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学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第3章 学生魔導隊合同演習

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第3章:第7話『最強の魔導士』

 少し離れた所で学生達の模擬戦を眺めていたその男は自分を見ていた誠奈人(まなと)の目線に気付き、誠奈人と莉央奈(りおな)の目の前までやって来た。


「やぁ、神楽(かぐら)。久しぶりだね」


(この人が神代(かみしろ)龍馬(たつま)さん…協会で一番強い魔導士)


 身長は誠奈人よりもやや大きく、一八〇センチは超えていると推察される。紺色のスラックスに簡素なジャケットを着込んだ肉体はがっしりとしていて、よく鍛えている事が分かった。一方で最強という肩書とは相反するように、穏やかな笑みを浮かべている。短く切りそろえた前髪の下から覗いているのは精悍な顔付きだが、笑顔のためかどこか親しみやすさを覚える。


神代(かみしろ)さん。ご無沙汰してます」


 誠奈人は丁寧に頭を下げ、莉央奈もそれに続く。


「急にお邪魔して悪かったね。学園に用があって、ついでに寄ったんだ。宮子(みやこ)から合同演習の話は聞いていたから」


「相変わらず忙しそうですね」


「最近はどうしてもね。三木隊長も大変そうだけど」


「あの人はなんだかんだ、お人よしなので」


「間違いないね。ははは」


 誠奈人と龍馬が世間話をしていると、龍馬の妹である宮子が気付いて話しかけて来た。


「兄さん、来ていたんですね」


「うん。せっかくだから見て行こうかと。宮子の事も気になったから」


「ありがとうございます。でも、忙しいんですから無理はなさらないでくださいね」


「俺なら大丈夫だよ。心配してくれるのは嬉しいけどね」


 快活な笑顔を見せる龍馬。


(会長の息子で最強の魔導士って聞いてたから、すごく怖い人かと思ってたけど…優しそうな人だなぁ。体格は良いけど)


 莉央奈は魔導隊に入隊する際に、龍馬と宮子の父である神代(かみしろ)龍文(たつふみ)会長と直接会話している。会長が厳格な人物だった事もあり、龍馬に対しても密かに同じようなイメージを持っていた。


神代(かみしろ)さん…無礼を承知でお願いさせてください。俺に稽古をつけてくれませんか」


「えっ!?」


 横にいた宮子が、驚いて声を上げる。


「言うと思ったよ。(かい)から話は聞いてる。強くなりたいんだよね? 」


「藤堂さんから…そうでしたか。実は恥ずかしながら、力不足を実感していまして」


 誠奈人は旧友の久住(くずみ)至遠(しおん)と刃を交えて以来、強さへの渇望を抱いていた。


「…どうして力が欲しいんだい? 」


「大切なものを守るために…負けないために。今の俺では、それができないから」


 誠奈人は龍馬をまっすぐに見据えて答えた。その目に強い意志が宿っている事を、龍馬は感じ取っていた。


「…昔の自分を見ているみたいだよ」


「えっ? 」


 意外な言葉に、誠奈人は面を食らった。


「いや、わかった。お相手しよう。少しでも君の助けになるといいんだが」


「ありがとうございます! 」


 誠奈人は深く頭を下げる。龍馬が三木の方を見ると、三木もすでに龍馬の存在に気付いていた。龍馬は笑顔を向けてアイコンタクトを送ると、おおよその事情を察した三木は首を縦に振った。




 誠奈人と龍馬が静かに向き合う。


「ジャケット、脱がなくていいんですか」


「それは君次第だよ」


「意外と人を喰ったようなところがあるんですね? 」


 誠奈人はからかうように、ニヤリと笑みを浮かべる。


「とんでもない。本気を出して欲しいんだよ、君に。目の前のスカした奴をぶっ飛ばしてやるって感じにね」


「ご期待に添えるように、頑張ります」


 誠奈人は一度目を瞑った。数秒の後目を開けると、その双眸は刺すように鋭い視線を龍馬に向けていた。次の瞬間、龍馬の視界から誠奈人が一瞬にして消える。


「…右! 」


 その動きを捉えていた龍馬は、超スピードで自身の視界の外に走っていた誠奈人の方へ向き直り、左手を前に構える。


過重力(ハイパーグラヴィティ)


 龍馬の前方の空間に、暗い紫色の光が走る。四方、三メートル程の空間がそれに包まれ、減速や方向転換をする間もなく誠奈人はそこに足を踏み入れる。すると、ギシッ! という何かが軋むような音と共に、誠奈人の体が地面に吸い寄せられる。


「ぐっ…!? 」


 自身の体重が何倍にも感じられる。思わず片膝をつくが、龍馬から目は離さない。


(神代さんの重力魔導…! とんでもない威力だっっ)


 神代龍馬は、重力を操るという途方もない力を行使する。誠奈人が足を踏み入れた空間にかかる重力を強化し、その動きを止めていた。


(この程度で立ち止まってちゃ、この人とは戦うことすらできない…! )


 誠奈人は龍馬から隠すように右手を後ろにやり、その掌に魔力を集中させた。そして、巨大な魔力弾を地面に向けて勢いよく発射した。魔力の放出音と地面の抉れる音が混ざり、砂埃が舞う。誠奈人は発射の勢いも借りて、目論見通り過重力空間から脱出した。魔力弾を斜め下に撃ったため、誠奈人の体は前方に飛んで行く。そのまま龍馬の頭上をとり、両手で握った魔力の刀を振り下ろす。


「あそこから出るとは。やるね」


 言葉と裏腹に龍馬は余裕を崩さずに左手を上げる。手の甲で刀を払うように、その左手を軽く振った。すると、誠奈人の刀は強い力で弾かれたかのように横へ逸れる。それを握っていた誠奈人の体も、つられて横に吹っ飛んでいった。


「な…に…!? 」


「上下だけじゃない。僕の重力はどんな向きにも発生させる事ができる」


(刀が当たる瞬間に横向きの重力を発生させて、横に『落とした』のか! )


 誠奈人は空中で体勢を立て直し、着地する。


(重力を操るなんて高度な魔導を、あの一瞬で、あの狭い範囲にだけ的確に行使する…緻密な魔力のコントロールが無いとできない芸当だ)


 確かに重力を操る魔導は強力無比だが、神代龍馬を最強たらしめているのは、それだけではない。膨大な魔力量、魔力出量、そしてそれらを最大限に活用する精密なコントロール技術や体術。あらゆる能力が超一級品だ。


「だったら…! 」


 誠奈人は下に構えていた刀を振り上げた。途中で手から離れた刀は、回転しながら龍馬へ飛んで行く。龍馬はそれを横に動いて難なくかわすが、誠奈人は刀を盾にして接近していた。拳が届く距離まで龍馬に近づく事に成功し、徒手空拳を繰り出す。拳、蹴り、手刀、肘、あらゆる格闘技を用いて龍馬に肉薄する。対する龍馬もそれを真っ向からばいていく。


「体術も高水準だ。鍛錬しているのがわかるよ」


「どうも! 」


(この人…体術も化物かよ。涼しい顔をしてくれる! )


 誠奈人は並の魔導士なら体術と基礎的な魔力操作だけで圧倒できる程の実力がある。魔導は強力でも、それ以外が疎かになっている魔導士は多く、体術は誠奈人にとっての強みでもあった。しかし、それは龍馬にとっても同じだった。


「くっ…あんたは、弱点とかないんですか? 」


「それを見つけるのも実力のうちだよ。あるか分からないけどね」


 激しい格闘戦が続いているが、苦い表情の誠奈人と顔色一つ変えない龍馬。明暗ははっきりと分かれていた。


「刀を囮にして接近戦に持ち込む…この距離でさっきの重力魔導を使えば、俺自身も巻き込まれるからね。その狙いは悪く無いよ」


「涼しい顔して言われても説得力無いですね! 」


「まだこんなもんじゃないだろ? 涼しい顔に一発ぶち込んでごらんよ」


「言われなくても! 」


 誠奈人は拳を振り上げて、渾身の右ストレートを放つ。龍馬はそれを手で受け止めようとしたが、寸前で誠奈人の拳が横を向き、その手の中に魔力の刀が現れた。誠奈人の手元から徐々に形成されていき、伸びるようにして龍馬を襲う。それを見た龍馬は目を見開きながらも笑顔になる。ガキィン! と鈍い音が辺りに響き渡った。


「ち…! 」


 誠奈人の刀は、龍馬の左手に握られた短刀によって防がれた。ナイフ程度の長さの、魔力で作られた刃。


「コレはそんなに使わないんだけどな…引き出させた君がすごいってところかな」


 龍馬は抑えていた刀を打ち払い、左手を上げて誠奈人に短刀を向ける。そして、余裕たっぷりの笑顔で誠奈人に告げた。


「さて、第二ラウンドかな? 」


「勿論」


 誠奈人と龍馬は向かい合い、互いの出方をうかがう。特に誠奈人は次の一手を考えあぐねていた。ここまでのやり取りでは自分の攻撃を悉く防がれている。まだ試していない手段も、この男に通用するところがイメージできなかった。


「来ないなら…今度はこっちから行こうかな」


 龍馬は魔力で強化された超人的な脚力でもって、五メートルはあった誠奈人との距離を、一歩で詰めた。ワープしたかのように目の前に現れた龍馬に対して、誠奈人は冷静に刀を振るう。


(もう何が来たって驚きはしない! )


 誠奈人の直刀と龍馬の短刀。どちらも流麗な剣捌きで、一進一退の攻防を演じる。互いの刃が交錯し、金属音に似た衝突音の旋律が場を支配する。誠奈人は隙を見て殴打や蹴りを放つが、その全てが的確に防がれる。


(正攻法は通じない…もっと違う手を使わなくては! )


 誠奈人が次の攻め手を考え終わらぬ内に、龍馬が先に仕掛けた。足で地面を軽く蹴った、ように見えたが、その体は誠奈人の手の届かない高さまで瞬時に上昇した。


(自分に掛かる重力を操作して…! )


 龍馬は左の掌を眼下の誠奈人に向けたが、誠奈人はそれより速く刀の切先を龍馬に向けた。


纏伸刀(てんしんとう)! 」


 刀を覆う魔力が光の刃となり、龍馬へ向かって伸びて行く。ひらりと身をかわしてそれを避けた龍馬だったが、誠奈人への攻撃は中断された。誠奈人は続け様に刀を握っていない左手で拳程の大きさの魔力弾を連射した。


「器用だね! 頭の回転も速い」


 空中の龍馬は真横にスライドするかのような動きで魔力弾を避けていく。自身への重力を自在に操作し、空を自由に滑っていた。


「さぁ、次はどうする? 」


「こうする…!」


 真っ直ぐ伸びたままだった魔力の刃が突然動き出し、蛇のように身をくねらせながら龍馬に襲い掛かった。


「纏伸刀―蛇咬追(じゃこうつい)! 」


「これは…! 」


 龍馬は空を舞いながら距離を取るが、誠奈人の刃は曲がり、伸び、執拗に龍馬を追撃する。獲物を狙う蛇のように牙を剥く。


「ふふ…では、逆に距離を詰められたらどうかな! 」


 龍馬は進路を変え、上空から誠奈人に向かって真っ直ぐ向かって行く。


(ただでさえ魔力の出量はあっちが上だ。そこから重力による加速が加われば、俺には受けきれない! )


 龍馬を待ち受けながら、誠奈人は冷静に分析する。だが、それでも誠奈人は逃げなかった。纏伸刀を解除して通常の長さに戻った直刀を右手に握り、刀身を左腰の辺りに収めた。


「鞘は無いけど、居合の構えかな? 面白い! 」


 龍馬は誠奈人と同じ土俵でぶつかる為に魔力の短刀を再度構える。地上の誠奈人と空中の龍馬。両者の距離がぐんぐん縮まって行き…やがて、互いの刃が交錯した。

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