15.
背後、つまりはまさに先ほどコールがとどめ刺したキマイラの、横たわっているはずの地点――。
「そ、そんな……」
だが、アリソンが刹那そこに見出したのは、
「何で、ないの?!」
あろうことか、何一つ目を引く物体の置かれていない、ただのまっさらな神殿の床でしかないのだった。
「ああ、確かについさっきまであったのに、気づいたら消えていた……」
しかもそれ認めたのはどうやら彼女だけではなく、相棒もまた全く同様だったようで、はたして彼は彼で半ば呆然とした表情露わとしている。
つまりはその視線の先には、死骸どころか流血の跡含め、やはり何も目立つもの見当たらず。
「や、やっぱりアンデッドだから、倒されると消滅しちゃうとか?」
「まあありえなくもないが、しかしそれが当てはまるのは多分ゴースト系のモンスターだけだな。つまりは実体の希薄な。だがこいつは明らかに、死んだ後とはいえ確かに肉体を持っていた。もちろん剣の手ごたえもちゃんとあったんだから。……だとすると、その線は大分弱くなる」
「でも、それだと説明が……」
ゆえに同時に煙に巻かれた感あった二人が、どうしたことかとすぐさま余りに謎めいた展開考察し始めたのは当然のこと。すなわち後ろに控えるマステラたち一旦尻目にして、その会話は俄然大いなる熱すら帯び始めたのだ。
「それに戦いだって現実にあったのよ! あれはどうなるの?」
「そうだな、まさか夢の仕業のはずもない。実際、あいつに刺した剣の感触はまだありありと覚えている」
「だったら、本当に突然消えちゃったってことじゃない!」
むろん、だからと言ってこの事態説明すること彼女たちには到底できそうもなかったのだが。
「もう、一体何が起きたっていうの? これじゃ、キマイラの髭の力でリロイを解放することも――」
そう、魔力操れる仮面の少女にとっても、さすがにこうなると完全にお手上げの事象、そのものであったらしく……。
「リロイ。――そうか、なるほど。あんたたち魔法を使ってあの男に関わる何かしようとしていたんだね?」
「!」
さらに加えて藪蛇というかその思わず零した言葉がすかさずマステラに逃れようのない鋭い問い、発させると、まさに事態は予断を許さないものと化していったのである。
◇
「……あ、いや、ええと」
「まったく、やはりただの面会希望者じゃなかったわけか。油断も隙もない」
「そんな……」
かくて途端黄色の眼光ありありと険しくさせた老婆。それはまさしく、獲物をしかと捉えた妖獣のそれというやつに他ならなかった。
「でももうここまで来たら誤魔化しなんて一切効かないよ、だから早く本当の目的を言いな。……そしてさっさと」
しかもマステラは護衛二人従えふいにアリソンたちの元へゆっくり近づき出すや、
「ここから出て行くんだ」
そんな容赦のない一言まで、凄み効かせ言い放っていたのだから。
「ま、待って、話をちゃんと聞いて!」
「だからそれは聞くって言っているだろ? どんな不届きなことを企んできたのか」
「これはとても重要なことなの! だから、まだ出て行く訳には――」
むろんでは従容とそれに従うかというと、しかし対して少女は決してそんな態度、見せようとはしない。
「今さら何言ってんだい。この街にとんでもない混乱もたらしたのは、あんたたちだろ!」
そう、いくら怒り増した相手がさらにその声音、荒げてきたとしても。
「待って、そもそも私たちにはまだここにいられる資格があるはずよ! ちゃんとハスパの護符は持っているんだから」
「でも、最初にはっきり言っただろ? 余計な騒ぎ少しでも起こしたら、即刻立ち去ってもらうって。この期に及んで聞いていないとは言わせないよっ」
「う、それは……」
……何よりそうしてついには売り言葉に買い言葉、二人の女による火花散るが如き激しいバトル、始まったのを見れば。むろんそこでは男たち――すなわちコールに牛頭と馬頭――が完全に蚊帳の外状態だったとはいえ。
「……」
はたしてそのどちらにとっても、舌戦盛んな余り今はただ傍で見守るしか術はなく。
「さあ、これでもう年貢の納め時だ。観念するんだね」
――そしていずれにせよ、対する小娘が意外やなかなか引く構え、見せなかったゆえだろう。かえってますますその闘志剥き出しにしてきた老婆は自らの攻撃に対して口ごもったアリソンを見てニヤリ、口許にふと強気な笑み浮かべるや、
「もちろんそれでもあくまで拒否するっていうなら、こっちだって本気の実力行使で行くよ!」
次にはとうとうそんな荒々しい一言まで、声音強く告げてきたのだった。




