10.
そこは何とも奇妙な部屋としか言いようがなかった。
とにかくやたらとだだっ広く、そして無意味に明るい一室だ。何より、異常なまでにガランとしている。
「何ここ、何もない……」
すなわちアリソンが、思わずそんな呟き、零していたように。
つまり家具はおろか、各種装飾品に至るまでそこでは文字通り何も見かけられず、ただひたすら白い壁と白い床、そして白い天井が広がるのみだったのだから。
まるで完全に忘れ去られた空間の如く。
「扉が三つ、か」
――ゆえにそんな中当然の如く目立って彩り与えていたその三色の扉がなければ、寂寥感はさらに増していたはずで。
余りにも空虚、と。
「何かここ、寒くないですか?」
従ってティコに至っては、思わず感受性高いゆえかその身、震わせてさえいたのである。
「確かに冷ややかだが、しかし寒いというより空っぽだな」
「あのカラフルな扉を除いて、ね」
「しかも三つ並んで。絶対何かありそう」
むろん他のメンバーたちが、とにかく眼前の扉ばかり気になっていた中。
赤、青、黄色と、三つ左から並んだ扉のことばかりを。
確かに、いかにも何かありげな。
「どうする、端からこじ開けていくか?」
と、他に取り立てて注目点もない中、そこでガルフが声を上げた。それはいかにも彼らしいシンプルかつ分かりやすい意見というやつだった。しかも、その発言すぐさま実行しそうな勢いで。
「そうね。どうせ似たような扉だし」
アリソンもあっさり同意したように。
「いや、ちょっと待て」
「え?」
「何か、嫌な予感がする」
それゆえそこへ何ゆえかリロイが制止の意志示してくると、彼が意外そうな顔となったのも必定。肩透かしを喰らったかのように、その瞳は真ん丸に開いてさえいたのである。
「嫌な予感……?」
当然、声にも当惑の色、濃くさせて。
「ああ、これは罠かもしれない」
「罠?」
「間違った扉を開くと、必ずマズいことが起こりそうな。そう、この館のことを考えれば」
さらに続いた魔道士の重々しい声音、耳にすれば、特に。
聞いた側に、知らず怯えもたらすような。
「で、でも、だとしたらどれを開ければいいの? 全然分からないんだけど」
「確かに、手がかりはないな」
「あ、だったらあのコウモリに」
「なるほど!」
かくてアリソンがいみじくも言ったように、途端一行は戸惑いの空気に包まれかけたものの、しかしそこでティコがパッと空気変える一つの打開策示してくる。もちろんここまで連れて来てくれた、あの存在のことを。そしてその言葉がたちまち皆をして明るい面現わさせていたのは、わざわざ言うまでもなく――。
「ロランの使い魔なら!」
そう、ファムを先駆けに、疾く一行に部屋のどこか、あのコウモリがいないか急いで見回させていたくらい。
「必ず正しい扉を!」
すなわちその声音にも、いつしかありありと力強さが籠っていて。
苦境を乗り切る方策ようやく見つけた者に、特有の。
「あれ……?」
……だがゆえに刹那、むろんしらみつぶしに探した彼らだったが、しかしいくらやっても室内のどこにも使い魔がいないということにはたと気づくと、その時覚えた失望には実に大きなものがあったはずであり。
◇
そしてその後すぐさま訪れた、茫然とした空気。むろんそれが一瞬だけ空いた空白めいた隙間だったのは、間違いなく。
「ウソ、いなくなっちゃった……」
アリソンなどはふと惑乱で満ちた呟き、零している。つまりはそうさせたくらい、これは余りに予想外の事態だったわけで。
「そんな」
「頼みの綱も、もう使えないか」
はたしてそうした落胆の声も、途端あちらこちらから発されていたというもの。
「じゃあどうすれば」
分かりやすくも、大きく溜息まで吐きながら。まさに再び五里霧中と。
コウモリが跡形もなく消え去ってしまった以上。
「折角ここまで来たのに」
ティコにたまらず、そんな嘆きの言葉、のたまわせて。
――そうしてかようにやっと仄見えた光明も、いつしか全き闇の中へ紛れていってしまうかとすら、思われかけたのだが。
奇妙な静けさのうちに。
「フム、そうか」
そう、しかしそんな中、三つの扉見つめながらただ一人リロイだけがなぜか大してダメージ受けていない雰囲気、漂わせていたのである。




