第2章:エピローグ
水野美心の朝は早い。昨日は通り魔事件もSNS誹謗中傷事件も完全に解決して、スカッとした気分でよーく眠れました。ちょっと危ない目にあったけど、皆が助けたくれたし、褒めてくれたし。あの後、被害を受けた後輩ちゃん達のところにプレゼントのマカロンを持って報告に行ったら、すごく喜んでくれました。心配もされたけど。美味しいドーナツもみんなで食べたし、頑張って良かったと思います。それぞれ形は違っても、人は皆そういうささやかな幸せを積み重ねるために、毎日戦ってるのかなって思います。
「今日、休みだったら良かったのになぁ。戦闘後の月曜日は憂鬱だぁ」
だるさの残る体を引きずって、身支度を済ましていきます。身だしなみはやっぱり、キチッとしたいですからね。
「ふあぁ…」
昨日はたっぷり寝たのに、欠伸が出た。疲れが抜けてないのかな。治癒魔導で体の疲労までは治せないからなぁ。朝からこれじゃあ先が思いやられます。とりあえず冷水で顔をばしゃっと洗って強引に目を覚ましておきます。そしてとりあえず制服に着替える。そうすれば強引にスイッチが入るんですよね。
「よし、お着替え完了」
着替えが終わったらリビングのテーブルの前に座って、髪のセットです。鏡を見ながら入念に髪をとかしていきます。ドライヤーでブローしながら、髪を痛めないように丁寧に。
「あ、昨日のやつだ」
適当につけたテレビで丁度朝のニュースが放送されており、昨日の釜田さんの件が報道されていた。休暇中の魔導隊員に危害を加えた魔導士を現行犯逮捕。先日の通り魔事件の犯行を自供しており、魔導協会が調査中…か。一言でまとめるとそんなものだけど、現場ではすごくいろんな事があったんですよー。
「どうせなら、美少女魔導隊員が華麗に事件を解決! アイドル魔導士・水野美心の秘密に迫る! という特集を組んでくれた方がみんな楽しめるのに」
メディアはなかなかみーこの事を見つけてくれないのだ。こーんなにかわいい美少女が魔導士としてバリバリ戦ってるなんて、話題にしやすいと思うんだけどな。
「ふぅ。よし! 」
今日もみーこのミディアムボブヘアがバッチリ決まりました。今日もかわいいです。かわい過ぎます、わたし。女の子は朝のおめかしが上手くいくとテンション上がるのです。さて、朝ごはん食べに行きますか。
寮の食堂につくと、いつもどおり寮母の和子さんが迎えてくれた。
「おはよう、みーこちゃん」
「おはようございます! 今日もお綺麗ですね」
「はは。みーこちゃんも、可愛いよ。ほら、朝はしっかり食べなね」
「ありがとうございます! いただきまーす」
朝食の乗ったお盆を受け取り、どの席に座ろうかきょろきょろしてたら、高等部二年の三人組を発見しました。莉央奈先輩と目が合い、にっこり笑顔をこちらに向けてくれた。なんて愛らしいひとなんでしょう。
「おはようございます。ここ、いいですか? 」
「もちろん! おはよう、みーこちゃん」
「おはよう。昨日は大変だったわね」
「ん。おつかれさん」
莉央奈先輩、律華先輩、誠奈人先輩の三人が、それぞれ個性ある挨拶を返してくれた。莉央奈先輩はとにかくかわいくて癒される。律華先輩は厳しい時もあるけど、気遣いができる人だ。誠奈人先輩は、ぶっきらぼうに見えて実は優しい、不器用な人。個性豊かな先輩方です。
「本音言うと今日はお休みしたかったけど、みーこが休むと色んな人が寂しがると思うので。アイドルとしての責務を果たさないといけません」
「謎の使命感来たな」
「誠奈人先輩こそ、昨日一戦交えたあとですよね。疲れてないんですか? 」
「俺は最後においしいところを持ってっただけだ。あれくらい、休日の散歩の延長にすぎないな」
「かぁっこいいー。助けに来てくれた時も、こう…颯爽と! っていう感じでしたよね」
「ふふ…まぁ、な。どんな時も冷静でいないとな」
「でも誠奈人くん、みーこが危ない! って、結構必死じゃなかった? ものすごいスピードで走ってったし」
「うっ、ゴホッ、げふっ…」
莉央奈先輩の指摘に、誠奈人先輩が顔を赤くしてむせている。あ、ちょっとお茶吐いてる。
「別に…そんなに焦ってないが? 」
「焦ってたわよ。あの時、すごい早口だったし」
律華先輩も追撃だ。焦ってる誠奈人先輩ってあんま見た事ないなぁ。わたしのためにそんなに必死になってくれたというなら、悪い気はしない。
「焦ってないが。俺はいつも冷静だが? 」
「じゃあなんでお茶吹いたんだが? 」
「お箸を床に落としてるんだが? 」
誠奈人先輩がなんとか立て直そうとしているけど、莉央奈先輩と律華先輩は、誠奈人先輩をいじる時に最高のコンビネーションを発揮します。勉強になります。
「……そうか」
「そうだよ? 」
「そうね」
「いや、『そうか』って何ですか? 何に対して掛かってるんですか」
敗北を認めた誠奈人先輩が、バツの悪そうに後頭部をぽりぽり掻いている。たぶん、これは癖なんだと思う。やってるところ、よく見るもん。
「釜田さんは、どうなるんでしょう」
「通り魔については、被害者が示談に応じるかどうかが大きいが、変に干渉せずに被害者の子達の意思を尊重しよう。禁止されている賢者の石片の所持と、それを使って美心を襲った件に関しては、精神状態がどうだったかってところか。どちらにしろ、無罪放免とは行かない可能性が高いな」
「そう、ですよね」
「みーこちゃん、優しいんだね」
「色々と聞いちゃいましたから。身の上話もそうですし、戦ってる最中も、あの人の苦しみや悲しみが溢れていたんです。でも、もちろん被害を受けた後輩ちゃん達の事も心配です。だから…複雑な気持ちです」
「被害者と加害者、両方と関わったからこその意見ね」
「はい…加害者が一番悪いっていうのはもちろんです。でも、みーこは知ってしまったから。あの人がそこに至るまでのことを」
「すぐには心の整理がつかなくて当然だ。焦る事はない。だけど、俺達は魔導協会所属の魔導士だ。事件に対してできるのは、犯人を捕まえる事までだ。その立場は忘れるな」
誠奈人先輩が言うと説得力がある。今まで一番多くの事件に関わってきた人だから。
「そうします。だけど、目は背けません」
「あぁ。それでいい」
「みーこのSNSにコメント入れてたのもあの人だったのよね? これでそっちも一旦落ち着くかしら」
律華先輩に言われて思い出した。そういえば、今日はまだSNSチェックをしていませんでした。不覚!
「そうでした。ちょっと見てみよっと」
昨日の帰り、みんなでドーナツを食べた時の写真とかを投稿していたのです。みんなの顔は出してないけど。スマホを取り出してSNSを開くと、コメントがいくつか付いていた。みこファンのみんな、ありがとう。
「あ、これ知らない人だ」
コメント欄に、いつもは見かけない人の投稿がある。
「ええと、『このドーナツ屋さん美味しいですよね。食べてるところ、小動物みたいで可愛い』ですって!『ひろこ』さん…女性の方ですね! 」
「おぉっ、新しいファンだね! やったねぇ」
「やりましたっ! 千里の道も一歩から。こうして少しずつファンを増やしていくのです! 」
今回は色々あったけど、本当に頑張って良かった。アイドルとして、魔導士として。これからもみんなの笑顔のために、世界平和のために! 邁進していく所存です。水野美心を、よろしくお願いします!
以上で、第2章完結です。
今回はサブキャラクターの美心に焦点を当ててみました。
分かりやすい性格なので、動かしやすい子です。
しばらく間を置いてから、第3章の投稿を始めていく予定です。
引き続き、よろしくお願いいたします。




