3.
「まあティコも言ったように、そんな悪い奴じゃないから。とにかく、今は先を――」
「でも、相手は食屍鬼よ?! それとずっと一緒にいなければならないなんてっ」
「アリソンさん、会ってみればすぐ分かると思いますが、ファムさんは本当に」
「食屍鬼に良いも悪いもない!」
こうしてたちまち、強烈極まる反応起こしたアリソン。そもそもが本来なかなかの潔癖症でもあるのだろう、それは紛れもなく完全な拒絶、というやつだった。
「アリソン、気持ちは分かるが、その彼とは結局一緒に旅をしなければならないんだ」
「ああ、この際選り好みしている場合じゃないと思うぜ」
すなわちその様には、コールとガルフにもなだめの言葉掛けようとさせるくらい、相当凄まじいものがあったのだから。
「ていうか何であなたたち、そんな平気なの?!」
従ってしまいには、そんな叫びにも似た声まで、発していて。
――途端ティコが思わず、目を丸くしてしまったほどの。
ゆえにローグ山での第二の家臣探しは約一名の性格上の問題もあり、いきなり前途多難、突然の急停止へと結果陥りかけたわけであったが。
「――ん? 待て、なんだありゃ」
そう、そのためまさしく少女の怒りが大爆発するかと感じられたその寸前、しかし何かに気づいたかガルフが木々の梢で囲まれた狭い空見上げ、ふいに場違いにもそんな声発してくると、
「え?」
「何だ」
「どうした!」
一行はたちまち何とか逃げ道求めるように同様の動き示し、
「ちょっと、ごまかさないでよ!」
ただ、そうした状況下アリソンの噴火寸前の声だけが、異様に目立って響き渡っていたのである。
「鳥か?」
「?」
いずれにしても、結局そのアリソン含め皆がおのずとガルフにならい、一斉に上空にしかと認めたもの。……それは、巨大な影だった。それも青空を背にして、悠然とそこを横切って行く。つまりは大きな翼広げ、北――まさしく一行がこれから向かおうとする方向――今まさに目指している。
「ちょっと待て、しかし、大き過ぎないか?」
「……え? そうね、そう言われると」
「ああ、そうなんだ。少なくとも、俺の知っている鳥にはあんなの――」
ただし、その途端同時に五人ははっきりと惑乱、覚えてすらいたのだが。
つまりは目にしたその影が、いくら遥か上空にあるとはいえどう考えてもスケール的におかしなことと相成っていて。
もちろん猛禽類含め、およそ知り得るどんな鳥とも合致しようがない。
常識外れというか、まるで見たこともないような。
あたかも、夢の中の光景とでも言うべき……。
「おい、ありゃ鳥なんかじゃないぞ、間違いなく竜だ!」
「!」
――だが、ゆえに次の刹那リロイがそんな大声賑やかに張り上げると、たちまち皆は目を大きく見開いて、
「あれが竜なの?!」
「ローグ山の、主……」
「うわあ、やっぱり大きいなあ」
「畜生、マジで久しぶりに本物、見ちまったぜ」
口々に騒々しくそんな驚愕で満ちた感想、洩らしていたのである。
「私、初めて見た……」
「そうか。あのおっさんの話、嘘じゃなかったんだな」
そしてその最後に、魔道士の心から感心したような声、知らず耳へとしつつ。
……同時に瞬間、それぞれが慌てて近くの木の陰へ、その身を隠しながら。
もちろんそれは自分たちの姿、出来得る限り相手に見えなくさせるためで。
まかり間違って、あの魔獣の餌食にならないためにも。
◇
かくして僅か数秒間ながら、それにしてはやたらと長く感じられた時が過ぎ。そんな驚愕与えた巨影も、しかし隠れたのが功を奏したかやがて何もせず視界から姿を消し、再び空はただ青いだけとなった中……。
「ああ、結構緊張した」
「しかし、この山は正真正銘竜の巣だったようだな」
「確かに。しかも相当デカいぞ、あいつ」
しばし呆然と立ち尽くしていた仲間たちの中から、しかしようやくぽつぽつとそんな声が洩れ出していた。
「どうするんです、このまま頂上目指すのですか?」
しかもティコがいまだビクビクしながら言ったように、どことなく引き返したいような感じ、そこに含ませて。
「一旦戻った方が、よくないですか」
「そんなの駄目よ。ここまで来て、今さら帰るなんて!」
「でも、あの竜が相手なんですよ? 僕たち準備も何も」
「だからって、何も手出し出来ない訳じゃないわ」
――とはいえそんな雰囲気も、なぜか突然やる気出したアリソンによって途端撃ち破られてしまったのだが。
「そのために、五人も仲間がいるんだから」
むろん先程見せた怒りと驚きなど、今は微塵もそこに窺うことできず。
逆に本来の達成すべき大き過ぎる目的、やっと思い出したと。
「ね、リロイ?」
「……そうだな、準備と言ったところで、竜相手じゃ特に何か大したものがある訳じゃない。このまま、先を目指すしか。何より宿屋の親父の話によれば、この山の頂上付近には人が住むのに適した洞穴が、幾つかあるらしいんだから」
「うん。当然そこにファムもいる可能性が高い」
それゆえ少女がそんな思いこめ傍らの魔道士振り返ると、
その紅い瞳、きらきら輝かせ。
「もちろん願わくば、あの竜と遭遇しなければいいんだが。……いずれにしても、ここは早く進むべきだろう」
対する相手はどこか溜息混じりながらそんな期待通りの答え、返してきたのだった。




