11.
「グオオオン!」
その場荒々しく震わせるほどの、威嚇に満ちた凄まじき咆哮。
目に映るは左から順に並んだ、竜、獅子、山羊の頭。
その翼持った体躯はまた余りに巨大で、まるで遥か古代使われていた戦車のよう。
そして何より、三対、計六個ある瞳がどれも全て恐ろしいほど獰猛な赤光放って、こちら鋭く睨みつけており――。
「く、こいつ……」
かくて廃神殿、その最奥部では、死せる魔獣と若者たちの烈しい戦いが今まさに繰り広げられていた。
「何てデカさなの!」
すなわちリロイの言った通り闇の中突然出現したアンデッド・キマイラの威容は、まさしく心より畏怖するに相応しきレベルのもの。それゆえ先程からもう何度かその死のブレスかいくぐりながら、アリソンたちがそれでもなかなか前へ強く踏み出せていなかったのは言うまでもないことだった。
「しかもこれじゃまったく刃が効かないぞ。すぐ傷が塞がってしまう」
そう、しかもコールが苦しげに言ったように、そんな中何とか剣で斬りつけても凄まじい治癒力で、その傷はすぐ跡形もなく回復してしまっていたのだから。
「どうしよう、だとすると何も勝てる方法がないじゃない!」
「待て、落ち着け。とにかくよく考えるんだ。そう、相手がアンデッドである以上、通常の物理攻撃が通じないのは当たり前なんだから」
「でも、今そんなこと言われても」
もちろんそうしていきなりの奇襲から劣勢に追い込まれた二人だが、しかし余りに大きな目的がある以上、参りましたとあっさり退散姿勢に入る訳にもいかず。
「魔法だ、魔法の力を何とか活かせ!」
それゆえコールなどは今や距離にして数エメル前に立ちはだかる巨体見上げながら、なおも気合ありげにそんな大声張り上げている。
「魔法? でもキマイラって一体何が効くの?」
「キマイラ、というより相手の属性はアンデッドだ。つまりは効果があるとすれば、それは――」
「! ひょっとして治癒系、かしら?」
そして、その言は確かに大きなヒントとなってアリソンに途端、何かハッとしたもの感じさせたようで。
「あいつに回復魔法を掛ける? でも、うまく当たるかな……」
……それと同時に、一つの疑問点浮かび上がらせつつも。
「いや、直接行くのはあまり良い方法じゃない。あの巨体でなかなか素早いからな、直撃は難しいだろう。……だから、一つ提案があるんだが」
「え、何?」
いずれにせよそうしてなおのこと半信半疑の表情隠せなかった少女に対し、しかし刹那黒衣の相棒は緊迫感の中冷静さしかと籠った声音で、一つのある提案をしてきたのだった。
「俺の剣に、君の魔法を掛けるんだ!」
はたして、その眼光今までになく鋭いものへとさせて。
「剣……それって、魔法剣のこと?」
「そうだ、まさしく」
「でもできるかな、やるの初めてなんだけど」
「初めてでも何でも、とにかくやってみるんだ!」
むろんその刹那、面までもが常にない熱のこもった激しさ帯びていたのは、あえて言うまでもなく――。
「今はこれしか、手段がない!」
そうして次の瞬間決心固めたらしきコールは仮面の少女に対して早く魔法を発動しろと催促するが如く、さっとその刃――実に見事な、銀の直刀――向けてきた。
「さあ、この剣に」
すなわちもうこれしか、キマイラに勝てる選択肢は残されていない。
さらにはリロイ・シュバルツシルトを連れ出す方法も、これ以外もはや何一つ考えられない、と。
もちろんその全ては、機械の巨人の復活、その究極目標達成するため――。
「アリソン!」
「う、うん!」
何より、そんな勢いで言われればアリソンとしても即座に了解の合図、送らなければならなかったのは当然の如くで、
……むろん思わずゴクリと一つ、唾を飲みこんだのは仕方なかったとはいえ。
それでもしかと、拒否することなく相棒の瞳見つめ返すと、
「そんなに言うなら、じゃあ、行くわよ!」
――はたして気合一閃、少女は次には早くも胸の前で大仰な印結び、すかさず神聖呪文の詠唱は開始されたのだった。




