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STAR・BLAZES  作者: 水無月 明
第1章,星の精鋭達
18/21

暴走する獣

◎本日登場する敵:

☆降魔一族

★魔皇・アスラ

★骸魔・ガオウ暴走体

 アレン達が戦っている頃、サリーは異形の者達の弱点解析を急いでいた。

 仲間達が戦っている上に時間がない、サリーの心は焦るばかりだった。

 実はアレンから『万が一』の時の事を考えていた。それは自分たちが戦った『異形の者以上の存在』が現れた時の事だった。

 異形の者達だけなら問題は無い、結晶体を壊せばいいだけの話だ。しかしそれ以上の敵が現れたとなればナイトを動かさなければならなかった。

 サリーのライセンス・ギアからルイス達のナイトの反応が消えた。案の定機械関係の物は使えないようだった。


「……全く、隊長も無茶過ぎる」


 ヘッドフォンを付けたサリーはため息を零した。

 ナイトを動かすにはこの結晶体から出ている電磁波を解析しなければならない、黒い結晶体をケーブルが取り付けられたシャーレ(ペトリ皿)に入れて蓋をして電磁波が表に漏れ出すのを遮断、シャーレの中に充満している電磁波がケーブルを伝って端末に流れていた。

 画面には上下に赤と青の2つのフレームが現れ、上の赤い方は黒い結晶体の波長、下の青いフレームには自分達が操るナイトの信号が映し出されていた。

 サリーはキーボードを叩いてナイトの信号と黒い結晶体の波長を合わせようとしていたのだが、いくら試しても出てくるのは『エラー』の文字だけだった。それが出る度にサリーは焦った。

 時間があれば何とかなっただろう、しかし今回は圧倒的に時間が足りなかった。


「……やっぱり、無理なの?」


 サリーは両肩を落とし、悔しそうに顔を顰めた。

 いつもならここで諦めてしまう所だがその瞬間、彼女の脳裏にアレンの言葉が蘇った。

 

『オレは諦めない、だから君も諦めずに対処法を見つけてくれ』


 その言葉にサリーは目を細め手の動きが止まった。

 実を言うとサリーをここまで信じてくれる者はいなかった。

 誰に対してもそうだが、ここまで背中を押してくれたのはアレンが初めてだった。


 サリーはかつてシルバー・クレストで最も科学技術の発達した第3惑星アルケミアの技術開発部の出身だった。

 勿論技術開発部とは言えいざという時に備えて戦闘訓練を行っている……、そんな中、サリーは戦闘はやや苦手な物の、機械関係に関しては天才的な知能と技術を誇り、開発したメカが上層部に評価されて時期室長の椅子も用意されていた。

 しかし自分の地位を脅かされると思った当時のサリーの上司は、設計図を開発部に回すと言う名目で設計図を預かり、事故が起こるように書き直して提出した。

 案の定開発中にエネルギー回路との接続時に事故が起こり、死者こそ出なかった物の開発室に甚大な被害が出てしまった。

 勿論サリーは設計にミスは無いし、見直した設計図に書き足された箇所があると抗議したが、支部にはすでに上司の手が回っていた為にサリーに味方する者は誰1人もおらず、サリーは追われる形でスター・ブレイズ隊に追いやられたのだった。


 しかし転んでもタダでは起きなかったのがサリーで、支部を辞める際に自分を疑った全員の秘密を片っ端から暴き出したのだった。

 自分より立場の低い者達に対するパワー・ハラスメントや女性隊員に対してのセクシャル・ハラスメントや不倫、さらには経費の不正利用まで調べると自分自身だとバレない様、匿名で上層部に送り出して仕返しをした。

 その結果、上司は設計図を書き直した事以外にも不正が発覚して上層部より降格処分となった上に僻地に左遷、家族からも見放された挙句、現在は死と隣り合わせの危険な紛争地帯の支部で若い下っ端の整備員達と一緒に働いている。

 他の者達も同様の処分を受けたのだが、配属先でもすでに噂は広まっており、そこの冷たい視線に耐え切れずに除隊する者が続出……、その中には既婚者や結婚を前提に交際していた者達もいたが、こちらにもサリーの根回しで破局してしまい、多額の慰謝料を払うと言う為に借金をすると言う悲惨な結末を迎えたのだった。


 サリーは配属されてしばらく経った後も仲間達やマーカーを信じていなかった。人と距離を置き、必要な時以外は関わらないと誓った。

 しかしアレンは自分とは違う考えで人を引っ張り、危うい状況になりながらも勝利を手にしてきた。

 一見直感的に動いているように見えてしっかり物事を見据えている、そして仲間を誰よりも大事にしている彼の為に力を使うのも悪くない……、そう思った。

 

「隊長、私……、諦めない」


 サリーは気を取り直して作業に戻った。

 その瞳には強い光が灯っていた。


 アレン達にとって何度か戦っている内に異形の者達への戦闘にもすっかり馴れ、腐敗した森の奥へと進んでいった。

 異形の者達はアレンの銃とリリーナ・アイファの魔法により倒され、白骨化していった。しかし分かってはいてもやはり気持ちの良い物ではなかった。


 銀星系連合軍に入隊するには各惑星にある一度銀星系連合軍の士官学校に入らなければならない、各惑星にある養成所で3年、そこで合格した者が宇宙にある総合養成所で2年間の研修を受けなければならない。

 そこでは武術・武器兵器の構造や組み立てなども教わり、それ以外にも各惑星の文字の読み書きなども覚えさせられるのだが、いずれにしろ最後の仕上げとして実際の戦場に出向き本物の銃や剣を使ってでの実戦訓練が行われる事になっている。

 怪獣退治やテロリスト討伐など、まさに命がけの訓練の中で生きたまま怪獣に食い殺される者、爆弾などで半身が吹き飛び苦しむ者、破けた腹から臓物が飛び出して助けを求める者等、その目に焼き付けなければならなかった。

 しかしどう言うトリックかは知らないが、体が解けると言う光景は未だに慣れなかった。


 森に入って大体2時間くらいだろう、アレン達の目の前に盛り上がった小高い土にポッカリと空いた洞窟を発見した。

 その洞窟の入り口からは異形の者達からあふれ出てくるどす黒いオーラが噴出していた。見るからに分かる、この洞窟こそがゴールだ。


「どうやらあそこらしいな」

「うん、あそこから凄く嫌な気配がする!」


 洞窟の手前数メートルで立ち止まったアレンが言うとアイファが言い返した。

アレン達はこれ以上近づく事はできなかった。何しろあのどす黒いオーラの打開策を見つけてなかったからだ。

 異形の者達の体から噴出すオーラは魔力を込めてれば何とかなるが、これは洞窟の中から噴出していた。

 だが洞窟まで後数メートルと言った所だろう、突然洞窟の中から轟音が轟いた。


『グオオオォォオオォォーーーッ!!!』


 音の爆弾とも言うべき衝撃が空気が振動し、周囲の生気を失った枯れ木がベキベキと言う音を立てて倒れ、洞窟に亀裂が入って崩れ始めた。

 幸いアレン達は洞窟から離れた場所にいたので咄嗟に耳を塞いだが、鼓膜がビリビリと痺れて脳が揺れた。


「うああっ!?」

「な、何ですのっ!」

「ぐっ、頭が……ッ!?」

 

 ほんの刹那の間、アレン達は気を失っていた。

 もう少し近い場所だった鼓膜が破れて脳が破壊されていただろう、黒い瘴気の打開策が見付かっていなくて逆に助かった。

 しばらくアレン達が立ち往生していると、音の正体であろう『それ』が現れた。真っ暗な洞窟の中からズシズシと足音が近づいてくると、真っ黒い皮膚に真っ白な髪の男が現れた。

 体の色こそ変わっているが、顔立ちやそれ以外の所は変わっていない……、アレン達は男の顔を見て叫んだ。


「お前、ガオウっ!?」

「何ですの? イメチェン?」


 リリーナも砕けたように言っているが、内心ではただ事ではないと言う事は分かっていた。

 勿論それはアイファもだった。異形の者達に対する恐怖は程度克服したが、このガオウを目の当たりにした瞬間、再び全身に悪寒が走った。

 しばらくの間、ガオウは呆けた感じでアレン達を見ていたが、やがて右手を頭を回すと気だるそうな感じで言って来た。


『……オ前等カ? 俺ヲ捕マエタト言ウ奴等ハ』

「何?」


 アレンは顔を顰めた。

 犯罪者の心理を考えると、犯罪者(勿論人それぞれ)は襲った者の存在を忘れる事はあっても捕まえた者の顔を忘れる事は殆ど無い……、捕まった犯罪者は捕まえた者に対して激しい恨みを持ち、出所後は仕返しに来る者も存在する、俗に言う所の『御礼参り』と言う奴だ。

 ガオウにとってもアレン達に対しては憎むべき敵だ。百歩譲って覚えていなかったとしても銀星系連合軍人に対しては憎しみを持っていてもおかしくは無い……、しかしガオウの様子を見る限りでは嘘をついているようには見えなかった。

 いや、それ以前に嘘を付く理由が無かった。しかしそんな事は関係は無い、ガオウが生きていたと言う事はやる事は1つだ。

 アレンは銃口をガオウに向けて言った。


「リ・ガオウ、お前を逮捕する、大人しくしろ」

『逮捕? ソンナ事ガ出来ルノカ? ボウヤ?』

「何ですって? 貴方、アレン様に向かって……」



リリーナが言いかけたその瞬間、ガオウの姿が消えてなくなった。

まさに瞬きする間もなかった。何が起こったのかは分からず、アレンは周囲を見回した。


「なっ? リリーナっ!!」

「……えっ?」


 アレンは目を見開いて驚いた。

 何とガオウはいつの間にかリリーナの目の前に移動していたからだ。

 視界が遮られてリリーナも何が起こったのか分からず固まっていたが、アレンの言葉に我を取り戻してゆっくり上を向いた。

 人間は死を直感した瞬間、全ての光景がスローモーションに見えると言う、まさにその通りだった。

 邪悪な笑みを浮かべたガオウは強く握った拳を振り上げてリリーナを攻撃しようとする……、アレンは銃口を向けて発砲しようとするが間に合わない、アイファもガオウに遅れを取り、飛び出すタイミングが遅れてしまった。

 だがその時だ。突然風を切る音が聞こえてきたかと思うとガオウの右腕に切れ目が入り、前腕半ばから拳までが切断された。


『ムッ?』


 ガオウは右腕を見上げるとリリーナへの注意が反れた。

 切断された腕は切断面から紫色の粘着質の液体を垂れ流しながら地面に落ちると、忽ち黒い煙を放ちながらドロドロに溶解してしまった。

 その僅かな間にアレンはリリーナに向かって叫んだ。


「リリーナ! 逃げろ!」

「はっ!?」


 アレンの声に我を取り戻したリリーナはガオウから飛び退いて距離をとった。

 それに構わずガオウは切断された自分の腕を見た。切断面からはどす黒い体液があふれ出していた。

 しかしガオウは傷みを感じていないようだった。しばらく呆けるように見ていたガオウだったが、そこへ自分の腕を切り下ろした男達がやって来た。


「隊長! みんな無事かっ!?」

「ユウト! みんな!」


 先ほどガオウの腕を切り捨てたのはユウトの斬撃だった。

 ルイス達はアレンと合流するとガオウに向かって身構えた。

 ライフルを構えたルイスはアレンに尋ねた。


「隊長、こいつは……」

「ああ、ガオウだ。しかもとんでもない事になってる」


 アレンは顔を青くしながら固唾を飲み込んだ。

 さらに信じられない事にガオウの切り裂かれた腕の断面がボコボコと膨れ上がると5本指の腕となって再生し、指先にも爪が生え揃った。

 どうやらガオウも人間でなくなっているようだった。しかも腕が切り落とされた事など何とも思っておらず、むしろ鼻で笑っていた。

 アレン達はその異様な光景に顔を顰める……、方やガオウは目を細めながらクスクスと笑っていた。


『スゲェ、コレガ生マレ変ワッタ俺ノ力カ、『アノ方』ノ言ウ通リダ』

「あのお方? 誰の事だそれは?」

『フン、ソレヲ聞イテドウナル? コレカラオ前等モ俺達ノ仲間ニナルンダカラナ!』

「ふざけないで!」


 ルイスはガオウに向けて引き金を引いた。

 勿論ガオウは人間で無いのは分かっているが、どうしても抵抗があるルイスは胸や頭などは狙わなかった。

 ライフルの銃口が火を噴くと大型の銃弾が全身を撃ち抜いた。ガオウの体に風穴が開くとどす黒い体液が噴出して地面にぶち撒けられた。

 だがガオウは傷みを感じていない様子で立っていた。


『フン』


 ガオウが鼻で笑うと体中の傷がふさがり体液が止まった。

 その光景を見たルイスは顔を強張らせて身を震わせた。

 そんなルイスにガオウは尋ねて来た。


『ククク、ドウシタ? ソンナ玩具、痛クモ痒クモ無イゾ』

「くっ!」

「この化けモンがっ!」


 するとルイスの横を通ってユウトが飛び出した。

 刀を両手持ちにしたユウトは間合いを詰めると振り上げた刀を渾身の力を込めて振り下ろした。

 しかしガオウは避けるどころか微動だにせず、ユウトの刃をその身に受け、左肩から腹部までを切り裂かれた。


「なっ!?」


 ユウトは目を見開いた。

 斬られた左肩から先は本体との間に黒い粘着質の液体が糸を引きながら左右に分裂してブランと垂れ下がった。その際に夥しい量の血飛沫が舞い、体の中の臓物も体の中からずり落ちた。

 普通の人間ならば吐き気を催すような状況だろう、実際スター・ブレイズ達も吐きそうなのを我慢しているが、だがガオウは切りつけられた箇所を見るとニヤリと口を上げた。

 途端ずり落ちた臓器がまるでビデオの逆再生の様に体の中に戻り、その後直ぐ脇腹から垂れ下がっている左肩から下部分も1人でに元に戻ってしまった。


「下がってろ!!」


 ジンはたじろぐルイスの横を通ってガオウに目掛けて飛び込んだ。

 そして一気に間合いを詰めたジンは右拳を強く握ると、ガオウの顔面目掛けて突き出すとメタル・グローブはガオウの顔面を直撃した。


『グッ!』


 ガオウは殴られた衝撃で体が揺らぐが、右足を踏ん張って倒れるのを耐えた。

 しかしジンの猛攻は続く、すかさず拳を振るうと本来2つしかないジンの拳が無数に見え、ガオウの全身を殴り始めた。

 まさに目にも止まらない拳打にガオウは手も足も出なかった。しかしおかしな事に周囲の者達は気付いた。

 それはガオウが全くビクともしていないと言う事だった。すると一方的に殴られていたガオウの目が妖しく光るとジンの背筋に悪寒が走った。

 ジンは拳を止めて後ろに遠退いた。どんな敵にも怯まずに突き進むジンにとっては珍しい事だった。

 しかしいくら戦闘民族とは言え、勝ち目の無い戦いには退く事もある、戦闘に対しての危機感地能力はアイファにも引けを取らなかった。

 するとガオウは両肩を震わせながら手の甲で拭いながら尋ねてきた。


『ククク、何ダ。モウ終ワリナノカ?』

「チッ!」


 ジンは舌打ちをする。

 ガオウも拳で殴られた箇所はしぼんだスポンジのように元通りに復元していった。


 アレン達は攻撃の手を止めた。もう1つおかしな事に気付いたからだ。

 それはガオウが一度も反撃をして来ない事だった。いくら相手が復元能力を持っていてもしても反撃してこないのはおかしかった。

 ガオウは周囲を見回すと身構えているアレン達に言って来た。


『ドウシタンダ坊ヤ達? マダ攻撃シテ来ナイ奴モイルミタイダガ? 攻撃シテモ構ワナインダゾ』

「……くっ」

「………」

 

 アイファとリリーナは眉間に皺を寄せて顎を引いた。

 明らかに誘っている、まるで『攻撃される事を楽しんでいる』ような言い方だった。下手な誘いに乗ってはいけない……、基本中の基本だった。

 すると無理だと判断したのだろう、ガオウは鼻で笑いながら言って来た。


『マァ良イ、今度ハコチラカラ行クゾ』

 

 ガオウは目を見開くと全身から異形の者達同様どす黒い瘴気が噴出した。

 しかしその量は半端ではなかった。大地はひび割れ砕け、周囲の枯れ木も朽ち果て始めた。

 すると先ほどと同じくガオウの姿が消えてなくなった。アレン達は周囲を見回してガオウを探した。


「ど、どこだ?」

「ッ!! 隊ちょ~っ! 後ろ!!」

「なっ?」


 アレンが背後を見るとそこにガオウが現れた。

 ガオウは拳を振りかざしてアレンに襲いかかろうとしていた。

 アイファの危機感知能力でガオウの現れる場所が分かったが、それでもアレン自身の反応はガオウに及ばなかった。

 振り返り、体制を整えて銃を構えて引き金を引くまでの刹那の時間より、ガオウの拳を振り下ろす方が早かった。

 だがそれよりも早くユウトが動いた。


「隊長から離れろ!」


 ユウトは風を纏わせた刀をガオウに向かって振るった。

 途端半月型の刃がガオウ目掛けて飛んで行く、しかし今度は腕ではなく首を狙った。どんな相手でも首を跳ね飛ばされて動いている者はいないからだ。まして最早人間ではないとなれば気にする必要は無い。

 そしてユウトの飛ぶ斬撃は首を切断……、しなかった。何と風の刃は弾けて消えてしまった。


「なにっ?」

 

 ユウトは目を見開いて驚いた。

 一度は腕を切断したユウトの攻撃が通用しなかった。首と腕では違うのかもしれないが、その事にユウトはショックを受けた。

 しかしそれはガオウも同じだった。ガオウは自分の首を擦って攻撃の当たった箇所と具合を確かめる、しかしガオウの体は傷1つ付いていなかった。

 だがその僅かな時間が隙を作り、アレンはガオウの額目掛けて発砲した。


 バン! バン! バァン!


 アレンの銃口から3発の銃弾が発せられた。

 その内1発は頭部を掠ったが、ガオウの額と眉間に1発づつ当たった。

 頭を撃ち抜かれた反動でガオウは後ずさりした。


『グッ!?』


 しかしこれも無意味だった。頭に空いた風穴と傷はすぐさま回復してしまった。

 ガオウは左手で額を押さえ、右手で頭を擦る……、するとガオウは目を細めて口の端を上げた。


『クククッ、ナルホド、アノ方ノ言ウ通リ……、攻撃ガ『効カナクナル』ノカ』

「攻撃が……、効かなくなる?」

 

 アレンは眉を細めた。

 今の言葉が本当ならばガオウは一度受けた攻撃には体性が付き、二度と同じ攻撃が通じなくなると言う事になる……、これ以上攻撃するのは危険だった。

 現在ガオウに攻撃をした者はアイファを除いて全員……、攻撃はアレンの銃、ルイスのライフル、ジンのメタル・グローブ、ユウトの刀、そしてリリーナの魔法だった。

 魔法に関してはユウトも同じだった。ベルシエール式とジパーダ式の違いはあるが原理自体は同じ、風の魔法の次に雷の魔法が通じたとなると、別の魔法でなら攻撃の使用があるという事だ。

 しかしそれも迂闊に攻撃はできない、攻撃を繰り返せば繰り返すほどこちら側の攻撃手段もなくなる事になる。

 だがガオウの方は攻撃し放題と言う事になる、するとガオウは残忍に笑いながら言って来た。


『クククッ、楽シマセテクレヨォ!』


 途端ガオウに変化が訪れた。

 ガオウの全身がゴキゴキと嫌な音を立てながら異形化していった

 目がギョロリと見開いて口が耳元まで裂けた。肥大化した上半身と両腕も大木の様に太くなり、さらに5本の指から生えている爪もメスの様に鋭くなった。そして脚の方も逆関節となった。

 まさに悪魔と呼ぶべきだろう、その姿になったガオウは大きく裂けた口をさらに開いて叫んだ。


『ギシャアアアァァーーーッ!!』


 金切り声をあげながらユウトに向かって飛び込んだ。

 目にも止まらぬとはこう言う事を言うのだろう、あっと言う間に間合いを詰めたガオウはユウト目掛けて爪を振るいあげた。

 しかしユウトもガオウに向かって刀を振るった。ガオウの爪とユウトの刃が激突し、鈍い金属音が響く。


 ガギィィン!!


 そのすぐ後に刹那の静寂が訪れる、だがユウトは自分の刀を見ると苦虫を嚙み締めたような顔をした。


「くっ……」


 歯をワナワナと身を震わせるユウト、何と刀の切っ先が欠けていた。

 ユウトの斬撃を受けたガオウのユウトの体はユウトの刀が効かない体質に変貌している、少なくとも鉄以上の強度と言う事になる。

 いくらユウトでもナイト無しに鉄を切断する事は出来ない、だがそれでも自分の剣を刃こぼれさせてしまった事に未熟さを感じた。

 だが悔やんでいる場合ではなかった。ユウトは振り返るとそのままガオウに向かって切っ先を突き出した。

 だがユウトの突きはガオウの胸の中央にほんの僅かだけ刺さっただけだった。

 ユウトはそのまま刀を押し込めようと両手で使を握りしめて力を入れた。だが刀はビクともしなかった。

 方やガオウは両手を振るい上げると鋭い爪の先端をユウトに向けた。


 鎌首を立てた鋭い鉤爪がユウトに向かって振り下ろされようとした。だがその瞬間、ガオウ右腕に水色に輝く光の矢が突き刺さった。

 その矢はリリーナが放った氷の魔法の矢だった。すると光の矢の突き刺さった個所からガオウの腕は凍り付いて行った。


『グッ』


 ガオウの注意が一瞬反れる。

 徐々に凍り付いて行く自分の腕に注意が反れると、その隙を狙ってユウトは後ろに遠のき、ガオウと距離を取った。

 ガオウは自分の腕を胸の前に持ってくると左手を振り上げて手刀を作って振り下ろし、自分の凍り付いている少し前の生身の部分を切断した。

 地面に落ちた腕は完全に凍り付いて砕け散った。勿論切断された個所からどす黒い体液が噴き出すと、先ほどと同様に右腕が再生して行った。

 その様子を見ながら自分の魔法が通じなかった事にリリーナは忌々しく吐き捨てた。


「……くっ」

『ククク、残念ダッタナ、ソノ程度ジャ俺ハ……、ググッ!?』


 ガオウは突然目を見開くと足元がグラつき、両手を顔に押し付けると上半身を深く折り曲げながら苦しみだした。

 次第に体制を崩して両膝を突くと、体内で何かが這いずり回っているかのように蠢き始めた。

さらに赤黒い目が血走り、裂けた口から唾液が糸を引いて滴り落ちた。ただ普通の人間の時と違い酸度があるのだろう、唾液が地面を焦がして煙を立てた。


『ガッ、ガ……、ガァァ……、ナ、何ダ? ドウナッテ……、……ヤガ……』

「な、何? どうなってるの?」

「油断するな、様子がおかしい」


 ルイスが言うとアレンは自分の得物を構えながら言った。

 目の前で起こっている現実に皆指1本動かす事が出来なかった。

 ガオウ本人も想定外の事なのだろう、体が異形化して行きながら叫んだ。


『グガアアアアッ! アノ野郎、俺ノ体ニ何シヤガッタ?? 俺ガ……、俺ジャナクナッテ……、アッ! アアアァァ……』


 ガオウの姿が変って行く……、しかしアレン達はその変貌を指一本動かせずに見ている事しかなかった。


 その頃、洞窟の中ではアスラが表の様子を観戦していた。

 岩壁がテレビ画面のようにアレン達とガオウの様子を映し出し、それをアスラが腕を組みながら黒い影とともに見ていた。

 すると黒い影が言ってきた。


『やはり失敗のようだな、元々生きた人間では『冥核』を制御できぬようだ』

「そうだな、だがそれが分かっただけでも収穫だ。どうせ夜が明けると同時に消える命、好きに暴れさせてやろうではないか」


 アスラは鼻で笑うと目を細めて画面を眺めた。


 最早ガオウには人間としての面影は無くなってしまった。

 体内で何か生き物が蠢いているようにゴキゴキ音を立てると全身が肥大化して黒い肉の塊となった。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 心臓の鼓動にも似た音とともに脈打つ肉塊とスター・ブレイズ達の間に不気味な戦慄が走る……、すると肉塊に変化が表れた。

 肉塊の左右から鋭い3本指に丸太を繋いだような巨大な腕が飛び出すと、腕は黒い肉塊をつかんで引きちぎり周囲に投げ捨て始めた。

 捨てられた肉片はたちまち腐り落ちてしまったが、次に地面と密着している部分から無数の蛸の触手の様な物がウネウネと這いずり出て来た。そして肉塊の中に2つの巨大な赤黒い光が輝くと全身を覆っていた肉片がすべて飛び散り、ついに本体が露わとなった。

 最終的にガオウは全長5メートルはあるだろう、赤黒い2つの大きな目と鋭い刃の様な牙が並んだ大きく避けた口、体毛の代わりに鱗が生え、耳の代わりに牛の角が伸びた巨大な狼のような頭の側面に巨大な両腕が生え足の代わりに触手が生えた怪物へとなってしまった。

 

 ガオウは人間1人一口で丸のみにしてしまうくらい大きな口を開けた。


『ガァァアアァァアァァーーーーッ!!!』


 最早怪獣の咆哮と言うのだろう、さらに理性も無くしてしまったガオウは獣のごとくアレン達に襲い掛かった。

 大蛇のような太くて長い、かつゴムのように伸縮自在な触手が伸びると先端がアレン達を貫こうと空気の壁を割いて来た。


「た、退避っ!」


 アレンの号令で各自ガオウから離れて距離を取った。

 だが今度はガオウの両目が怪しく輝くと不気味な色の光線が放たれ、森の木々を吹き飛ばした。

 ガオウは触手を使って彼方此方向きを変えると所かまわず光線を発射した。周囲の木々は勿論、ガオウが入っていた洞窟も粉々に破壊した。

 アレン達は何とかガオウを止めようとしたが、ガオウの暴走を止める事は出来なかった。 

 ジン・ユウト・アイファの前衛チームは触手が邪魔で近づけず、アレン・ルイス・リリーナの後衛チームは銃や魔法で攻撃はしているものの、やはり適応能力は健在なのか、ガオウに傷を付ける事は出来なかった。

 そんな状況にユウトは舌打ちをしながら言って来た。


「くそっ、どうすんだよ隊長!?」

「落ち着け、きっとどこかに弱点があるはずだ!」

「弱点って……、どこにありますの?」

 

 リリーナが訪ねて来る。

 とは言う物の、アレンにもこの状況を打破する策は無かった。

 だが手が無い訳では無かった。アレンの腰の道具袋には『ある物』が入っていた。道具袋のカバーを外して中身を取り出した。

 それは銀色で掌サイズの大きさ、青と赤の2つのスイッチとメーターが取り付けられた機械の筒のような物だった。それは銀星系連合軍の高性能爆弾『MSー5』だった。

 小型で20メートル以内と規模は少ないが、その周囲の物を焼き払うだけの威力はある、本来は瓦礫の撤去や土砂災害に使うものだが、異形の者達に囲まれた時に使う為に用意した物だった。

 アレンは仲間達に命令した。


「皆、少し時間を稼いでくれないか? こいつを使って木っ端微塵に吹っ飛ばす!!」

「「「「「了解!」」」」

「行くぞ! フォーメーション2、展開!!」 


 アレン達が叫ぶとリリーナ以外の者達は四散した。

 スター・ブレイズ達は戦闘時に効率や時間短縮、仲間の特性を生かしたを戦闘陣形を考えていた。

 圧倒的な力で押し切る戦法や、どっかり腰を据えて戦う持久戦など様々だが、今回選んだのはリリーナの魔法で相手の動きを封じ込めるやり方だった。

 リリーナがその場に残って呪文を唱えている間は周囲の者達はリリーナをガードしつつ相手を撹乱させていた。

 ユウトがリリーナの前に立って守り、ジンとアイファが前に出て時間を稼いだ。

 伸びてくる触手の攻撃をジンの拳とアイファの昆が巧みに払い、目から放たれる光線は左右に跳んだアレンとルイスが防いだ。

 いくらガオウが異形の者達と違う存在になっているとは言え基本は同じのはず、つまり強力な光には弱いはずだった。

 ガオウの目が怪しく輝き、エネルギーが集まる寸前にルイスは照明弾をガオウに向かって引き金を引くと光の玉はガオウの目の前で爆発した。


『ギャアアアアァァァーーーッ!!』

 

 案の定ガオウは光に弱かった。

 強く眩い光を至近距離で浴びたガオウの目に集まったエネルギーはかき消されて瞼を閉じた。

 いくら攻撃に順応するとは言え、視力が存在している以上物が見えなるのも十分な弱点だった。

 勿論閃光弾が2度と効かなくなる可能性もある、しかも目が見えなくなったことでガオウへの接近はさらに困難になった。

 全ての触手が大地を叩きつけて地面や生気を失った枯れ木を砕き、丸太のような両腕を振るって暴れ回った。

 普通なら近づく事は出来ないだろうが、その為にリリーナを準備させていた。

 リリーナの足元に紫色の魔法陣が浮かび上がると同時にガオウの周囲にも同色の魔法陣が浮かび上がった。

 そしてリリーナはカッと目を見開くと魔法を放った。


「グラビティ・チェーンっ!!」

 

 すると魔法陣から無数の鎖が飛び出してガオウの体に絡みついた。

 雁字搦めにされたガオウは鎖を振り払おうと抵抗する、すると鎖はギチギチと音を立ててた。


『ガアアアアアアッ! アアアアアァァーーーッ!!』

「……ぐぅ!!」


 リリーナは顔を顰めた。

 リリーナが使った魔法は大地に干渉して重力の鎖を作り出してその場にいる者を縛り付けて身動きを取れないようにする事ができる。

 しかし相手の力が自分の魔力を上回っていた場合、鎖は千切れて解放されてしまう……、今は何とか抑えられているのだが、それも長くは続かない、急いで勝負を仕掛ける必要があった。


「アレン様! 早く!!」

「了解した!」

 

 リリーナに言われてアレンは地面を蹴って走り出した。

 

 現在ガオウの足の役割をしている触手の大半も魔法の鎖によって拘束されているが、全ての触手を封じている訳ではない、しかも鎖の合間から別の触手が大量に生えて来ると、無数の縦筋が生えた。

 その縦筋が左右に開くと新たな目玉がギョロリと現れて一斉にアレンを睨みつけた。


「何っ!?」

「隊長!」


 ルイスは叫ぶが、アレンは最早足を止める事は出来なかった。

 下手に止まっても的になるだけだからだ。案の定目玉付きの触手はアレンに向かって襲い掛かって来る……、するとそこへアイファがアレンの前に立ちふさがった。


「隊ちょ~に、近づくなぁーーーっ!」


 アイファは左手を突き出すと掌から眩い光が放たれた。

 途端光を浴びた触手は塵となってボロボロと朽ちて行った。


『ギャアアアアァァーーーーッ!!!』


 痛みは無いが苦しいのだろう、ガオウは悲痛な悲鳴を上げた。

 やはりフォジャン式はガオウにとっても有効だと証明された。ルイス達の攻撃は効いてはいたが、痛覚や苦しみが無い上に再生してしまっては効果がないのも同じだった。

 だがフォジャン式は相手に確実にダメージを与え、しかも消滅した触手は再生しなかった。いや、もしかしたら出来ないのかもしれないが、いずれにしろ道が開けたのは確かだった。何しろフォジャン式を使っている間、ガオウは攻撃を仕掛けて来ないからだ。

 するとアレンはアイファの横で止まった。


「アイファ! 助かった」

「隊ちょ~、早く!」

「分かった。離れてろ!」


 アレンが爆弾のスイッチを親指で押しながら言うとアイファはその場から離れた。

 アレンの手の中でMSー5のカウントが始まると、渾身の力を込めてガオウに向かって放り投げた。

 MSー5はアーチを描きながらガオウの額にカツンと当たった。途端眩い閃光が辺りを包み込み、轟音と共に大爆発が起こるとガオウは爆煙の中に消えて行った。


第18話アップしました。

楽しんでいただけたら幸いです。


なお、アレンが使った高性能爆弾『MSー5』のネーミングはマジでスゲェ5秒前からですwww

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