6.
再び、薄暗く静かな部屋。
むろん人のいる気配の、まるで感じられない。
「……」
そしてやはり、その中の椅子、卓を前にした背もたれ高き大きな座には、あの一人の少女の姿がある。すなわち前と同じく、卓上にある水晶玉、ものも言わずじっと見続けている頼りなげな姿が。もちろんその両手で抱えるにはやや大きいと思われる魔法の球が、仄かな光放っているのも、全く同じだ。
つまりそこにあったのは、以前と寸分の違いもない、まるで同じ夢が繰り返されているかのような奇妙な光景……。
ただし、そんなまさしくデジャヴにも似た状況の中で、ただ一つだけ前と異なる点が今この部屋に存在したのも、また確かな事実ではあり。それも少女のすぐ傍に、実にはっきりとした形で。
当然見逃しようなど、あるはずもなく。
(あ……)
――巨大な、そして豪奢な天蓋付きベッド。
そう、彼女の背後には、いつからかそんな大それたものが、しっかりと当然の如く置かれていたのだから。
しかもその上に、一人の人物を横たわらせて。
加えてその瞬間、眠りながら苦しげに、ほんの僅かだけその顔を歪めた。
(ロラン様……まさか)
むろんたちまちにして、それへ目敏く気づいた少女は後ろ振り返っており。
黄金の髪を持った、寝顔だけでも見るからに美しい、絶世の美青年。
そして何より、少女にとって最も守らなければならない人の、その姿を――。
(やはり彼らは、あなたの仲間だというの?)
その妙なる様窺いつつ心の中で、不安に満ちた呟き、つい零しながらも。
(ロラン様を、取り返すために来た)
……ついにこの時がやってきてしまったのか、と。
愛する人を守らんがため、戦わなければいけない時。
運命の日。
もちろん、命を、この存在全てを賭けても足りないくらいの時が。
つまりはそれくらい、少女はこの眼前の青年を今やどこまでも愛していたのだから。
もはや一時も、離れること出来なくなってしまったほど。
溢れんばかりの欲望へ、ただ身を任せるままに。
すなわちそれは生まれて初めて自分が出会った、絶対なる宿命の人――。
ロラン。永遠に生きる、吸血鬼。
(……ふ、そうか。ならばいいだろう。どうせお前たちはもうここから出られない)
だが、それゆえだろう。
途端、謎の少女は再び水晶玉へ視線戻し、その漆黒の瞳に禍々しくさえある烈しい光、灯すと。
痛々しいまでの、静寂の中。
(そう、そんなに、死にたいなら)
……刹那部屋の暗度はますますその高さを増したようにすら思われ、そしていつしかその面は、いつもの無表情ながら今やはっきりと決意した者のそれへ、変化していたのだった。




