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STAR・BLAZES  作者: 水無月 明
第1章,星の精鋭達
20/21

失われた秘宝

◎本日登場する敵:

☆宇宙海賊リヴァイアス

★第8船長・ミラード・ケトース

★戦闘員・ディープマンズ


☆フロスト・シャークス

大口ビックマウス・メガロ

 シルバー・クレスト第6惑星グラム。


 6つの惑星の中で2番目に小さなこの惑星は、一部地域に限り1年に数回しか日を見る事が出来ない雪と氷に覆われた惑星だった。

 ジパーダと違い鎖国状勢では無かったものの、そんな環境ゆえに食料をはじめ様々な資源が足りず、人々は苦しい生活を送っていた。

 数十年前に銀星系平和条約が結ばれてからは様々な物資が流れ込み、人々の暮らしはかなり豊かになりつつあったのだが、しかしそんな人々を踏みにじる者達もこの惑星に存在していた。


 グラムのクワモス地方、人里はなれたこの場所にかつてシルバー・ウォーズ時に駐屯基地として使われていた施設があった。

 大戦後に破棄され、誰もいなくなったはずのこの施設は今では盗賊団『フロスト・シャーク』の根城と化していた。

 彼らの悪行はグラム軍でも知らぬ者はおらず、近くの村や町を襲っては破壊と略奪を繰り返していた。


 しかしそのフロスト・シャークスのアジトは現在襲撃を受けていた。

だがそれは連合軍ではない、別の勢力だった。

 珍しく吹雪が止んでいるが、いつ降り出すか分からないどんよりした雲の下に1つの宇宙戦艦が浮かんでいた。

 黒く大きな1本角の竜の頭を模した船首、そのすぐ下の船底には3本の鉤爪が生えた竜の手を模した錨が2本、黒い鱗の船体には二階建ての城を取り付けたようなデザインをしており、艫にある6つのロケット・ブースターが火を噴いていた。

 その竜の船体のあちこちからレーザー砲が顔を出すと、レーザーが雨の様に降り注いでフロスト・シャークスのアジトを攻撃していた。

 

 無論フロスト・シャークスも応戦はしていた。

 この基地には高射砲が設置されており、宇宙戦艦に照準が向けると、轟音を立てながら砲口が火を噴いた。

 この高射砲は施設の破棄が決まった際に地下にある動力炉が封鎖され、配線を切られて動かす事すらできなくなったのだが、フロスト・シャークスがここを訪れた際にエネルギー系統に詳しい者がいたので、動力炉と配電盤を修理して扱えるようにしたのだった。

 しかも高射砲のマニュアルが端末内にデリートされずに残されていた為にフロスト・シャークスは理想的なアジトを手に入れたのだった。 

 しかし今回は相手が悪すぎた。

 フロスト・シャークスの高射砲の砲撃は宇宙戦艦全体に張られたバリアにより防がれてしまった。

 空にいるターゲットに向かって放たれる砲弾は光の壁に当たって爆発し、黒い煙を立てていた。

 旧式の高射砲は一発放つと砲弾の充填に時間がかかってしまう…… 宇宙戦艦はその隙を狙ってアジトを一斉攻撃した。

 たちまち高射砲は吹き飛び、建物の中は火の海となって爆煙が立ち上った。

 フロスト・シャークスの人間達は蟻の巣をつついたかのように飛び出してきた。


 すると宇宙戦艦が降下して来ると、武装した人間達が飛び出した。

 それぞれ出身星や服装は違うが、それぞれ2本のサーベルを交差させたその上に竜の頭蓋を乗せた紋章が入ったバンダナやベストを身に纏った彼らは逃げ惑うフロスト・シャークスのメンバー達を惨殺し始めた。

「ぎゃあああっ!」

「ぐああああっ!」

 刃物で斬られ、銃弾をその身に受けたフロスト・シャークス達から血飛沫が舞うと真っ白な雪原を赤く染めた。

 次々と倒れて動かなくなったフロスト・シャークスのメンバーを尻目に男達はさらに奥へと侵入して行った。


 施設内は天井に設置されたスプリンクラーから水が放たれているが、最早それだけでは消火が追い付かない程になっていた。

 そしてアジトの最深部、指令室だったのだろう、画面が割れたり壊れたりした端末がいくつも並んでおり、1人の男を壁際まで追い詰めた。

 身長は3メートルを超える巨漢で、重力に逆らったように逆立った黒髪、岩の様に厳つい顔の右目には切り傷、鍛え抜かれた筋肉質の体の上にはち切れんばかりに着込んだショルダーの無い鎧を装着し、両手には身の丈ほどもある巨大で片刃の鋸のような剣を持ったその男の名は『メガロ』、このフロスト・シャークスのリーダーで、通称『大口ビッグマウスメガロ』と呼ばれていた。

 まるで貪欲な鮫の様に弱者を食い物にする事からその名前が付いたのだが、今では自分が襲われる側となっていた。

 メガロは男達を睨みつけながら言った。

「……くっ! て、てめぇ等一体何モンだ? 何が目的だ?」

「良い剣だな、そいつで何人も殺してきたのか?」

「何っ?」

 自分を取り囲んでいる男達は答えなかったが、その少し後ろの出入口に1人の男が立っていた。

 身長はメガロと同じくらいだろう、銀髪の前髪を左右に分けて長く伸びた後ろ髪を項辺りで縛り、岩の様に厳つい顔の右目に刀傷、鍛え抜かれてガッチリした上半身には黒いシャツを着こみ、下半身は白いズボンを穿いて腰には黒いベルトを巻き、両足には脛まであるブーツ、丸太のような両肩からは白いロングコートを羽織り、右手に持った巨大な両刃剣を肩にかけていた。

 男がゆっくり近づいてくるとメガロは怒りに満ちた目をさらに吊り上げ、歯を軋ませながら身構えた。

「テ、テメェがこいつらの頭か? よくもやりやがったな!」

「何言ってんだ。お前等だって何の予告もなく村や町を襲って来たんじゃねぇのか? だとしたらお互い様じゃねけか?」

「はあっ?」

「まぁ、それはともかく、オレ達はお前さんに話が合って来たんだ」

 男は一間置くと握った右手の親指を自分に突き立てながら言って来た。

「オレは『リヴァイアス』第8船長の『ミラード・ケトス』、喜べ! ウチの提督ボスがお前さんを仲間にしたいって言って来たぜ」

「リヴァイアス? まさかあの宇宙海賊のか?」

「どうやら知ってるみたいだな、だったら話は早ぇ、一緒に宇宙そらに行こうぜ? 絶対楽しいからよ」

 ミラードは手振り素振りで説明する。

 周囲の男達も肩に武器をかけながらあざ笑う様にメガロを見ていた。

 だが当人のメガロの答えは決まっていた。

 メガロは盗賊としては残虐非道だが、身内に対しては寛大だった。

 突然現れて仲間達を皆殺しにしたリヴァイアスに『はい、分かりました』と言う訳が無かった。

「黙りやがれ! オレの仲間達を殺した奴らが勝手ほざいてんじゃねぇ!」

 案の定と言うべきか想定はしていただろう、ミラードは両手を上げると鼻で笑いながら言って来た。

「ハッ、オレ達の目的はお前さんだ。それ以外に興味はねぇ…… 大体この程度の不意打ちでくたばるような奴等にゃこの先生きて行く資格すらねぇんだよ」

「テ、テメェ―――ッ!!」

 激高したメガロは床を蹴ってミラードに襲いかかった。

 ミラードの手下達はとっさに左右に分かれるが、ミラードだけは微動だにしなかった。

 そこにメガロが大きく振りかぶった剣をミラードの頭から振り下ろした。

「フン」

 しかしミラードはメガロの剣をあっさりと交わしてしまった。

 メガロは振り下ろした剣をミランに向かって振り上げた。

「このぉ!」

 渾身の力を込めた一撃だったが、ミラードはこれもあっさり避けてしまった。

 ミラードはメガロを完全に手玉に取っていた。

 何しろメガロが持つ大剣は確かに威力はあるが太刀筋が読まれ易い、冷静な時ならともかく、今のメガロではただ重たい金属の塊を振るってるだけに過ぎなかった。

 それだけではない、剣を振るい続けたメガロの集中力は切れ、全身汗だくとなって息が上がって来た。

 メガロの攻撃が止んだ瞬間、ミラードは部屋中にいる手下達に言った。

「ディープマンズ、お前らはお宝を運びな、ここはオレが何とかしておく」

「は? いいんスか?」

「ああ、早く行け」

 ミラードがそう言うとディープマンズは部屋を後にした。

 部屋にはボス同士、2人だけが残った。

 するとミラードは右手を伸ばすと背負っている剣の柄を握って引き抜いた。

 メガロの剣と一回り小さいが、真っすぐ大きな両刃の白刃、立派な装飾が施された鍔、柄の先端には口を開けた犬の様な彫刻が彫られていた。

 その剣の切っ先をメガロに向けながら言って来た。

「これが最後の警告だ。オレ達の仲間になれ、悪い様にはしねぇよ」

ミラードはそう言っているが、内心は逆を願っていた。

表情を見れば分かる、口は笑っているが目は笑っていない…… 間違いなく『断ったら命が無い』のでは無い『むしろ断れ』と言った顔だった。

 そんなミラードを察したメガロは忌々しく歯を軋ませた。

「グッ!」

 メガロには降参以外に生き残る方法は無い、それは自分も分かっていた。

 自分の部下達は皆殺し、助けに来る事はまず無い…… おまけに攻撃の空振り続いて体力は大幅に削られてしまった。

 そんな状態で戦い、仮にミラードを倒したとしても表にはディープマンズがいる…… 奇跡でも起きない限り自分が助かる事は無かった。

 

 覚悟はできていた。

 自分も散々罪の無い者達の命を奪っていたので人並みの幸せは望め無いのは分かっている、どこで死のうとそれは自分の責任だ。

 だがいくら盗賊でも意地と言う物がある、このまま一矢報いず無様に倒れる事など我慢ならなかった。

「うっ、うおおおおおっ!」

 メガロは大剣を振るって飛び込んだ。

 案の定相手の抵抗を待っていたミラードが目を染めて白い歯を見せて笑うと、突然剣の刀身が眩い光を放った。

 その光はやがて部屋の中に溢れ出してメガロは光に包まれた。

「何っ……」

 メガロの意識はそこで途切れた。


 何が起こったのか分からなかった。

 ほんの一瞬の内にミラードはメガロの後ろに移動していた。

 それだけではない、いつの間にか左肩から右わき腹までを切り裂かれ、夥しい鮮血が宙に舞うと床を濡らした。

「……な、なぜ……? ……ガハッ!」

 メガロはカッと目を見開いたまま床に倒れると動かなくなった。

 ミラードは剣を上下に思いきり振るうと、刀身に付着したメガロの血を振り払った。

 そして背中の鞘に納めるとため息を零しながら言って来た。

「あ~あ、もっと強ぇ剣士はいねぇのかなぁ……」

 絶命したメガロの遺体を背にミラードは部屋の中を後にした。


 降魔一族の事件から2ヶ月後。

 アレンがスター・ブレイズに配属されてから半年経とうとしていた。

 宇宙を航行中のフェニックス、その船内ではアレンとユウトの御前試合が始まろうとしていた。現在アレン達のいるトレーニング・ルームでは訓練用のレーザー・ブレードを構えたアレンとユウトが互いに向き合っていた。

 しかしこのトレーニング・ルームの中にいるのはアレン達だけでは無かった。現在アレン達の周囲には多くの女性クルーが集まっていた。

 以前にも話したが船内にはスター・ブレイズ隊以外にも軍人や軍と契約している労働者が乗船している、ここに集まっているのはスター・ブレイズ隊と同世代の女性クルー達だった。

「きゃ~~っ! アレン隊長頑張って~~っ!!」

「Ⅼ・O・Ⅴ・E、ア・レ・ン! Ⅼ・O・Ⅴ・E、ア・レ・ン!」

「素敵っ! 結婚して!!」

 さりげない告白まで聞こえてくるが、ここにいるのはフェニックス内で結成されたアレン・ファンクラブの会員達だった。 

 アレンは暇さえあれば他の班の元に行き、仕事を手伝っていた。誰に対しても分け隔てなく接する人柄に女性クルー達の心はアレンに鷲掴み(勿論本人にその気はない)にされていた。

 しかしファンクラブにも派閥があった。

 それはアイファが設立した通称『アイファ組』とリリーナが設立した通称『リリーナ組』だった。

 アイファ組は白の生地のノースリーブのシェルトップのシャツとプリーツタイプのミニスカートに赤・緑・黄のポンポンを持つチアリーリングの格好をしている。

 方やリリーナ組は白と青の鍔付きの帽子を被り、白い生地に丈 の短いスカートでノースリーブのワンピースの上から青い襟詰めのカラードガード風の上着を着込み、手には白い生地に青く『ALLEN』と書かれた棒付きの旗が握られていた。

「隊ちょ~っ! 頑張って~~っ!!」

「アレン様~っ! 私達がついてますわ~~っ!!」

「「はああっ?」」

 アイファとリリーナは年頃の娘がしてはいけない顔をしながら互いを睨みつけた。

 勿論その2人の背後にいる派閥の者達もだった。

「アンタ達! 何しれっとアタシ達のマネしてんのよっ!? 迷惑だから止めなさいよっ!」

「それはこちらのセリフですわ、キャイキャイ騒ぐだけの騒音集団こそアレン様には相応しくありませんわ!」

「はぁ!? ふっざけんじゃないわよ! アタシ達の真似してできたパクリのクセに! アタシ達の応援の方が隊ちょ~を元気づけてるんだから!!」

「たかが私達より少しばかり先に出来たからなんですの? 重要なのはどれだけアレン様の高貴なる魂と強さを輝かせるかどうか…… すなわち私達以外の存在はあり得ませんわ」

「何が輝かせるよ! アンタ達なんかじゃ隊ちょ~を輝かせるどころか闇に染まっちゃうわよ! そんなんなら懐中電灯の方がまだマシよ!」

「貴女達こそ、元気づけるどころか訓練の妨げになっている事が分からないんですの? 大声出すだけなら怪獣でもできますわよ!」

 アイファとリリーナ、互いに譲らず睨み合う2人の間には火花が飛んでいた。

 それを見ていたアレンはアイファ達を止めようとして右手を伸ばすそうとするが、とても止められる様子もなく、口ごもって首を傾げてしまった。

 応援してくれるのは確かにありがたい事だ。しかしアレンには自分の為に言い争いが起きている事にどうして良いのか分からなかった。

 するとその様子を見ていたユウトは鼻で笑うと構えを解きながら言ってきた。

「ハハッ、相変わらずモテるな隊長、羨ましいぜ」

「ユウト~~……」

 からかって来るユウトにアレンは呆れる。

 するとユウトが女性クルー達に言った。

「皆―っ! 俺達を応援してくれてありがとうな! でも隊長が困ってるからどちらか片方が俺に応援を……」

 ユウトが言いかけたその瞬間だった。女性クルー全員の顔が鬼と化した。

「ああっ? ふざけんなクズ! 調子乗んな!」

「誰がテメェなんざ応援するか! 死ね! この山猿っ!」

「いっそ殺せーーーっ!!」

 アレンの時とは打って変わって部屋中にブーイングが飛びまくった。

 そんな状況を見てアレンは顔を顰めながら後ずさりしながら思った。

(……女は恐い)


 それから直ぐ試合が行われた。

 勝負は時間無制限の5回勝負、先に3回勝利した者の勝ちだった。

 その結果、3対2でアレンの勝ちだった。試合後は後片付けをし、シャワーを浴びて汗を洗い流すと、着替えに袖を通してトレーニング・ルームを出た。

 普通ならこの後は食堂で食事…… と言うところだが、今回は違った。

「いや~、今日は負けたぜ…… でも次は負けねぇからな」

「……それ以前にユウト、君は自分の事を何とかしろ」

「自分の事って?」

「女性クルーの事だよ、今直ぐにとは言わないけど、謝った方がいい」

「おいおい、俺は別に悪い事してねぇだろ、むしろ俺は女の子達とお近づきになりたいだけだ」

「お近づきの意味が違うだろ! って言うか、いつか刺されるぞ」

「何だよ隊長、ジンやアイファ達には優しいのに何で俺だけ厳しいんだよ?」

「……君には同情の余地が無いんだよ」

 アレンは呆れながらため息を零した。

 ユウトはスター・ブレイズ隊に配属される前はジパーダのエリートのみが集まる部隊に所属していた。

 魔法の才能はあまり無いが剣の腕がずば抜けて高く、ジパーダでも名高い『無限流』を僅か15才にして習得して『神童』とま呼ばれていた。

 軍に入ってかもそれは変わらず、同期はおろか大人でさえ敵う者はいなかった。

 順調に進めば若くして部隊長を任されてもおかしくなかった。

 しかし、ユウトは極度の女好きの為に女性隊員へのセクハラ、および更衣室や女湯室を覗く等の問題行動を起こしてスター・ブレイズ隊に送り込まれてきたのだった。

 しかもフェニックスに乗船してからもそれは変わらず、女性クルー達にセクハラ行動を繰り返して反感を買っていたのだった。

 アレンが配属されて以降は大分控える様になったが、それでも女性クルー達の怒りは凄まじい物だった。 

「とにかく、謝っておきなよ、セクハラなんて軍人どころか人間として失格だ」

「へ~、へ~、気を付けま~す」

 明らかに反省などしていなかった。

 ユウトは頭の後ろに手を回しながら言い返した。

 その姿を見たアレンはため息を零した。        


 それから数日後。

 スター・ブレイズに1つの指令が届いた。

 アレン達が指令室に集まり、各自の席に座ると中央のディスプレイにブリリアンカットされた赤い宝石が映し出された。

 その宝石の直径は30センチ、横幅15センチ、人間の男の握り拳と同じ位の大きさだった。

「これ、ルビーですか?」

「違いますわ、これは『魔石』…… しかも『ブライトンルビー』ですわ」

 リリーナが言った。

 魔石と言うのはその名の通り、魔力の籠った石の事で、普通の宝石と違い魔力が集中する土地より採掘される。

 勿論一口に魔石と言っても様々なタイプの物が存在する、所持者の魔力の増幅させる物や、魔法を封じて自由に解き放つタイプの物も存在する、こうして置けば魔法が使えなくなった時の保険として使えるからだ。

 さらに宝石ほどでは無いが、見た目が美しい為に装飾品などに加工されて高値で売買されている。

 アレン達が見てお時にいるのは『ブライトンルビー』と呼ばれる魔石で、ベルシエールのごく一部でしか採掘されない特殊な物である。

 主に光の魔法を増幅させる効果があり、光がこの中に入ると一点に凝縮されて破壊力を増幅させて放つ事が出来るのだが、ディスプレイに映っているのは『ハイ・ブライトンルビー』と呼ばれる物だった。

 このハイ・ブライトンルビーは歴史的にも大変価値があり、値打ちが付けられない為に全銀星遺産として認定されている。

 普段は警備が厳重なベルシエール第1支部の地下に保管されていたのだが、今回アルケミア第1支部が開発中の新型レーザーの実験の為に特別に借りる事ができたと言う。

 しかしベルシエールからアルケミアまでの運搬中に輸送船が襲撃に会い、ハイ・ブライトンルビーを紛失してしまったと言うのだった。

「そんな大事な魔石が…… 紛失?」

「歴史的な物となると相当不味いな」

「不味い何てレベルじゃない、こんな事が世間に知れたらベルシエール政府からの信用はガタ落ち、下手すると連合軍開発局はおろか…… それ以上、『総星会そうせいかい』の首が危うくなるな」

 マーカーが説明すると周囲はさすがに血の気が引いた。

 総星会とは連合軍の代表、つまり最高権力者である最高議長1人と12人の議員で構成されている事からそう呼ばれている。

 もし彼らに何かあれば全銀星系連合軍その物が存亡の危機となる…… 末端の末端であるスター・ブレイズは影響はないだろうが、それ以上の存在には大打撃なのは間違いなかった。

 するとルイスがアレンの顔が強張っているのに気づいた。

「隊長? どうしたんですか?」

「いや、何でもない…… ただ、考え事をね」

「考え事?」

「そんな大事な依頼が…… 何でウチみたいな所に来たかって事ですよ」

「あ、言われてみれば……」

 アレン達は一斉にマーカーを見た。

 するとマーカーは一瞬両肩をビク付かせると顔を強張らせた。

 そしてざっとアレン達の顔を見回すと咳払いをしながら言って来た。

「べ、別に良いじゃないか、それだけオレ達が評価されたって事だ」

 明らかに誤魔化していた。

 マーカーもあまり嘘が上手では無い方で、嘘を付く時は目が泳ぐ癖がある。

 しかし命令は命令、依頼を断る訳には行かないので、スター・ブレイズはアルケミアに向かう事になった。


 ハイ・ブライトンルビーは2週間限定で借りる事を許可されている、よってそれまでに見つけ出さなければならなかった。

 ちなみに今回の件はベルシエール政府には知らされていない、軍と政府との関係を保つ為に秘密裏に処理のが1番だからだ。

 だがあまり猶予は無い、ハイ・ブライビトンルビーを回収し、実験の事を考えると3日以内に探さなければならなかった。

 幸いハイ・ブライトンルビーはビーコンを発する特殊カプセルに入れてアルケミアに落下させたので、それを回収するだけの事だった。

 

 アルケミアはシルバー・クレストでも1番科学技術が発達した惑星だが、アルケミア全土が機械化されている訳ではなかった。

 アルケミアの科学は最早アルケミアだけの物では無く、銀星系連合軍…… 引いてはシルバー・クレストの発展に欠かせぬ物となっている。

 しかし他の惑星とは言え自分達の教えた術により必要以上な環境の破壊を招く可能性を快く思わなかったアルケミア政府は銀星系連合軍の上層部や各惑星の代表と話し合いの末に『自然環境と最先端の共存共栄』と言う条件の元、自分達の科学技術をシルバー・クレスト全土に差し出す事にしたのだった。


 今回の特殊カプセルもその1つだった。

 カプセルは大気圏でも燃え尽きないように宇宙戦艦に使われているのと同じ素材を五重構造にして作られており、尚且つ大気圏突入時にはカプセル内に仕込まれた耐火ジェルが自動的にコーティングされる仕組みになっている。

 その耐火ジェルが成層圏に突入する頃には四散してなくなり、その後は3000メートルづつ落下して行く事に連れて1枚づつ分離し、最後の1枚になるとパラシュートが展開して地上に落下する…… 例えパラシュートが開かずに落下した所で内部は傷1つ付かない構造となっている。


 カプセルが落下したのはアルケミア第9支部の管轄内の『ソルドリード』という港町から発せられていた。

 アレン達はビーコンの波長をライセンス・ギアに合わせるとカプセルの回収に乗り出した。

 今回は事情が事情と言う事で全軍出撃、フェニックスの格納庫から2台のバッファローが出撃し、高速道路を使ってソルドリードの町へ向かった。

 バッファローを走らせてから3時間、高速道路を降りてから1時間ほど一般の国道を走り、さらに湾岸道路を30分ほど走ると、1号車の後部座席でライセンス・ギアを見ていたルイスが言って来た。

「皆、もうすぐソルドリードの町に到着するわ。準備をして」

「へ~い」

 いつもの事だが、後部座席に座っていたユウトは気のない返事をした。

 それは助手席に座っているリリーナも同じだった。

 リリーナもムスッとしながら窓際に頬杖を付いて移り変わる窓の外を見ていた。

 そして毎度の事だがため息を零したルイスが2人を宥めた。

「任務は任務でしょう、それに今回は連合軍の危機でもあるんだから」

「だからって私達が行く必要ありますの? 上に恩を売るのは結構ですけど…… どうせならアレン様と2人きりで行きたかったですわ」

「万が一の事を考えての事よ、ハイ・ブライトンルビーを狙って『連中』が現れる可能性があるんだから」

 毎度の事だがやる気のない2人を宥めだ。

 しかしルイスの言う通り、輸送船を襲撃した者達がアルケミアに侵入していると言う情報が入っていた。

 その者達は『宇宙海賊リヴァイアス』、シルバー・クレスト中を飛び回る無法者達だった。

 正確に言うと宇宙海賊はテロリストとは別物だが、テロリスト同様にシルバー・クレスト中に無数存在して人々に脅威となっている。

 リヴァイアスは今から20年前に現れて以降他の海賊団を傘下に従え、確認できるだけでも総勢100万を超える大船団となった。

しかしこれだけの規模の割に詳細が全く分かっていないが、その一角が輸送船を襲ったと言うのだった。

 最早リヴァイアスもテロリストも同然だった。

 するとユウトが言って来た。

「だったら海賊の方が出てきてくれた方がありがたいぜ、俺達なら簡単だ。隊長もそう思うだろ?」

「………」

 ユウトが隣を見るとアレンは暗い顔をしながらうつむいていた。

 よく見ると右手が左手をガッチリつかんで震えていた。

「隊長、どうした? まさか厠か?」

「ア、アレン様? まさかっ!?」

「えっ? あ、ええっ?」

「おいおい、隊長、厠は車に乗る前に行って置くもんだぜ、子供でも分かる事だろ」

「はあっ? いや、違っ! そんなんじゃない!」

「じゃあ何だよ?」

「……大した事じゃないよ」

 慌てふためいていたアレンだったが、やがてため息を零して落ち着くとユウトから目を反らした。

 その様子をバックミラー越しにルイスが見ていた。


 ソルドリードは人口100人弱の寂れた漁村と言う感じの町だった。

 青い海と白い波が立つ砂浜には漁船が引き上げられ、その近くでは日に焼けた大人の男や女達が漁獲網の手入れをし、子供達が辺りを駆け回って遊んでいた。

 しかしビーコンは町からではなく、少し離れた場所には高台から発せられていた。

 とは言え町の人間が見ていないと言う可能性はない、アレン達はルイスとアイファを降ろして事情を聴かせる事にした。

 1時間後に迎えに来ると言う約束をしたアレン達は高台に向かった。

 とは言え町から歩いて20分くらいの所にある高台には白く大きな灯台しか建っていた。

 アレンとユウトはバッファローを降りるとライセンス・ギアを見せて身分を明かし、灯台職員を集めて事情聴取を行った。


 灯台職員達は全部で12名、無理を承知で作業を止めてもらって灯台の入り口に一列に並んで貰うと事情を説明した。

 勿論ハイ・ブライトンルビーの事は伏せていた。

 例え田舎町と言えども油断はできない、いつどこに悪意を持つ者がいるか分からないからだ。

 よって『実験に使う人工クリスタル』と言い訳をした。

「2日程前なんですけど、何か変わった事はありませんでしたか?」

 アレンが訪ねると職員達は一斉に首を傾げた。

 聞くところによると2日前はこの辺りは大時化(海が荒れる事)で、灯台は使われておらず、職員達も自宅待機と言う事になったと言う。

 どうやら本当に誰も知らないらしい…… しかしライセンス・ギアを見ると、ビーコンはこの周辺から出ていた。

 するとユウトが言って来た。

「隊長、どうなってんだよ?」

「……分からない、向こうは見つかったかな?」

 アレン達はビーコンの行方を追っていたジン・サリー・リリーナに連絡を入れようとした。

 現在3人はバッファローから降りてビーコンの行方を追っていた。

 灯台の高台の脇には車で行くには狭すぎるが下に降りる道があり、その下は大小の石がひしめく海岸となっている。

 どの石も海の中で波に揺られる内にぶつかり合って角が無くなって丸くなった物ばかりだが、それでも素足で歩くにはお勧めできない場所だった。

 そんな場所に行っていたサリーから連絡が届いた。

 アレンは無線を入れてサリー達からの連絡を聞いた。

「ああ、良かった。今から連絡しようと思ったところだ。そっちは見つかったか?」

『……隊長』

「どうした? 何かあったのか?」

 アレンは顔を顰めた。

 声の様子からしてただ事ではないのは気づいた。

 だがいつ間でも黙ってる訳にもいかないサリーは思い切った感じで言って来た。

『良い知らせと悪い知らせがある、どっちから聞きたい?』

 アレンは眉間に皴を寄せた。

 良い知らせと言うのはカプセルが見つかった事で、発信器もついており傷1つ付いていなかった。

 そして悪い事と言うのはカプセルが開いて中に収められているはずのハイ・ブライトンルビーが紛失していたのだった。

 スター・ブレイズの任務はあくまでカプセル回収、成功と言えば成功だが中身のない状態では最悪な事態となってしまった。

 報告を受けたアレンは直ちにこの事をマーカーに連絡した。

 マーカーも最悪な事態は想定していたようで、直ちに上層部に報告して指示を仰ぐ事になった。

 

 今からフェニックスに戻っては夜遅くになると言う事で、アレン達は町の宿屋で一泊する事になり、バッファローは宿屋の駐車場に停車させてもらう事になった。

 施錠してバッファローを降りると一晩世話になる建物を見た。

 良く手入れはされているが築30年と言った所だろう、雨風に晒され塗装が所々剥がれた青い屋根、薄く汚れた白く塗られた壁、木製の入口の上には黒と白の色の魚に似た動物の看板が掛っており、胴体部分には『荒波のシャチ亭』と書かれていた。

 するとリリーナが目を細めながら言って来た。

「……なんだか、小さいホテルですわね???」

「民宿って言うらしいわ」

 ルイスは言った。

 民宿と言うのは読んで字のごとく、民間人が経営している宿泊施設の事である。

 リゾート施設の様にプールやゲームセンターなどの娯楽は無く、食事と寝泊りするだけの施設だった。

 

 扉を開けて中に入ると、店内は大いに賑わっていた。

 荒波のシャチ亭の1階は食事処となっているらしく、仕事を終えた漁師達が酒宴を行っていた。

 日に焼けた肌にガタイの良い男達は明日の鋭気を養う為に目の前に出された料理をつまみながら発泡酒の入った盃を交差させてグイッと飲み干していた。

 その豪快さはまさに海の男と言った感じだった。

  

 アレン達が利用する宿泊スペースは2階にある。

 しかしここは民宿ゆえに個室ではなく相部屋、アレン達男性陣は3人で、女性陣であるルイス・リリーナ・サリー・アイファは2人づつとなった。

 荷物を置いたアレン達は1階の食事処で食事を摂る事にした。

 4人が座れる席が1つ、カウンターに3人と別々になったが、彼らの目の前にこの町で水揚げされた魚介類をふんだんに使った海鮮料理が用意された。

 塩胡椒で味付けした魚の切り身をバターで炒めてオリーブオイルで香り付けしたソテー、骨を取った魚や殻を取った海老や輪切りにしたイカの身にパン粉を塗して油で揚げたシーフードフライ、干した貝や海藻などで出汁を取ったスープなどが目の前に並んだ。

 その料理を頬張りながらアイファが言って来た。

「さっすが港町、お魚が美味しい~っ!」

「当然、鮮度が違う」

「貴女達、もっと落ち着いて食べたらどうせすの?」

 リリーナは上品にフォークとナイフでソテーを一口サイズに切って口に運んだ。

 だがルイスだけはマーカーからの指令が気になるのか、ライセンス・ギアを時々見ながらオレンジジュースを飲んでいた。

 するとカウンターで食事を摂りながら発泡酒を飲んでいたアレンがルイスに気づいて言って来た。

「ルイス、考えても仕方ない、いざって時の為に今は食べよう」

「え? ええ、そうですね、分かりました」

 ルイスは答えるとライセンス・ギアを上着に締まってフォークを取った。

 隊長と言う役職ゆえに部下の不安や体調を考えるのは当然の事、食事を摂り始めたルイスを見たアレンは自分も食事に戻ろうとした。


 アレンが座っている席の右側ではジンが問題なく食事をしている。

 しかし左隣のユウトは不満と言う訳では無さそうだが、顔を暗くしながら食事をしていた。

「どうしたユウト? 嫌いな物でも入ってたのか?」

「ん? いや、そうじゃねぇよ…… ただ、新鮮な魚は生で食った方が良いと思ってな」

「生で? 火を通さずにか?」

「ああ、一口サイズに切った魚の切り身…… 刺身っつーんだけど、それにワサビをほんの少し乗せて醤油につけて食うのが1番美味ぇんだ」

 信じられないと言った感じのアレンにユウトが力説する。

 どの惑星でも魚は食卓に並ぶ、調理法や食べ方は各惑星の文化として深く根付いているのだが、魚を直接生で食べるのはジパーダだけだった。

 

 その1番の理由は寄生虫だった。

 魚には寄生虫が付きやすく、一緒に食べると寄生虫が胃を食い破ろうとするので激しい腹痛に覆われ、下手をすれば命にかかわる。

 よって1番安全な食べ方としては一度火を通すか、もしくは腸を取り除いて干物にするか燻製にするかのどれかだった。

 ジパーダにもカマボコやツミレと言う魚を加工した食材は存在するが、1番良く食べられているのは新鮮な魚肉をそのまま食べる刺身か、その刺身を調味料と混ぜて一口サイズに握ったライスの上に乗せた寿司と呼ばれる料理のどれかだった。

 故にユウトは宇宙に行ってからは気軽に生魚は食べられなくなった。

 フェニックスで働いている職員にもジパーダ人がいるので食堂のメニューにも魚を使ったジパーダ食は取り入れられているが、それでも扱われているのは煮物か乾物の炙り物しかなかった。


 そんな感じで熱弁している時だった。

 カウンターの奥から1つの皿がユウトの前に差し出された。

 その料理を見た瞬間、ユウトは飛び出るかと思うくらい驚いた。

「なあっ!?」

 思わずカウンターに両手を叩きつけ立ち上がると、食堂にいた全員がユウトに向かって注目する。

 何とユウトの目の前の皿には夢にまで見た魚の刺身があった。

 長方形で黒く焼かれた皿の上の左上には緑色のハーブと白い根野菜を細く切った物が乗せられ、その上から宝石のように美しい光沢を放つ赤身魚や白身魚の切り身、はたまたイカの切り身が綺麗に盛り付けられていた。

 しかも嬉しい事に皿の右下には擦りおろされて小さく盛られた緑色の薬味もあり、さらに刺身の皿とは別に黒く水の様にサラサラしたソースの入った小皿と箸も差し出された。

「蓬、大根のつま、ワサビ、醤油…… マジかよ?」

 ユウトが顔を上げるとそこには年上の女性が立っていた。

 年は20代後半~30代と言った所だろう、腰まである長い金の髪をうなじで縛り、黄色い生地にシャチの絵が描かれたエプロンを羽織っていた。

 彼女は一間置くと言って来た。

「話は聞いたよ、こいつはサービスだから食っていきな」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! ってか何で刺身が? ここアルケミアだろ?」

「それ、『サシミノモリアワセ』はウチの裏メニューでね、この辺りじゃウケが悪すぎて滅多に出さないんだけど…… 亭主が久々にジパーダ人に出会ったって嬉しくなっちまったみたいでね」

 女将が振り向くと、そこではこの店の店主であろう男が包丁を片手に料理をしていた。

 年は40前半、紺色で半袖の割烹着から除く腕はガッチリと引き締まっており、黒く短く切った頭は髪の毛が落ちないように防止を被っていた。

 彼がこの荒波のシャチ亭の店主、マサツグ・シノノメだった。

 彼は目線をユウトに向けると口の橋を上にあげた。

 どうやら同じ星の者と出会えた事が嬉しかったらしい…… ユウトも思わぬ場所で大好物に出会えた事が嬉しかった。

 ユウトは早速箸を取ると醤油にワサビを溶かすと刺身を浸して口に入れた。

 途端潮の香りと魚の味が口の中に広がり、自然とユウトの目から涙が零れ落ちた。

「うっ、ううっ…… 美味ぇ、美味ぇよぉぉ!」

 ユウトは涙を流しながら刺身を食べ続けた。

 その姿に仲間達は顔を顰めた。

「……ユウト、そこまでなの?」

「私、さすがに生物だけは苦手……」

「さすがに引きますわね」

「皆、味の好みは人それぞれよ」

 ルイスが女性陣をなだめた。

 カウンターではジンは興味を持たずにただひたすら料理を食べていたが、アレンと女将はルイス達同様にユウトの顔に苦笑しているのも事実だった。

 するとアレンのライセンス・ギアに本部からの通信が入った。

 

その通信とは……

第20話、アップしました。

更新が止まってしまい申し訳ありませんでした。

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