なものが含まれていたのは言うまでもない。つまりはいくらリロイが自信ありげにのたまったところで、今の彼女にはだからどうしたとしか応じようがなかったのである。


「この館の秘密自体も」


 加えて、まるでもう問題は全て解決したとばかりに、何とも意味深に告げてきたとしても。

 少女には、もちろん知らず目をパチクリさせるくらいしかやりようがなく。

 六人の獲物、どう餌食にしてやろうかと怪物が間近で舌なめずりしていた中。

今にも襲いかからんと――。



「だからもうすぐ終わらせること、出来るぞ」


 だが、当然というべきかそうした曾孫の大いなる疑問に、懇切丁寧にレクチャーしてやる魔道士などではありえず、


「ロラン! 要するにここは、この館はお前の見ている夢なんだろ?!」


 次の瞬間、むしろ彼の口からは余りにも突飛なそんな言葉、どこかあらぬ方へ向かって力強く発されていたのだった。


「シャアアア?!」


 ……たちまち、対峙するバシリスクに驚愕にも似た声、放たせて。


                  ◇


 そして当然の如く、その一言に驚き現わしたのは、怪物ばかりではなかった。


「ロランの夢、だって?」

「どういうこと? 意味分からない」

「何かの謎かけですか?」


 そう、たちまちにして、仲間たちも同様に唖然とした表情浮かべていたのだ。余りにも意味不明、とばかりに。


「いや、これは文字通りの意味だ。つまり、俺たちは今、ロランの見ている夢の中にいるという」


 何より他でもない、対するリロイがいまださほど詳しい説明、加えてこなかったとくれば。はたしてそれだけで皆が理解できると思っていたのかは、判然としないが。


「つまり、この館に入った時点から」

「え、その時から?」

「そうさ。……もっとも、今その夢を支配しているのは、全く別の存在なんだが」


 すなわち、彼はそのまま、急いたように次なる話へさっさと入って行ってしまった訳で。


「べ、別の存在?!」


 それ耳にしたアリソンに思わず、そんな仰天した声、放たせていたくらい。

 つまりこれから始まるのが、いよいよこの謎めいた館の正体を暴きにかかる、究極の種明かしに違いないと思われた以上――。


「て、いうことは、ここはロランの夢の中なのに、その、主人みたいに大きな顔している人が、もう一人いる――」

「お、さすが察しがいいな。その通り、間違いない」

「でも誰なの、それ?」


 従って当然いまだ戸惑いつつ、次なる、そして核心突く質問発している少女。そこには確かに、どんなに奇異な結論でもそれが真実ならばしかと聞き届けようという、若者らしき柔軟さがあるのだった。


「そんな変なこと、出来るなんて」


 すなわち、どれだけそれが信じ難い話であったとしても。

 この奇妙かつ危険な状況、ただそこから抜け出るために。


「ああ、そいつが誰、か。だが君たちは、既に目にしているはずだぜ」

「え、既に? 私たちが?」

「――その、主人顔している者に?」


 もっとも相変わらず魔道士の口ぶりは、煙に巻くが如くであったとはいえ。


「そんな人、いましたっけ?」

「というか、ロラン以外、ここで出会った者と言えば……」

「! あの、女の子。そして」

「今まさに目の前にいる、バシリスク」


 ――まるで、自分たちで正解へ辿り着けと言っているかのように。


 そしてそう、確かにアリソンたちはおぼろげだとは言え、今やその一端、何とか掴みかけていたようでもあり、

 黒髪の少女。黄金のスフィンクス。そして見るからに恐ろしい、バシリスク、その正体を。


「その通り。すなわちそれは、ロランの夢に巣食っている夢魔なのさ」

「!」


 ……ゆえにリロイが次いでそんな怪しげな一言告げてくるや、それはたちまち確信へと変貌遂げていたのだった。


                  ◇


「夢魔って……」


 むろんその言葉が与えた衝撃は、アリソンたちをしてたまげさせるに充分なものだった。


「人の夢の中に入りこんで悪さするっていう、あいつらのこと?」


 何より、我知らず少女が呆然とそう呟いていたように。


「まさしく。そして夢魔は夢の中でそのまま生き、次の獲物を探し出そうとする」

「だからほとんど実体のない魔物ですよね。もちろん夢から相手へ悪影響を及ぼすことは可能だけど、現実世界ではまるで力のない」

「とはいえ、憑りつかれると結構厄介な連中だがな」


 ただし当然のことだが、一方リロイの方はさも当たり前と言った風。つまり彼にとっては、このことは大して驚くべき事象でもなかったようで。


「とにかく、今のロランはその夢魔に入りこまれている状態なわけだ」


 特に、いともあっさり話題を本筋へ戻してしまっていたのを見れば。


「! そうか、それでロランはいまだ、眠ったまま……」

「うむ、余程夢魔にとっては居心地が良かったんだろうな。今じゃそいつの方が、さっきも言ったように主人面しているんだから、この世界では」

「でも、だとすると、どうやって彼を目覚めさせれば……まさか、あのバシリスクを倒さなければならないとか?」


 とはいえ、そうして事実が見事解明されたところで、ではどうすればいいのかとなるとまだ皆目分かっていないことには違いない。よってアリソンの声にいまだ惑乱が残っているのも、至極当然のことではあるのだった。


「フム、夢魔を倒す、か……確かにそれも一つの手ではあるが、少々厄介だな」

「そうなの?」

「ああ。何せここは奴の完全なるテリトリーだからな。そう、姿を自在に変えられるように、とにかくやりたい放題の。だからそんな所でまともに戦うとなると、こっちもかなりダメージが大きい」

「そんな、それじゃ、何も方法が」


 はたして、続けて曾祖父はそうした実に気の滅入る言葉で応じてきたのだから。

 それ耳にしたら、今のところ完全に五里霧中としか思えないほどの。


「ここから出ることも、出来そうにないし」


 ゆえに曾孫は知らず、お先真っ暗な声発しているというもの。まさかこんな所で足止めさせられるのか、と。

 巨人復活、その壮大な夢、道半ばにして。

 夢魔相手に、手も足も出ず。

 実に情けないことに。


 ……しかし、まさにそんな突然襲い来った大いなる絶望感がゆえ、だろう。


「いや、待て。方法は一つ、あるぜ」

「!」


 次の瞬間、なぜか妙に余裕ありげにリロイがアリソンのこと見つめ、


「それも、実に直接的・簡単なやつが」


 さらに一つのこと、やたら自信持って告げてくると、


「あるの?!」


 途端、少女の表情には限りない驚愕と、そして輝かんばかりの希望の光が一気に現れていたのである。


「そう、それは他でもない。……ロラン、お前が今すぐ目覚めることだ!」

「え!」


 はたして次の刹那、突然遥か頭上を向き魔道士が放ったそんな大声しかと耳にしてしまったとすれば、特に。

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