14.
外の長い廊下へと続く、ポッカリと開いた出入口――。
言うまでもなくそこにいたのは灰色の長衣に床へついた撞木杖といういでたちした、ロクスム・ハラが領主マステラ、その人に他ならないのだった。
「それも、二人して物騒なもの持って」
しかも、明らかにアリソンたちへ向けるその表情、険しいものとして。
「あ、いや、これは……」
「しかし少々騒ぎが過ぎたようだね。まったく、えらく暴れてくれたもんだ」
「あの、これには色々と事情が」
むろんそうして元々険のある人物とはいえ、いきなりそう来られるとアリソンとしても途端あたふたと返すしかなかったのが現実だ。特に相手は当の老女一人だけでなく、その背後に護衛らしき二人――それぞれ牛と馬の頭持った、とにかく屈強極まる巨漢――威圧的に従えてさえいたので。
「く、遅かったか……!」
すなわち刹那、その出現によって隣にいたコールが最大限の警戒態勢、知らず示さざるを得なかったのはわざわざ言うまでもなく――。
「遅かった? 本当、何が目的なんだい、あんたたち」
「……」
「こんな死者の街の中で」
はたしてその様相に何か気になる点嗅ぎつけたか、マステラがたちまちその声音さらに鋭くするや、さすがの彼もつと身体硬直させざるを得なかったのである。
「……ふん、どうやら白状するつもりはないようだね」
そうして神殿の奥中にて、正面から対峙することとなった両者。もちろん牛頭と馬頭が棍棒がっしと構えていた通り、それが決して友好的なものでなかったのはあえて言うまでもなかろう。
(まずい、今は)
すなわち老女がそんな言葉放った刹那、アリソンは思わずその形容し難き迫力に、一歩ほど後ずさりさえしていたのだから。……そう、何といってもその焦眉の目的たる行為、今まさに勇んで成し遂げようとしていたがゆえ。
(キマイラの髭を取ろうとしていたこと、気づかれたら……)
――しかも厳然たる証拠背後にある以上、今さらながらそのこととても隠しようがなく。
(ひょっとして、リロイのことも)
それゆえつと湧き上がってきたのは、もはや途轍もないレベルの、激しい緊張感……。
「それなら、こっちにも考えがある。何せあろうことかこの街で神聖魔法使って、住人どもひどく怯えさせたんだ。何でそんな掟破りのことしたのか、しっかりと説明を」
「……だけど説明も何も、あなたにはもうその理由充分分かっていると思うけど」
「? ――あたしに、かい? そりゃ一体どういうことだい」
「だから、この現状見てみれば」
もちろんかくて問答の序盤から早くもパニック状態呈し始めた少女だったが、とはいえそんな相手にわざわざ遠慮示してくれるマステラのはずもない。いや、むしろその問いかけは一層強さ増していったくらいであり。
客人に対する気遣い、もはや一片たりとなく。
「現状って、だから何言ってんだい」
「私の後ろよ。そこを見れば」
「あんたの後ろ、だって?」
ゆえにもはやごまかしなど効かないとアリソンが指で自分の背後、アンデッド・キマイラの方確認するように仕向けると、老婆はそちらへ束の間ギョロリ目をやりつつ、――だが途端怒気でその表情鬼の如くにさせ、
「ふざけているのかい?!」
「え?」
そう、余りに突然のことで少女驚かせたように、合わせて手にした杖までこちらの方へ振り上げ、
「でも、そこには何もないじゃないか!」
……次にはあからさまな憤怒こめ、相手へ鉄槌の如く――ただしその中身はアリソンとコールにとって余りに予想外のものであったのだが――のたまっていたのだった。
「え?」
「何?」
……だが、当然ながらその一言は、二人をして大いに困惑させることとなる。
何しろ、その言に相違して自分たちの後ろにはむしろ目立って仕方ない物体――アンデッド・キマイラの亡骸が横たわっているのだ。それもいまだ戦闘の跡くっきりと残した。そう、ゆえに当然ながらいくら光乏しい薄闇の中とはいえ、マステラの眼にも確実にそれは入っていたはずで。
「何を言っているの? ここには、確かにキマイラの死体が……」
はたしてアリソンが戸惑いつつもそんな答え、返していたのは言うまでもない。
「キマイラ? はん、これまた訳の分からないこと言いだしたもんだ。でも、このあたしをたぶらかすなら、もっと上手い嘘用意するんだね」
「そんな、だからよく見れば」
「それともあんたたち、揃って頭がおかしくなったのかい? つまりそこには、キマイラどころか何一つ死体なんてものは見当たらないんだよ!」
――それでも老婆はそうした奇妙なことまで言い、なぜか納得する素振り、一切見せなかったとはいえ。
「! 見当たらないなんて。おかしいのは、あなたの方じゃないの?!」
それゆえたまらず、少女の方も返す声大きくしていたのは必然で。
つまりは相手の方が感覚おかしくなったか、あるいは虚言を弄している、そんな風に捉えてしまったらしく。
いずれにせよ、真実からは程遠いように。
「まったくしつこい、何度言ったら分かるんだ!」
「だって、一目見ればすぐ」
従って当然の如く、次にはその必死に反論する勢いのまま、バッと自らも背後振り返っていたのだが。
「そう、そこにあるじゃ……」
――しかし、かくてまさに件の死骸が置かれた場所見た、その刹那。
「え? う、嘘、何これ」
彼女はたちまち、そこにありえないはずの一つの光景を、我が目でしかと認めていたのだった。




