6.
ほとんど薄暗がりに占拠された街路の上に、その姿は寂しく道行きながら影を落としていた。
「……」
すなわちそれは、街で一番広い幅誇るメインストリートを進む馬頭。彼はむろんその道を辿って、今まさに職場たるマステラの館へ戻る最中だったのだ。
(まったく、妙な連中だったな)
しかもさらに言えばその頭の中で先程道案内してやったあの二人組のこと、つらつら考えこみながら。そう、ベルタムの月(五月)の昼日中何の前触れもなく現れたいかにも怪しい訪問者たちは、何よりあろうことかリロイ・シュバルツシルトに会いたいと、とんでもないこと頼んできたのであるから。
(伝説の巨人使い。あの男に用があるとは)
――彼にとってはもちろん生まれる前の出来事である、あの歴史に残る大戦<巨人戦役>世界中に巻き起こした、そのまさしく張本人に。
はたして各地にその激しい傷跡、おびただしくも痛々しく残すこととなる。
むろんそうした全てを、あの機械仕掛けの巨人たちによって――。
(一体どんな関係があるのやら)
それゆえ頭の中では、さらにそんな疑問の声がおのずと零れていて。
当然の如くそれに対する明確な答えなど、今の案内人にはあるはずなかったものの。
いつしか寒さまで段々増してきた、ただ死者たちだけがはびこる、都の中。
(ム……?)
だがいずれにせよこんなどう見渡しても人気、いや生命の気配一つもなきだだっ広い道の上にて感ずるは、結局何やら得体の知れない、説明するのも極めて難しい、もはや不安としか表現できぬ思いで……。
(あれは)
そしてそのためだろう。馬頭がふと気になっていつもは大して見向きもしない空を珍しく見上げた、その時、
(何だ、今日はやたら雲が黒いな)
彼はそこ、ただでさえ暗い遥か頭上に、自らの今の気分を投影したが如きどこまでも不吉なさらなる黒雲、しかと認めていたのである――。
◇
帰宅からまさに数秒もしないうちに……。
黒い外套纏った男は背後の扉を閉める間もなく、すぐさま鋭くも訝しげな視線、しかと二人の旅人へ刺し向けていた。
「おい、マジでこの辺じゃ見ない顔だな。しかもどうやら死者でもない。――て、まさか、外から来たっていうのか?」
――何より次いでその声、分かりやすくも信じられないとさほど広さのない部屋の中、大いに響かせており。
「一体、どういうことなんだ、こりゃ」
ついでに言えばその左腕に、何やらおびただしい草花の詰めこまれた大きな袋、抱えたまま。
「あ、いえ、どういうことかと言われると……」
「しかしここにいるということは、マステラの許可が下りた、そう言う訳だな。……では、だとすると」
「! そう、私たち、ハスパの護符を持っているから――」
むろん一方それに対するアリソンは念願の相手とようやく会えたというのに、その余りに予想外な姿、態度に途端しどろもどろといった状態だ。
「護符……あんたが、持っていると?」
それゆえ魔道士がその答えにギロリ、眼差しさらに疑わしげなものとするや、抗いようもなく怯んだ表情浮かべてしまったのはわざわざ言うまでもなく。
「は、はい。もちろんあなたの名前の記された」
さらに叱られた子供のように、大きく頷きながら急いで応じていたのだった。
「あ、リロイ様、薬草集め終わったんですね。――ええ、その人たちお客様ですよ。超久しぶり、というかここへ来てから本当に初めての」
「ティコ、お前こんな怪しい連中簡単に通しちまったのか?」
「え? だって、何か先生に重要な用事がありそうだったから……」
と、そこですっと割りこんできたのは、助け船ではないだろうがどこか呑気な響き持ったティコの声音。特に対して現した師匠の不満げな面に意外そうな顔しながら放ったその中のある一言が、男をしてとりわけその気引かせたのは確実だったようで。
「用事? この俺に?」
大きく眼を見開くと――たちまち彼は素っ頓狂ともいえる声、再び娘の方見つつ発していたのである。
そう、それはどうやら彼にとって余程、思考の外である事態に違いなかったらしく、
「あんたらが?」
「あ、はい……」
……何より次の刹那、アリソンをして何とも怯えたような返事返させたのを見れば、そのことは実に明らかだったのだから。




