第3章:第5話「合同演習開始』
あっという間に二週間が過ぎ、第一学生魔導隊と第二学生魔導隊の合同演習の日がやって来た。朝から通常通り授業を受け、放課後に学園の敷地内にある合宿所に集合する手筈となっている。まだ朝の登校時間だが、寮から学校へ歩いている途中、莉央奈はそわそわと落ち着かない様子でいた。隣を歩く律華が苦笑いしながら声を掛ける。
「莉央奈、いよいよね。緊張してる? 」
「ぜ、全然大丈夫! 練習したことを出し切るだけだよっ」
「演習だから、これも練習と言えるけどな。だからそんなにガチガチにならなくてもいい」
誠奈人も自分なりに気を遣って、莉央奈を落ち着かせようと声を掛けてみる。
「わ、わわわかってるよっ」
「ダメだなこれは…」
「意外と緊張しいなのね」
「周りがみんなすごい人達ばかりなんだろうなって考えたら、変な事できないって思っちゃって」
「皆同じ学生だ。それに俺達もついてるんだから心配するな。チームだろ? 」
「う、うん! ありがとう、二人とも。がんばゆよっ! 」
「噛んでるわよ」
「これは重症だな…」
しばらくはこんな状態が続いていたが、莉央奈は放課後にかけて少しずつ落ち着きを取り戻していった。誠奈人達は一抹の不安を覚えながらも、放課後を迎えた。
東京魔導学園の敷地の片隅にある合宿所。寝室や厨房、シャワールーム等が一通り揃っており、数日間の宿泊なら全く問題は無い。学生達は正面の入口近くにあるミーティングルームに集合していた。各部隊の隊長と副隊長が前に立っており、代表して第一学生魔導隊の隊長である三木が挨拶した。
「既に聞いていると思うが、今日から二泊三日で第一と第二での合同演習を行う。授業終わりで大変なところではあるが、折角の機会だ。有意義なものとして欲しい。」
三木が学生達の顔を見回すが、いずれも引き締まった表情をしている。会議の際は浮かれている様子だった美心も真剣な眼差しで、三木は少し安心した。
「まずは新顔もいるだろうから、互いに自己紹介の時間としようか。私は第一学生魔導隊の隊長を務めている三木博貴だ。年功序列という事で今回は進行役を仰せつかった。よろしく」
三木が自己紹介を終えると、横に控えていた卯月が一歩前に出て話し始める。
「第一学生魔導隊の副隊長、卯月司です。第二の皆さんも、よろしくお願いしますね」
卯月の話が終わると少し離れた所に仁王立ちしていた女性が一歩前に出た。その女性は卯月の柔らかい雰囲気とは打って変わり、厳格な雰囲気を纏っている。黒髪を肩につかない程度に短く切りそろえたショートカットヘアに、卯月より目線が一つ上の高身長。鋭い目付きを備え、その眼光を学生達に向けながら口を開く。
「第二学生魔導隊隊長、高杉節だ。協会の戦力となるべく、学生諸君にはより一層励んでもらいたい。以上だ」
話し終えた高杉が元の位置に戻りながら、隣にいた中年男性を横目で見た。その鋭い視線を感じたのか、緊張した面持ちで男性は話し始める。
「第二学生魔導隊、副隊長、佐久間猪太郎であります。よろしくお願いいたします」
男性は短めの髪を綺麗に七三に分けており、体格は中肉中背だが猫背気味なのでやや小柄に見える。真面目だが気が小さそうな雰囲気だ。隊長との力関係は想像に難く無い。大人達の紹介が終わると、三木が学生達にも自己紹介を促した。
「では次に学生の皆にもやってもらおうか。第一から、学年の高い順に行こう」
三木が第一で最年長である聡太の方を見ながら話すと、聡太は軽く会釈しながら、他の学生達の方に向き直り、自己紹介を始めた。
「第一学生魔導隊、高等部三年の常盤聡太です。僕は長くいるから顔見知りがほとんどだけど、よろしくお願いします」
そこからはそれぞれが順番に続けていった。
「高等部二年、神楽誠奈人。よろしくお願いします」
「高等部二年、佐倉律華です。お互い頑張りましょう」
「高等部二年生の実莉央奈ですっ! 至らぬ所ばかりですが、よろしくお願いします! 」
全員、見知った相手の自己紹介に対しては特に興味を示していなかったが、莉央奈が話し始めた時、第二学生魔導隊の面々の視線が一点に集まった。とある事件の被害者でありながら、魔導隊に入隊した莉央奈の存在は珍しく、ちょっとした話題となっていたのであった。
(め、目線を感じるなぁー! )
萎縮する莉央奈をよそに、大治が続けて話し始める。
「高等部一年の一条大治っす。筋トレの事なら任せてください」
「中等部三年、水野美心です。みーこって呼んでくださいねっ」
第一部隊の紹介が終わると高杉が頷き、第二部隊の学祭達が自己紹介を始めた。
「第二学生魔導隊所属、高等部三年、近衛秀作だ。互いにとって良い演習にしよう」
先日廃工場で遭遇した時と変わらない、鋭い眼光が誠奈人を見据えていた。目が合った誠奈人は小さな笑みを浮かべる。
「同じく高等部三年の吉原紗代です。よろしくね」
肩にかかる程度の長さの黒髪を外側に跳ねさせ、長い脚と小さい顔。莉央奈は歳の近い自分と比べ、随分と大人っぽいと感じていた。
(一つしか違わないのに、大人っぽいなぁ。あとなんか、おしゃれでギャルっぽい…ギャルって死語かな? )
「高等部二年、速見堅! よろしくオナッシャスッ!! 」
大声と早口で少し言葉が崩れている。体育会系ともヤンキー系とも取れるその男子生徒を見て、莉央奈は会議で誠奈人達に言われた事を瞬時に理解した。
(同級生で暑苦しくてヤンキーっぽい…この人かぁーっ! ちょっとこわい! )
前情報もあり、少し身構えてしまう莉央奈。
「高等部一年の前川愛美です。仲良くしてくださいねー」
暗めの茶髪のツインテールをたなびかせ、柔和な笑みを浮かべた少女に莉央奈は見覚えがあった。
(筋トレ中に合った、前川さん! 誠奈人くんと、仲良し! )
ほんの少し愛美を見る目がきつくなったが、愛美は莉央奈と目が合うと、目尻を下げてにこっと優しく笑った。呆気に取られたものの、莉央奈は笑顔で返した。
(なんかちょっと、調子狂うなぁ)
「高等部一年、神代宮子です。有意義な演習にいたしましょう」
艶やかな髪を肩につかない程度に切りそろえたおかっぱヘアの少女。冷淡な表情からクールな印象を受ける。
(かっこいい子だ。あれ、かみしろってどこかで聞いたような…? )
「中等部二年の小宮達巳です。最年少ですけど、がんばります」
小柄で中性的な顔付きの男子で、背も低く、中学二年生の平均よりも下回っている事は明らかだった。
(なんか、儚いな…でもここにいるってことは、彼も優秀な魔導士なんだよね)
今まで出会った中で一番華奢な魔導士だったため莉央奈は少し拍子抜けしたが、学生ながら魔導隊に任命されている以上、それ相応の実力者なのだと考えを改める。
「これで全員だな。三日間一緒なわけだから、仲良くするように。」
一同が返事をすると、合わせて三木も頷いた。
「では、まずは30分後に外で軽く模擬戦を行う。用意をして集まってくれ」
学園の校庭には芝生のエリアがある。ここなら体を地面に打ち付けても怪我をしづらく、組手や模擬戦によく使用されていた。合同演習に参加する面々は制服からトレーニングウェア等の動きやすい格好に着替え、一堂に会していた。
「さて、組み合わせはどうするか。こちらで決めてしまってもいいが…」
三木が思案していると、横にいた第二学生魔導隊隊長の高杉が声を掛けてきた。
「三木隊長。せっかくだから、希望のある者はやりたい相手とやらせてはどうだろうか。特に希望のない者はこちらで決めるという事で」
「うん、各々興味のある相手がいるだろうしな…では、希望のある者はペアを組んで見てくれ。基本的には第一と第二で組むように」
三木の号令がかかると、早速各々が動き出す。
「神楽ァ! 俺と勝負だァァ! 」
ヤンキー風の速見堅が真っ先に誠奈人へと詰め寄る。誠奈人の隣にいた莉央奈は、その勢いに少し萎縮した。
「やだよ。この前挑戦受けたばったかりだろ。今日は別の人にしたらどうだ? 」
「それもそうだな! 色んな相手とやるのも一興! だが演習の間に絶対相手してもらうぜェ! 」
「おう。またなー」
意外とあっさり手を引いた速水に拍子抜けする莉央奈。
「なんだかすごくあっさりだね? 」
「あいつ、ああ見えて聞き分けのいいヤツだからな。ちゃんと理由付けて説明すれば話が通じる。だから俺もあんまり無下には扱ってない」
「あのタイプで話が通じる人っていたんだ…」
「お前たまに結構な毒吐くよな」
速見が別の相手を求めて去っていくと、入れ替わりで神代宮子がやって来た。誠奈人が目当てなのだろうと莉央奈はぼーっとしていると、不意に自分に声を掛けられて驚く。
「実莉央奈先輩。よければ私のお相手をしていただけませんか? 」
「えっ、私!? …私でよろしければ、全然! 」
莉央奈は一瞬逃げようかと考えてしまったが、すぐに弱気な考えを捨てて、神代宮子の申し出に応じる。
(逃げちゃだめだよね…せっかくの演習なんだから。特訓を思い出して! )
莉央奈が覚悟を固めたところで、他の面々も自然に相手が決まっていった。第一が六人で第二が五人のため、今回は誠奈人が見学に回った。そして、模擬戦とはいえ、実莉央奈の初めての戦いが始まろうとしていた。




