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STAR・BLAZES  作者: 水無月 明
第1章,星の精鋭達
19/21

一筋の光明

◎本日登場する敵:

☆降魔一族

★魔皇・アスラ

★骸魔・ガオウ暴走体


☆地底怪獣(過去)


☆ストリンガーズ(過去)

 夜の空に黒煙が舞い、耳をつんざく轟音が轟いた。

 しばらく経つと煙が晴れて視界が良好となり、周囲に静寂が訪れた。アレンの放った爆弾によりガオウがいた場所には地面が大きく抉れて黒ずんだクレーターが出来ていた。

 そのクレーターの周囲にはガオウ本人の物だろう骨や肉片や臓器などが散乱し、最早原型をとどめていなかった。

 そんな状況をアレンが固唾を飲み込んで見守っていると、アレンの元に仲間達が集まって来た。

そして隣に立ったユウトが刀の峰を肩にかけながら訪ねて来た。


「……終わったのか?」

「そうあってくれるとありがたいな」


 アレンは言い返す。

 できればアレンもそう思っていたからだ。

 だが現実はそう思い通りに行かなかった。

 突然クレーターの中央辺りが怪しく輝くと、土の中からあの異形の者達の額から生えた黒い結晶体が飛び出した。

 しかしそれは今まで見てきた結晶体とは形も大きさも違っていた。

 今までのは額から親指くらいの大きさくらいの大きさだったが、ラグビーボールくらいの大きさで、磨かれた六角形のクリスタルの様だった。

 糸で吊り下げた訳でも無いのにふわりと浮かび上がった黒い結晶体が不気味なオーラを放つと、周囲に散乱していた体の一部一部も不気味なオーラを放ち、ふわりと浮かびながら黒い結晶体に向かって飛んで行くと、細かくちぎった粘土のように張り付き始めた。


 ゴキゴキゴキ!


 不快な音を立てながらガオウは復元して行った。


『ギシャアアアァァアァァーーーッッ!!』


 ガオウは再び大口を開けると狂ったように雄叫びを上げた。

 勿論それだけではなかった。後頭部の無数の棘が伸びて足代わりの触手のようにしなると先端がアレン達の方を向いた。

 途端先端に黒い光が集まると無数の光線となって発射された。

 

「回避!」


 アレンが叫ぶと仲間達は四方に飛び散り敵の攻撃を回避した。

 黒い雷撃はアレン達の元居た場所を砕き、砕かれた大地は異臭を放ちながらドロドロに溶けだした。

 威力は先ほどの目から発射された光線ほどでは無いだろう、だがナイトがないこの状態では関係なかった。一発でも食らえばお終いだった。

 ガオウはその後も触手をくねらせながら怪光線を放ちまった。最早ガオウにはアレン達の姿は見えていないのだろう、縦横無尽に繰り出される怪光線は天を貫き、地を薙ぎ払った。

 最早暴走するだけの怪物……、いや、怪獣と化したガオウは触手を巧みに操りその場から動き出した。

 アレンは巻き沿いを食わないように回避すると、ガオウの過ぎ去る様を見ながら言った。


「まずい、このまま進ませたら駄目だ!」

「でもどうすんだよ? 倒せないんじゃどうしようも無いぜ!」

「もう銃弾も残り少ないわ」


 ルイスは予備弾倉を見ながら顔を顰めた。それを言うならアレンも同じだった。

 しかも今まで休憩無しに戦い続けてきたアレン達は体力の限界を迎えていた。

 だが不幸中の幸いと言うべきか、今ので敵の弱点が分かった。


「奴も他の連中と同じでやっぱり黒い結晶体があった。つまりそれを中心に復元したって事は……」

「それを破壊すれば倒せるっての?」

「チッ、それが分かったって仕方ねぇだろ」

 

 ジンは舌打ちをする。

 アレンが持ってきた爆弾はもう無い、仮にあったとしてもガオウは効かない体質になっているはずだった。

 有効な対抗策としてはアイファのフォジャン式だがそれは賭けだ。実際アイファが消滅させた触手は完全に再生しておらずにボロボロになっていた。

 だが仮に通じたとしてもフォジャン式には欠点がある、それは近づかなければ使えないという事だった。

 するとリリーナは深くため息を吐きながら言ってきた。


「私の渾身の魔法を放ちますわ、何とか核を露出させますからそこを一気に攻めてください」


 リリーナも無理をしているのだろう、息が荒く顔が青くなっていた。

 魔法は無限に撃てる訳ではない、せいぜいあと1発か2発程度だ。

 しかし出し惜しみしている暇はなかった。

 いくら人里から離れてはいるが、連合軍が守るのはそこに人間達だけでなく任務中に降り立った惑星の貴重な現生資源も守るのも重要な任務だった。

 異形の者達の瘴気によって汚染されたこの森が元に戻るかどうかは分からないが、これ以上の破壊は防ぐに越した事は無かった。


 アレンは更なる手を考えた。

 しかし無限に姿を変え、更に攻撃の効かない体に変体を繰り返すガオウに対していくら策を練ろうが無駄だった。

 その策を行ったとしても倒せなければ意味がない……、まさにイタチゴッコだった。

 

「くっ、どうすれば……」

 

 さすがのアレンもこれには頭を抱えた。

 だがその時だった。突然アレン達の耳に激しい爆音が轟いた。

 途端ガオウの体が爆発して火を噴いた。


『ギャアアアァァッ!!』

 

 爆発したガオウの顔の右の頭部を吹き飛ぶうと、鱗が飛び散り、肉が抉れ、目玉が零れ落ちると黒い体液が噴き出した。

 するとガオウが向かっている先に1つの影があった。

 アレンは目を見開いてその者の名前を叫んだ。


「サリーっ!」


 アレンが叫んだ。

 サリーはナイトを装着しており、両肩のツイン・キャノンの砲口から煙が噴き出ていた。

 アレン達はサリーに向かって走り出すとサリーもアレン達に向かって走り出して合流した。

 サリーはガオウを見るとアレン達に言ってきた。


「隊長お待たせ……、って言うかこの怪獣は何?」

「ああ、ガオウだ」


 アレンは簡単に説明する。

 するとサリーはある物を取り出した。

 それは小さなケースに入ったメモリーカードだった。

 サリーが説明するとそれは異形の者達から出ている電磁波を無効化する制御カードだった。

 当然サリーのナイトにも搭載されているし、人数分持ってくる予定だった。しかしここに来る前に仲間達はナイトを脱ぎ捨てていた。一応セットはして来たが、一々装着しに戻っていては時間がかかるので、どちらにしても意味は無かった。

 アレンはサリーからカードを受け取りながら言った。

「助かった。あいつの弱点も分かったし、少し時間を稼いでくれ」、

「了解」

 

 そう答えるとサリーはガオウに向かって体制を変えた。

 彼女の後ろではアレンが自分のライセンス・ギアを取り出すと、内蔵されているSDカードの交換作業を行った。

 この中で唯一戦えるのはサリーだけだった。相手がいくら無限に再生できるとは言え、サリーのナイトの武装の火力はスター・ブレイズ1だった。

 サリーはゾンビのように零れ落ちた目玉が頭蓋の目の窪みの中に引きずられる様に戻り、消し飛んだ筋肉と皮膚が再生しつつあるガオウにツイン・キャノンの砲口をガオウに向けると、ゴーグルにその照準がセットされた。

 

「発射!」


 サリーのツイン・キャノンが轟音を立てながら火を噴いた。

 解き放たれた2つの閃光は再びガオウにヒットすると大爆発を起こした。あまりの衝撃にガオウは悲鳴を上げながら横転した。

 

『ギャアアアァァーーーッ!!!』

「ん、効いた?」

 

 サリーは目を見開いた。

 ガオウは一度受けた攻撃は二度と効かなくなると聞いていた。しかし実際ガオウにはサリーの攻撃は通じた。

 アレンが嘘を言う訳はないし、ましてこの状況で嘘なんてついて得をする者など誰もいない…… つまり再生と変異を同時に行う事は出来無いと言う事になる。

 しかも再生する前なら攻撃が通用する、再生する前に攻撃をし続ければ勝機はある。


「それなら」


 さらにサリーはツイン・キャノンの照準を合わせると再び発射した。

 だが今度はエネルギー波ではなく、圧縮されたバレー・ボール位のエネルギー弾だった。

 ツイン・キャノンには2つのモードがある、1つ目はエネルギーの充填に時間がかかるが威力が大きく射程も広い単発式の『バスター・モード』、2つ目はエネルギーの充填にあまり時間がかからないが、その分威力と射程の劣る連射式の『リピッド・モード』で、現在使っているのは後者の方だった。

 しかし威力はだいぶ下がるとは言え、サリーのナイトは強化型なので量産型のナイトの砲撃とは桁違いだった。

 しかしガオウの方もただで済ませる訳が無かった。

 爆煙の中から無数の触手が飛び出すとサリーを襲った。


「くっ!」


 サリーは眉を引くつかせ、ツイン・キャノンを止めると今度は両手を伸ばした。

 途端両腕のパーツが競りあがると、右腕に3つ、左手にも3つの計6つの銃砲が現れた。これはツイン・キャノンをさらに小型化した『ガトリング・ショット』だった。

 いくらツイン・キャノンのリピッド・モードが連射可能でも速度が間に合わない、そこで威力と射程はさらに低くなるが武装の中では最速のガトリング・ショットを放つと、無数の光の弾丸は触手を撃ち抜いた。

 触手は撃たれては生え、撃たれては生えを繰り返す、サリーのエネルギー弾も撃ち抜いては消え、撃ち抜いては消えを繰り返す…… この状況は一見互角に見えるが、このまま続くとサリーの方が不利だった。

 ガオウの弱点はアレンから聞いている、しかしその弱点も攻撃できなければ意味がなかった。

本体から飛び出る触手がいくら無くなってもガオウにとっては大した事ではない……、だが1番重要である黒い結晶体のある本体部分の方は攻撃が当たらないので再生し続けていた。

 しかもナイトを装着しているサリーは生身の人間で、疲労が蓄積すればやがて倒れて動けなくなってしまう……、このまま続くと不利だった。

 このまま完全復元されたら打つ手が少なくなる、そう思ったサリーは最後の手に出た。


「ミサイル・ポッド展開、全弾発射ッ!!」


 サリーが叫ぶと二の腕部分と両足部分に装着されている4つのミサイル・ポッドの蓋が開き、収納されていたミサイルが轟音を立てながら飛んで行った。

 ミサイルは触手の攻撃を突き抜けると本体に向かって行き、ガオウは閃光に包まれて爆発した。


 ドガガガガーーーーーッ!!


 激しい爆音と共に大気が揺れて激しい衝撃と爆風が吹き荒れる…… さらに触手の攻撃が怯むとサリーはレーザー・バルカンとツイン・キャノンを同時に放ち続けた。

 ミサイルは一度使ってしまうと使えなくなってしまうが、それでもミサイル攻撃で隙を作った後はツイン・キャノンとレーザー・バルカンのエネルギーが続く限り攻撃をし続けた。


 サリーにとっては初めての戦い方だった。

 実はサリーは今まで自分から攻撃を仕掛けた事は一度もなかった。

 何の計算も合理的な考えでもない、ただの力づく……、今までのサリーにとっては考えられない行動だった。

 サリーのナイトも武装も自分が改造した特別仕様で、その火力と威力ゆえに強力だが扱いに難しく、改造した本人でしか扱う事が出来なかった。

 常に相手の出方を伺い、分析した弱点を狙う合理的な戦い方をしていたのだが、アレンの『考えを捨てる』と言う言葉を考えて試してみる気になったのだった。

 その結果、今だ不安は隠せない物の大分心が楽になった。

 何も考えずに戦う…… それも立派な戦略だった。


 エネルギーゲージが少なってきた事を確認したサリーは残りの全エネルギーをツイン・キャノンに集めると最後の一撃を放った。


「止め!」

 

 今までで1番強力なエネルギー波が飛んで行った。

 同時にツイン・キャノン本体から火花が飛び散って黒い煙が噴き出した。

 無理をしすぎてオーバー・ヒートを起こしたのだろう、他の武装と共に翌日オーバー・ホール(大掛かりに分解して修理する事)が必要だった。

 ただ彼らに翌日があればの話だ。


 MS―5にも勝るとも劣らない大爆発が起こり、ガオウは再び爆炎の中に消えて行った。

 しかしガオウの反撃が飛んでくる事が無く、辺りは静寂に包まれた。

 サリーは全身に疲労感がどっと押し寄せ、その場に膝を着くと汗だくになった顔で息を荒くしながらガオウを見た。


「……はぁ、はぁ……、……これなら……」


 爆煙が少しづつ晴れてゆく……

 視界が良好になると、そこには原型をと留めていないガオウが現れた。

 攻撃を受けながらも多少の変異をしていたのだろう、あれだけの爆発を食らいながら黒い結晶体が露出する事は無く、全身が焼けただれを通り越してほぼ溶解した状態となっていた。


『……ガッ、アアァ、ァァアァ……』


 砕かれた顎から悲鳴にならない声が放たれる。

 しかもサリーの攻撃が止んだ事でガオウの体は再生し始めた。

 ドロドロに溶けた体は高質化し、触手も復元して行った。

 弾薬もエネルギーも使い果たしたサリーにとって絶体絶命だった。


「……くっ、やっぱり」

 

 駄目だった。

 サリーはそう思いながら歯を軋ませた。

 いくら努力しようが頑張ろうができない事だってある、そんな事は分かっているつもりだった。

 初めての力づくの戦い方に後悔は無い、だがやっぱり悔しいものだった。

 しかし結果とは思いもよらない形で訪れる物だった。


『グギャアアアァァーーーーッ!!!』

 

 突然ガオウが苦しみだした。

 再生しつつある体が鉛色に変色するとボロボロと崩れだした。

 その様子を目を見開いたまま見ていたサリーだったが、その理由はすぐに分かった。

 突然背後が明るくなって振り向くと、そこには太陽が昇り真っ暗だった空が明るくなっていた。

 本来なら空は木々に覆われて太陽光は遮られるはずだが、ガオウが派手に暴れた為周辺の木々が薙ぎ倒されて遮る物が何もなくなっていた。

 確かにサリーはガオウを倒す事は出来なかった。しかし弱点の1つである太陽が昇るまでの時間稼ぎに成功した。

 

 するとその時だ。


『……ガッ、アア…… ……ル……シ……、……クル……シイ……』

「えっ?」

『……タ……スケ……テ…… ……タスケ……、……クレ……』


 太陽光の影響か、黒い結晶体の呪縛が弱まっているのだろうか、どうやら自我を取り戻しているようだった。

 しかしガオウを元に戻す方法は分からない以上どうする事もできなかった。

 仮に戻せたとしてもデリート命令が出ているのでガオウは始末しなければならなかった。

 だが武器弾薬も切れ、しかも仲間達の攻撃や魔法も通らない以上ガオウを仕留める事は出来なかった。

 

 ただ1人を除いて……


 するとサリーの後ろにアレンが立った。


「サリー、よく頑張った」

「……隊長」

「後は……、オレがやる!」


 アレンはデータのインストールの終わったライセンス・ギアを構えた。

 静かに目を閉じたアレンはナイト起動アプリを押すとライセンス・ギアから光が発せられてアレンの体に纏わり付くと機械の鎧に具現化して装着された。

 ヘルメットのゴーグルに装着時間が表示されてカウントダウンが開始される、そして目を見開いたアレンはゆっくりとガオウに向かって歩き出した。

 

『ガアッ! アアァアァ、アアアァァッ!!』


 そんなアレンに向かってガオウは攻撃を仕掛けて来た。

 角の先端から無数の怪光弾が発射されるとアレンに向かって飛んで行く、しかし怪光弾は狙いが定まらずアレンの横を掠めるばかりだった。

 間合いを詰めたアレンが右手を翳すと手の中にオーラ・ブレードが現れた。

 さらに左手で柄を握りしめると大きく振り上げた。

 上段に構えたオーラ・ブレードの鍔が展開するとエネルギーが解放されて巨大な光の刃となった。


『……ク、苦シ…… ……アアァ…… ……アアァァァ…… ……助ケテ……』

「クッ」


 アレンは忌々しく吐き捨てた。

 アレンのガオウの犯行データを思い出した。

 どれもこれも反吐がでるほど最悪な物ばかりだった。

 どんな人間でも生きる意味や価値があると思っているアレンでさえ不満はあった。

 今までガオウは多くの命を奪い、人々を苦しめ続けて来た。その際誰しもが『助け』を求めていたはずだった。

 そんな彼らの言葉を無視したガオウが今度は同じ事を言っている…… ハッキリ言って都合が良過ぎだった。

 しかし自分の信条を捨てきれないのも事実だった。アレンは気持ちを振り切り、両手に力を入れた。


「リ・ガオウ ……今、楽にしてやるっ!」


 アレンは目を見開くと渾身の力を込めてオーラ・ブレードを振り下ろした。

 光の斬撃がガオウの唐竹から下を一直線に切り裂き、体内にあった黒い結晶体ごと真っ二つにした。

 

『ギャアアアアアァァァァーーーッ!!!』

 

 黒い結晶体が破壊された事でガオウは体を維持する事が出来なくなり、ほかの異形の者達同様全身が溶解して行った。

 だがそれと同時にアレン達は見た。ガオウの下瞼に涙が浮かんでいた。


『……アアァァ……アリガ……トウ……』


 ガオウはそう言いながらその身を骨に変えて行った。

 異形となった骨を太陽が照らし、夜の世界を新たな日差しが包み込んだ。

 

 戦いは終わったのだった。



 その頃。

 魔境の神殿の祭壇ではアスラが座禅を組んで瞑想をしていた。

 だが脳内に閃光が走ったかのように閃くと目を開いて立ち上がった。


「……奴は消えたか」

『ああ、しかも自然消滅ではない、あの者達にやられたようだ』

「人間も中々やるようだ。そうでなければ張り合いがない」

『次はもっと強力な骸魔を作り出せ、全ては我らの悲願の為に!』

「フン! 望む所だ!」


 アスラはそう言いながら右手を広げると掌の中から真っ赤な血が噴き出し、剣の形状となって固まった。

 それを手に取ったアスラは逆手に持ち返すと赤黒い刃を床に突き刺した。途端大聖堂の床中に無数の黒い渦が浮かび上がり、そこから無数の骸兵達が現れた。

 黒い渦から出て来た骸兵達はアスラの元に近づくと低いうなり声を上げながらその光なき眼で彼を見上げた。

 そんな骸兵達を見下ろしながらアスラはゆっくりと立ち上がると剣を掲げながら叫んだ。


「貴様達に与えた命は仮初の物、この世に再び生を受けたくば『鍵』を探し出せ! 破壊しろ、全ての世界を! 食らえ、全ての命を! この世を闇に変えろ!」

『『『『『ウウゥアアアァァァ!!!』』』』』


 アスラの言葉に賛同するように骸兵達の不気味な声が大聖堂に響き渡った。



 真っ暗な宇宙空間をフェニックスが航行していた。

 ガオウの消滅を確認したスター・ブレイズ達はフェニックスに帰還すると、そこで起こった事全てをマーカーに報告した。

 その後は疲労が限界を超えていた隊員達は泥の様に眠り込み、丸一日目を覚ます事は無かった。

 部下達が休んでいる間、マーカーは第33支部の者達に事の顛末を伝えて後処理を頼み込んだ。

 その数日後、体力がすっかり回復したアレン達はいつもの業務に戻った。

 そして今までやれなかった仕事を片付ける為にデスクに付き、端末を動かして書類の整理を行った。

 だがいつもは騒がしいこの指令室は嵐が去った後の様に静まり返っていた。


 カタカタカタカタ……


 デスクの端末を叩く音だけが響く、誰しもが気まずいと思っている、しかしどう話して良いのか分からなかった。

 相手が死体、または元とは言え『人間』を手にかけた事実は変わらなかった。

 覚悟していた事だがやっぱりやるせないのは事実だった。

 心の中に生まれた嫌悪感や虚無感はそう簡単にぬぐい切れる物ではなかった。

 現実今でもガオウ達の事が頭から離れなかった。

 目が覚めてからすぐにガオウ達との戦闘を思い出すと、戦闘が終わった事の安堵からか激しい嘔吐感が彼らを襲い、胃の中からこみあげて来た。

 慌ててトイレに駆け込み胃の中の物全てを吐き出したが、その後まともに食事が喉を通る事が出来なかった。

 食堂にまともに行く事が出来なかった部下達の為にマーカーが頼み込んでアレン達の自室まで運んだが、まともに食事を採ろうともせず口に入れても直ぐに吐き出してしまっていた。

 事態を重く見たマーカーは医療チームにカウンセリングを頼み込み、何とか食事ができるまでに至った。

 しかしまだ完全に蟠りを消す事は出来ずにいたのだった。

 そんな中、指令室を離れていたマーカーがやって来た。


「よう、みんなやってるか?」

「司令」

「ああ、良い、みんなそのままで聞いてくれ」

 

 立ち上がろうとしたアレン達をマーカーが制すると自分の席に座った。

 そして一息つくと部下達を見回し、暗くしている顔を見て口を開いた。


「今回の件じゃ辛い思いをしたな、だがこんな調子が続くと身が持たないぞ」

「……え、ええ」

 

 アレンが頷くとしばらく指令室に沈黙が走った。

 特にアレンにとっては重いだろう、見た目からは分からないだろうが、隊長と言う責務に連れて人の命を奪うと言う重大な結果にアレンの神経はかなり擦り減っていた。

 軍人だって人間、思う所だってある…… するとマーカーはため息を零しながら言ってきた。


「お前ら、少し休むか?」

「えっ?」

「少し休んだ方がいいぞ、オレもそうだったからな」


 マーカーは自分の過去を…… 自分が初めて人の命を奪った時の事を話した。


 それは今から十数年前、マーカーはエンフィールドの地方都市で生まれ育った。

 しかしその地方都市に一体の巨大怪獣が現れた。固い岩のような皮膚に4本足と額からは2本角、大きく口が裂けた長い尻尾の地底怪獣は町を破壊していた。

 しかし怪獣は町を守っていた軍人達により倒された。

 多くの人々が歓声を上げる中、マーカーも自分達を助けてくれた軍人達に憧れを抱いた。

 自分も大きくなったら軍人になろう、多くの人々を守ってやろう、そう思った。

 それからマーカーは必死に勉強し、体を鍛えると念願かなって正式な軍人となった。

 そしてエンフィールド海軍のボルス隊に配属されたのだが、当時のマーカーは甲板・船内の掃除しかやらせてもらえ無い新人だった。

 しかし新人とは言え戦闘が起これば銃を取り戦いに参加しなければならない…… 配属されてから半年後、ボルス隊が管轄する地域に黒い蠍がエンブレムのテロ組織『ストリンガーズ』による暴動が起こった。

 目的は現在捕らえられている指導者と数人の幹部達の解放だった。

 数ヶ月前、ストリンガーズのアジトを突き止めた銀星系連合軍は奇襲をかけてストリンガーズの指導者と幹部・半数以上のテロリスト達を捕らえる事に成功した。

 しかしそれでも数人の配下と幹部に逃げられてしまい、その彼らが今回の暴動を起こしたのだった。

 ボルス隊は海岸沿いに回って戦艦を停泊させて奇襲をかける事にした。

 当時の連合軍にはナイトは無く、迷彩服の上から防弾チョッキを着込み、頭には鉄製のヘルメットとゴーグル、腰のベルトにはサブウェポンであるハンドガンとナイフ(連合軍支給の短剣)、そして動きやすい膝の丈まである革靴と言う装備で街に繰り出した。

 幸いストリンガーズは町の役所を占拠しているので町人に対する被害は出ていなかったが、町が戦場になる為に避難させている…… 現在は町の外れにある軍の施設が避難所となっていて多くの人々が支援物資を貰って生活していた。

 しかし人質となっている人々の救出も大事だ。

 外側から監視カメラの映像をハッキングすると、ストリンガーズの人数と人質が閉じ込められている場所を確認、隙を見て役所に侵入してストリンガーズの残党と銃撃戦を繰り広げた。

 マーカーは数人の先輩と共に人質解放に向かい、会議室に閉じ込められている者達を解放した。

 初心者と言う事でマーカーは戦闘には参加せず、先輩の1人が扉を勢いよく蹴り飛ばして瞬時に仲間達と供に部屋に雪崩れ込み、ストリンガーズに銃口を向けて発砲した。

 激しい銃声と供に縄で縛られていた人質を解放している時だった。

 倒れていたストリンガーズの1人がマーカーに向かって銃口を向けた。

 それに気が付いたマーカーは瞬時に身を翻し、銃を引き抜いて引き金に手をかけたが、マーカーは引き金を引く事が出来なかった。

 候補生時代に怪獣を倒した事は何回もあったマーカーだったが、生身の人間を撃った事は一度もなかった。

 候補生時代に『テロリストに情はかけるな』と何度も教え込まれてきたが、聞くのと行うのとではまるで違う、人の命を奪う恐ろしさにマーカーは手が振るえ、息が荒くなる…… その極限状態にマーカーの意識が一瞬無くなった。

 そして先輩達の呼びかけにより我を取り戻したマーカーが見たものは、血を流して動かなくなったテロリストだったと言う…… 意識は無いが右手の人差し指には引き金の跡と感触が残っている、間違いなく目の前の敵は自分が殺めたのだと察した。

 それから数時間後、テロは鎮圧、ストリンガーズの残党は1人残らず捕縛された。人質も軽傷の者はいるが、命に係わるほどの大怪我をした者はいなかった。


 しかしその後、マーカーは塞ぎ込んでしまった。

 部隊によりにけりだが、ボルス隊…… しかも新米隊員のマーカーには私室が無く、他の新人隊員達と4人一組の二段ベットが2つに机が1つと言う雑魚部屋で過ごす事になっている、マーカーは自分のベットの上で膝を抱えて呆けていた。

 ルーム・メイト達が心配する中、何日も食事が喉を通らず、何日も部屋に閉じ籠る日々が続いた。  

勿論船医のカウンセリングも受けたが、あまり効果は無かった。

 ふとマーカーの脳裏に幼かった日の事が浮かんだ。

 自分を助けてくれた軍人もこんなに苦しい思いをしたのだろうか、人の命を奪う悪夢を見て怯える夜を過ごしたのだろうかと…… 憧れと現実の違いのジレンマに悩まされ、軍人を辞めようとまで思った。

 

 だがそんなある日の事だった。

 マーカーに見かねたボルスがマーカーの元を訪れ、自分のベットに腰を掛けると一通の封筒を手渡した。

 それはボルスの古い友人が設立しようとしている『新部隊』のスカウトのメールをコピーした物だった。

 出身星・人種は関係ない、様々な能力を持つ未来のある若い軍人のみを集めだして怪獣やテロリストに苦しむ人々を守る独立機動部隊に入隊してみないかと尋ねられた。

 しかし軍人を辞めようと思っていたマーカーは一度断ったが、ボルスもかつてはマーカーと同じ思いをし、かつ友人でもあった彼の支えもあり軍人を続ける気になったのだと打ち明けた。

 その数日後、マーカーは新部隊に行く事をボルスに伝えると仲間達に見送られながらボルス隊を後にしたのだった。


 目を遠くしたマーカーが話し終えると指令室に沈黙が訪れた。

 その間アレン達はマーカーを見続けていた。

 恐らく話したくなかったのだろう、この中で1番付き合いが長いルイスでさえ知らなかった事に彼女本人も驚いていた。

 その視線に気づいたマーカーは鼻で笑いながら言ってきた。


「そんな顔すな、昔の話だ。それよりどうする? そりゃ全員まとめてってのは無理だから2人づつ休暇届けを出してくれれば……」

「いえ、それは不要です」

「ん?」

 

 マーカーが見ると、その視線の先にはアレンが立っていた。

 しかもアレンの目には強い光が復活していた。

 するとアレンは一息つくと頭を下げながら言ってきた。


「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。アレン・ブルースター少尉、直ちに職務に戻ります」


 アレンはそう言うと席に座り直し、端末を動かし始めた。ディスプレイには今まで休んでいた間に書類が溜まっていた。

 それを見たルイス・リリーナ・サリーも同時に立ち上がると言ってきた。


「私達も職務に戻ります。遅れた分は今から取り戻します」

「私も…… このままって訳にもいきませんわね」

「……同じく」


 3人はそれだけ言うと席について仕事を始めた。

 室内にカタカタとキーボードをカタカタと叩く音が幾つも重なる、彼女達の端末にも無数の書類が添付されていて、1つ1つ処理し始めた。

 そんな中、ジンは立ち上がるとアレン達に背を向けた。そんなジンにマーカーは尋ねた。


「ジン、どこに行く?」

「……体が訛ってるから、少し動いてくる」


 そう言うと指令室から出て行った。

 扉が閉まって直ぐ、自分の席に座っていたアイファはしばらく顔を顰めていたが両手をデスクに着けて立ち上がり、ユウトは自分の刀を持って立ち上がった。


「すいません司令、俺も行ってきます」

「アタシも、トレーニング行ってくる」


 2人も指令室を出て行った。

 彼らはもう大丈夫だとマーカーは確信した。

 やる気を取り戻したスター・ブレイズ達を確認すると鼻で笑った。


(……さて、たまには茶でも淹れてやるか)


 そう思いながらマーカーは立ち上がった。

第19話、アップしました。

長い間更新が止まってしまいすみませんでした。

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