7.
「きゃあああ!」
「ち、こりゃデカいな!」
「ていうか、一体脚何本あるんですか!」
かくて謎の人物に、謎の館へと招待(?)されてから、時にして約半刻(一時間半)後のこと。
「そんなの八本に決まっている! 数えるまでもない!」
――リロイたちは、今まさに一匹の怪物をしかとその前にしていた。
「ただのデカい蜘蛛なんだから!」
すなわち、そこに立ちはだかっていたのはリロイの言ったように、確かに蜘蛛……しかし体長3エメルは優に超すかと思われるほどの、相当な大物だったのだ。
「畜生、ナメクジと猿の後は蜘蛛か! それにしても次から次に出てきやがる!」
しかも加えて言えば、その蜘蛛は一行がここへ入ってから、既に三匹目の遭遇となるモンスター。つまりはこの館においては、扉を開け、新しい部屋へ入る度ごとにロランどころかこうした化け物が必ず一匹ずつ控えていた訳であり。まさに、息つく暇もなく。
「とにかくこいつも倒さないと!」
「ガルフ、お前ひとりで何とかしろ!」
「無茶言うな、あのデカさだぞ?!」
はたして六人がそのめくるめく急展開に既にして息荒くせざるを得なかったのは、もちろん言うまでもなかったのである。
「じゃあファム!」
「……いや、僕はああいうのはちょっと苦手で」
「コール、お前は?」
「刃が効くか、微妙な所だな」
それゆえ、一行率いるリロイ本人からして、もはやうんざり感隠せぬといった表情で。
誰か他の者にあの怪物の相手して欲しくなったくらい。
そう、さすがにいくら何でもモンスターの数が多すぎる、と。
それも無闇やたらとデカいサイズの。当然、なかなか手出しもしづらい。
「もういい、私がやるから!」
……そして、そのためだろう。
そんな実に慌ただしさ漂う中、次の刹那ふいにアリソンがずいと戦闘モード満々で前へ一人進み出ると、
「アリソン?」
さすがの魔道士も曾孫のその様に、一瞬だけ戸惑いかつ心配そうな風、見せたものの、
ここは止めるべきか、否か。
「……すまない、ここは君に頼むっ」
しかし積もる疲労もあってか次には結局そんな彼女へこの場面完全委託すること、決心したようなのであった。
◇
「火の精よ、我に力を分け与えたまえ!」
空中へ描かれた印。そして実に手慣れた、素早い文言詠唱。
――かくて僅か一瞬で全ての準備が完璧に整うと。
「火炎弾!」
たちまちにして呪文の言葉とともに、アリソンの右手から強烈かつ巨大な火の弾が迸り出て、
「! ギュオオオ!」
「おお!」
「凄い!」
いつでも助太刀できるようギャラリーが集中して見守っていた中、それは見事狙い過たず巨大蜘蛛、その急所たる腹へ完全に命中していたのだった。
「グガア!」
それも途端相手にこの世のものとも思われぬ絶叫と、加えて次いで末期の断末魔、放たせて。
まるで容赦なく。
そして当然の如くその巨体たまらず床の上へ突っ伏させていく、怪物。
もはや命の火も跡形なく消え去り。
鮮やかと。
「アリソンさん、凄い!」
「ああ、大したもんだぜ」
「しかし、ここまでとは……」
むろんその光景が皆、特にコールとリロイ以外に賛嘆の声思わず上げさせていたのは言うまでもない。つまりはそれくらい、その手並みにはまこと素晴らしいものがあったのだから。まさに手練れの魔道士もかくや、くらいの。
「アリソン、さすがだな」
一方リロイはリロイで、自らの血を引く娘のそんなただならぬ実力に、なかなか満足げな面示しつつ。
「うん、威力といい、スピードといい」
加えて大きく頷きながら。
「あら、ありがとう。……さあ、これで怪物はいなくなったわ。次の部屋へ行きましょう」
「次、か?」
「え、もう?」
……もっとも、そうして蜘蛛の亡骸見つめつつアリソンがパンパン手を叩きながら早くも次の行動へ移る意欲見せると、途端ガルフ、ファム、ティコの三人はやや躊躇したような気配、窺わせ始めたものの。要は次の扉を開けたところで、結局また怪物と遭遇するのは確実、それを思うとどうしても気おくれしてしまうのだろう。
「だけど、どうせ次も――」
すなわち、それを代表するかのように、魔道士の助手がそんな呟き洩らしたのを見れば。
「て、ちょっと、ここで尻込みしてどうするの? そもそもどっちみち、先に進むしか道はないじゃない!」
「それはそうですけど」
「引き返したところで、もう出口はないのよ。だから、急ごう!」
そう、そうやっていくらやる気漲る少女が叱咤の声上げても、どうにも三人組の動きは鈍く、重く――。
「まあ、確かにこのまま無鉄砲に突入しても、またモンスターが待ち構えているのは確実だな」
と、そこで助け船の如く入って来たのは、やはりリロイ。はたして彼の姿は、今やその焦眉の次なる部屋へと続く、緑の扉のすぐ傍にあった。
「あ、リロイ様!」
「まさか、開ける気ですか?」
当然の如くそれ見たファムとティコに、驚きの眼大きく見開かせて。
「いや、少し考えたんだが、何も正面切って馬鹿正直に突っ込む必要はない。……そう、つまりはちょっとだけ扉を開けて、中を確認すればいいだけの話なのさ」
「な、なるほど……」
「そして中に何かいればすぐ閉じて、いなかったら突入。何より丁度この部屋には扉がもう一つある。だからとりあえず、こっちの方を先に確かめることとしよう」
そしてよくよく聞いてみれば、それは確かになかなか理に適った方法。従ってそれ耳にした三人が、いやアリソンとコールも含めてだったが、彼らがすぐさま賛意示したのは、論を待つまでもないのだった。
「よし、いいな。そっと、静かに開けるぞ」
「分かった」
「お願いします」
むろんそうして皆のそのリアクション認めるや、早くもリロイの手はドアノブにしかと掛かっていて。
――必然的に、前言通り彼らしからぬ、かなりの慎重さで。




