12.
「あれ……?」
かくてリロイの取った余りに予想外な行動に、皆が一斉に驚愕現わした、……しかし、それは次の刹那のことだった。
「また、か?」
「え、どこです、ここ?」
「……違う部屋?」
一同は、ふいに自分たちがまるで先程とは異なる場所にいることに、はたと気づいていた。そう、それは軽い目眩にも似た、今となっては大分前とも思われる、まさしくこの館へ入る時に起こったのとまるで同じ現象。ある種の時空跳躍とでもいうべき。
つまりはそれくらい、余りに突然の事態だったのだから。
リロイが黄色い扉、制止も聞かず勝手に押し開けてしまった後、巻き起こったのは。
薄暗い、まるでどこかの地下室のような部屋。
つまりはそれが、今彼らが呆然と立っている場所。
もちろん、灯りはおろか、窓一つ見当たらない……。
「よし、やはりここが当たりだったか」
すると、そうしたメンバーたちの中、リロイが一人やけに満足げにのたまった。隠れ無き勝利感で満たされた声音、それは場違いにもそんな一言だった。
「当たり? ここが? でもリロイ、あんたは黄色の扉を」
「ハハ、ガルフ、悪かったな。ああ、確かにお前は青い扉が怪しいと言った。そして次には赤い扉、と。ということは後に残されたのは、黄色。すなわち、一番正解から離れていると思われる。――だが、それゆえに俺には、あの扉しか正しい道はないと思われたんだ」
「で、でも、何で?」
むろん対してガルフやアリソンは分かりやすく当惑顔だったものの、しかし彼は一向に構っている風はない。むしろさっさと次へ行きたい感じで、矢継ぎ早に説明すると、そうして最後にはそんな二人、いや他の三人をも順繰りに見回しいかにもあっさり告げていたのだ。
「この館の主は、いかにも底意地が悪い。そんな奴が、そもそも素直に答えを用意していると思うか?」
もうこれで分かるだろう、とでも言わんばかりに。
他に加えることなど、もはや何もないがゆえ。
「あ、ああ……」
「そう、なんですね」
「……」
皆がそれで十分納得したかは、ともかくとして。
「もっとも、いくらここが正解だとはいえ」
そしていずれにしても、リロイはさてこれからどうしたものかと相変わらず薄闇に包まれた室内の様子、ぐるり窺ってみたのだが。まるで人の気配がないことへ、少なからず戸惑い覚えつつ。
「誰もいないとなると――」
小さな机と、背もたれ付きの大きな椅子がある以外、何も見当たらない、広さすら定かでないまこと空虚な空間に。出入口も、今やどこにあるのか全く不明な、何とも寒々しい。
まさしく完全なる、閉鎖空間――。
「……あら、本当にそうかしら?」
「!」
「え!」
そう、だがそれゆえその刹那突然どこかから声がしてくると、魔道士たちは途端驚きに満ちた声、一斉に発さざるを得なかったのである。
◇
「誰だ!」
途端、リロイより発された誰何の声。むろんそれが実に鋭い響き持っていたのは、言うまでもないことだった。
「フフフ……」
特に、相手の口ぶりに何とも冷ややかとしか言いようがない笑み、含まれていたとすれば。もちろん友好的な風、欠片すら認められない。
「おい、早く姿を見せろ!」
ゆえに魔道士は次にはかなりイラついたが如く、その声荒げている。つまりそうまでさせたほど、そもそも今は声以外相手の存在確かめる術、一つもなかったのだ。
「――あら、これは失礼したわ」
「!」
そう、次の瞬間その応えに微妙な変化が現われ、そして侵入者の意を汲んだかふいに部屋の中の一角、リロイたちの眼前に光のスポットが出現してくるまでは。
まさに、忽然と。
すなわち、突如としてリロイ一行の瞳に映ったのは、椅子に座した一人の少女――腰まで届く黒く長い髪、長いまつ毛と大きな黒瞳、雪花石膏のような白い肌、そして全身も黒ずくめのワンピ―ス――と、その背後に横たわる、巨大な天蓋つきベッドという光景。しかもそのベッドの上には、一人の青年が今も静かに、穏やかに寝息を立てていて――。
「ロラン!」
「ロランさん!」
はたしてたちまち、見知った者たちがその名呼び掛けていたのは、言うまでもなく。
ついに第三の家臣と、巡りあうこと適ったのだから。
「あれ?」
「眠っている……?」
もっとも肝心の彼は、そんな声にもまるで反応示さなかったのだが。
「やはり助けに来た者たちだったか……。フ、まあここへ辿り着いたのはさすがだけど、でも残念ね。今のあの方には、あなたたちの声など決して届かないわ。だって、もう私の夢から逃れられるはずがないのだから」
「!」
「え?」
いみじくも、謎の少女が告げたように。……いかにも自信満々と。
「どういうこと……ていうか、あなたは?」
それゆえその様相含め余りに奇異に感じたアリソンが、知らずそんな問い向けると、
どこか、その声音震わせながら。
それは怯え、とでも呼ぶべきものだったか。
「一体、誰――」
「私? さあ、誰なのかしらね。ひょっとしたら、誰でもないのかも」
「? 何のこと?」
いずれにせよ、その高まりゆく緊張感、もはや隠しようもなく。
闇の中に、ポツンと光の領域がたった一つだけ、ある中。
「フフ。それを知る必要なんて、ないわ。……だってお前たちは、ここが墓場になるんだから!」
――そう、一拍ほどの間もなく、黒髪の美しい少女はそう突如として禍々しい笑み浮かべるや、次の瞬間全身は眩い光に包まれ、そしてその形姿までもがもの凄いスピードで疾く、皆の見る前で一変していったのだった。




