第3章:第11話『肉体派対決』
「律華先輩、なんか作戦ありますか? 」
「攻撃あるのみ、よ」
「違いないっすね」
「多少のダメージは私が治すから、ガンガン行きましょう」
律華と大治は簡素な作戦会議を終えると、眼前の前川愛美、速見堅の二人に歩み寄る。
「他の四人を、随分簡単に行かせてくれたのね」
「さすがに二対六じゃ勝ち目ありませんからー。でも、そっちとしても私たちに足止めされたくはないだろうから、二手に分かれると思ってましたよ」
愛美はトレードマークのツインテールを揺らしながら、先ほどコンクリートの壁を蹴り壊したとは思えない、朗らかな笑顔で律華の問いに答えた。
「さて、お互い急ぎたいだろ。さっさと始めようぜ」
堅が声を掛けると、空気が一気に張り詰める。それが戦いの始まりを告げていた。
「じゃあ、先手必勝。とうー」
またしても間の抜けた掛け声と共に、愛美は身を屈めて強く地を蹴る。その力の無い声とは裏腹に地面は抉れ、愛美は一瞬のうちに大治と律華の懐に飛び込んで来た。そして、左足を踏み締めて右足で高速の蹴りを何度も放つ。それは弾幕のように絶え間なく二人を襲う。愛美はしばらくして攻撃の手を休めると、にっこり笑いながら宣言した。
「うん…手応え、なし! 」
愛美の目の前にはボロボロに崩れ去った土くれが転がっている。土にまとわりついていた魔力が淡く光りながら大気中に霧散していくところが見えた。
「土の盾…私の必殺・百連キックのスピードについてくるなんて、やるねー大治」
「ほんとに百発も打ってるのかよ? 」
「うふふ、数えてみたらー。? しゅっしゅっ」
愛美はその場で蹴りの素振りをした。すると、大治の頬が僅かに切れ、血が滲んできた。一瞬遅れて背後にあった岩が、ガラガラと音を立てて崩れる音がした。
(足から魔力弾を…速いなオイ)
「油断してると、蹴り飛ばしちゃうぞ? 」
愛美がにやりと笑うと、その前方で何かがキラリと光った。愛美は気付いていなかったが、それを見抜いた堅が声を上げた。
「前川っ! 」
堅はとっさに自分の腕を愛美の前に出して庇う。次の瞬間に破裂音と共に衝撃が走った。
「愛美、あなたこそ油断してると…吹っ飛ばしちゃうわよ? 」
律華の周りには淡い桜色をした小さな魔力の塊がいくつか舞っている。花弁に似た形をしたそれは、さながら舞い散る桜のようだった。
「桜火の舞…確かに、ちょっと油断してましたー。速見先輩、すみません」
「どってことねぇ。だがこっからは気を引き締めてくぞ」
(一発だけとはいえノーダメージ。速見君は相変わらず頑丈ね)
魔力で作り出した花弁が相手に触れると、炸裂してダメージを与える桜火の舞。触れても炸裂せず相手に斬撃を見舞う花弁を忍ばせる桜火の舞・欺刃と共に、律華の主力となる魔導だ。それを受けても大してダメージの無い堅の様子を見て、律華は内心辟易する。
「んじゃ行くぞオラァ! 」
堅が拳を構えて大治に向かう。大治も同じように構えて迎え討つ態勢を取ったが、その両手には地面から抉り取った土が握られている。そして、連続で放たれた堅の両拳を自分の手を開いて受け止めた。堅の手と大治の手の間にある土がクッションとなり威力を殺す。更に、その土には大治の魔力が込められている。
「固まれっ! 」
堅の両手に付いた土がセメントのように固まった。更に両手の土が互いに繋がり、いつの間にか地面から伸びてきた土がそれを補完して、堅の両手をガチガチに固めてしまった。手錠をれたかの様に固定され、堅の拳は封じられた。
「おおっ!? 」
「自慢の拳がふさがったっすね。お得意の二重衝撃拳も封じられたでしょ」
大治は一気に勝負を決めようと、堅の顔面に向けて右ストレートを放つ。
「まだまだァァ! 」
すると、堅は頭を大きく後ろに引いて、大治の拳をかわした。
(見た目より身軽な人だな! )
目標を失った大治は一旦拳を引っ込め、すぐさま腹部に狙いを定めて二撃目を放とうとする。が、気付いた時には堅の頭が目の前まで迫っていた。
「しまっ…! 」
「二重衝撃頭突!! 」
強烈な堅の頭突きが大治の脳天に突き刺さった。さらに、堅が頭部に集中させた魔力が爆発する。二重の衝撃が大治を襲う。大きな衝撃音と共に大治は後方に吹っ飛ばされ、背中から地面に落ちた。
「だ、大治! くっ…」
驚いた表情をすぐに正しつつ、律華は大治に駆け寄って治癒魔導をかける。
「へっ、コイツを喰らったらしばらくは立ち上がれねーぜ」
「すっっごい音でしたね。こわー…」
律華は治癒魔導をかけつつ、考えを巡らせる。
(ここで結界魔導を使ったとしても、そもそもあの二人はこれ以上ここにいる理由がない。私が戦う意思を見せなければ、先に進むだけ。私は出来る限り二人の足止めをしなければならない)
「なんか、最近こんなのばっかね」
律華は至遠に誠奈人が刺された時の事を思い出しながら、苦笑いする。
「どうします? 降伏ですかー? 」
「まさか。もう勝った気でいるの? 」
「へっ。お前のそういう強気なところ、良いと思うぜ佐倉」
「ありがとう。褒めても何も出ないけどね。それに、大治に付けらたソレ、まだ取れないみたいね」
大治が倒れても、堅に付けられた土の拘束は解けていなかった。
(あれで速見君の動きは制限される。それだけでも十分ありがたいわ)
三者はしばらく睨み合い、そして最初に愛美が動いた。
「先手必勝、パートツーですー」
空中に飛び上がり、猛烈な勢いで飛び蹴りを放つ。魔力によって強化されたその一撃の威力は、側で崩れ落ちているコンクリートの壁が実証済みだ。
「結界魔導・魔力障壁」
地面から透明な魔力の壁が現れ、愛美の蹴りを防ぐ。攻撃を阻まれた愛美は地面に着地した。
「律華先輩の結界魔導…すごく頑丈ですね。さすがです。局地的に結界を張って盾代わりにする技術もお見事です」
「ありがとう。じゃあ次はどうするつもり? 」
「できれば正面から破りたいですねー」
「やってみなさい。無理だけど」
律華が手を振ると、魔力で生み出した無数の花弁が愛美に向かって飛来する。
「魔力廻流・守勢」
愛美の周囲に、着物の帯のように束になった魔力が現出する。それは川の流れのように、愛美の前方から後方へと波打つ。律華の花弁がその魔力の帯に触れると、流れに乗って後方へと受け流されていく。やがて花弁はコンクリートの壁に当たり、破裂音を立てて弾けた。
(自身の魔力の流れに相手の魔力を乗せて受け流す防御術。崩せない事はないけど、結構な魔力消費が必要ね)
律華は愛美の魔導を冷静に分析する。何度か見た事があるが、以前より更に洗練されている。
「こっちから攻撃する雰囲気だったのに。抜け目ないですね」
「あらそう? 勘違いじゃないしら」
「ふふん、だったら今度こそこっちの番。魔力廻流・攻勢」
愛美は再び帯状の魔力をその身に纏った。今度は頭から足元までを渦をまくように包み込む。それは速度を上げて、やがて竜巻のようにうねりを上げる。そして愛美は魔力で強化した身体能力でもって、助走をつけて前方に高く跳んだ。
「廻流崩脚ー」
律華に向けて愛美の周囲の渦巻く魔力がドリルのように回転し、その跳び蹴りの威力を飛躍的に高める。
「通さない! 」
律華は再び魔力の壁を作り出した。愛美の必殺の一撃に対応するため、今度は更に多くの魔力を注いだ。律華の技術もあり、無駄なく固まった魔力の塊が愛美の攻撃を阻む。強烈な跳び蹴りと渦巻く魔力が魔力の壁に激突し、ガガガ! と、激しい音を立てる。やがて勢いを殺された愛美は、壁を蹴って空中から地面に着地する。残された壁には、蹴りが当たった点を中心として亀裂が走っていた。
「すごい威力…背筋が凍るわ」
「こちらこそ。ぶち破れると思ったんだけどな。今度はもっと力込めますねー」
「そんな余裕を見せていていいのかしら? 」
「えっ? 」
律華の言葉の意味が理解できずにいた愛美だったが、足元に何か違和感があり、下を向いた。すると、地面が盛り上がり、隆起した土が愛美の足を包み込んで拘束していた。くるぶしの辺りまでが埋まってしまっており、身動きが取れない。
「これは…大治の」
「いってぇ…さっきのはマジでやばかったすよ」
大治が頭をさすりながらゆっくり起き上がり、呟いた。
「なっ…お前、もう動けんのか! 」
自分の頭突きの威力をよく分かっている堅は、ダメージがあるとはいえ、立ち上がった大治の様子を見て驚いた。
「律華先輩の治癒魔導はすごいんすよ。あとは俺の体が思ってたより丈夫だったって事っすね。とっさに魔力でのガードも間に合ったし」
「あの一瞬でか。大した反射神経じゃねぇか」
「ありがとうございます。さて、二人とも拘束されちゃいましたけど、どうします? 」
「別に、お前もこんなんで自分が勝ったとは思ってねぇだろ? まだまだこれからだ」
「右に同意ですー」
堅も愛美も、まだまだ闘志は折れていない。
「いいわね。じゃあ、続けましょうか」
「うっす。お返しもしないといけないっすから」
律華と大治も二人に同意し、戦いは続く。




