20.
それはまさしく危険極まる発言というやつだった。
つまりは大胆にも、世界支配する者たちの名をそんな物騒な文脈で出してきたのだから。
しかも、言った本人は至って平然と。
何憚ることなく。
「おい、そりゃ……」
ゆえにそれ告げられたリロイの方がかえって一瞬怯んで見せたのは、至極当然だったといえよう。何より、分かりやすくもその眼を見開いていたのを見れば。
「どうした、そんなに驚いて?」
「いや、いくら自分の領地内だとはいえ、そんなこと」
「だが、君がロクスム・ハラを離れた真の理由は、そこにあるのだろう? 巨人戦役が終わろうとする頃、あろうことか自分へ歯向かい、巨人の技すら奪ってしまったかつての恩知らずな弟子たちを倒すという」
むろん対してサーナムスは、さらに構わず話を続けてきたものの。
「違うのか?」
加えてそう、問い質すようにやおら声音が強くなり。
もちろんそれ以外、一切考えられないとばかりに。
「……だが、俺はまだ、そこまでは」
「何だ、考えていない、ということか? しかし君は死の都から脱出した以上、間違いなく魔女から追われる身。いずれにしても、彼女たちとこれから戦わないわけには」
「う、まあ、そうだな……」
――途端当のリロイの口ぶり、珍しく歯切れ悪くさせて。
「いつかは分からないが」
要はまさにそれこそが、彼に突きつけられた厳然たる事実、避けられない運命というやつだったのであり。
いずれ、そう、それが遠いか近いかはいまだ判然としないが、とにかく必ずやって来るはずの。
余りにも、必然的な……。
「まあいい。君の真意がどうであれ、事態は確実に動き出してしまったのだから」
そうして場は一瞬重たい沈黙に包まれたが、しかし一拍の間の後それを破ったのも、またサーナムスに他ならなかった。すなわち再び開かれたその口ぶりには、もうこれ以上魔女の件に関してくどくど言う必要もない、そんな響きが含められていたのだ。
「いずれにせよ、これからが本題だ。つまりはあの人狼をどうするのか、という」
「! そうだな……」
「だが、その答えは簡単だ」
そう、かくして俄然その身を前へ乗り出し、真剣な面持ちで次なる、そして真の話題のたまってきた以上。もちろんリロイを、そして他のメンバーをもぐっと、同様に自らの言葉へ引きこませつつ。
「――やはりあの男は、我がエルフたちにとって許し難い重罪人。何があっても、そう刑期が終わるまでは、決して解放することまかりならない」
「え?」
「!」
……とはいえそれは一瞬で、そんな彼らを冷たく突き放す刃となっていたものの。
「そんな――」
「なるほど」
ただ一人、事前に予想していたのか、さほど動揺見せなかった魔道士を除いて。
まさしくもはや何も言わせない、そうした最後通告の如く。
「ま、待って、でもリロイはあなたの課したテストに合格したんでしょ? だったら、ガルフのことも」
それゆえその言耳にしたアリソンは、たまらず反論の声上げていたのだが。
「いや、それとこれとは話がまったく別だ。つまりあの男が犯した罪は、我が霧の谷に住む全ての民に対してのもの。ゆえにいくら領主とはいえ、私がただ許可すれば釈放できるものでもない」
「じゃあ何のためにあんなことを!」
「だから言っただろう、リロイの力量が昔のままなのか、確かめたかったのだと。むろんそれ以外に意味はない」
しかし領主は領主でそちら鋭く振り向き、――と、刹那そこに何かを認めたのか、訝しげな表情ふと示したものの――厳とした口調でそう言い返してきたのである。すなわちそれはまごうかたなき、完全なる遮断、拒絶というものに相違なく。むろんもう何一つ、手立てなどない。
「じゃあ、ガルフは絶対に」
ゆえにいまだ諦められるはずのないアリソンが、知らず哀切な表情露わとしていたのも当然で、
「ああ、だから潔く諦めてくれ」
それが彼の氷の如き雰囲気、決して壊すこと出来ないのは重々承知の上で。
「……もっとも、あの男が自力で逃げ出したなら、事情は変わってくるが」
「!」
そう、従って次の刹那サーナムスが椅子の背もたれにぐっと身を預け、最後にそんな言葉静かに掛けてくると、
まるでついでにふと、思いついたかの如く。
「そう、もちろん上手く我々の眼を盗んで」
「え……」
「サーナムス……」
アリソンたちは、むろんリロイ含めて、皆我知らずその青く澄んだ、だがどこか悪戯っぽい光ふいに宿した瞳を、半ば信じられない思いで見つめていたのだった……。




