第2章:第23話『事件解決!』
それからしばらくして、部隊長の三木と、副隊長の卯月が、魔導協会の職員を伴って現れた。犯人の釜田は協会職員に連れられ、車で搬送されていった。魔導協会が運営する東京魔導士収容所に運ばれ、そこで取り調べを受ける事になる。釜田の表情は、憑き物が落ちたかのようにすっきりとした物になっていた。
「皆、ご苦労だったな。不測の事態だったが、最善の行動を取ってくれたと思う」
白い無地のトレーナーにジャケットを羽織った、カジュアルな私服の三木が、部隊員を労う。
「美心ちゃん、無事で本当に良かった。みんなに助けを求めたのはナイス判断」
外出先から直接ここまで駆け付けた卯月は、白いワンピースとベージュのカーディガンが穏やかな雰囲気にマッチしていた。卯月が優しい笑顔で美心を誉めると、美心は得意げに腰に手を当てて胸を張った。
「以前のみーこなら独断専行したかもしれませんが、成長しました。それに、みなさんはけっこー頼りになるので! 」
それを聞いて他の面々は顔を見合わせて笑顔になる。苦笑いした大治が美心の頭を手のひらでぺちんと叩くと、頭を抑えながら美心もにかっと笑った。
「そういえば、あなた手ぶらだったの? 荷物とかは特に無いのかしら」
律華が指摘すると、はっとなって美心は辺りをキョロキョロと見回し始める。そして、道の片隅で無惨な姿になっていたのは…。
「あーーっ! せっかく買ったマカロンとドーナツがぁっ!!」
さすがにかわいそうで、皆でお金を出し合って新しい物を美心に買ってあげた。ドーナツは各々が自分の分も買い、糖分を補給してから帰路についた。
至遠が使用しているとあるホテルの一室で、至遠と行商人が椅子に腰掛けて話していた。
「至遠サン、賢者の石片の回収、ありがとうございました。残骸とは言え、あちらには渡したくないものですから」
「観戦料だよ。少しは働かないとね」
「しかし、彼は少し期待外れでしたね。魔力総量とコントロール技術はそれなりだったのですが。あなたのおっしゃるとおり、実践経験が無さすぎましたかね」
「魔導隊は腐っても対魔導士戦に特化した集団だ。その辺のはぐれ魔導士が単独で挑むのはなかなか難しい。だから僕は日野を上手く利用したわけだけど」
「ふふふ。お若いのに他人を使う事がお上手なことで…」
「あなたこそ。組織の者は皆、魔導士に対して優しいものだと思っていたけどね」
「ワタクシが異端なんでしょうね。組織の理念にそこまで強く共感しているわけではございません。それは、至遠サンも同じではないですか? 」
「とんでもない。僕は組織の忠実なしもべさ」
「おやおや! ワタクシはあなたを信用して腹を割ってお話ししたというのに」
「探ってみなよ。僕の腹の中をさ」
「それを、楽しみの一つとさせてもらいましょう。しばらくはご一緒ですしね」
「まさかここに泊まる気じゃないだろうね? 」
「……勿論。いざという時のため、拠点がいくつかあった方が便利でしょう」
「…そうだね。それに僕は一人が好きなんだ」
夜の学生寮。夕飯を食べ終えた誠奈人は談話室に向かった。先客の莉央奈と律華が四人がけの席に座ってり、誠奈人を見つけた二人が手招きしたため、誠奈人も同じ席に着いた。
「今日はお疲れ様。良いタイミングで助けに入れたみたいね」
律華が誠奈人を労う。莉央奈も「おつかれさまー」と、後に続く。
「あぁ。もうちょっと遅れてたら、みーこが大きな怪我してた可能性もあったからな。負けはしなかったと思うが、とにかく間に合って良かった」
「みーこちゃんもすごいね。中学生の女の子とは思えないくらい勇敢で」
「本人に言ってあげたら、またすごく喜ぶわよ」
「えへへ。明日また言ってあげようかな」
「すっかり懐かれたな」
「わたしもみーこちゃんの事好きだよ。おもしろくて、かわいくて、良い子だもん」
「イレギュラーだが、部隊に入ってから最初の事件になったな。どうだった? 」
誠奈人の問いに、少し考えてから莉央奈は答える。
「うん…この前日野さんに襲われた時は、悪い人で怖い人っていう印象しか持たなかった。だけど今回は釜田さんの内面やこれまでの苦労も聞いて…なんだか、複雑な気持ち」
「非行に走る魔導士は、そういうパターンが多い。根っからの悪人もいるけどな」
「あの人はこれからどうなるの? 」
「協会が主体になる事以外は、普通の事件とあまり変わらない。まずは魔導士専用の収容所に入れられて、取り調べを受ける。それから裁判にかけられて、量刑が決まる。被害者との間で示談が成立すれば、裁判までいかない事もあるが」
「釜田さんの場合は通り魔に加えて、禁じられている魔科学兵器を使った事がどう判断されるか…それによるところが大きそうね」
「そっか…偉そうかもしれないけど、ちゃんと正しい手順を踏んで償って、今度は自分の生きたいように生きられたらいいなぁって」
「そうだな…罪は罪だ。ケジメはつけないといけない。先の事は、それからちゃんと考えればいい」
「魔導士っていう存在の、この世界の立ち位置…難しいんだね」
「これからもそういう場面をいやと言うほど見るかもしれないぞ」
「覚悟はあるよ。わたしも魔導士だもん」
「何かあったら、すぐに言ってね」
「うん! ありがと、律華ちゃん」
「そのうち莉央奈にも任務が降りてくる事があるだろ。頑張れ」
「うぅ、ドキドキするなぁ」
「魔導の訓練をみっちりしておきましょう。実力がつけば、自信もつくはずだから」
「やっぱりそこに行きつくね。訓練訓練! 」
莉央奈はシャドーボクシングのように、しゅっしゅと小さく拳を振るった。直接戦闘する事は無かったが、彼女は今回の件で魔導隊の日々の任務がどのようなものか、体感する事になった。それでもいつもと変わらない様子を見て、誠奈人は安心していた。もっとも、目の前で誠奈人や律華が死にかけるような事態に既に直面しているので、杞憂だったのかもしれない。
「莉央奈は、なかなか根性があるな」
「えっ、急にどしたの? そうかな? 」
「私もそう思うかな。一般的な女子高生は、なかなかこうはいかないんじゃないかしら」
「それは、わたしが一般的な女子高生よりも凄い…ってこと? 」
「比較対象がどうかと思うが、まぁ、凄いってことだな。魔導隊に向いてるんじゃないか」
「歴の長いお二人にそう言ってもらえると、自信が付きますなぁ」
「これからも、精進したまえ」
それから今日の事や魔導の事など、適当に雑談をした後、三人とも自室に戻って行った。




