10.
「おい、あっちだ、あの岩の陰へ!」
「ちょっと待てよ、俺酔っぱらっているんだぞ! 足が……」
「知らないですよ、そんなの」
「アリソン、急げ!」
「うん、分かった!」
それから、僅か数分後のこと――。
赤茶けた山肌の上に、急ぎ取るものも取りあえず駆け出したリロイたちの姿があった。すなわち彼らの誰一人として、今や緊迫の表情現していない者などいるはずもなく。
「くそ、しかしいきなりあいつ、変身しやがった!」
何より魔道士の声が、夕暮れ迎えようとしていた山の空に、虚しく木霊していて。
「ていうかガルトーダが、あの噂の竜だったの?」
「ああ、そのようだな! それも人間に化けられるくらいの魔力持った!」
「よりにもよって、そんな人をあそこまで刺激するなんて!」
そしてそれに呼応して、アリソンが知らず非難の声上げていたのである。
そう、つまりは先程怒りの様相露わとした老人、ガルトーダはたちまちその纏わせた雰囲気余りに剣呑なものとするや、息つく暇もない次の瞬間、
「げ、嘘だろ!」
「わあ、変身する?!」
「おい、何やっている、早く逃げるぞ!」
恐怖と驚きで身体硬直させたガルフ&ティコのすぐ眼前で、突如としてある恐るべき存在――まさしく真っ赤な肌した、翼持つ巨大な竜へと変化し始めたのだから。
しかもそれは、とても一つの生物のものとは思えぬ凄まじいスピードであっという間に進行したのであり。まさに、ただならぬ魔法の力の介在をしかと証明するかの如く。
ゆえにそれ見たリロイは酒瓶も放り出し途端バッと素早く腰上げるや、
「アリソンにコールも! そこでボウっとしてないで、さっさと俺についてこい!」
仲間たちへ必死な思いでそんな命、声を大にして下していたのだった。
「と、とりあえずここに来れば……」
そして今はようやくにして洞窟を脱出、次いで見つけた、近くにあった大きな岩の陰で、とりあえず相手の出方窺っている状態……。
「……だがこんな所に隠れて、何になるんだ?」
むろん対してコールは、とても納得した素振り見せてはいなかったものの。つまりは言外に早くもっと離れた方がいい、そう意見していたらしく。
「いや、何せ相手には機動力がある。この辺りなら、どこに行ってもほとんど変わりはないだろう」
しかしそれも、すぐさま妙に冷静なリロイから否定されていたとはいえ。
「じゃ、じゃあどうするんです? まさかここで正面から戦うんですか?」
「まあ、このままもう話し合いが無理っていうなら、な」
「――でも実際、あの感じだとそのようね」
もはや諦めにも似たアリソンの声、そこに加えつつ。
そう、いずれにせよ、今は極めて危険が迫っている状況としか言いようがなく。
「! おい、来るぞ!」
何ら有効な手立てのない。
――と、そうして一同これからどうするか思案しかけた、だがその時。ふいにガルフがいきなり慌ただしく声を上げて、それは強引に遮られたのだった。
「――ち、見つかったか」
「そりゃそうですよ、こんな場所じゃ。ああ、本当だ、もう足音まで聞こえる!」
「本物の竜か。さすがに戦った経験はないな」
そしてむろんそれ耳にするや、各自それぞれ細かな反応は違えど、とにかく緊張感及び恐怖感いや増したのは論を待つまでもない。特にティコなどは、竜の方窺うガルフの背中にくっつきながら、今にも脱兎の如く逃げ出しそうな雰囲気だったのだ。
「それにあの赤い肌! 絶対に炎のブレスを吐くに決まっている!」
そんなほとんど叫ぶが如き声まで、辺り憚らず響かせて。
そう、確かに向こうの方から段々威圧的ににじり寄ってくる姿は、猛火にも負けない真っ赤な鱗で鎧われた身体、持っており。あるいはそれは、鮮血に染まったような――。
「く、迎え撃つにしても、少々手こずるぞ、ありゃ……」
ゆえにその威容にたまらずリロイも苦々しげに零さざるを得なかった、
いくら彼が知恵も力もある、
伝説に謳われる大魔道士だったとしても。
さすがに正面からまともにやり合うとなると。
――しかし、いやゆえにまさに見上げるようなそんな巨体が岩を超え襲いかからんとしてきた、その時。
「ああもう、みんな頼りにならないんだから! 分かった、こうなったら私が話をする!」
突然そうしたただならぬ声を上げ、しかもいかにも意を決した様子で、アリソンが岩の陰からガルトーダの方目掛けバッと一人飛び出して行くと、
「え?」
「お、おい、アリソン!」
「嘘だろ……」
当然の如く周りの男たちは、ただただその場に突っ立ち唖然とするしかなかったのだった。




