12.
途端、全体が白い光輝に包まれ出した長剣。その眩さは、むろん薄闇の中にあってはとりわけ目を奪うものとしか思われず。そう、何よりそれ手にした剣士――コールの表情が、見る間に溢れんばかりの自信で彩られたものとなっていったとすれば。
「グウウウ……」
――たちまちそれ見たキマイラが一瞬動きを止めながら、合わせて分かりやすく畏怖のうめき洩らしていたのも、まさしく必定のこと。
「よし、成功だ。これなら」
「コール!」
それゆえ魔法剣の完成後改めて正眼の構え取り直した青年は、
「いくら相手が不死者でも」
絶妙な間合いを取って、ついに恐るべき魔獣と正面から対峙し、
「恐れるに足りない!」
再び気合に満ちた一声、放っていたのだった。
「でも、油断だけはしないで! 特にブレスには気をつけないと」
「ああ、分かっている。だがこれまでの戦いで、あいつの攻撃パターンは大体読めてきた。だから心配ない」
「だけど、慎重さも大切よ!」
……もちろんそのすぐ傍では、アリソンがいかにも心配そうに見守っていたのだが。
いずれにしても対するキマイラの方もとにかくこの光何とかせねばと、今すぐにでも襲いかからん姿勢満々だった中。そう、三つの獣頭が俄然、ぐいと前の方へ押し出されてきて。
「! 来るぞ!」
刹那、何やら暗く禍々しいオーラ、全身に漂わせていたのだから。
「あ、毒のブレスが……」
「アリソン、君は後ろへ下がっていろ! 後方支援を頼む!」
むろん今すぐ、この昏い聖域侵してきた不届き者たち始末してやろうと。
まともに喰らえば苦しみぬいて死ぬのが必然の、死を呼ぶブレスの力が元に――。
「コール、気をつけてね!」
「任せてくれ!」
はたして青年のみならず少女までもが鋭敏と瞬間気づいた、その気配ともとして。
そう、それはあまりに、筆舌に尽くせぬほど毒々しく。
「俺なら、見切れるはず!」
だがそれでも、怯えだけは決して見せないように――その声音に最大の力こめ、そうして戦いの第二ラウンドの始まり告げるようにいよいよコールがつとその体躯全体に凄まじき気迫、漲らせたその時、
「グオオオオン!」
対してこれでもかと大きく開かれた、三頭の内一番左、竜頭の口。そしてその凶悪さますます増していった、赤く異様にぎらついた瞳、
――加えてそんな剣士に呼応するかの如く、キマイラの絶叫が辺りへ隙間なく轟き渡り、
人間の剣士と死せる魔獣、決して分かり合えぬ両者は朽ちた神像たちだけが物言わずじっと見守る中、勝負着けんと真正面からぶつかり合っていったのである。
◇
――いっぽう、その時。
そう、まさしくコールがアリソンの魔法掛けられた剣勢いよく振り上げた、その刹那。
ロクスム・ハラに住む全ての亡霊たちは、自らの受け取ったその得体が知れない力の急激な放射に、知らずただならぬ怖気を感じていた。
(何ダ、コレハ……、コノ身ヲ焦ガスヨウナ熱ハ)
すなわち、それはまさに何者かによる、恐るべき力持った攻撃としか考えられず。
(逃ゲ場ガナイ……)
それも、余りにそこから来る輝きが強すぎて、防ごうにもどこにも避ける場所など見当たらない、そんな類の。
(アア、恐ロシイ、恐ロシイ……)
そして何より、彼らにとって最も忌むべき力、そうとしか説明しようがない……。
聖なる光。
どこまでも追いかけて来る、実に眩い力動。
(ウウ、早ク、早クコノ光ヲ消シテクレ……)
――まるであろうことか生命力そのものが、全き発現示したような。
そして、それゆえに。
その強烈な光がまずもって街の北の方より到来してくるのは確実であり。
むろん一体誰が放っているのかは、彼らには全く知りようがなかったが。情けも容赦も一切なく、辺りの空気疾く浄化させつつ。
……何より一息に街を包む雰囲気が、一変したのを見れば明らかだったように。
(グアアア、熱イ、眩シイ!)
すなわち隙間なく充満し出した、……それは暗闇を祓う喜ばしき祈りの気配。
鋭い刃、あるいは破壊の槌、そのどちらにも比すべき、
とにかく亡者たちにとっては、ひたすらはた迷惑な――。
そう、いずれにせよそうして街はあちこちの暗がりから巻き起こった、苦しみと恐怖に満ちた声にならない叫びの数々によって、たちまち完全に覆い尽くされ。
(アア、光ヲ消セ! 光ヲ消セ!)
(闇ヲ! 影ヲ!)
(コノママデハ、身体ガ滅ビテシマウ!)
いつしかついに天にまで届くかとさえ思われたほど凄まじい呪詛たちが坩堝となった、まさにその時、――ロクスム・ハラを包む闇は、常にも増してただひたすら、深く厚くなっていったのだった。




