7.
「これはこれは、確かに客人のようだな」
そこに静かに立った、黒のローブ纏った老人。むろんフードの中窺える顔は、皺が寄り白い口髭と顎髭も立派、何よりこちら向く赤い瞳が実に賢しげな年相応(?)のもの。それゆえリロイたちがどうしても気になってしまったように、その左目が刀傷によるものか激しく潰れていなければ、外見的には特に怪しい点もなかったはずであり。
「……ああ、そしてあんたがガルトーダさん、か」
だが途端その右目に見つめられると、さすがの魔道士としても知らず気圧されたように答えざるを得なかったのだった。
「うむ。そうだが。それで、そちらは?」
「おっと、俺としたことがこれは失礼。俺はリロイ、もちろん旅の者で、そして後の四人は連れだ」
「ほう、なかなかの大所帯だな。ただでさえ来客など珍しいというのに。では、余程の用があってここへ来たということか?」
もっとも対する老人――この家の主人にして、アミカの父であるガルトーダ――はそんな返しまるで構わず、さらに続けて話を進めていったのだが。
「こんな山に大した用事があるとも思えんが」
と、どことなく相手に不審な感を覚えたのか、そうした一言も付け加えて。
いかにも落ち着いた体で。
「用事……そうだな」
「どうした? 長い旅をしてきたのであろう。ならば早くそれを済ませれば良い。儂に出来ることなら、是非協力もしよう」
「あ、ああ」
ただしそう言われると、かえってリロイは躊躇したように一瞬言葉に詰まってしまったものの。
はたしてこの老人がどんなタイプの人物なのか、つまりはファムの件を話していいものなのか、まだ皆目分かっていないこともあり。
「俺たちがなぜここへ訪れたのかといえば――」
従ってさあどうするかと密かに腹の中思案しつつ、それに合わせ長いようで短い間が流れた、
アリソンたちも思わず息を飲んで見つめていた中。
……ピリピリと。
「それは」
しかし、そうして結局は正直に告白しようとした、まさにその時――。
「ガルトーダ様、いきなりそんな真面目な話をしなくても。長旅で疲れていることもあるし、とりあえずリロイ様たちには一休みしてもらいましょう。目的に関してはそれからでも」
ふいに聞こえてきたファムの声が、そんなガルトーダの気を一旦逸らすこと、見事成功していたのだった。
◇
次第に陽は西の方へ傾いて行き、山上への光も段々穏やかになってきた頃――。
「なるほど、ファムの言うのももっともだ。まずは歓迎の宴を。――これは丁度儂が獲ってきた肉だ。存分に味わうが良い」
こうしてしばらくして始まった、ささやかながら温かみのこもった宴。しかも洞窟の地面に車座になったリロイたちの前へ用意されたのは、皿の上美味そうな香りを立てる焼いた肉と、そしてどこかから持ってきたのか実に上等な数種類の瓶酒という品々。
「うお、こりゃ最高だ!」
「て、ガルフさん!」
「ハハ、構わん、それで旅の疲れも取れるだろう」
むろんそれは大きな町の食堂で出てくるものと比べても何ら遜色ない出来栄えというやつで、健啖家のガルフなどはすでにその瞳を歓喜で輝かせていたほど。よってガルトーダ言うところの歓迎の宴は、とりあえず和やかなうちに滞りなく開始されたのである。
「……凄い豪華だけど、でも今そんな余裕は」
「まあ、折角だからご馳走になろう。……彼と話をするためにも」
その一方ではアリソンとコールの小さな呟きが、もちろん主人に聞こえぬよう密かに交わされつつ。自分たちには他にまずやるべきことがある、と。
「本当良い肉だが、しかしどこで獲ってきたんだ? この辺りには獣はいないと思うんだが」
そしてそんな中ガルトーダとの話のメインになったのは、やはり一行のリーダーでもあるリロイだ。元より実力、経験ともに抜きん出たもの持つ伝説上の魔道士、たとえ相手がかように正体不明の奇妙な老人であっても、まるで臆する気配見せなかったのは言うまでもない。いや、むしろ彼は不思議とそうした相手に少なからぬ親近感すら覚えていたようで、
「ここまで登って来る間も、まったく見かけなかったし」
「何、少し離れた所にな、儂だけが知る秘密の場所があるのだよ」
「ほう、そりゃいいな。なるほど確かにあんたは腕の良い狩人ってわけだ」
しまいにはその答えに、心から賛嘆の面浮かべていた程なのだから。
「じゃあ、その子にも将来は弓を持たせるつもりか?」
さらについでとばかりに、その傍のアミカへも如才なく話を振りながら。
「ム、アミカか? 当然だ、儂の娘ならば」
「つまり、この山でずっと二人獲物を狩りながら、暮らしていく、と。うん、なかなかのんびりして良い生活かもしれない。……とはいえ不思議なのは、そんなあんたらの中に、何でファムがいるかってことなんだが。ああ、つまり彼は俺にとって旧知の中で、性格等色々知っている奴でもあり、だからそこが気になってしまって」
とはいえそこはさすがの年古りた魔道士、話の途中合わせて一番気になることを訊ねるのも、決して忘れはしなかったのだが。
「……そうか、やはりお主たちはファムの知り合いだったか」
つまりはそれがたちまちガルトーダの警戒心増させることも、完全に計算の内だったはずで。
加えて何かに気づいたらしき、彼の示した反応も。
そう、いつしか魔性にも似た両者の間の危険な駆け引きは、こうして密かに開始のベルを鳴らしていたわけであり。
「では、わざわざ古き友に会いに来たというわけだな。結構なことだ、苦労も顧みず。ならばその厚い友情に応えて、教えてやるとしよう。そう、このファムは」
ゆえにそれに負けじと、老人の方もむろん相手狼狽えさせるべく、一つの大きな技を仕掛けてくると、
「――紛れもない、我が娘アミカの許嫁なのだ」
しかもいかにも、唐突に。
「……何?」
「え?」
「ええっ?!」
――たちまち当事者たるリロイのみならず、その並々ならぬ驚きは他の四人にも光速で伝播することとなったのである。




