11.
突然現れた若い娘の姿は、さすがに竜をして少なからず驚かせるものだった。
「お願い、待って!」
しかもその娘――アリソンと言ったか――は、あろうことか完全な丸腰で敢然と、いや、破れかぶれというべきか、いずれにせよそんな感じでその数倍の大きな身体持つ自分へ話しかけてきたのだ。何より凶悪な赤い顔の中、さらに真っ赤なこの一つだけの右瞳をしかと避けることなく見つめて。
「グウウウ……」
ゆえにその得体の知れない様が、たちまちガルトーダの足止めていたのは言うまでもない。つまりはそれくらい、娘は形容し難き迫力、全身より放っていたのだから。
「私の話を聴いて!」
――次にはそんな恐るべきことまで、告げてきたように。
実に勇気ある、魂からの叫びの如く。
「何だ……?」
「――あっ」
「話があるのだろう、この儂に?」
従って一拍程の間を置いて、その距離は3エメル程、今度は逆に竜がそんな問い発していたのも、状況鑑みればむしろ必然のことだったといえよう。それがまさしくほとんど奇跡にも比すべき事態だったとはいえ、そう、とにかく彼が今、どうしてもそうせざるを得なかった以上。
まるで見知らぬ、だが確かに何かを感じさせるこの少女に対して。
その内容がどんなものかは、むろん知るよしもなかったが。
「そ、そうね。ひとまずここはお互い冷静になって」
「儂は至って冷静だが」
「……え、そうなの? あ、まあそれならそれで」
そしてそれでも言に違わず一応話を聴いてやる態勢見せるや、娘の方は一瞬かえって気圧されたような表情窺わせたものの。
「じゃあ、少し時間を取ることになるとは思うけど、私の話を聴いてね」
しかし次には、意を決して荒々しき竜へ向かい、そんな一言発していたのである。
◇
「おい、あの子一人で行っちまったぞ!」
もはや最後の砦にも比すべき大岩の陰では、その向こうの信じ難い光景見つめ、ガルフが思わずそんな狼狽えた声放ったところだった。
「……アリソン」
むろんその心境は言うまでもなくそこにいる四人全員完全に同じだったのだろう、リロイ含め、皆実に心配そうな表情隠せぬというやつだ。
「大丈夫かな……」
何よりそれ代表するようにして、ティコが泣きそうになりながらそう呟いたように。
余りにも真っ青な顔で。
「コール、大丈夫なのかよ、アリソンは。何か秘策があるのか?」
「さあな。全く分からない」
「げ、マジかよ。本当、無茶する子だなあ」
もっともだからと言って、ガルフの問いにコールが返した答えのように、今はどうするべきかその場にいる誰もが判断しかねていたのは確実。つまりは少女を助けに自らも飛び出すべきか、否か。彼女が何をしようとしているにせよ。
「おい、リロイ……」
それゆえ余りの難題に三人の視線は、刹那自然と魔道士、少女の曾祖父の方へ向けられることとなったのだが。
「……仕方ない」
「え?」
「今はアリソンに託すしかないだろう」
……だがリロイは対して小さく、だが決然とそんな答え、放ってきたのだった。
「でもいいのか、一人で?」
「ああ。俺たちまで出て行くと、かえって竜を刺激して危険かもしれない。だから今は彼女に期待するしか」
「……そうだな」
すなわちたちまちコールを納得させたような。
そう、要はそれくらい、今は実に予断を許さない状況というやつだったのであり。
一つのミスが、大きな災厄を招きかねない。
「そう、絶対に何か考えがあるはずなんだから」
ゆえに魔道士は最後にそう、それ明らかに証明するように念じるが如き言葉、付け加えていたのである。
◇
アリソンは改めて決然とした表情を現わすと、先程までよりもさらに強い眼差しで、相手の竜のことしかと見つめた。
「私が言いたいのは、ずっと一緒にいることだけが唯一の愛の証しじゃないということよ!」
しかもその口ぶり、かなり堂々としたものにして。もちろん伝説に名高い魔獣を前にしているとは、とても思えぬほどだ。
「……ほう、これはなかなか。ではそれを確かなものとする、一つの論理があるというわけだな? うむ、ならばその意気に敬意を表して、お前のそのご高説へしばし耳を傾けることとしよう」
そう、だがそれゆえにガルトーダは、信じ難いことにもひとまず攻撃する手を止める気になったようなのだから。すなわちそれくらい、眼前の小娘の度胸に感心したらしく。
余りにも予想外、自分よりも遥かに幼いながら、なかなかやるな、と。
「だが、余りに下らん内容ならば、即刻お前の肉を喰らう、それで良いな?」
ただしあくまでこれは危険なやり取り、同時に強烈極まる釘も、容赦なく刺してはいたのだが。
「え? まあ……」
「よし、取引成立だ」
いずれにせよ途端アリソンが僅かに怯んだ様子見せつつ、それでもしっかりと自らの意見述べようとしたのは確かな事実であり。たとえ、この後どんな結果が待っていようとも。――もはやこれしか方法がないならば。
そうして刹那少女はきっとその紅い瞳に力強い輝き、瞬かせると、
「そう、丁度それを証明する、こんな話があるわ――」
次にはいよいよ話の核心、一つの小さな物語を、ガルトーダへ向かって静かに語り始めていったのだった。




