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16.

 こうして生者と死者の押し問答も、今やついにその破局的結末を迎えんとし。


「お前たち、どうやら相手は言う通りにする気がないようだから、思いきり痛めつけてやりな!」

『ハッ』


 場面は嗄れた怒号の下、それを受けた二人の巨漢がアリソンたちの方へ逃す隙なくにじり寄って行く段となっていた。


「く、やるつもりか!」

「どうしよう、コール! あいつら強そうだよ!」

「だが、戦うしかない!」


 しかも先程はそれなりに対応してくれた馬頭含めその獣人たちが揃いも揃って手にした自慢の馬鹿でかい棍棒、これ見よがしに掲げていたのを見れば、対して彼女たちは途端恐慌にも似た反応示さざるを得ず。


「でも、正面から?!」


 そう、特にアリソンに至っては、知らず悲鳴めいた声上げていて。


「ハハ、どうした? だがもちろん今さら詫びても、もう遅いからね!」


 加えてさらに手下たちの背後からは、マステラの嘲笑に塗れた愉快そうな声まで、遠慮なく所狭しと響き渡っていたのである。


「ああ、そうだ。だからアリソン、君も力を貸してくれ」

「魔法で援護ってこと? でも大丈夫かな?」

「君ならできるはずだ!」


 そう、何といっても今はここを突破しない限り、目標達成どころか命さえ危ぶまれる、紛れもなき危機的状態、


「とにかく俺の剣と、君の魔法の力があれば!」


 ……まさしく決して油断一つしてはならない、激しい戦いを前にした極限の状況だったのだから。

 ともに二人同士、ただし片方は魔法と剣、もう片方は武骨極まる棍棒、それぞれの得物とした。


「さあ、行くぞ!」


 それゆえ黒衣の青年はすぐさま再度剣握る両手にただならぬ力、ぐっと籠め、


「全ては我が使命のため!」


 絶叫一下、筋骨隆々たる二人組へ狼の如く飛び掛かる構え取り、

 ――むろんたとえ相手との体格差に、無視できぬほどの隔たりが厳然とあったとしても。


「来るか?!」

「返り討ちにしてやる!」


 そうして対する牛頭と馬頭がたちまち凄みある声張り上げるや、負けじと気合一閃、その瞳に凄まじき光宿していたのも必然のこと。


「コール!」

「さあ、さっさと片づけな!」


 さらには刹那、二人の女性もそれぞれの声、相棒(手下)へ力与えるように勢いよく、撃ち放っており。


 それは闘技場か、あるいは処刑場か。いずれにせよ止め処なく、辺り包む異様なまでの熱気はひたすら増し続け、

 凄絶と、

 熾烈と、


「ハアッ!」

「ウオオオ!」

「ウオウ!」


 ――お互いが裂帛の気迫、どこまでも充満していく中。


 かつての神々の御座、霊妙なる祈りの場を、罰当たりにもその舞台として。

 いささかの躊躇もなく。



「ム?」


 ……だが、それゆえだろう。

 まさにその時。

 熱心に前方見つめていたマステラ、そんな老婆がふいに自らの背後から誰かいるような奇妙な違和感、感じ取った、

 すなわちあたかも完全なる空隙突いたような、まさしくその一刹那――。


「よお、……ちょっと待ちな」


 漲る闘気裂いて突如として静かに、加えてしかと聞こえてきたその声は、


「――え?」

「だ、誰だ!」


 あっという間に戦い前にした皆の興奮、風の如くどこかへと消し去っていたのだった。


                  ◇


「あ、あんたは……」


 突然の声音に甚だしき驚愕示しつつも、刹那後ろ振り返ったマステラ。むろんそうしてこれでもかと大きく見開かれたその瞳には、今や一つの、いや二つの人影が映っていて。


「リロイ、何でこんな所に!」


 特にその内の一人、黒い外套纏った男の方は妙に皮肉げな笑み浮かべてこちらのこと、じっと、さらに逃しようもなく見つめていたのである。


「こりゃまたベスト・タイミングだったな。あと少しで大立ち回りが始まる所だったぜ」

「本当、危なかったなあ。そもそも、リロイ様が変なこと企むから」

「……ティコ、それはもういいだろ?」


 しかも隣に立つ金髪橙眼の可愛らしい少年と始めたやり取りは、案に相違して実に緊張感の無いものとしか思われず。


「何で」


 さすがのマステラも、余りの意外さに知らず呆然とした表情現わしている。


「何で? そりゃ他でもない、この無駄な喧嘩を仲裁しにきたのさ」

「仲裁? あんたが?」

「ああ、何と言っても、そこにいるのは俺にとっての客人なんだからな。それもかなり稀少な」


 ――何よりも相手が、そうさらなるとんでもないこと、続けて言ってきた以上は。そう、特にとりわけその一言が老婆いたく刺激してしまったのは、まず間違いなかったようで。


「客だろうが何だろうが、でも、あいつらはこの街のルールを破ったんだよ!」

「ああ、神聖魔法思いきり使って、死者どもざわつかせたんだろ? まあ、確かにやり過ぎだな」

「だったら、邪魔するんじゃない!」


 それゆえ途端、今度はロクスム・ハラの領主と歴史に名を残す大魔道士二人による舌戦が始まったのは至極当然の事態、むろん中でもマステラに至っては、そこにおいて俄然意地になったようにその声思いきり荒げてきたのだった。


「これは絶対に――」

「……まあ、俺としても本心ではあまり知らない奴らのこと、助けたくはないんだが。しかし、どうにも気になって仕方なかったんでね、それで結局はこうなった次第さ」


 もっとも魔道士の方は、その口調からするに一片たりとそれに対して怯む様子、見せなかったものの。


「まさに成り行き上」

「! それはつまり、まさか」

「ああ、その通り」

「あたしたちと、一戦交えるつもりじゃ――」


 つまりはその応えにあったように、彼にはこの件に関して一切譲歩するつもり、そもそも最初から皆無だったらしく。


「さすがに察しがいいな。そう、それが正解さ」


 ……何より、そこにはいかにも自信と勝ち気に溢れた表情、示されていたのだから。


「く……」


 途端、マステラに恐怖にも似た呻き、洩らさせていたほどに。

 先程までの余裕が、完全に嘘であったかの如く。



「だから、いくらあんたが相手でも」


 そしてゆえに、だろう。最後のとどめと言うべきか、次の瞬間リロイはすっと常にない感じで声音、落とすと、


「決して、その子らに手を出させるわけには」


 たちまちにしてその石板色の瞳が、寒気催すほどの危険な輝き、現わし始めていたのであり――。


                  ◇


 だが、まさに場がすこぶる危険な空気纏い始めた、その時だった。


「待って!」

「――え?」

「な、何だ?!」


 魔道士と老女が同時に分かりやすく驚愕示したように、


「リロイ、あなたに聞きたいことがあるの!」


 突如としてアリソンが、雰囲気満々だったそんな二人の話の腰を折って無理矢理踏みこんできたのである。


「て、おい」


 むろん特にそれ耳にしたリロイがどうにも惑乱したアクション起こさざるを得なかったのは、余りに必然的過ぎることで。


「せっかく助けてやるところだったのに、どうした?」

「そんなことより、まずはこっちが先よ!」

「へ?」


 すなわち、さらに続けて少女が声音強くすると、当然の如くその眼は真ん丸とさえなり。

 つまりはそれくらい、いまだ数エメル遠く離れた位置にいる彼女から放たれた言葉はあまりに予想外、というやつそのもの。


「あのキマイラは、一体何だったの?!」


 ――ゆえに次いでそうした問いかけが休みなく降りかかって来ても、魔道士にできたのは結局一瞬キョトンとした表情、送ることだけだったのだ。


「キマイラ? ああ、君たちに倒せと言った、あれか」

「そうよ。だからせっかく苦労して言う通りにしたのに、なぜか突然消えちゃったのよ! これじゃ髭を取ることなんて、出来っこないわ!」


 何よりほとんど激怒するがごとき、その凄い剣幕目撃してしまえば。名うての戦士でも、さっさと逃げ出すくらいの。


「……そうか、ちょっと忘れていた。悪かったな」

「え? 忘れて――?」

「いや、今はまた別の緊急事態だったこともあるし」


 それゆえ束の間の後ようやく返せた弁解する言葉にも、どこかバツの悪いもの隠しようがなく、


「うん。とにかく君たちを助けるのに、必死で」


 それはまるで、イタズラが見つかった悪ガキというべきか。


「何言っているの? 私たちはあなたに頼まれて……」

「だから本当にすまなかった。――あんな幻の相手、させてしまって」


 ……そうして続けてそんなこと告げつつ、リロイの面には知らず苦笑いにも似た色、浮かんでいたのだが。

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