5.
かくて五対の視線じっと注がれる中、ふいに岩の陰からひょっこり現れた影。そう、それはまさしくコールが言った通り、見た目人間そのものというやつで、
「女の子?」
背中まで届く桃色の髪。朱色のつぶらな瞳。そして赤銅色の肌と、丸くあどけない顔、小さな手足……。
しかもやや離れた位置からでもすぐ分かる、そんなどう見ても幼い少女としか思えない姿すらしていたのだ。
「いや、だがそんな、まさか……」
「でもリロイ、そうとしか思えないよ?」
「ああ、間違いなく」
むろんだがそれ見た魔道士が、分かりやすくも信じ難いといった表情浮かべていたのは言うまでもない。そう、いくらアリソンとコールが口を揃えてそんな彼説得しようとしてきても、それはなかなか覆らなかったようで。
「こんな山の上に、か?」
何より唖然としたように、そんな声まで洩らしていたのだから。
いまだほぼ真上では太陽が、異様にギラついていた中。
「どうするんだ?」
「え?」
「話しかけてみるか?」
……もっともかくてリロイがどれだけ強く否定しようと、眼前に少女の姿した者がいるのは紛れもない現実そのもの。さらにはその橙色の長衣纏った相手はしかしリロイたち同様驚いてしまったのか、こちら見て完全に立ったまま身体硬直させており、従ってその様認めたガルフは隣にいたティコへそうした提案、述べていたのだった。
「そうですね、まあ、危険はなさそうだし」
もちろんティコの方も、その言葉に取り立てて否定する理由など、あろうはずもなく。
「迷子かどうかは、知りませんけど」
よって少年は納得したように肯定の返事、返そうとして、
「うん。とりあえず、名前だけでも――」
刹那ガルフの方、振り向いたのだが。
――とりあえず今は、それしかないと。
「アミカ様!」
「え?」
そう、ゆえにその瞬間、――予想外なことにほぼ同時に第三者の声が突然向こう、山の上の方より聞こえてこなければ、
「あの声は……」
彼は当然すぐさま、その名も知らぬ少女の元へ躊躇なく近づいていたはずなのであった……。
◇
「アミカ様!」
突然の声音。それはまさに、大事な存在を守ろうとする者――例えば忠実な従者――が発したものに相違なかった。何よりそこには傍からでも分かるほどはっきりと切迫感、籠められていて。
「!」
はたしてそれまでアリソンたちのこと見つめ、固まっていた少女がすかさず、そちら振り返っていたくらいに。
「ファム!」
しかも次いで、そんな相手呼ぶ声、切なげに発させて。
「え、ファム?」
「マジかよ……」
「ファムさん?」
そしてむろんそれは同時に、その光景唖然と見つめるばかりだった五人組にも、甚だしき驚き与えている。つまりは余りに突如、目当ての人物の声を耳にしたのだ。その事態の意外さゆえに、ティコなどは思わずポカンと口を開けたくらいだった。
「ファム!」
「駄目ですよ、こんな下まで来てしまっては。ガルトーダ様も心配なされますよ」
「ごめん、森の方までちょっと行ってみたくて」
すなわちそうこうしている内にどこかから少女の元へ急ぎ駆けつけた若い男――恐らくファム本人――はまずは怪我の有無等相手の状況とにかく確認するや、次いで心配の余り注意する口調とすらなって、その保護者ぶりを甲斐甲斐しくも明々と示したのだから。
「……大丈夫、怪我なんてしてないよ」
「ですが、何かあったら」
そう、それはまさに、騎士と姫とのそれにも比すべき関係性、その現われだったとでも言うべきであろうか。
「ガルトーダ……?」
いずれにせよそんな二人見てリロイが意味深な呟き、ひっそりと零していた中。刹那何かその言葉に引っかかるもの、覚えたように。
「……」
「どうなってんだ、こりゃ」
一方後の四人に至ってはこうなるともはや完全なる傍観者状態、もちろん今はただそっとそのいかにも親密度高い光景見守るしか、他に術などあり得るはずもなく……。
「そうだ、あのね」
「さあ、話の方は後でちゃんと聞きます。とにかく、早く家へ戻りましょう」
「ファム待って! 私、あの人たちと――」
ゆえにそうした空気の下、少女が半ば強引に自分連れ戻そうとする相手へ抗うが如くついに実に重要なこと、必死な体で告げてくるや、
「え、あの人たちって……?」
――杏色のスカートの如く裾が広がった上衣に、真白いズボン着けた男にハッとその指し示す方振り返らせ、そしてそんな何とも言えない状況は、一瞬で崩れ去っていくこととなったのである。
「あ、あなたたちは!」
その途端、ファムにどこまでも大きく瞳、見開かせて。
◇
「いや、驚いたな。まさかリロイ様があの都を脱出して、しかもこんな所へやって来るなんて」
かくして感動の、いや驚愕の再会からしばらくして。
もちろん場所は厳峰ローグ山、その頂上付近。すなわちもはや生命の痕跡まるで見られぬ、下よりもさらに荒々しさ増してきた赤く急な斜面の上を、しかしゆっくりと歩み進める七つの人影があった。
「余程、僕に大事な用があったんだね」
しかもそのうちの洞窟への案内買って出た一人は、場違いにも妙に爽やかな感じさえ、漂わせていて。
その銀色でやや長めの髪を、山肌吹き抜ける微風にさらさら美しく揺らめかせながら。
汗一つかかず。
「……驚いたのはこっちだ。まさかお前が、こんな山奥で生活していたとは」
「ハハ、そうですか? でも結構良いアイデアでしょう、魔女たちから身を隠す場所としては」
「それにしたって、いくらなんでも不便すぎるぞ。生活するにも、また訪れるにも」
……むろんだがその様は、かえって対するリロイに険しい顔示させることとなったものの。まさしく誰のせいでこんな苦労をする羽目になったんだ、と。
「まったくだ。隠れられたらそれでいいだなんて、安易過ぎるぜ」
何より加えて旧知の仲たるガルフの放ったそんな一言が、やたらと刺々しく。
その隣ではティコがうんうんともっともらしく、頷いていたように。
「うーん、そう言われると、返す言葉もないんだけど」
「事情の方は、後で色々聞かせてもらうつもりだが。もちろんお前たちの家で」
「あ、僕はただの居候なんで。正確には、アミカ様たちの家、ですね」
「……どっちでもいいです」
ただし、半ば呆れた感じもそうした中醸し出しつつ。
まあ、しかしそうしてファムが今や完全に山の住人と化していたにせよ、やっとリロイのかつての心強い仲間たちが長年月経て再会適ったのは紛れもない事実。当然ながら、そこには形容し難い、また部外者には入り辛い一種独特の雰囲気というものが確かにあって。
「……」
ゆえに今のところそのまごうかたなき第三者でしかないアリソンが、そして傍らで同様に沈黙続けているコールもだが、そう彼女たちがただ静かにそんな絡みを始め出した他の四人の話へ、歩きながら耳を傾けるのみだったのも至極当然といえよう。――すなわち次の瞬間ファムが如才なくそちら向いて、
「とにかく、新しい仲間もいるみたいだから、一旦落ち着く場所に行こうよ」
「え……?」
にっこり微笑みながらそんな一言掛けてこなければ、それはまだずっと続くとさえ思われたのだから。
つまりはそれ程までに、彼の笑顔は余りに魅力的だったのであり。肩の少し上まで届く銀髪、サファイアブルーの麗しい瞳、桃色の唇という、女性とも見紛う可愛らしい顔立ちした、見た目まだ大分若い色白な男の笑みは。
「ま、まあ」
……むろん途端ほんのり赤く染まっていたアリソンの頬を、わざわざ窺ってみるまでもなく。
そんな彼の正体が、実は食屍鬼だったとはいえ。
あの、伝説に悪名高き。
「もうすぐだよ!」
「!」
そして、そのためだろう。
その時、一行の大分先頭を勝手知ったる様子で一人トコトコと歩いていた幼女――アミカがこちら振り返り手招きしながら声高く皆を呼ぶと、特にアリソンはビクッと顕著に反応示し、
「――あそこが」
「ほう、確かにデカい洞穴があるな」
「こんな所に……」
さらにはリロイたちも同様にその方へ視線向け、その何ともいえない構えに知らず興味表わすとともに、分かりやすくもホッと一息、ようやく吐くこと適っていたのだった。




