11.
その瞬間だった。
(……ん)
男は迫り来るような暗闇の中、ひっそりと一人その眼を醒ましていた。
(ここは……?)
とはいえ余りにその眠りが深く、かつやたら長い夢まで見ていたと思われるためか、一瞬ここがどこだか分からなくなっていたものの。
しかも空気は嫌に冷たく、加えて空漠としていて。
本当に、闇しかこの場所には存在しないような。
どこまでも暗澹たる。
そして、どこにも逃げようがない――。
(! そうか。俺は、確か)
しかしそんな目に映るもの何もなき光景がゆえに、かえってしばらくすると意識が多少なりと冴え出してきたのも、また疑いない事実ではあった。
(この牢獄に、ずっと囚われていて)
そう、次には自らの陥った惨めな現状、ふいに思い出していたのだから。
いまだに牢屋の中、まごうかたなき囚人の身であるという。
はたしてそれが良いことだったのかは、この際脇に置いておくとしても。
とりあえず自分が自分である、その常識的状態、取り戻すために。
(あれ、でもさっき)
――そしてそれとほぼ同時に、突然ある記憶がパッと脳裡に甦ってもきて。
(誰かが、俺を呼んだような……)
随分前か、あるいはつい先程か、とにかく一人の男の声が、はっきりと自分の名前を叫んでいたような、その響き(残響?)が。
それも異常にこの胸騒がせるほど、とても懐かしい。
何よりも、心に深く、えぐるように深く刻みこまれた……。
(でも、まさか)
だが、そのただならぬ深度ゆえだろう。かえって男は次の瞬間そんなはずは絶対にないと頭を振り否定してしまうと、続けて深々と大きく息を吐き、
辺りの闇は、相変わらず濃いままだったが。
(あの人が、来るなんて――)
あたかも何かから逃れるようにして、
……最後にそんな虚しくもある一言、心の中で静かに呟いていたのだった。
信じられるものなど、今や何一つなかったがゆえ。
(ありえない)
むろん張り詰めた静寂のただ中、たったの独りきりで――。




