第3章:第13話『五行の力』
「シュウちゃん、来たよ! 」
「あぁ。手荒なヤツだ…」
秀作が魔力で作り出した魔装顕現体、白童・黒童の二体にそれぞれ担がれながら移動していた秀作と紗代。その背後から突風のような鋭い音が聞こえ、置き去りにしたはずの誠奈人と莉央奈の姿が見えて来た。
「う、うおぉぉぉっ!! 」
「誠奈人くぅぅん! こわいぃぃ!! 」
「我慢、しろぉっっ!! 」
「そんなぁぁぁ!! 」
誠奈人は莉央奈を背負い、背中に回した両手で魔力の刀を握っている。その刀から風の魔導を放ち、風の力を借りて猛スピードで走っていた。走っているというよりは、跳んでいると言った方が近い。自身の魔力で作り出した刀に別の魔導を上乗せする纏魔の装は誠奈人の得意技だが、風の魔導を纏わせるのはつい先日試したばかりだった。二人分の重量を押し出す程の風量となると魔力の消費が激しく、そのコントロールも至難の業だ。さすがの誠奈人もそちらに意識の大部分を割かれていた。莉央奈を気遣う程の余裕は無かった。だが、その甲斐あって、もう少しで秀作達に追い付くところまで迫っていた。
「纏魔の装で風の魔導を…紗代、こちらもスピードを上げるぞ」
「オッケー。スリル大好きだから」
人型の鎧武者のようなシルエットの白童と黒童の脚から、ジェット噴射のように魔力が噴き出し、二体は一気に加速した。それに気付いた誠奈人も負けじと追いすがる。配置された瓦礫や岩などの障害物を避けながら、両者のデッドヒートが始まった。ゴールはまだ、見えてはこない。
「いやぁ、まさかおんなじ作戦だったとは! 」
美心は前方に立ち塞がる宮子と達巳に、苦笑いしながら話しかける。
「つまり私達はお互いに足止めの役割をきっちりこなさないといけない。先輩達の後を追わせる訳には、いかないから」
決意を口にした宮子が、美心と聡太を鋭く睨み、数枚の札を手に取る。
「やる気まんまんだ…達巳君も? 」
「はい。僕も、自分の役割を精一杯果たしますっ! 」
宮子の隣で、達巳も身構える。この中では最年少の中学二年生で小柄だが、その全身からは漲る魔力が溢れ出し、臨戦体勢に入っていた。
「よーし、こっちも行きましょうか聡太先輩」
「うん、頑張ろうね、みーこちゃん」
今にも戦いが始まろうという雰囲気の中、聡太はやさしく微笑んだ。いつもと変わらないその様子を見て、美心は安心した。どうやら何とかなりそうだと。
「神代さんは、お札を媒介にして一族相伝の五行魔導を使う。木・火・土・金・水の五属性を巧みに操る、汎用性の高い魔導だ。小宮君は僕らの中では最年少で体も小柄だけど、魔力総量と出量が高くてシンプルに魔導の威力が高い。基礎的な魔導弾や魔力の放出も強力な攻撃になる。どちらも強敵だよ」
「はいっ。でも、みーこの水流魔導と先輩の干渉魔導だってすごいですよ。負けません! 」
「ふふ、そうだね。息を合わせていこう」
「話終わったのなら、行かせてもらいます! 」
宮子が札に魔力を込めて、前方に構える。
「符術・流水穿! 」
札から圧縮された水が二筋の束となって発射された。美心と聡太をそれぞれ狙った水流を、二人は跳躍してかわす。
「みーこビームだ! パクリですよ、パクリ! 」
「知らないっ! 」
自分の得意技に似ているとクレームをつける美心を無視し、宮子は更に流水穿を連射する。
(常盤先輩の干渉魔導は、他者の魔導を強化・弱体化させる。そのためには自身の魔力を対象の魔導に接触させる必要がある。手数で攻めれば狙いを定めづらいはず)
宮子は聡太の魔導の特性を冷静に分析して対応策を講じていた。
(僕の魔導の事、分かってる攻め方だなぁ。秀作が解説したのかな。やりづらいな)
宮子の立ち回りから聡太もそれを察する。
「水の扱いなら、みーこの方が上なんですからね! 」
美心は宮子の流水穿が着弾してできた地面の水溜りに手を添える。瞬時に水が吸い上げられて美心の手の周りに集まった。
「お返しっ! 」
美心は手の水を無数の水飛沫に変え、宮子と達巳に向けて放った。水飛沫と言えども魔力を込められて威力が高まったそれは、さながら水の散弾銃だ。
「させませんっ! 」
達巳が指で美心の方を指し示すと、いつの間にか生成されていた達巳の頭上の光る球体から、無数の魔力弾が放たれた。美心が放った水の散弾は小君良い音を立てながら、全て迎撃される。
(あらかじめ体外に魔力の塊を形成しておく事で、そこから素早く魔力弾などの攻撃を放つ。体から直接放つよりもすぐに発射できるし、方向も自由自在。総量・出量の多い、小宮くんならではの技だね)
聡太も相手の出方を見つつ、その戦力を分析する。どちらも自分より年下とは言え第一線で活躍している魔導士だけあり、その能力の高さに改めて感嘆の念を覚えた。
「遠距離がダメなら、突っ込みますっ! 」
美心は足に魔力を集中させ、全速力で突撃する。
「速い…くっ! 」
宮子は引き続き流水穿を放つが、美心は紙一重でかわしていく。そして、宮子の懐まで飛び込む事に成功した。
「ええい、木縄縛! 」
先ほども見せた、木属性の拘束攻撃。札から無数の木の根が生えて美心と聡太へ向かって行く。混戦でとっさに放った先刻よりも多くの魔力を込めており、根は太く、そして進行する速度も上がっている。
「抑制! 」
聡太は根にむけて、魔力で作り出した淡い赤色の針をダーツのように投げ放った。それが刺った途端、木の根はみるみるうちに小さくなっていく。先ほどより多くの魔力が込められていたため多少形は保っていたが、痩せ細ったそれでは、人を拘束するほどの力を発揮する事はできなかった。
「みーこストレートッッ! 」
既に射程距離まで達した美心は、魔力を込めた右拳を真っ直ぐに振るう。しかし、宮子に届く前にその拳は弾かれた。達巳の放った魔力弾が美心の拳に正確に命中していた。
「やっぱり、させません! 」
「いっったぁい! 小宮君、覚えてろぉ! 」
「え、ご、ごめんなさい」
「符術・砂流波! 」
一瞬の隙を見逃さずに宮子は札を取り出して地面に触れた。札に込められた魔力が地面に伝わり、大量の砂を巻き上げる。人を一人丸ごと包み込める程の量だ。
「謝る事はないよ、達巳君。助けてくれてありがとう」
宮子は砂の群れを操り、美心に向けて差し向ける。それはうねりを上げて広がりながら、美心に迫り来る。
「うわぁ! こっち来ないでっ! 」
美心が飛び退いて距離を取ると、美心が立っていた場所に砂の群れが殺到した。水溜りのように地面に広がった後、ザザザと音を立てながら地面を這うようにして美心に迫る。
「このぅ! 」
美心は魔力で水を生成し、砂に向けて放った。砂の一部は水を吸収して動きが鈍くなったが、その部分を切り離して突き進んでくる。
「きゃあ! 」
もう少しで砂に捉われてしまうというところで、素早く接近した聡太が美心を抱えて救出した。地面を強く蹴って跳躍し、目下の宮子と達に魔力弾を連射する。頭上三メートル程の高さから、二人に向けて大量の光弾が弾幕のように降り注ぎ、砂煙を巻き上げた。
「聡太先輩っ! ありがとーございますっ! かっこいーー!」
聡太に抱えられて落下しながら、美心が歓喜の声を上げる。
「どういたしまして。神代さんは僕らの事よく対策してきたみたいだね。木や砂を使っているのも、みーこちゃんの水の魔導が効きづらいからだ」
地面に着地して美心をおろしながら、聡太は相手の手強さを語る。
「砂って以外と面倒なんですねぇ。それに木に水をあげても、栄養あげちゃう感じですよね」
「水生木…水は木に力を与える。五行における相生・相剋という概念の一部だね。五行魔導は属性による優劣や相乗効果を、他の魔導以上に受けやすい。魔導の形態や威力によっては、その限りではないけどね」
「なるほど。では、水を圧縮して発射する、みーこビームは相性良いかもしれませんね」
「そうだね。アレの威力なら突破できるかも。でも、油断はしないように行こう。どこまで対策が及んでいるかは分からないからね」
「了解です! 」
砂煙が晴れて宮子と達巳の姿が見えてきたため、二人は話を打ち切った。
「よし、行こう」
反撃開始と言わんばかりに、聡太と美心は駆け出した。




