第3章:プロローグ
「合同演習、ですか」
皆を代表したかのように、高等部三年の常盤聡太先輩が復唱した。場所は日本魔導協会本部ビルにある、会議室。今は俺たち第一学生魔導隊の定期ミーティングの最中だ。
「そうだ。我々、第一学生魔導隊と、第二学生魔導隊の合同演習だ。二泊三日で学園に泊まり込み、彼らと共同での模擬戦や作戦行動をやってもらう事になる。授業を受けながらとなるので、少し大変だが…」
三木博貴隊長が改めて説明する。
「お泊まりですか! 合宿みたいで楽しそうですね」
「遊びで行くんじゃないんだぞー」
中等部三年の水野美心が気の抜けた事を言っていたので、俺は軽く注意した。
「そんな事言って、誠奈人先輩は楽しみじゃないんですか? みーこは楽しみです。枕投げとかしましょうねっ」
「普段接する事の少ない魔導士と手合せできるのは、楽しみだな。参考になる事もあるだろな」
みーこが何か言っているが、この神楽誠奈人、そう簡単に浮かれたりはしない。魔導の実力を上げる、またとないチャンスだ。
「いいねぇ枕投げ。みんなでわいわいお泊まりって、憧れるかも」
俺の横に座る、高等部二年の同級生かつ転入生である実莉央奈が呑気な声を上げる。普段は比較的真面目だが…こやつはたまに、こうやって少し抜けた事を言ったりする。それが場の空気を和ませる事もあるが。
「ところで、なんで今なんです? 」
高等部一年の一条大治が三木隊長に疑問を投げる。緩んでいた空気を自然に切り替えるファインプレイだ。大治のこういうところを俺は信頼している。
「昨今の魔導犯罪の増加を受けて、戦力の強化を図りたいというのが上の方針だ。学生諸君は伸び代がある。個々の能力を伸ばすと共に、部隊間での連携も強化しておきたいとの事だ。皆も知ってのとおり、最近は大きな犯罪グループが暗躍しているようだからな。何かあれば複数の部隊が共同で作戦にあたる事もあるだろう」
三木隊長が言っている犯罪グループとは、袂を分かった俺の親友である久住至遠が所属している、魔導士による組織だ。名称も含めて詳細は一切不明だが、一般には流通していない魔導兵器を持ち出すなど、かなり強大な組織である事が窺える。その活動理念も分かっていないが、ヤツらは莉央奈を狙っている。彼女は組織の追手から逃げている途中で俺が救出した。しかし、その時には彼女は記憶喪失になっており、なぜ狙われていたのかは分からない。敵の事も含めて、まだまだ分からない事だらけだ。
「なるほど。納得ですね。俺も周りの人達から色々吸収して、もっと強くなりたいっす」
大治はかなりストイックだ。筋トレを毎日かかさず、筋肉の鎧で包まれた肉体からも、それが分かる。
「今回、私と三木隊長も着いていく事になってるから、よろしくね」
副隊長の卯月司さんが、いつものように大きな丸眼鏡の向こう側から優しい笑顔を振り撒く。
「卯月さんも一緒ですか! やった。寝る前はお布団で女子トークしましょうねっ」
「みーこ。遊びじゃないって言ってるでしょ、もう」
今度は、莉央奈と同じく俺の同級生である佐倉律華が、みーこに釘を刺す。ぴしっと言ってくれる律華には委員長という言葉がよく似合う。実際は違うんだけど。
「遊びじゃないですけどぉ…でも、そういう楽しみも必要だとおもいますぅー」
「楽しんじゃいけないとは言ってません。だけど、そっちがメインじゃないんだから。誠奈人を見習いなさい」
「ぶぅー…」
「美心」
なかなか引かない美心に律華が低い声で一括すると、美心は背筋をしゃきっと伸ばした。
「はいっ! すみませんっ! 」
「よろしい」
強い。こういう時の律華は本当に強い。俺も勝てない。
「第二学生魔導隊って、どういう部隊なんですか? 」
部隊に入ったばかりの莉央奈が疑問を投げる。
「我々第一と同じく、首都圏を守備範囲とする部隊だ。隊長と副隊長以外の隊員は、君らの学友。東京魔導学園の生徒だ」
「そうなんですね! そっか、わたし達以外にもいるんですね。同級生にもいるのかな」
「隣のクラスにはいるわよ。うちのクラスは私と誠奈人と莉央奈だけ」
律華が答えると、莉央奈は興味深そうに眼をキラキラさせる。
「知らなかった! どんな人なの? 」
「暑苦しい男だ」
同級生魔導士の印象を、素直に伝える。
「ちょっとヤンキーっぽいかも。それも、かなり古いタイプの」
律華も補足すると、莉央奈はさっきまでとは打って変わって、怪訝そうな表情に変わる。
「暑苦しくて、ヤンキーな魔導士…? なんか、怖そう…」
莉央奈がこめかみに指を当てて考え込む。何やら愉快な結論に達していたが、面白そうだから放っておこう。
「しかし模擬戦かぁ…緊張するな」
聡太先輩が、眼鏡の位置を直しながら苦笑いする。
「向こうは血の気の多い者が何人かいるからな。気を引き締めてかかった方がいいだろう」
「脅さないでくださいよ、隊長。ひょっとしてあちらの高杉隊長と何か話したんですか? 」
「他愛もない話さ。彼女はスパルタで教育熱心だから、自分の部下達の方が優秀だと誇らしげに言っていたが…うちの隊員の方がよっぽど優秀だという『事実』は、ちゃんと伝えておいた」
「いや、ちゃんと余計な事言ってるじゃないすか」
大治がすかさず突っ込む。雲行きが怪しくなってきたな…。
「本当の事を言って何が悪い。それに私は君達のことを信頼しているんだ…絶対に、あちらに遅れを取るような事は無いとね」
「信頼が重い…ていうか、それはただの大人同士の喧嘩じゃないか? 」
思わず俺も口を挟んだ。三木隊長がこんな子供っぽい張り合いをするとは、なんだか珍しいから。
「そもそも高杉がいかんのだ。あいつ、何かと私に突っかかって来て。彼女の向上心は立派だとは思うがね…」
「まぁまぁ。お二人とも若くして学生部隊の隊長に任命されているわけですから。ライバル視してるんじゃありませんか? 」
卯月副隊長が優しく隊長を嗜める。この人の場を和ませる力はいつもすごい。
「隊長も、最近忙しくてお疲れでしょうから。ちょっとイライラが溜まっていらっしゃったのでは? 落ち着いてください。ねっ? 」
「…うむ。少し、大人気無かったかな」
「三木隊長と卯月副隊長の関係って、誠奈人先輩と莉央奈先輩にちょっと似てますよね? 」
「確かにな…上手く手綱握られてそうな感じするよな」
美心と大治が何がひそひそと話していたが、俺のところまでは聞こえなかった。なんかちょっとこっちを見たような気もするが。
「とにかく、そういう事だ。無理の無い範囲でボコボコにしてくれて構わん」
「無理のない範囲で、ですね。まぁ、隊長にはお世話になってるし…ちょっと気を引き締めていく、という事でどうかな? 向こうの部隊の皆とも仲良くしたいし」
聡太先輩が良い感じにまとめてくれた。皆からも賛同の声が上がり、話はとりあえずまとまった。俺も勿論、わざわざ険悪になる事は無いと思うし、合同演習で手を抜く気も無い。
「うぅ…」
何やら、莉央奈が珍しく唸っている。小さく、だが。
「どうした? 」
「わたし、一番の足でまといだから…第二部隊の人達に、わたしと同じぐらいの初心者はいないよね? 」
「そりゃな。学生なのに魔導隊に入ってる時点でそれなりの能力や素養があるって事だ」
「わたし、やっぱり結構特例なんだよねぇ」
「ポテンシャルも加味されての事だと思うけどな」
「誠奈人の言うとおりだ。治癒魔導の出力も少しずつ安定してきたし、基礎的な魔力放や身体強化も徐々に出来るようになってきた。なかなかのスピードで成長していると、学園の教師陣も褒めていたぞ。さっきも言ったように無理の無い範囲でやってくれればいい。学ぶ事も多いはずだ」
隊長がフォローすると、莉央奈は照れ臭そうに笑った。
「えへへ、ありがとうございます。色々と吸収できるように頑張りますねっ」
「その意気よ、莉央奈ちゃん。応援してるからね」
「はい! ありがとうございます。卯月さん」
合同演習…何事もなく終わると良いが。
再開に少し時間が掛かってしまい、恐縮です。
第3章もよろしくお願いします。




