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学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第2章 アイドル魔導士、がんばる

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第2章:第12話『藤堂家の男達』

「ようこそ! 三木(みき)君、神楽(かぐら)君! 」


 日本魔導協会副会長・藤堂(とうどう)清正(きよまさ)。休日なのもあってブランド物のポロシャツに長めのハーフパンツという非常にラフな格好で現れた。刈り上げた短髪にシワの少ない顔、50代後半頃かと思われるが歳の割には若々しく、息子に似た快活な印象を受ける。出迎えられた誠奈人(まなと)三木(みき)は面食らって顔を見合わせる。ここは、都内にある藤堂清正の自宅。芸能人のものかと見紛うような、豪華な邸宅だった。


「お招きいただき、恐縮です。副会長」


 気を取り直して三木が挨拶をして、二人で頭を下げる。


「こちらこそ、休日にすまなかったねー」


「あ、お二人とも。ようこそようこそ」


 少し遅れて、家の中から副会長の息子である藤堂(とうどう)(かい)が現れた。長めの髪をセンターで分け、ベージュのチノパンに無地のTシャツという、こちらもラフな格好だった。しかし長身で顔立ちも整っているため、妙に様になっていた。以前協会本部で会った際、初対面の莉央奈(りおな)にナンパ紛いの声掛けをしていたが、軽薄な雰囲気は休日も変わらない。


「藤堂さん、ご無沙汰してます」


「どーも、誠奈人君。うちの親父に君の話をしたら、是非一度会ってみたいと言い出してねー。そんで、三木隊長を通して話をさせてもらったって事よ」


「俺もちょうど伸び悩んでまして。色々話を聞かせてもらえるとありがたいです」


「なーるほど。ま、俺達に力になれそうな事だったら何でも言ってよ。じゃ、立ち話もなんだから、入った入った」


 二人に促されるまま、藤堂家に足を踏み入れる誠奈人と三木。一体どんな稼ぎ方をしたら、都内にこんな豪邸を建てられるんだと、誠奈人は辺りをきょろきょろしながら考えていた。豪華な調度品や絵画が目につき、まさに富豪の邸宅と言った雰囲気だ。しばらく歩き、客間に通された。


「どうぞ、座って座って」


 清正と快が先にソファーに座り、テーブルを挟んでその向かい側にあるソファーに誠奈人と三木も腰掛けた。いつも座る椅子やソファーと比べ物にならない程の柔らかさで、誠奈人は思わず沈み過ぎてしまう。バレないように平静を装ってなんとか姿勢を立て直した。


「どーぞ、安物の紅茶ですけど」


「ありがとうございます。いただきます」


 快がテーブルの上に備えてあったティーポットから、四つのカップに紅茶を注ぐ。安物というのはあくまで藤堂家基準なんだろうなと誠奈人は思っていた。注がれた紅茶に、少し緊張しながら口をつける。


「お、美味しい…です」


 やはり平民基準では上等な品だと確信した。とはいっても高校生の誠奈人が普段飲む紅茶など、スーパーで売っている安物や、ペットボトル飲料程度のものだった。


「お口に合うようで良かった。おかわりもあっからね」


 名前どおりの快活な笑顔で快は誠奈人に声をかけた。


「ところで副会長、なぜ誠奈人に興味を持っていただいたのですか? 」


 三木が尋ねると、親子そっくりの快活な笑顔を見せながら、清正から返事があった。


「なあに。彼は有名人だから、以前から知ってはいたんだよ。うちの息子とも親交があったようだしね。それで改めて息子から彼の話を聞いてね。えらく褒めるもんだから、一度会ってみたくなったんだよ」


「ちょうど協会本部で会った後でしたかね。親父と食事してる時に話したんですよ」


「藤堂さん、俺の事褒めてくれたんですか? 」


「そらそうよ。世代ナンバーワンだろ、君は。この前も莉央奈ちゃんの事を無事守り切ったそうじゃない」


「そんな…この前も皆の協力があったからです。他の同世代より長くやってるってだけで、俺はまだまだですよ。伸び代で言ったらすごい人は他にも全然います」


「謙虚だねえ誠奈人君。もっと自信持ったっていいんだぜ。虚勢を張るのはどうかと思うが、適度な自信は実力に繋がるぜ」


「自信…か。苦手ですけど、ちょっと頑張ってみます」


「おう。悩んだら俺様を見な。いつだって自信満々だからね! 」


「ははは! すまんね、藤堂家の男は代々自信家なものでね。それが強みでもあるんだがね」


 この人達は親子だなぁ…と誠奈人はしみじみ思う。清正からは女性に対する軽薄さは感じないものの、他の部分は快にそっくりだ。それとも、若い頃は女性にだらしなかったのだろうかと、失礼にも考えてしまった。


「誠奈人君。私は次世代を担う魔導士の育成には、もっと力を入れていくべきだと考えているんだ。君に興味を持ったのも、そういう考えからだよ。魔導士という生き物は、団結して生きていかねば、今の時代なかなか苦しいからな」


「確かに、教育体制が整っていなければ路頭に迷う者も多いでしょうね。日本各地の魔導学校が機能している今は、戦後間もない頃と比べたら幾分マシになったとは聞きますが」


 清正の弁に、三木も理解を示す。魔力のある者はそれだけで差別や奇異の目に晒されやすい。行政による福祉制度といった、通常の貧困者等を守るセーフティネットから炙れてしまう事態も散見され、そういった人々を魔導協会が発見し、保護する事もある。


「両親が共に魔導士であれば、その子供も自然と教育に繋がる事は多い。だが、魔力の無い両親から魔力のある子供が産まれた場合は、魔導に関する教育に繋がる事は未だに少ない。両親の心情は分からんでもないのだがね」


「そういう子供は日本にまだ存在しているのでしょうね。その全てをくまなく見つけて保護するというのも、難しい事です」


「そうだね。だが、可能な限りゼロに近づけたいとは思うよ。その子供のためにも、我々魔導士という種族のためにもね。子供が育たなきゃ結局大人だって困るんだ。そういうの抜きにしても、子供には伸び伸び育ってほしいもんだしね」


「…俺も、そういう子供だったから、分かります。俺はたまたま助かったけど。助からなかった者にとっては、ただそれだけが真実です」


「誠奈人君も苦労人だったな。今も苦労してそうだけどさ。面倒な仕事、結構やらされてるっしょ? 」


 快が苦笑いしながら誠奈人を気にかける。


「確かに、たまに上から名指しで任務に当たらされる事はありますね。でも、やってみたら選ばれた理由が分かるものばかりだったので。仕方ないです。俺のような一兵卒は与えられた仕事をこなすだけです」


「上の人間にとっては、一兵卒として非常に嬉しい心構えだな、そりゃ。誠奈人君は結構優等生だよなー」


「そういうつもりでもないんですが。結構不良ですよ」


「はっはっは。自分で言うかね。ま、俺には及ばないだろーけどね」


「お前はもう少し女性関係をしっかり締めんかい」


「そうは言っても、親父だって若い頃はモテたんだろ? 血は争えないねえ」


 清正と快の会話を聞いて、女性にだらしないのも遺伝だと分かり、妙に納得する誠奈人。この二人は非常に似たもの親子だ。


「ところで、誠奈人君は伸び悩んでるって事だったけど。よければ話聞くぜ。俺も親父も結構できる魔導士だからね」


「ありがとうございます。実は、強くなりと思ってまして」


「ものすごいど真ん中直球の言い方だなあ」


「すみません、こいつは少々口下手なところがあるものですから…先日の襲撃事件で自身の実力不足を痛感したそうなんですよ」


「ほほお、君のレベルで実力不足とはね。なかなか意識が高くて良い事じゃないか。私が同じくらいの歳の時は、てんで大した事なかったがね」


「ほんとにそうだな。君は強いと思うぜ。もちろん、上には上がいるけどさ」


 清正と快は、誠奈人が強くなりたいと願う真意を掴みかけねていた。誠奈人は高校生ながら、協会の中でも上位の実力者だ。


「まさに上がいたんですよ。もう報告を聞いたかもしれませんが、久住(くずみ)至遠(しおん)…俺はあいつに負けました」


「精神的に動揺していたところを刺されたとも聞いたぜ。君にとっては、無理もない。メンタルの強さも含めての勝負って事なら、まぁそうだけど」


「それもあります。でも、俺が万全だったとしても、勝てたかどうか自信がありません。あいつは昔よりずっと強くなってた。俺が知らない技も使ってました。一方、俺は基礎をひたすら鍛えてきました。もちろんそれは大切ですが、それだけじゃ勝てない時が来たと感じました」


「なるほどね。地道なパワーアップじゃなくて、新技や新戦法でも編み出して、飛躍的に実力を伸ばしたいってところかな? 」


「はい、仰るとおりです」


 快が誠奈人の考えを見抜く。


「誠奈人君が真摯に基礎能力を伸ばしたのは絶対に無駄にはなんないよ。そして叶うなら、それを最大限に活かせるような何かを身につけたらいいんじゃないか? 長所を活かす事が最大の武器になるのはよくある話さ」


「長所を活かす…か」


「君の得意技は魔力の緻密なコントロールと剣術だろ? 形成魔導や纏魔(てんま)(そう)がまさにその長所を活かした技だ。だからさらにそれらをワンランク上に応用させた技を考えるとかさ」


「なるほど…明確なヒントをもらえて助かります。すごいしっくり来ました。どういう物にすればいいかまでは、まだイメージつかないですけど」


「そりゃ良かった。ま、こっから先が苦労するだろうけどね」


「誠奈人君、ウチには魔導士用の修練場がある。せっかくだから、ちょっと体を動かして行かないか? 快を練習相手にするといい」


 話を聞いていた清正が提案する。


「俺も是非、誠奈人君とは手合わせしてみたいね」


「是非、よろしくお願いします」


 誠奈人にとっては、またと無い機会だ。一礼してから頭を上げた誠奈人の顔には、笑顔が浮かんでいた。

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