15.
それはいまだ年若い、そして革鎧とレイピアを装備した、りりしい顔立ちが特徴的なエルフだった。すなわちその面には、どことなく霧の谷の領主サーナムスと相通じるものがあり。
「お前は――」
知らず身構えたリロイなどは、思わずそんな訝しげな一言まで零している。
「ふむ、まずは奇襲から逃れたようだな。……私はサーナムスが一子、ハーマス。魔道士よ、初にお目にかかる」
「何だって、あいつの息子?」
「その通り。そしてあなたは、父の古くからの友人」
対して会釈した相手――エルフの貴公子ハーマスに、礼儀正しくも威厳ある自己紹介させて。
「そりゃ俺はあいつの友だが、しかしそれにしては、随分な歓迎の仕方じゃないか?」
むろんだからと言って魔道士が、速やかに警戒解くはずなどなかったものの。
特に状況が状況なだけに。
「これは失礼した、と言いたいところだが。――しかし我々にも、この谷の治安を守るという義務があるのでね」
「やはり俺の存在が目障り、ということか?」
「目障り――確かにそういう言い方も出来るな。特にあなたが、ソーサリスたちにとって完全な敵である以上」
何より、途端ハーマスの纏う様相が、剣呑なもの帯び出してきたのを見れば。
そう、それは絶対に相手を逃さないという、強い意志の現われであったというべきか。
つまりはそれくらい、今がまさに絶体絶命、危険極まる時だったのは紛れもない事実で。
「マズい……」
アリソンをして、つい絶望的な声、洩らさせていたように。
「ふ、どうやら幾人か、行動を供としている者もいるようだ」
そしてその様見たゆえだろう。エルフは一瞬リロイ一行順繰りに、しかも隙なく見回すと、ふいにレイピアを持つ手へ力をこめ、
まさしく情け容赦もなく。
「だが、連れも含めて、もうあなた方にここで自由に動き回られる訳にはいかない。よってこれからこの者と、戦ってもらおう」
――厳然とそうした有無を言わさぬ言葉、のたまってきたのだった。
「あ!」
「あれは……」
「トロル?」
刹那背後の人波の中から、巨大な一つの不気味な影、自らの元へとのっそり呼び寄せて。
◇
「ち、トロルか。厄介だな……」
かくてリロイたちの眼前に突如立ちはだかった、背の高い怪物――。
体長優に2エメル以上、全身灰色毛むくじゃらでほとんど表皮は窺えず、ただ顔の中目と思われる赤い光が二つ輝き見せ、さらにはその指の先についた、ナイフ彷彿とさせる異様に鋭く大きな爪。
それは間違いなく、妖精族の一つ、トロルという存在だった。
つまりは数多い妖精たちの中でもとりわけタフで、また狂暴な性格持っていることでも知られている、実に肉弾戦得意とした。
ゆえにそのあからさまに威圧してくる風は、一行をしてたちまち緊張感増させるに、余りに十分。
「え、あれと戦うの?」
従ってアリソンなどは、実に分かりやすく信じ難いような表情、刹那露わとしていたのである。
「その通り。このトロルへ果たして立ち向かえる力があるか、試させてもらおう」
「試すだと? ふざけるな、どういうことだ!」
「……特にリロイ・シュバルツシルト、あなたに昔日の実力があるのかどうか」
むろんハーマスの方は、まるでその様子気にしていなかったが。
いや、むしろその言に含まれる通り、余程リロイのことだけ注視していたと見られ。
「出来得るなら、一対一で」
何より、彼の声は今、ただ魔道士のみに向けられていたようなのだから。
「どうする、助太刀は必要か?」
「……いや、あいつがああ言っている以上、俺だけで戦うのが一番だろう」
「でも、大丈夫?」
そして当然ながら、そんなハーマスの言葉は対する四人を深く考えこませる。要はそれくらい、このトロルは決して油断できない恐るべき相手――そこにはそうした、実に大きすぎる問題厳とあった以上。
すなわち一人であれ複数であれ、戦うからにはそれなりの無視できぬダメージ、予想せざるを得ない、という……。
「でもまあ、安心しろ。俺は妖精族相手にするのは、かなり慣れているからな」
だが、ゆえに、だろう。
そうした俄然ひりつき出した空気の中、リロイは次の瞬間一人前へ出てそんな皆を安心させるが如き一言、掛けると、
「リロイ!」
「何、あいつのご期待通り、実力ってやつを見せてやるさ――死ぬほど後悔するくらいに」
途端その瞳に鋭い輝き灯し、眼前のトロルしかと見据えたのだった。
「グルウウウ!」
……対して巨躯の妖精に、威嚇の唸り声、発させつつ。




