7.
緊迫した空気。風の流れを瞬時的確に読み取り、さらに細くしなやかな指先に全神経を集中させ、一気に仕留めんと姿勢良く矢を力の限り振り絞る――。
まるで広大な庭の中、霧の向こう数十エメル先にあるその丸い的が、一匹の巨大な獣ででもあるかのようにしっかりと見立てて。
そこに迷いなど一切なく、むしろ一級の戦士の面、垣間見せながら。
……エルフたちを率いるには、むろんそうした様相こそまこと相応しかった以上。
サーナムス・フィン。
そして何よりも、その名で呼ばれる、今は革鎧纏った霧の谷の領主は魔法に劣らず見事な射手としての腕前、それに揺るぎない誇り、持っていたがゆえ。
たとえ何があっても、誰が攻めてきても、谷を危機が襲った際には必ず自らが率先してその弓持って戦地に馳せ向かう、と。つまりはそれくらい、かつて魔女たち相手に少しも引けを取らなかった実力は、いまだ折り紙付きというやつに相違なかったのだから。
肩まで届く長い金髪に、鋭くも麗しい青瞳、気高い鼻をした、そのエルフの力は。
まさしく、神話に謳われる英雄たちと並び立つが如くに。
戦意、いつまでも満々と。
はたして今まさにイチイの弓より放たれんとするその銀の矢を見れば、特にそれは明らかだったのであり――。
「お館様!」
「!」
だが、それゆえに。
「稽古中大変申し訳ありません!」
無粋にもそんな研ぎ澄まされた、精神集中を必要とする時間遮るように、館の方から急ぎ走って来た一人の男が突然静寂を破って声を響き渡らせると、
「何ごとだ!」
サーナムスは途端その優美で勇壮な面に、驚きと怒りの色、示さざるを得なかったのである。
◇
霧の谷の領主館――。
それは谷の一番上層に位置する、実に見事かつ豪勢な建物だった。
まず目を引くのは、その広大な敷地にある庭園である。そこには泉やら花園、はては小さな林まで設えられており、周辺とは隔絶した美しい景観を構成している。鳥や虫たちの姿も頻繁に見かけられ、むろん言うまでもなく、その領域が示すのは自然をこよなく愛するエルフの趣向そのものだったといえよう。
そして、さらに特筆すべきは、館それ自体。
その領主一族住まう場所は白亜の、しかも二階建ての実に荘厳なる建築物で。
ファサード左側には細く優美な塔、また玄関を古の神殿めいた素晴らしいポルティコが彩った。
まるで、訪れた者を温かく歓待するとともに、その美々しさで圧倒するかのような。
そう、つまりはそれくらい、そこは統治者が拠点と定めたのに相応しい偉容、満面に誇っていたのであり、
まさしくエルフのいと高き矜持と。
「ほう、相変わらず綺麗な屋敷だな……」
……ゆえに昼も大分過ぎた頃、不躾にその館訪れた一人の男も、許可が下り門を潜ると前方見て知らずそんな感心したような一言、零さずにいられなかったのは至極当然といえ。
だがそこには豪邸に足を踏み入れたという緊張感、微塵もなく。




