11.
「……リロイ、何か考えがあるの?」
「いや、そういうわけじゃないが、ただ予想通りだったからな」
「予想通り?」
むろんそんな様相は、たちまちアリソンをして注意引かせている。すなわち彼女のその曾祖父見つめる瞳には、相変わらずの戸惑いと、そして僅かばかりの期待感が籠められていたのだ。
「今の状況の、一体何が?」
次いでそんな問い、急いたように発していたくらい。
「ああ、つまりロランの使い魔が姿を隠した、それこそが大きな印だってことさ」
「印? 何の?」
「そりゃもちろん、もう少しでロランの元へ辿り着くという」
「え?!」
もっとも対する魔道士の答えは、そうした少女の予想を遥か超えるものだったのだが。加えて悪戯っぽい笑み、その口許へと浮かべた。
「もう少しって、どういうこと?」
「そのままの意味さ。分からないか? つまりこの部屋には、ロランの使い魔程度の力じゃとても対抗できないかなり強力な魔力が秘められているはずなんだから。それも間違いなく、あの扉の中に」
「! 強力な、力。じゃあ……」
そしてその答えの持つ意味は、途端曾孫へもしっかりと正確に伝わっていたようで。
「そう。誰だか知らないが、要するに館の主がいる場所へかなり近いという、その何よりの証しが」
何よりリロイはリロイで、まさしくビンゴとその笑み、さらに大きくしたのである。
「館の主……そうか、だとするとロランも必ずそいつの傍に」
「そういうことだな。つまりこの扉の内のどれかが、その主のいる所へと繋がっているはず。疑いなく」
「で、でもどれなんです? 残りの二つは罠ってことでしょう?」
しかもその自信は、その言葉傍で聞いていたティコが思わず口を挟んできても、いささかも揺らぐことなかったようであり、
いや、むしろますます盤石と。
「そうだな。……ここは是非ガルフにひと肌脱いでもらうこととしよう」
ついにはそんな一言まで、人狼の方見つつ意気盛んに発していたのだから。
「え、俺?」
「ああ。お前が得意の鼻を効かせて、正解の扉を当てるんだ」
「匂いでって、ことか?」
むろん途端言われた方は、驚きの表情見せることになったとはいえ。
「そうだ!」
いずれにせよ、これでどうやらリロイの中ではこれからの方策、完全に決定されたらしく。むろんもはや僅かの迷いもなく。
「一番怪しい匂いがする扉を、まずは当ててくれ!」
そうして次には魔道士のやたら威勢の良い号令が、広々した部屋の中、遠慮なく響き渡ることとなったのだった。
……そんな彼らを除いては、ただ静寂だけが支配している、冷え切った空気の中。
◇
こうして皆の同意も得て、リロイの唐突ともいえる発案があってから、30分程は過ぎた頃――。
「ウーン……」
そこ、三つの扉の内、中央に位置する青いそれの前には、素直に主君の命に従い仕事に励むガルフの姿があった。すなわち今は扉板に鼻をピタリとくっつけ、中から何か匂いがしないか必死に調べているところなのだ。そう、それはまさしく、彼が人狼であるがゆえの特技、というやつに違いなく。
「そうか――なるほど」
またそれくらい、眼前の扉たちがいかにも怪しさ満々だった以上。奇妙な緊張感、見ていた者たちへ知らず覚えさせていた程。そして何より、
「ここだな」
――しばらくして、ガルフはそんな確信に充ちた一言、しかと洩らしていたのだから。
「え、ガルフそれ本当?」
「ああ、この青が一番怪しい。つまり匂いが強い」
「だとすると、絶対中に何かが……」
むろんその発言受け、たちまち賑わい見せ始めたのはアリソンとティコ。それはまさしく、やっと正解へ辿り着けることへの安堵と喜びというやつに相違なかった。
「じゃあ、早く開けよう!」
さらに続けて、少女にそんな力強い声、発させていたくらいに。
「なるほど、青が正解だったか」
「ガルフの鼻が導き出した以上、信じるしかないね」
しかもそこへさっとコールとファムが同意の意思はっきり示してくれば、もはや一行の選択肢は一つしか残されていなかったも同然で。
「ちなみに青の次は」
「うん、赤だな。というより、黄色に関しては全く匂いがしない」
「じゃあ決まりですね」
こうして話はとんとん拍子に進み出し。もちろんもはや疑問を挟む余地、全くないまま。
――真実の扉を、いざ開かんと。
答えは、ただ一つであったがゆえ。
紛れもなく。
「ねえ、リロイ」
……それゆえ刹那皆の視線は、最終判断仰ごうと当然リーダーの方へ向かったのだが。
いまだどこか難しい顔示していた、魔道士へ。
「――そうか。もう一度確認するが、黄色は全く何の匂いもしなかったんだな、黄色は。青でもなく、赤でもなく」
しかしそこでふとリロイは何か意志固めたように表情改め、加えて何とも妙な質問までしてくる。
「へ? ああ、そうだけど……」
「リロイ?」
当然その一言でガルフたち、たちまち煙に巻くが如く当惑させつつ。
一体こんな時に何を言っているんだ、と。
「それが一体――」
何より一番大事ともいえる、切迫した時間の中。
よりにもよってリロイ・シュバルツシルトが。
冗談にしては、いかにもたち悪く。
だが、そうして人狼がかような惑乱に包まれたまま、それでも相手へ更なる問いを重ねようとした、――まさに、その時だった。
「え?!」
突如としてその眼前でリロイは大きく頷き、そして特に説明もなくなぜか件の黄色の扉、一番右の方へおもむろに近づくと、
「ちょっと、何で――!」
余りにも唐突に、そう、もう次の瞬間にはそのドアノブ、何の躊躇もなくまさに力任せと掴んでいたのである――。
「て、おい、話が違うだろ!」
たちまち、ガルフに驚愕で満ちた声、轟かせて。
気でもふれたかの如く。




