14.
「リロイ様、まずいです、扉が破られそうです!」
「!」
そうして余りのことに一瞬立ち尽くしたアリソンだったが、
「ああ、どうしよう!」
――しかしその刹那何か大きく重たいものが幾度も扉へぶち当たってくる耳障りな音と、そしてティコの分かりやすく慌てた声がして、それはたちまちそちら振り返らせていたのだった。
「くそ、奴ら力づくで入ってくるつもりか!」
「もう持ちませんよ、あの扉!」
「ここで迎え撃つか?」
むろんすぐさま、対応策を論じ始める男たち。何よりティコが言ったように確かに誰かが体当たりでもしているのか、次第に扉が破壊されかかっているのを見れば、それも仕方あるまい。すなわち、外から敵が侵入してくるのも、もはや時間の問題と思えたほどで。
「ひええ、でもあんな大勢相手にして、勝てるのかな?」
たちまちティコに至っては、護身用のナイフ持つ手震わせながらそんないかにも怯えた声、発していたのだから。
「ねえ、窓から逃げたら?!」
「!」
「え?」
「窓?」
――そう、ゆえにその刹那アリソンがふいにそんな提案してくると、途端一同は驚いたように彼女のことハッと振り返っていて。
「ていうか、もうこっちしか、逃げ道なんてないわよ?」
さらに少女が自分の背後、闇空へ開け放たれた、かつ表の通りに面した大窓指差して続けると、窮余の一策とばかりにそれは強い衝撃与えていたのだった。
「そうか、窓か……」
「で、でも、宿の外にも兵士たちがいるかも」
「しかしこの狭い場所で敵に囲まれるよりは、いくらかマシだ」
もちろんその策は完璧な一案とは言い難かったが、とはいえコールの言った通り他の選択肢よりは多少優れているようにも思える。つまりは、そちらの方が生き残る確率、それなりに高かったはずであり。
「よし、そうするか」
何よりリロイがすぐさまそう声を強くしたのを見れば、明らかだったように。
「うん、それがいいと思う!」
「行くとするか」
「あ、でもここ二階ですよ?」
……ただし元来心配性なのか、ティコはいまだ大して乗り気のようではなかったものの。
「大丈夫だ、怖いなら、俺が抱えていってやる」
「え、コールさんが?」
たちまちコールの強引ともいえる言葉に、それはうやむやにされつつ。
「さあ、もうすぐ壊れるぞ!」
「中にいる奴ら、観念しろ!」
そうしてついに余りの衝撃に、ドアノブが呆気なく吹っ飛び。
今しも、扉が完全に破られようとしている中。
「だとしたら、もう躊躇している暇はない。さっさと飛び降りるぞ!」
そのやり取り見守っていた魔道士は刹那、皆を勇気づけるように大きく頷くと、
「さあ、俺についてこい!」
「あ、リロイ!」
「え、もうですか?!」
まさに即断即決、次の瞬間にはその身は三人掻き分け移動、窓枠へとよじ登り、
まさにティコが喚く暇すらなく。
「絶対に遅れるなよ!」
――そして一気に、もはや背後振り返りもせず、闇の広がる虚空へといざ躍り出ていたのだった。
◇
かくてエルフ兵たちが大挙して部屋へと突入する寸前、次いで約束通りコールがティコ抱えて大ジャンプし、……最後に窓から飛び出たのはアリソンだった。
「わあっ!」
そんなほとんどヤケクソとも取れる絶叫、供として。
「大丈夫だ、アリソン。俺が受け止める!」
むろんそうして遥か下、坂道になった街路上ではリロイが頼もしくも両腕を上へと広げていて。
――まさしく、天から舞い降りた乙女を迎え入れようとする、古の勇者のように。
「キャアア!」
「おっと!」
ただし実際にはかなりのスピードで落ちてきたため、魔道士は思いきり腰と腕に力を入れ、相当な踏ん張り持ってようやく抱き止めること出来たのだが。
「やったあ!」
いずれにせよティコが安堵の声上げたように、かくしてアリソンは無事宿の外へ脱出すること、適ったのである。
「ああ、怖かった……」
「よく頑張ったな、君はなかなか度胸がある」
そう、そしてその腕の中に少女迎えた瞬間だけ、リロイは本当に、かつ初めて曾孫を温かく見つめる瞳になっていたのやもしれず。
メルティナと愛し合ってから100年以上の時を経て、やっと巡りあった……。
「え、そう?」
「もちろん、上出来だ。だが何より、怪我がなかったのが――」
「おい、そんな話は後にしてくれ!」
ゆえに時を置かずして刹那コールが突然鋭い声掛けてこなければ、二人は暗がりの中いつまでもそうやってほんわかと見つめ合っていたのかもしれない、そうとすら思われたのだった。
「完全に囲まれているぞ、俺たち!」
――すなわち、続けて表情厳しく青年がそんな余りに剣呑な言葉、発していたように。
「わ、本当だ! リロイ様、どうしよう!」
そう、途端ティコが慌てふためいて上げた声、聞くまでもなく。
「ち、やはり宿自体が包囲されていたか……」
「上も下も塞がれているじゃない!」
案の定宿の外、夜を迎えた坂道にはずらりとエルフの兵隊が各々武器携え待ち構えていて、それもアリソンの指摘した通り、ご丁寧にも上と下、その二つの逃げ道完全に塞がれた状態だったのだ。
「分厚いな、これは――」
すなわち到来したのは冷静なコールですら、知らず緊張した呟き、零さざるを得なかった程の緊急事態というやつで――。
「まあ、だが当然のことか。サーナムスの差し金なら」
はたしてリロイに至っては、その鉄壁の布陣にかえって感心した声まで洩らしている。
「何相手のこと誉めているの、それどころじゃないでしょ?!」
「へ? ……あ、いや、すまん。つい旧知の間柄の誼ってやつで」
「でもそのサーナムスと、戦わなきゃいけないのよ!」
……ただし当然というかそれ耳にした曾孫娘からは、たちまち三角にした視線向けられてきたものの。
「今は昔の思い出なんか!」
そうした、いかにも剣幕で包まれた感じありありと。
「50人は下らないな。……どうする?」
「でも、話し合いの余地はなさそうですよ?」
「どちらかに集中して、攻撃仕掛けるか」
またその傍では、コールとティコがこの絶望的状況、何とか冷静になって打破する方法見つけようとしていて、
じわりじわり、次第に間隔を狭めようとしてくる兵士たち、油断なく見つめながら。
「とにかくリロイ、そしてアリソン。この場では二人の魔法が特に重要に――」
ゆえに青年がふと声を落とし、いまだ口論続けそうな両者へそんないかにも注意深い、重要な言葉掛けようとした、
「!」
――しかし、今にも戦端開かれそうな、……その時だった。
「リロイ・シュバルツシルトだな?」
「何?」
ふいに坂道の上の方を囲む集団の中から一人のエルフがすっと前へと進み出て、そうした一言、告げてきたのである。




