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0600 搾乳ビンとドナドナ

「ドワーフの源さんを釣り上げる珍奇なチーズだけはお手上げだ・・・」


 3月12日の日曜日の夜。

 ヴィンヴィンの竜殺しで揺れたリビングから自分の部屋に戻ってきた俺は、エマの部屋へ行く前の待機時間で、新たに増えた課題を検討していた。

 その中でチーズ探しだけが、まるで手掛かりがなく難航している。

 あぁぁ、頭がこんがらかってきた。もう一度最初から整理してみるか。


 現時点で危急の問題は次の二点だ。


① ヴィンヴィンの覚醒で密かに落ち込んでいるエマ

② ギルドで陰口を叩かれているレイラちゃん(いずれはエマたちも)


 その解決策は単純にして明快だ。

 ①のエマに関しては、可及的速やかに孕ませてあげれば良い。

 その手段として現代知識チートのオギノ式を使う。

 さっきピーナからその為の情報を仕入れた。それよると、エマの生理は2週間前だったようだ。この世界の一カ月は6週間だから、エマは来週、つまり数時間後の明日からが危険日となる可能性が大だ。たぶん。

 というわけで、来週はエマ妊活強化週間とする。ムフ


 ②の陰口は俺のヒモぶりに原因があるので、俺が上級冒険師メジャーに昇格すれば良い。

 それにはクエストを自分で受けて達成し功績ポイントを貯めねばならない。

 失踪者捜索クエストは何とかなりそうだが、これだけでは五等までしか上がれない。四等以上になるには、討伐・捕獲クエストも成功しないとダメのようだ。

 要するに、戦えない奴は五等止まりということらしい。

 ただ、攻撃力・防御力・体力オールゼロの俺が魔獣と戦闘するのは自殺行為。

 だからチートな武器&防具が必要だ。

 ドワーフの源さんからそれを得るには、グルメ道楽な彼ですらまだ喰ったことのない世にも珍しいチーズで取引が可能(ローラ談)だという。

 しかし、それが問題なのだ。一体そんなもんが何処にある?


 ふぅ、そろそろ時間だな。チーズの宿題は持ち越しだ。

 あ、ルークの失踪届の件もあったわ。アイリーンは知っているのかな。

 これも明日、ルークから話を聞いて何とかしてやらんと。戦友だしな。一応。

 さあ、頭を使うのはこの辺にして体を使うお楽しみにレッツラゴー。



「こ、これはまさか・・・搾乳ビン!?」

 勝手知ったるエマの部屋へノックもせずに入って行くと、ベッドに座る魔乳司祭が大き過ぎるオッパイに何かを押し当てているのが見えた。

 一瞬で俺のラブゲージが振り切れて突撃すると素敵アイテムと対面した次第。


「イ、イクゾー様、これはその・・・」

 みなまで言わずとも分かってますよ。

 ここ最近、イチャコラの最中に母乳が漏れてましたもんね。

 俺にはご褒美だけど厳格な司祭様は死ぬほど恥ずかしかったんですよね。

 だから今夜はこっそりと搾乳しておくつもりだったと。うん、許せん!


「ダメじゃないか、エマ」ゴゴゴ

 ニッコリと微笑みながら隣に腰をかけて抱き寄せる。

「ですが、イクゾー様を汚してしまいますので先に出しておかないと・・・」

「いけましぇん!」

「あぁ・・・」

「僕がエマミルクを楽しみにしてるのは知っているじゃないか」

 問答無用で搾乳を手伝ってあげた。

 うーん、心配になるぐらい凄い量が出るな。

 搾乳ビンを付けてるから安心してリミッター解除した結果だなこれは。

 片方だけで500㎖はありそうだ。

 ええぃ!エマの魔乳は化け物か!


 ビン一杯に入ったエマミルクを一口飲んでみる。

 あぁ、やっぱりメチャクチャ美味いわ。

 それにエマの魔力が含有されてるから麻薬のような常習性があるんだ。

 その魔力のお陰で俺の体が内側から癒されてる感じがする。さすが治癒師だわ。


 そうだっ。

 絞り取ったエマの母乳をこのビンのまま冷蔵庫で保管しておけば良いんだよ。

 それを毎朝飲んだら健康に良いんじゃね。普通に回復薬だし。

 でも俺だけで毎日1リットルはさすがにキツイか。

 ふむ、捨てたくはないし、飲みきれなかった分はどうしたらいいかな。

 乳でなにか作るとすれば、バターかヨーグルトかチーズか・・・ん、んんん!?


 チーズだっっっっっっ!!!


 エマの母乳でチーズを作ってドワーフの源さんと取引すれば良いんだよ!

 人間の母乳で作ったチーズなんてきっと喰ったことない筈だ。

 チーズが作れるほど母乳が出る人間なんて滅多にいないだろうからな。

 おおぅ、このアイデアは我ながら冴えてるわ。

 早速、明日にでも牧場のリーゼちゃんに相談してチーズを作ってもらおう。

 明日はたしか、ヴィンヴィン、レイラちゃん、ピーナが金庫番のリハーサルで、ティアは銀行プレオープンのチラシ配布の指揮だったな。

 ちょうどいい、エマと牧場デートを楽しんでくるとするか。ウフフフフ

 おっと、その前に愛する許嫁と熱い夜を過ごさナイト。

 俺たちは子宝を授かりますようにと祈りながら妊活に励んだ。




「チーズを作るということは、子牛を殺すということなんですよ」ドンッ


 3月13日の月曜日。

 朝からウルンネミ牧場へ向かい、リーゼちゃんにエマの母乳チーズ作製を依頼したのだが、なぜか機嫌を損ねてしまったようだ。

 思わぬ展開になり長閑な牧場事務所の応接室に緊張が走った。


「リーゼちゃん、君が何を言ってるのか分からないよ」 

「はぁ、これだから下界の人間はダメなんですよね」

 下界の人間!

 まさか純粋な牧場まきばの少女に超上から目線で非難されるとは。

 一体、俺がなにをしたっていうんだい?


「お兄さんは、チーズがどうやって作られているか知ってますか?」

「もちろん!」ニッコリ 「まったく知らないよ」

「ですよねー。知っていたらあんなお気楽にチーズを作れなんて言えません」

 え? ナニコレ。

 まさか、チーズ作りには俺の知らん深い闇が隠れているとでも言うのか?

 あのハイジだってアルムおんじと一緒に笑いながら作っていたじゃないか。


「仕方ないですね。まずはチーズの起源から教えてあげます」

 そこから!

 話がどんどん複雑になっていく。ただチーズを作って欲しいだけなのに。

 でもまぁ、せっかく牧場まで来たんだ。

 デート気分でエマと一緒にチーズのお話を聞くのもアリだな。


「ぜひご教授ください。リーゼット先生」

「ワタクシも是非お聞きしたいですわ」

「私は肉の話を聞きたいのですケド」

 あ、そうだった。ローラも付いてきてたんだった。


「太古の昔、東の大陸の行商人が羊の胃袋を干して作った水筒にヤギの乳を入れてラクダに乗り砂漠へ入りました。夕方になり乳を飲もうとすると水筒の中は透明な液体と白い固体に分かれていたのです。液体で渇きを癒した商人は、勇気を出して白い固体も食べてみたところ、かつてない美味しさで飢えも癒されたのでした」


 パチパチパチパチパチパチパチパチ


 リーゼちゃんの顔が明らかに要求していたので拍手する俺たちだった。

 それにこの話を聞いて何となく分かってしまったわ。

 チーズ作りの恐ろしい深闇が・・・


「お兄さん、気付いたくれてみたいですね」

「恐らくだけど、チーズを作るには胃袋が必要なんじゃないかい」

「その通りです!」ドンッ

「チーズを作るためだけに牛が殺されているんだね」

「チーズのために牛を殺すなんて馬鹿げてマス。断固反対なのデス」

「あぁ、チーズとは何て罪深い食べ物だったのでしょう・・・」

 聖職者のエマには耐えがたい真実だったかもしれん。

 聞かせるべきじゃなかったか。反省。


「それもただの牛ではダメです。生後半年ほどの牛でないといけません」

 いや、もういいから。残酷な話はもうお腹一杯だから。

「子牛がドナドナされるのには、それだけの理由があるのですよ」

 ドナドナ!

 そうか、子供心に不思議だったがチーズ作りのためにドナられてたんだ。

 くぅぅ、なんてこったい。知りたくなかったこんな現実。


「チーズ作りの罪深さが分かっていただけましたか?」

「ズシンと響いたよ」

「身に沁みましたわ」

「チーズは肉の敵なのデス」

 だが、それでも俺は母乳チーズが欲しい。

 ドワーフの源さんからチート装備を手に入れたい。

 レイラちゃんやエマたちのために。

 だから頼む。リーゼちゃん作ってくれ!


「高くつきますよ」ニタァ


 その言葉が言いたかったのか!

 これまでの子牛の悲しい話とかはすべてこの前フリだったんだ。

 さすがウルンネミ牧場の秘蔵っ子、商売というものを分かってやがる。

 これで12歳とはなぁ・・・リーゼ、恐ろしい子。ゴクリ

 だが、金で転ぶなら話は早い。ちゃんと用意してきたぜ。


「1万ドポン(200万円)前払いだ」ドンッ

 100ドポン紙幣100枚の札束をテーブルに置きスッとリーゼの前に突き出す。

 牧場まきばの少女はこの大金に眉一つ動かさず淡々と受け取った。

 この程度の金額は日常茶飯事なのだろう。


「悪いようにはしませんので安心してください」ニヤリ

「頼もしいね。じゃあ段取りを聞かせてもらえるかな」

「直ぐに欲しいとのことですからフレッシュチーズにします」

「いつできるの?」

「今から作れば夕方にはできます」

 イケるやん! これで明日にはドワーフの源さんと取引きできる。

「量はどれぐらいになるの?」

「原料の乳の四分の一ぐらいになります」

 持ってきた母乳は1リットル程だから250グラムになるのか。たぶん。

 ま、酒のつまみなんだから大丈夫だろう。


「了解だよ。じゃあ夕方にまた受け取りにくるね」

「分かりました」

「今日は急な仕事を受けてくれてありがとう」

「こちらこそ、美味しい仕事をありがとうございますぅ」

 リーゼちゃんは満面の笑みで礼を言ってチーズ作りに向かった。

 俺もドワーフが作るチート装備を夢想してニコニコ顔で牧場を後にした。

なろうポリシーに抵触する関係で一部ストーリーが変更されいています。

オリジナル版が読みたい方は以下でどうぞ。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921176881/episodes/16816452218649882469

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