第3章:第14話『それぞれのチーム戦』
「即席ッ! 二重衝撃双槌ッッ!! 」
大治の魔導により、両腕を包んだ土をセメントのように固められてしまった速水堅。しかしそんな事はお構いなしに、くっつけられた両腕をそのまま振り下ろし、大治に襲い掛かる。
「なんでもアリっすか! しかも名前長え! 」
先ほどは頭突きによる手痛い一撃を喰らったばかりの大治は防御はせずに回避に専念する。空を切った堅の両腕はそのまま地面に叩きつけられた。堅は打撃の瞬間に自身の魔力を爆発させ、打撃と合わせて二重の衝撃を与える。地面に激突した両腕から、金属のハンマーを思い切り叩き付けたような、凄まじい音が響く。そのあまりの衝撃に、堅の両腕を拘束していた土の拘束は、バラバラに砕け散った。
「こっっわ…」
自身の技が破られた事よりも、その威力に戦慄する大治。頭突きのトラウマもあり、背筋が凍る思いだ。
「痛かった? さっき」
苦笑いしながら、横にいる律華が大治に尋ねる。
「死ぬほど痛かったっす。頭蓋骨割れたかと」
「無事で何よりね…」
「律華先輩の治癒魔導もあったからっす。本当に、本当にありがとうございました」
「もうアレは喰らわないように、お互い気をつけましょ」
「先輩、腕が自由になったなら、わたしを助けてくださーい。」
地面から侵食した土でくるぶし辺りまでを包み込まれ、動きを封じられている前川愛美。ひと足先に拘束を解いた堅に助けを求める。
「させねえ! 」
大治はすかさず堅に向かって行き、律華は後方から支援の体勢。愛美を助ける隙を与えない心づもりだ。だが、堅は二人を見てニヤリと笑った。
「波及衝撃拳!! 」
堅は握りしめ、多量の魔力を込めた右拳を、思い切り地面に叩き付けた。地震でも起きたかのような衝撃が周囲に伝播し、地を伝った魔力の波動が大地と律華に襲い掛かる。地面に走った衝撃に足を取られた大治と律華はバランスを崩し、回避ができない。やむを得ず防御に専念する。一方で愛美の足元の土塊にも堅の魔力が伝わり、その拘束を破壊する。堅の行動を読んでいた愛美は、あらかじめ自身の身体を魔力でしっかりと守っていた。
「わーい、ありがとうございますー」
「くそ、あっという間に逃げられちまった」
「切り替えて行きましょう、大治」
律華と大治の前には、律華が魔力で作った障壁が展開されており、二人にダメージは無かった。
「さて、これ勿体無いし…よっ! 」
律華は自身が作った障壁に前蹴りを放つ。腰の入った綺麗な一撃に大治は密かに面食らっていたが…人を二人カバーできる程の面積があるその障壁は、堅と愛美に向かって飛んで行った。律華は本来防御に使う障壁を、魔力を帯びた質量兵器として利用した。飛来する障壁は厚さもガラス窓程度にあり、それを見て堅と愛美も戦慄した。
「オイオイ物騒だな! 」
「律華先輩、発想がちょっとこわいですねー」
二人はそれを左右に飛んでかわしたが、大治と律華が回り込む。堅には大治が、愛美には律華がそれぞれ格闘を仕掛けた。
「一対一か! よし、とことんやろーじゃねぇか!」
大治と堅の拳が交錯する。二人とも身体強化の魔導を得意としており、普段の研鑽から肉体そのものの強度も高い。魔導という言葉のイメージからは程遠い、壮絶な殴り合いが繰り広げられた。ドゴッ! バキッ! と、目を覆いたくなるような鈍い打撃音が何度も響き渡る。それでもお互いに大きなダメージは無く、肉弾戦は激しさを増していく。拳の次は蹴りが、その次は肘が、膝が、裏拳が、両者の間で飛び交う。先ほど手痛い一撃を喰らった大治は、正確に堅の攻撃に対応する。
「速見先輩、足止めっていう目的を忘れないでくださいねー」
「つれないわね。忘れさせてあげるわよ、何もかも」
律華の鋭い眼光が、堅を気にしていた愛美に冷たく突き刺さる。
「スイッチ入った律華先輩は怖いですー」
普段はマイペースな雰囲気を絶やさない愛美だが、律華の迫力に少々気圧されていた。自分のペースを取り戻すため、律華を引き離そうと技を放つ。
「魔力廻流・守勢」
愛美の周囲を複数の帯状の魔力が多い、正拳突きを放った律華の拳がそれに触れた。帯の表面を走る魔力が川のような流麗な流れでもって律華の攻撃を受け流す。拳をその流れに捕らわれた律華はバランスを崩し、魔力の流れの向かう先、大治の脇腹向かって背中から倒れ込んだ。丁度死角になっており、大治は避けられず二人とも転倒した。
「うわっ!? 」
「ご、ごめんなさい! 」
「仲良いなぁオイ! 喰らえっ! 」
その隙を見逃さず、堅が右拳にあらんばかりの魔力を込める。そして軽く跳躍し、二人に向けてその拳を振り下ろした。
「調子に乗って! 」
律華は倒れたまま両手を前に向ける。魔力によって淡い桜色の花弁が無数に作り出された。数十枚の花弁が密集し、宙に舞った。
「ちょ、律華先輩待って! 」
これから起こることを予期した大治が待ったをかけるが、律華は聞く耳を持たない。
「爆ぜろ、桜火の舞! 」
鮮やかな桜色の光が、辺りを包み込んだ。
一方、律華達が戦っていた場所から少し進んだ先では、聡太と美心の戦いが続いていた。
「必殺・みーこビィィィムッッ!! 」
ハート型に合わせて前に突き出した美心の両手から、水の束が発射される。魔力で作り出した水を圧縮し、高速で発射するそれは、まさにビームと呼ぶに相応しい速さと威力だった。神代宮子が魔力で作った砂の壁に、一撃で穴を穿った。
「水に特化している魔導だけあって、かなりの威力…侮れない」
「ふっふっふ。みーこの凄さ、わかってくれましたか? 神代先輩っ! 」
「まだまだ、これから」
「評価が厳しいですねぇ…うわっ!? 」
ふと下に目線を落とすと、美心の足元に複数の木の根が這い寄っていた。宮子が砂を隠れ蓑にして忍ばせていたものだ。美心の左の足首に絡みつき、その動きを拘束する。
「みーこちゃん! 」
聡太が声をかけが既に時遅し。木の根は力強く持ち上がり、複数の根が収束して一本の木のようになった。美心はその末端の根に持ち上げられ、釣られた魚のようにぶらぶらと宙吊りになっている。
「うあーーっ。聡太先輩、助けてぇー」
「ごめんなさい、そうは行きません! 」
宮子と共に立ちはだかっている小宮達巳が、謝りながらも聡太の前に立ち塞がる。頭上に形成された球体から、複数の魔力弾を発射した。それらは放物線を描きながら聡太に向けて迫る。達巳は連射を続けながら聡太を追い立てる。
「くっ…」
聡太は自身も魔力弾で迎撃するが、一発毎の威力は達巳が上回っており、押され気味だ。相殺しきれないと判断した聡太は連射を続けながら走りだす。やがて達巳に加えて宮子も聡太への攻撃を始める。聡太は更に劣勢に立たされたが、走る事を止めない。そして、膨大な魔力弾の発生源となっている達巳の頭上の球体に向けて、魔力で作り出した赤い針を放った。連射していた通常の魔力弾の中に紛れさせながら。
「抑制」
聡太の針が刺さった球体は、干渉魔導によってみるみる萎んでいく。赤い色は抑制の力を持つ証だ。聡太への攻撃と、その反撃に気を取られていた達巳は、それを受けてから聡太の策に気付いた。
「弾幕に紛れさせて抑制を…! 」
更に、美心を縛る木の根の先端にも、同じく赤い針が刺さっていた。宮子がその存在に気づいた時には、既に美心への拘束が緩んでいた。
(達巳君を狙うと見せかけて、本命はこちらか! )
拘束が緩んだ美心はそのまま落下したが、上手く受け身が取れずに地面に激突した。聡太も美心を受け止める余裕までは無かった。
「ぐぇっ! 」
蛙のような、しゃがれた美心の悲鳴が短く響いた。
「だ、大丈夫? 」
「この程度でへこたれません! 」
美心は立ち上がり、お返しとばかりにみーこビームを連射する。圧縮された水が達と宮子を襲い、水飛沫が舞う。二人も負けじと遠距離攻撃で応戦する。魔力弾や木・砂の魔導で迎撃し、更に聡太が干渉魔導で美心をサポートしながら戦う。大治や堅達の肉弾戦とは打って変わって、遠距離攻撃を主軸とした撃ち合いが繰り広げられる。両者一歩も譲らないまま、戦いは続く。
学生達が目指すゴール地点で、三木と高杉は彼らを待ち受けていた。
「副隊長達からの報告によれば、どちらも三チームに別れたようだ」
三木が手元のスマートフォンを見ながら高杉に告げる。卯月と佐久間が学生達からは身を隠しつつ、その様子を窺っており、逐一報告を入れていた。
「予想通りですな。二体二の戦いになったか。まぁ、いずれも我々の勝利に終わる事でしょう」
高杉は顎に手を当てる。顔色ひとつ変えず、自分の部下達の勝利を信じて疑わない。彼らへの信頼でもあり、自分が彼らに施してきた指導への自信でもある。しかし、相手方の三木からしたら、不遜な態度に映るのも無理はない。女性なのだからと時代錯誤な事を言うつもりはないが、もう少し慎みを持ったらどうかと三木は内心で辟易していた。
「勝負は最後まで分からないさ。特にうちの連中は粘り強いんでね。余裕こいていると、足元をすくわれかねないぞ」
「これは失敬。三木隊長の部下達を甘く見ているわけではありません」
「ほう、ではどういうわけかな? 」
「なに、私の部下達が優秀というだけの話です。私を信じて日々研鑽を積んでいる彼らを、私も信じているのです」
「ふ、君も意外と部下に甘いんだな。いや、子供にか? 」
「正当な評価を下しているだけです! 」
「そういう事にしておこう」
「三木隊長はどうなのですか? 」
「…おや! 誰か来たようだ! 」
三木が話をはぐらかすと、高杉は忌々しそうな表情になった。しかし、実際にこちらに向かってくる人影がいくつか見える。
「うちは誠奈人と莉央奈、そっちは神代君と吉原さんのようだ」
「成程、なかなか面白い対戦カードですな」
莉央奈を背負った誠奈人、秀作を背負った黒童、紗代を背負った白童が、猛スピードで駆けてくる。速度はほぼ互角だ。
「さて…どう転ぶか」
腕を組みながら、三木は薄く笑った。決着の時は近い。




