17.
無尽蔵のスタミナの下、決して止まることのない怒涛の攻撃。
何よりその鋭さ、激しさは時とともにむしろますます強度増していった程で。
拳を、爪を、そして噛みつかんとする鋭利な牙を、容赦なく相手へ叩きこんでいく。
「ハッ!」
しかし相変わらず、その全てを優れた体術によりかわしまくっていく、謎めいた魔道士。しかもそんな中何とか自らの勝機を窺っているともみえ、その眼光強く輝かせたまま。
(何ダコイツ、ドウイウツモリダ?)
ゆえに俄然トロルの心の中に湧き上がる、そんな不安にも似た疑念。
……何と言っても余裕で30分以上、こうした状態が続き、
まさしく攻撃一辺倒と、
反撃する隙も与えなかったほどなのに。
逆にいつしかこちら側が押されている気配さえ、ふいに漂い出してきて。
(何ヲ狙ッテイル……?)
そして、そのためだろう。戦闘中にも関わらず、妖精は相手の男に対して実に得体の知れない脅威感じているのを、今やはっきりと自覚し出していたのだった。むろん命じられるまま、何も余計なこと考えずただ獲物を倒すことに専念するのが、自分に与えられた仕事だったとはいえ。
特にそのリロイが不敵ともいえる様相、何発も拳打ちこまれながら時おり現わしていたのを、見てしまえば。
(早ク、始末シナケレバ!)
従っていつしか内心に焦りに似た気持ちが浮かんできていたとしても、それは状況考えれば実に必然というもの。当然そうしなければ、こっちが逆にやられてしまう、という。
それくらい、敵の持っている力量ただならぬというのが、今ではまず確実だったこともあり。
(!)
――そう、だがかくして、何よりそのじりじりとした思いが異様に強かったゆえ。
「マズい!」
「あ、リロイ!」
ふいにその刹那、何度目かの拳を回避した魔道士が何かにつまずいたか身体のバランス、大いに崩したのを見ると、
(――今ダ!)
勝機到来、一気に構えを取り、――トロルはたちまちにして、今までの不安振り切るようにそのとどめとも言うべき熾烈な一撃、相手の顔面へ見舞おうと仕掛けたのだった。
「リロイ!」
アリソンが見つめていた眼前で、まさにそれは起きた。
つまりはリロイが突然ガクッと体勢崩し、その刹那何とか立て直そうとしてかえって思いきり防御ががら空きとなってしまったのだ。
「マズい、隙が出来た!」
瞬時、コールも目敏くそれに気づいていたように。
「ああ、避けて!」
「来るぞ!」
よってたちまち、その二人の心底からの叫び声が辺りへ大きく響き渡り、
とにかく、ここは切り抜けてくれ、と――。
「グオオ!」
だが無情にも、トロルの鉄拳はそれに構うことなくまっしぐらに、かつあっという間に獲物へ叩きこまれようとしていったのである。
「あれ、さすがにちょっとヤバいかな?」
……それと同時に、ふと聞こえてきたティコの場違いな呟き、ともとして。
◇
「おお!」
「決まるか?!」
突如として、一同から湧き上がったどよめき。それはむろん、ついにトロルが敵を捉えたと思われたことからきたものだった。
つまり、遠巻きに見る彼らから窺っても、それは間違いなく勝負決める一瞬以外の何物でもなかったはずで、
もはやリロイには助かる道、ないような。
「これであいつも終わりだ!」
一人のエルフなどは、そんないかにも勝ち気に溢れた声、放り出している。
そう、所詮エルフたちにとってリロイはよそから来た得体の知れない魔道士に過ぎず、特に同情に価する存在でもなかったのだから。ゆえに今まさに勝負が決まろうとする瞬間訪れるや、たちまち興奮のボルテージ上がって来たのも道理であり。
「よし、行けえ!」
戦いを生業とする者たちらしく、そうした威勢の良い声も所々から放たれ――。
「! まさか?」
……だが、そのためだろう。その刹那、ただ一人何か異変に気付いたハーマスがそんな驚きに満ちた声上げていたとしても、
「そんな、馬鹿な……」
その小さな声音は、途端兵士たちの立てる響きにかき消されていってしまったのだった。
すなわち。
「え!」
「何?!」
それ見たアリソンとコールが、思わず驚愕の声零したように、
「グアアア!」
――振り上げた拳を放とうとしたトロルの動きが、しかしその寸前苦鳴とともに突然完全に止まってしまうという余りに信じ難い状況、迎えるまでは。




