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学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第3章 学生魔導隊合同演習

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第3章:第10話『チーム対抗戦』

 翌日の朝、寝ぼけ眼を擦りながらジャージ姿で合宿所の外に出た誠奈人。朝日を浴びながら体を目一杯伸ばす。ぐぐぐ…と腕に、ふくらはぎに、足の爪先に、順番に力が入り、日光と合わさって心地よい感覚が全身に駆け巡る。


「…ふぅ」


「お、おはよ、誠奈人くん」


 白い長袖のルームウェアに紺色のカーディガンを羽織った莉央奈が後ろからやって来た。少し声がどもっているのが気になったが、寝起きだからかと誠奈人は大して気に留めなかった。


「あぁ、おはよう。眠れたか? 」


「うん、女の子同士で色々お話したけどね。その後はよく寝れたよ」


「そいつは良かった。何を話したんだ? 」


「そ、それは秘密だよ! 女の子の秘密のお話を詮索するなんて、よくないなぁ誠奈人くん! 」


「そういうものか」


「男子こそ、何を話したの? 」


「詮索はよくないな、莉央奈くん」


「うぎぎ…」


 昨日の恋バナを隠すための方便だったとはいえ、意趣返しをされて呻く莉央奈。それを見て誠奈人は声を押しころすようにして、くつくつと笑った。


「誠奈人くん、わたしで遊んでるな? 」


「おもしろいからな」


「おもしろいなら、よし! 」


「なんでちょっと上から目線なんだ」


 強めの風が吹き、二人の髪がなびく。鳥の囀りが聞こえ、いつもの学生寮での朝とは少し違った雰囲気を感じさせた。


「昨日、神代(かみしろ)さん…龍馬(りょうま)さんの方ね。急ぎたい時こそ慌てちゃいけないって言ってたでしょ? 」


「あぁ。耳が痛かったな」


「あの言葉、わたしにも結構響いたんだ。みんなの足を引っ張らないように早く強くならなきゃって思ってたんだけど…」


「焦ってた、か」


「うん。自分では分かってなかったけどね。誰かに言われて気付ける事も、あるよね」


「そうだな。俺もそうだった。焦った挙句、目標から遠のいてたら世話無いな」


「えへへ。誰しもそういうのあるだろうけどね。急いでる時ほど慌てちゃうもんだよ。それをちゃんと制御するのも、心の強さなのかな」


「魔導士にとって大切な物だ」


「強い心が魔導の力を高める。あの時わたしも経験してる事だから、すごく分かる」


 莉央奈は至遠に傷付けられた誠奈人と律華を、治癒魔導で治した時の事を思い出す。


「目に見えない物をコントロールするってのは苦労するな。精神修行をやり直した方がいいかもしれん」


「坐禅でもやってみる? 」


「動いたら律華(りっか)にひっぱたかれる。一緒にやるか」


「あはは。いいね、真剣にやれそう」


 けらけら笑う莉央奈を見ながら、誠奈人も優しく微笑む。


「お互い、頑張ろう」


「うん、がんばろう! 」


 朝は朝食の後、両部隊交えてのミーティングや、事件に対する意見の交換等を行なった。その後、学生達は授業のため合宿所から校舎へと向かって行った。




 放課後になると、再び合宿所へと向かう。道すがら、第一学生魔導隊の面々は自然と合流して歩いていた。


「今日は皆で一緒に何かやるみたいですね」


 美心(みこ)が首をかしげながら話す。


「一体何でしょう。また模擬戦てことはないですよね」


「多分、何かの作戦行動じゃないかな。一対一で戦わせるような事はしないと思うよ」


 聡太(そうた)が冷静に分析すると、律華(りっか)がその後に続く。


「そうね。折角二つの部隊が揃ってるんだし。でも、もしかしたら隊長達と直接戦うような機会もあるのかしら」


「そいつは腕がなるっすねぇ。俺、三木(みき)隊長とやった事ないんすよね。強いってのは知ってるけど。誠奈人先輩はどうです? 」


 意気込む大治(だいち)が誠奈人に話を振る。


「俺も随分とご無沙汰だな。昔稽古をつけてもらった時は手も足も出なかったけど、今はどうかな」


「いつも司令官として立ち回ってるから、体が鈍ってる可能性はあるかもしれんすね」


「ま、やるからには勝ちに行くか」


 話しているうちに合宿所へと到着した。各々運動用の服に着替えて外に出ると、隊長と副隊長の面々も今日は動きやすい服装になっていた。隊長である三木と高杉(たかすぎ)は共にアスリートが着るようなスポーツウェアを身に纏って腕を組み、威圧感のある雰囲気を醸し出している。副隊長である卯月(うづき)はふわふわしたミディアムヘアを後ろで縛り、半袖半ズボンのトレーニングウェアを着ているが、相変わらず優しそうな雰囲気が消えない。同じく副隊長の佐久間(さくま)は長袖と長ズボンのジャージに身を包み、相変わらずおどおどした様子。


「今日は演習場で、作戦行動の演習を行う。それぞれの部隊で競い合う形を取る。お互いに離れた場所からスタートし、演習場の奥に立てた旗に誰か一人でも触る事ができたら、そちらの部隊の勝ちだ。与える情報は旗の大まかな位置のみ。お互いのスタート地点も伏せておくが、どちらも旗までの距離は等しくなっている」


「相手チームの妨害もありという事ですか」


 聡太が三木に質問をする。


「その通りだ。基本的にはどんなやり方でも構わない。君たちを信用して、各々の判断に任せよう。無論、使って良いのは魔導と己の体だけだ」


 説明もそこそこに、一同は演習場に移動した。サッカー場のように長方形の形をしており、その中にはコンクリートの壁や大きな岩などの遮蔽物も多く置かれていて、真っ直ぐ先に進む事は出来ない。全体を見通す事はできないが、一般的なサッカー場と比べて一回り以上広く感じられる。


「障害物もたくさんあるんだね。先に進むだけでも大変そう」


 莉央奈が辺りを見回しながら先の事をイメージしていると、誠奈人から解説が入る。


「演習場内の障害物のほとんどは魔導で作られた物だ。大治の土を操る魔導みたいにな。だから破壊ながら進んでも構わないが、相手に居場所を知らせる事になるから、デメリットの方が大きいな」


「そうだね、とりあえずは正攻法で行こうか。攻撃力とスピードのある誠奈人君と大治君が前衛、結界と治癒魔導が強い律華ちゃんと莉央奈ちゃんが後衛、僕とみーこちゃんが真ん中で各方面を支援、でどうかな」


「異論無いです」


 聡太の意見に誠奈人が答えると共に全員が頷く。


「司令塔がいると、やっぱり締まりますねぇ」


 美心がにこにこしながら聡太の脇腹を肘でつつく。


「はいはい、ありがとう。折角の競争だし、負けないように気合い入れてこうか」


 程なくして上空におそらくは三木が放ったであろう魔力弾が撃ち上がり、大きな音を立てて爆ぜた。


「開始の合図だ。行こう! 」


 聡太の号令を受けて、第一学生魔導隊は進軍を開始した。周りを警戒しつつ、目標地点に向けて足早に進んで行く。


「そういえば、隊長同士がなんか張り合ってたよな。自分達の部隊の方が優秀だって」


 誠奈人が不意に思い出して、周りに確認する。


「そういえばそんな事言ってたわね。第二の皆はそんな雰囲気出してなかったから、すっかり忘れてたけど」


 律華は誠奈人に言われるまではその事が頭から抜けていた。第二学生魔導隊の面々ともここまで比較的良好な関係だったので、争うような場面も無かった。


「…これは皆に伝えようかちょっと悩んだんだけどね、もし今日ウチが勝ったら、三木隊長がなんでも好きな物をご馳走様してくれるそうだよ」


「なんでも? 今なんでもって言いましたか? どんなに高級な食べ物でもですか? 」


 瞬時に美心が食い付く。三木の目論見通りである。


「なんでもって言ってたよ」


「なるほど…負けられないっすね」


 美心に続いて大治も目の色が変わる。


「穏便にね? ご褒美があるからと言っても」


「やり過ぎないように気を付けます」


 言葉とは裏腹に、誠奈人も目付きが鋭くなる。


「律華ちゃん。何が食べたい? 」


「折角だから、普段食べられないような物がいいわよね」


 莉央奈と律華も盛り上がり始めた。三木の立案は食べ盛りの学生にとっては効果覿面だった。


「不安になってきた…」


 一方で聡太は両部隊の争いが激しいものにならないか、一抹の不安を感じていた。


「向こうの部隊とはどれくらい離れてるんだろうか」


 警戒を続けているが未だ接触する気配は無く、誠奈人がぽつりと呟く。


「そんなに離れてはいないだろうね。いつぶつかっても良いように、警戒しながら行こう」


 それからほんの数秒後の事だった。ドゴッ! という大きな破壊音が響き、一同は身を強張らせる。その音は少しの間を置きつつ、何度も聞こえてくる。


「なんか、近づいてきてる…? 」


 莉央奈が恐る恐る呟くと…。


「おりゃー」


 間の抜けた掛け声と共に、一同の左脇に聳え立っていた、高さ二メートル程のコンクリートの壁がぶち抜かれ、前川(まえかわ)愛美(まなみ)が現れた。足を突き出すような形で登場した事から、蹴りでこの壁を破壊したらしい事が莉央奈にも予想できた。


「あ、見つけましたよー。やっぱりこっちだった」


「なんで分かったんだ? 」


「ふふ、乙女の勘…ですよ。神楽先輩」


「手当たり次第にぶち壊してただけだろ」


「大治、ちょっと黙ってなー? 」


 事実を言い当てた大治に笑顔で脅しをかける愛美。


「前川ァ! 待てっつってんだろ…って、当たりかよ! 」


 必死の形相で愛美を追いかけていた堅も、遅れてやって来た。


「な、なんか…普通逆じゃないのかな? あの二人」


「速見君も、頭より体が動く方が早いタイプではあるけど、愛美には敵わないわね」


 律華の説明に莉央奈は戦慄する。誠奈人に対する態度から、積極的なタイプとは思っていたが、想像以上だった。


「良い機会だ、神楽ぁ! 俺と戦え! 」


「いやだね。お前の役目は足止めだろ。主戦力の俺がそれに引っ掛かってたら、そっちの思う壺だろ」


「ぬ…やるな神楽! 」


「素直だなぁ」


 莉央奈は素直な堅の様子に拍子抜けする。


「じゃあ俺と続きをやりましょうか、速見先輩」


 拳をバシッと叩きながら、大治が一歩前に出る。


「ほう…いいだろう。かかってこいやぁ! 」


「じゃあ私も残ります。あの二人相手なら、格闘術に秀でている人の方がいいわ」


 律華が大治の隣に立つと、他の面々は一様に頷く。


「律華ちゃん、気を付けてね」


「えぇ。莉央奈、あなたの治癒魔導と結界魔導で、皆を守ってあげてね」


「…うん! 任せて! 」


 律華の激励を受けて、莉央奈は己を鼓舞する。二人を置いて誠奈人、莉央奈、聡太、美心の四人は先へ向かって駆け出した。

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