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12.

「遠い遠い昔、どこかの国の話よ。その国には数年前から恐るべき悪竜が出没、その度に町や村を襲い絶大な被害を加えるようになっていた。そう、大抵は穀物や家畜などの食料、また金銀財宝を大量に奪い去り、そして時には歯向かってくる人々を無残に殺し、とにかくやりたい放題な。……もちろんそれには、王や貴族たちが必死の抵抗示したけれど、どう考えてもまともにやり合って勝てる相手のはずはない。実際彼らは幾度も剣槍を手に挑みかかり、しかしそれでも常に敗れ続けていたの。もちろん甚大な犠牲の山の上に。

 苦心惨憺と。

 ――そうしてただ国土を蹂躙されるままに、いつしか何年かの時が経ち。

 もう、王も騎士たちもその頃には皆疲弊し過ぎて竜を討伐しようとする意志すらないのは明らかだった。

 すなわち統治者たちはついに全国から勇気ある者を募り、彼らに何とか襲撃者を倒してくれと願うようになったのだから。それはどうやら時の大臣が初めて発案したものらしかったけど、しかし瞬く間に重臣たちの賛意を受け、気づけば国の総意みたいになっていた。つまりはみんな、もう竜と刃を交えるのはうんざりだったわけで。それゆえまるでそれしか解決策がないかのように、一斉に全員が勇士の出現を望み出したのは、当然のこと――」


 こうして竜を前にして始まった、一見すると単なる昔話のようなアリソンの言葉。むろんそこにはいまだ相手を納得させるような要素はまるで見受けられなかったが、しかし少女に構っている風はない。いや、むしろさらに意気盛んと、ただ赤い竜へと向け、ほとんど無心にある物語を紡いでいったのだ。


「……」


 そう、今やその眼中にあるのはただ一人、ガルトーダのみであり。

 はたしてそんな彼、優に体長六エメルを超す威容誇る魔獣の心を、一体どうやったら上手く動かすこと出来るのか、と――。


「そうして幾人かの勇気ある者が王都へ集ってきた中、その数名の中にいたのがゲオルグだった。歴戦の戦士という訳ではなく、近くの村出身の若者。その村にルチアという名の恋人を置いてきた。

 もちろん、でも最初彼は大して目立つ存在ではなかった。何せ他にいたのは見るからに強い、腕のある傭兵や兵士たちだったんだから。そんな中ただの村の若者が、いくら勇気あるとはいえよりにもよって竜を倒すだなんて。だから当然、彼が一人王都を旅立った時、誰も帰ってくると思う者はいなかったはず。もちろん、重臣たちもさほどゲオルグのことを、その時は記憶に留めず。

 装備品も大したことのない、まだあどけなさすら残した、その若者のことを。

 ……そう、かくて皆がいつしかその出立のことさえ忘れた頃、つまりそれから何と10年もの時を経て、彼がついに竜を追い出し、王宮に戻ってくるまでは」


 そこでアリソンは、相手の反応確かめるかのように一拍の間を置く。はたしてどんなことを考えているのか、と。もっとも案に相違して対してさほどの変化(もちろん竜なので正味なところは分からなかったが)示さなかったガルトーダ見ると、一つ息を吐き、彼女はさらに長い話を続けたのだった。


「――もちろん、幾人もの勇者がやろうとして果たせなかった偉業を成し遂げ、彼がようやく帰還したその時、その姿はもう若者のそれではなかった。しかも相当傷ついた。それでも確かに竜が棲み処の山から逃げ去ったことを確認した人々は歓喜し、ゲオルグを総出で祝福することとなる。もちろん、手柄に対し褒美は幾らでも与える、と。……でも既に疲弊していた彼は、そんな大層なものはいらない、国が平和になりさえすればそれでいいとそれを固辞、今はただ故郷に帰り恋人とゆっくりしたいと願うのみだった。そして実際、いくらかの黄金を受け取ると、静かに村へ戻って行ったのだから。

 そしてもちろん10年ぶりに帰還した、懐かしの村。そこでは恋人ルチアが待っているはずだった。彼の無事を信じて。――でも一方でゲオルグには、一つの大きな心配があった。つまり、本当に彼女は自分だけを待ち続けていたのか、という。何せ、彼が村を離れてから、既に10年。その間ずっと一人でいたとしたら、むしろルチアに不幸をもたらしていたようなもの。女としての幸せを、それも若く華やいだ時のそれを全部捨てるような。だからゲオルグは、もちろんルチアがまだ一人でいれば安心だったけど、でももし既に他の男と結ばれていたとしても、決して彼女を咎めないように努めることにしたの。つまりは、他の道を歩んでいたとしても、それがルチアの幸せにつながるなら、むしろ大いに結構なことだ、と。

 そう、それこそが、まさにゲオルグにとっての幸福でもあったのだから。

 若い頃の夢は、もはや儚いものになっていたとはいえ。

 そして彼は、村人たちが歓呼して迎えてくれる中、ついに真実を確かめるため、意を決して村内にある一つの家へと向かい――」


 そうしてアリソンがいよいよ、この物語の最も重要な所を話そうとした、――その時。


「……なるほど。ルチアはしかし誰のものにもならず、いまだその男のことを一人待ち続けていた、という訳か」


 ふいにガルトーダが、そうどこか感心したように口を挟んできたのである。


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