13.
「アリソン!」
……だが、次の瞬間景色はガラリと変わり、突如として聞こえてきたのは自らを呼ぶ男の声だった。
「え……?」
当然ながら、いまだ夢うつつのままアリソンはその眼をぼんやりと開ける。むろんほとんど今ここがどこなのか認識できていない、そんなベッドの上、眠りと目覚めが半分ずつといった状態だ。
「あれ、母さんは……」
「何寝ぼけている。とにかく早く起きるんだ!」
もっともその当の非常識な相手は、まるで彼女のこと構わずさらに口調強めてきたのだが。
それもぐっと顔をこちらへ近づけ、視線も鋭く何やらいかにも緊張感ある感じで。
「! え、コール?」
よってその様は少女をふいに、そうそれまで深い眠りに就いていたにしてはかなり素早く、現実世界へと引き戻してしまう。何より、自分一人だけがいるはずの部屋に、なぜか突然知り合いとはいえ男の姿があったのだから。
「ちょ、ちょっと、何しているのよ!」
「何?」
「何であなたが入ってきているの?!」
それゆえ途端身の危険、というか貞操の危機なるもの覚えたアリソンは声を大きく上げ、さらに不届きな相手から逃れるため暴れる素振りすら見せようとしたものの――。
「勘違いするな、今はそれどころじゃないんだ!」
「!」
しかしそういった防衛本能というやつも、コールのただならぬ、実に緊迫度漲った様相見れば有無を言わさずたちまち消え去って行き。
「とにかく早く外へ出る用意をしろ!」
「そ、外?」
「敵の奇襲だ!」
しかも、続けて青年がそんなとんでもない一言、荒々しく告げてきたとすれば。
もちろん彼自身はいつもの黒衣に手には長剣という、既に完全装備した状態にあって。
一見したところ、周囲にはまだ何も異常は見られない中。
「敵? 誰よ、そいつ!」
「分からない、だが明らかに俺たちを狙っている連中だ!」
従って次の刹那強声一下少女が慌ただしくベッドから跳ね起きていても、それは状況からして決して無理からぬ、常識極まる動作でしかないのであった。
「行くぞ!」
……そう、直後まさに二人揃って勇んで外へ出ようとした、しかしその刹那。
「――!」
「ティコ、一旦退却だ、急げ!」
「は、はい!」
「あ、リロイ!」
突然目指すその扉が乱暴に開かれ、逆に廊下の方からバッと二つの人影が、もの凄い勢いで入って来る事態となったのだから。
「畜生、何て数だ、キリがない!」
「本当、しかも今って夜ですよ……」
しかも両者して何とか渾身の力で再び扉閉め、急ぎ鍵まで掛けるや、そんな荒々しくもうんざりした声、発しながら。
「奇襲なんてしやがって、サーナムスの奴、卑怯だぞ!」
加えて次にはリロイの何とも怒りに満ちた声が、室内へ遠慮なく轟き渡っており――。
「え、サーナムス?」
だが、その声は当然の如く、アリソンの注意を強く引くに充分なものなのだった。すなわち扉の外では俄然ドタドタと騒がしい音がし始めた中、少女はたちまちいまだ息の荒くしている魔道士の元へ近づくや、
「何でサーナムスの名前が?」
そんな質問、驚き眼のまま発していたのだから。
「お、アリソン、起きたか。良かった」
「そんなことより、説明してよ。サーナムスって、霧の谷の領主なんでしょ?」
「ああ、それか。まあな、奴はこの谷を治めている支配者だ」
むろん対するリロイは、特に何でもないことのように応じてきたのだが。
「その人が、まさかリロイ襲わせたの?」
しかしアリソンには、そのことがどうしても合点いかず。
何より、エルフが実に理知的な種族であるという事実、しかと理解していたがゆえに。特にこの谷に住む者は、よく統制が取れていると広く知られてもいて。
「でも、何で?!」
従ってその違和感から、曾祖父へと問う声は自然と強くなる。そんなはずはないという気持ちも、多分に籠められた。
「そりゃ真相は俺も知りたいくらいだが、とにかく襲ってきたのがエルフの兵士たちである以上、そのことは疑いない。さすがに驚いたが。でもまあ予想できるとすれば、サーナムスの野郎やはり俺が目障りになったんだろうな」
「目障り?」
「俺は紛れもない、ソーサリスたちから追われる身だ。そんな奴が自分の街にいて、何かしようとしているとすれば、そりゃ気になるってもんだろう。……そう、要はこの俺を捕え、魔女へ差し出す腹づもりって訳だ。もちろん全ては霧の谷の平和のために」
だがリロイがすかさず放ってきた答えは、そんな少女にとってまさにぐうの音も出ない、それ以外真実はないと思われるものだったのである。
「霧の谷の、ため……」
思わずそんな呆然とした呟き、洩らさせていたほどに。
まさしく眼前へ突きつけられた、重たい事実、と。




