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STAR・BLAZES  作者: 水無月 明
第1章,星の精鋭達
16/21

異形の者達

◎今回登場する敵:

☆降魔族:

★首領・魔皇アスラ

★骸兵

 宇宙に飛びだしてしばらく経ったある日の事、スター・ブレイズにフォジャン第33支部から2つの依頼があった。

 1つは自分達が逮捕したはずのガオウを乗せた護送車が襲撃された事だった。護送班は皆見るも無残な姿で発見されたのだが、ガオウの遺体だけが見当たらないと言う、もしガオウが生きて逃走したのなら発見次第捕獲・またはデリーと(抹殺)して欲しいとの依頼だった。

 そしてもう1つは何とも奇怪な依頼で、フォジャン各地の墓地が荒らされ、遺体がなくなると言う事件が多発していた。すでに200体以上の死体が盗まれた為、その原因究明と解決の為にスター・ブレイズに出撃要請が依頼された。

 フェニックスは再びフォジャン第33支部を訪れた。今回は依頼が2つと言う事でスター・ブレイズは二手に分かれ、アレン・ジン・サリー・アイファがガオウの捜索に向かい、ルイス・リリーナ・ユウトは墓荒らしの件を調べる為にフェニックスに残った。


 必要なデータを受け取ったアレン達はバッファローで現場へ向かった。

 第33支部から3時間車かけて移動した。すでに壊れた車や軍人達の遺体は片付けられているが、地面に空いたクレーターはそのままとなっていた。

 アレン達はバッファローの荷台から機材を降ろして調査の準備を開始した。


「サリー、本当に大丈夫なのか?」

「問題ない、メンテナンスはちゃんとしてる」


 サリーは下ろした機材を組み立てながら言った。

 サリーは特に仕事の無い時は研究室か格納庫でメカのメンテナンスか開発をしている、現在組み立てているのはコンテナの中に積み込んであった有り合わせの機材で作り上げた小型探査装置だった。

 黒く長細い土台に斜めに取り付けられた銀色の発射台、その上には黒いペンシル型で二段切り離し式のロケットが乗っていた。

 セットし終えるとアレン達を下がらせ、ライセンス・ギアにインストールした発射アプリを押した。


「探索ロケット、発射!」


 途端ロケットの噴射口が火を噴くと青空に向かって飛んで行った。

 途中二段目のロケットが切り離され、先端部分のみになると二段目部分に収納されていた4本のアンテナが伸びるとその場で停止した。


 一方、サリーのライセンス・ギアの画面には探索ロケットを中心とした半径50キロ四方の様子が映し出されていた。

 中心となっている探査ロケットから少し離れた場所に青い光が4つ、それ以外に赤い無数の光が点滅していた。

 青い光は自分達(正確に言うとライセンス・ギアのビーコン)で、赤い光はそれ以外の生命反応……、森に生息する怪獣達の物だった。

 この森には対して強力な怪獣の反応は観測されていない、つまり強い光は人間と言う事になる、勿論実際の目で確認できないのではぐれて来た怪獣と言う可能性もあるので、その場合は怪獣の存在を確認し、危険ならば倒さなければならなかった。


「……何の反応も無いね」

「もうこの辺りにいないのか?」

「もう少し探してみる」


 サリーは画面に指を当てて上下左右に動かした。

 探査衛星はサリーのライセンス・ギアと連動しているので、画面を指で動かす度にその方向に動かす事が出来るのだった。


 それから時が流れて30分後。


「ふぁあぁあぁぁ~~……」

「………」


 バッファローの車体に寄りかかったアイファは大きく欠伸をし、ジンはその横にしゃがみ込んで頭の後ろに手を回して休んでいた。

 アレンとサリーだけは探索に集中していた。相変わらず画面に反応は見られなかった。

 するとアレンに妙な事に気付いた。


「おかしいな……」

「うん」


 サリーも頷いた。

 それは生命反応が無くなってしまったと言う事だった。

 樹海レベルでは無いがこの森の規模はかなり広く、その分数多くの怪獣が生息している、その反応すら無くなるなどありえなかった。

 襲撃事件は2日前、もしガオウが生きていて街に戻ろうと思うなら第33支部の軍人が警護している城壁を通らねばならない、軍のチェックは厳しいので見逃す訳がない、万が一そのチェックを搔い潜り街に戻っていたなら何かしらの騒ぎになっている、だが街には何の異常が無いので森に逃げたと考えるのが自然だ。

 しかもこの森や付近には民家や店など存在しない、その間飲まず食わずでいる訳には行かない、2日前は土砂降りの雨だったので水には困らないだろうが、それでも乗り物が使えない森の中を移動できる距離には限りがある、地図も何も無い森の中では同じところをグルグル回っていてもおかしくなかった。

 そう考えている時だった。突然サリーのライセンス・ギアの画像が乱れ始めた。


「あれ?」

「どうした? 故障か?」

「分からない、突然おかしくなった?」


 サリーは珍しく慌てふためいた。

 いつもは冷静沈着で少しの事では動じないサリーにとっては珍しい事だった。

 サリーが言うにはこの衛星は元々樹海で遭難した人間を救助する為に作り上げたメカで、電磁波の影響など受けないのだと言う、つまり電磁波以外の謎の怪電波が出ているのだと言う。

 それをアレンはライセンス・ギアを取り出すとフェニックスから写してきたデータを映し出した。


「隊長?」

「気になる項目があったんだ……、これだ!」


 アレンは画面をサリーに見せた。

 その報告書には襲撃されたであろう同時に輸送中に本部に送られてきたノイズ交じりの無線の事だった。

 軍の無線もどんな妨害電波にも邪魔される事が無い、その軍の無線も使い物にならない位の電磁波が流れているとなるとただ事ではなかった。軍の無線にしろサリーの衛星にしろ電波障害が起こっている、これはただ事ではなかった。

 そして軍の無線の事で気になる事がもう1つあった。ノイズだらけで殆ど聞き取れなかったが、それでも『怪物』とか『化け物』と言う単語が流れていたと言う。

 当初、軍人達の遺体が食い千切られていた事から怪獣に襲われたのだろうと思われていたが、詳しい解剖の結果、肉を食い千切ったのは人間の歯だったと言う……、その話を聞いた瞬間、アレンの背筋に悪寒が走った。

 かつてカニバリズム(人間が人間を食べる事)はどの惑星でも行われていた。文化・伝統・宗教的な儀式など理由で伝説や文献などに記されている。

 無論今では考えられない事だが、もし今回の事が人間による仕業なら食人族がこの森に住んでいると言う事になる……、しかしサリーの衛星には何の反応も無かった。


 その頃。

 ルイス・リリーナ・ユウトはフェニックスに残ってもう1つの事件の事を調べていた。

 ガオウ襲撃事件と違い、墓荒らし事件は数件あるので直接向かう事が出来ず、指令室では自分のデスクに座った3人が各支部から寄せられてきた現場のデータが映し出されていた。

 さらに墓地入り口に仕掛けてあった防犯カメラの映像解析も行われていたのだが、どう言う訳か全てのカメラの画像が乱れて見れなくなっていたと言う。

 するとリリーナが溜息を零しながらキーボードから手を離した。


「……はぁ、こんな事やってられませんわ」

「リリーナ!」

「アレン様の命令ですので仕方なくやってましたけど、そもそもこんなの私達の仕事ですの? だいたいアレン様と一緒に行ったのがあの生意気な小娘と何考えてるのか分からないメカオタクだなんて……」

「リリーナ、仲間の事をそんな風に言わないで、あの2人は今回の任務に最適だって隊長が判断したのよ」

「だけどさルイス、リリーナの言う事も最もだぜ、墓荒らしなんて俺達が引き受けなくても良い事だろ?」

 

 ユウトも言って来た。不満があるのは同じだった。

 ユウトもできればガオウの探索に出かけ、必要とあれば戦いたかった。確かにジンはデスクワークが苦手なのでそちらを連れて行くのは正しい選択だが、ユウトとしても一緒について行きたかった。

 しかもこちらは死体の窃盗と言う気分が悪くなる依頼だ。仕事とは言えまともな神経をしている物なら断りたくなるのが普通だ。

 するとマーカーが入ってきた。


「随分にぎやかだな」

「司令、解析の結果が出たんですか?」

「いや、ダメだった」


 マーカーは首を横に振った。

 犯行現場の墓地付近には監視カメラが設置されており、犯行時刻と思われる時間帯に電波障害が発生し、画像が乱れて見られなくなっていたらしい、各支部やフェニックスの解析班の作業も空しく解析は不可能だったと言う。

 カメラの方を調べても何の異常も見られなく、まして何かしらの仕掛けをされた訳でも無い、妨害電波を流されたのではないかと言うのが各支部の推測だった。

 するとマーカーが言ってきた。


「共通点と言えばどれもこれも土葬式の墓地ばかりってところだけだな」

「そもそも妨害電波なんてどうして流したんでしょうか?」

「そりゃ、バレたら捕まるからだろ」

「そうじゃないわよ、妨害電波まで出してまで墓荒しをする理由よ」


 ユウトが言うとルイスは答えた。

 街中の監視カメラは全て連邦軍の施設で24時間体制で管理されている、しかし一々妨害電波を流して画像を乱そうものなら直ぐに発見されて軍は出撃するだろう……、それならば変装して墓地に行った方がリスクは低い。

 まして盗んだのは埋葬されていた死体、各支部の者達が駆けつけるまでざっと数えて十数分、この僅かな時間で遺体を掘り起こして持ち去るなど物理的に不可能な事だった。


「個人的な犯行とは思えないし……、まして複数も不可能ね、機材とかの積み下ろしもあるわ」

「魔法って事は考えられねぇか? ほら、メサイアの大神官がやってた……、遠くの物を移動させるヤツで掘り出したとか」

「……貴方、何も分かってませんのね」


 リリーナは溜息を零しながら言った。

 確かにかつて戦ったメサイアのハーデスは離れた場所にいた人間を呼び寄せる魔法を使った。勿論それは生き物以外の物も可能だ。

 しかしその魔法を使うには召還したい物と場所を正確にイメージしなければならない……、いくら遺体の埋まっているのは分かっていても、どのくらいの深さで、さらに遺体の形状を把握しなければならなかった。

 まして空間属性の魔法は莫大な魔力を消費する、まして数十分で複数の人間の遺体を回収するなど並大抵の魔力では不可能だった。


「となると……、やっぱり自分自身で這いずりでたって事か???」

「それこそありえませんわ、漫画じゃあるまいし」


 リリーナは言う。

 リリーナは幼少の頃から魔法の英才教育を施され、各惑星の魔法も暗記するまで覚えさせられた。

勿論彼女自身が全ての惑星を訪れて実際に目で見て体験した訳では無い、それにまだ知らない魔法や文明の崩壊により失われた魔法も存在する、だがそれでも自分が知りえる知識の中で死者を生き返らせる魔法などと言うものは存在しなかった。

 失った命を元に戻すなど不可能だった。そんな話をするとマーカーが言って来た。


「いずれにしろもう少し調べてみてくれないか? もしかしたら何か出てくるかもしれない」

「「「了解」」」


 ルイス・リリーナ・ユウトは頷いた。もちろん良い顔はしていなかった。

 再び指令室に沈黙が訪れる中、ルイスは自分のモニターに現場の写真を映した。どんな機械を使ったとしてもこのような掘り方は不可能だった。

 ルイスはアイファほどでは無いのだが感が鋭い、現時点ではあくまで『感』でしかないのだが、ルイスにとっては今回の事件が今までとは違う気がしてならなかった。

 するとその時、ガオウを調査しているアレン達から連絡が入った。


 その頃。

 アレンはフェニックスに連絡を入れ、今までの状況を報告した。


『電波障害?』

「はい、正体は確認してませんがガオウを襲った時と同じ妨害電波が使われているのかもしれません、これから森の中に入って調査をします」

『確かにほおって置く訳にも行かないしな……、分かった。ただ森は結構深いから連絡は常時怠らないようにしてくれ、それと危険と判断したら直ぐに戻って来い、良いな』

「了解」


 アレンは無線を閉じた。

 その後アレン達はバッファローの各座席の下に収納されていたサバイバル・グッズを取り出した。

 赤い生地のリュックサックの中には簡易だが食料・水・医療品・テントなどがコンパクトに詰め込まれていて、ジンとアレンが1つづつ背負うと森の中へ入って行った。


 森の中は太い木々が密集し、空は昼間だと言うのに青々とした青葉で覆われているので薄暗く、普段人が訪れる事が無いので地面からは雑草が足首くらいの長さまで伸びていた。


「……ううぅ、ベトベトするぅ~」

 

 アレンの直ぐ後ろではアイファが顔を顰めながら顎の下を手で拭いながら言って来た。

 密集された森の中は湿度が高い分、気温も平均よりも高くなってしまうので、発汗量が通常の倍となる、そうなると水筒の水も気軽に飲まない方が良い、飲めば飲むほど汗になって出てくるからだ。

 するとサリーが尋ねて来た。


「隊長、本当にこの森に人食い人種が住み着いてると思ってる?」

「そうは思わない、だが調査は必要だろ、何しろガオウがこの森に逃げた可能性もあるんだぞ」

「じゃあ、ガオウも食べられちゃったんじゃないの~? 可能性はあるよ~?」

「死体が確認できてないなら生きてるのと同じだ。それに妨害電波の元も気になる、いずれにしろ」


 アレンは言った。

 ガオウもそうだが問題は妨害電波を出している物の正体だった。

 テロリストが妨害電波を使うのは良くある事、軍が使う無線まで妨害するとなると相当な物だった。

 今回は輸送班襲撃で終ったが、軍の施設や支部がある街に使われたら大惨事となる……、それが回収できるなら回収し、不可能なら破壊しようとアレンは思っていた。

 

 森に入ってから30分後、サリーが言って来た。


「隊長、そろそろ連絡を入れた方が良い」

「そうだな」


 アレンはライセンス・ギアを取り出すとフェニックスに連絡を入れた。


「こちらアレン、フェニックス、応答願……、ぐっ!」

「隊長っ?」


  突然ライセンス・ギアからノイズが流れた。この状況は報告書と同じだった。

 つまり妨害電波の元がこの近くにあると言う事だった。


「じゃあこの辺りに……」

「隊長!」 


 サリーが言って振り向くと、そこでは俯いた顔を強張らせているアイファの姿があった。

 寒くも無いのに両手で自分の二の腕をつかんでガタガタ震えだした。この言葉にならないほどの怯え方は尋常ではなかった。

 すると今度はジンが何かに気づいて歩き出した。アレン達の横を無言で通り過ぎるとその場にかがんで手を伸ばした。


「ジン?」


 アレンが呼びかけるとジンは立ち上がって拾ったものを放り投げた。

 それを受け取るとそれはサリーの衛星だった。しかし落下した衝撃で外装が壊れて中身のメカがむき出しになっていた。


「ビンゴみたいだな」


 アレン達は周囲を見回した。

 風で青葉がざわめく中、森の中を空気が包み込んだ。いつしか鳥のさえずりも聞こえなくなった。これは異常と言う事だった。

 緊迫の空気が彼らの身を包む、果たして一体どこにいるのだろうか……、森の中には隠れるところがたくさんある、木の陰、木の上……、いずれにしろ油断はできなかった。


「アイファ、一体どっちからだ? アイファ!」

「アイファ!」

「はっ!」

「どっちからだ?」


 アレンとサリーの呼び声に我に返ったアイファにアレンが尋ねた。

 アイファは人間なので妨害電波の影響は受けない、アイファの危機管理能力ならば探知は可能なはずだった。

 するとアイファは目を閉じて意識を集中させた。そしてその刹那、アイファは目を見開いて叫んだ。


「もうダメ、囲まれてる! 下から来る!」

「何っ?」


 アレン達は足元を見下ろした。

 すると足元の一部の雑草が変色し、土が盛り上がると人間の手が飛び出した。


「くっ!」

 

 アレンは咄嗟にその場から飛び退いて何事も無かった。もう少し遅ければ足首をつかまれていた。

 するとアレンの足元だけではない、他の草むらの所々が腐食し、更に地面が大きく盛り上がるとそれらは現れた。ざっと数えて10体はいるだろう、それは人間と呼ぶにはおぞましい存在だった。

 確かに姿形はだけなら人間と同じだ。老若男女別々……、体の所々が腐食し、手足の爪も全て剥がれ落ち、目玉も虹彩と瞳孔がなくなったような感じとなっていた。さらに額から黒い結晶体が角の様に生え、全身からはどす黒い瘴気に覆われ、1歩地面を踏み締める度に瘴気に触れた雑草が変色して枯れて言った。


『ううぅぅ……』


 異形の者達は低い声で唸りながらアレン達に近づいて来た。

 アレンは剣を構えながら息を呑んだ。


「こいつらが襲撃犯か……、本当に人間じゃないのか?」

「って言うか、この臭い……、腐乱臭?」


 サリーはたまらなく口元を押さえた。

 肉体が腐敗しているのだからそれは当然だった。

 しかし実際の腐敗臭を経験した事がないスター・ブレイズ達にとってはたまらない臭いだった。

 ジンもたまらなく口元を押さえて耐えたが、臭いに耐え切れなかったアイファはその場に蹲って胃の中の物を吐き出していた。


「隊長、どうする?」

「どうするもこうするも、こいつ等を何とかしないといけないだろ!」


 アレンは言った。

 相手は明らかに人間ではない、連絡が本当ならやらなければ自分達がこいつ等の餌になってしまう。

 すると珍しくジンが両手の間接を鳴らしながら言って来た。


「つまりやっても良いって事だな?」

「ああ、オレが許す!」

「了解だ!」


 ジンは大地を蹴って走り出し、目の前に良いる異形の者に向かって強く握った拳を突き出した。

 異形の者は数メートル後方にふっ飛ばされると地面に倒れた。

 ジンの攻撃はまだ続く、さらに向かって右にいる異形の者に向かって即刀蹴りを放つと、そいつはくの字を描いて吹き飛ばされ、背後にいた異形の者にぶつかるとドミノの様に倒れた。

 さらに左にいた異形の者に対しては強く左足で大地を踏み締めて首を捻りると右足を振り上げて相手の頭に回し蹴りを放った。異形の者はなぎ払われて地面に転がった。

 あっと言う間に数体の敵を倒してしまったジン、どんな敵でも恐れずに向かって行く姿勢はまさに軍人の鑑だった。

 だが……


「ぐああああっ!」

 

 ジンは突然顔を顰めて蹲った。


「ジン!」

 

 慌てて皆が駆け寄るとジンの右手のグローブと右足の裾がボロボロに朽ち、その下の拳や脛が硫酸でも塗られたかの様に皮膚が爛れて肉が露出し、異臭を放つ煙が噴出していた。そこは丁度攻撃が当たった箇所だった。

 連邦軍の制服も軍が開発した特殊な合成繊維『ネビュラ・ベール』で作られて、ハンドガン程度なら防ぐ事ができるのだが、それが朽ちるなど異常だった。

 その理由は察しはつく、連中の足元を枯らしている瘴気の責だろう、ただ裏を返せば制服のおかげで助かったと言える……、普通の衣服や直に触れられたと考えるとゾッとしてしまう。

 一方、ジンに攻撃された異形の者は唸り声を上げながら立ち上がった。しかも中には仰向けの状態でと言う……、まるでホラー映画のゾンビの様に立ち上がる者もいた。


『うううぅぅ……』

『あああぁぁ……』


 異形の者達は一切痛みは感じていないようだった。

 しかも最後に頭を攻撃された者はありえない方向に首が曲がっていて、どちらに進んで良いのか分からずうろついていた。

 いくら何でもジンの攻撃を食らって何も無いと言うのはおかしい……、


「……くっ、一体何なの、こいつら?」

 

 サリーはゴーグルを下ろして相手を分析いようとする。

 いくら常識の通じない相手だからと言って弱点はあるはず、そう思いながらヘッドホンのスイッチを入れるが、画像が乱れて何も映らなかった。

 これでは軍の無線と同じだった。


「そんな! 何も映らない???」


 解析も不可能だった。

 不可解に次ぐ不可解の連続にサリーはパニックになっていた。

 サリーはどちらかと言うと考えてから行動するタイプゆえ、ホンの少しのイレギュラーで対処できなくなってしまうのだった。

 サリーはゴーグルを上げると目の前には3体の異形の者達が手をかざしながら迫ってきていた。


『ううぅぅ……』

「ひっ!」


 サリーは小さく悲鳴を上げて身をビクつかせた。

 メカニック担当だがれっきとした軍人で、戦闘訓練は受けている……、右手を懐に入れながら数歩後ろに下がると携帯してあったレーザー銃を引き抜いて引き金を引に指をかけた。

 無駄と言うのは分かっているが警告はしなければならなかった。


「止まれ、止まらないと撃つ!」

『うううぅぅ……』

「……くっ!」


 止む無し……、と言うのは分かっている、手が震えていた。

 しかしやらなければやられる……、サリーは人差し指に力を入れて引き金を引いた。だがレーザー銃から光の弾丸は発せられなかった。


「えっ?」

 

 慌ててレーザー銃を見て何度も引き金を引くが何の反応もなかった。

 そうこうしている内に異形の者達がサリーに襲いかかろうとした。

 だがそこへアレンが飛び出した。


「サリーッ!」


 アレンは両手で長剣を振るって異形の者達を切り裂いた。


『『『うああぁあぁ……』』』


 アレンの剣を食らった異形の者達の悲痛な声が木霊する。

 斬られた箇所から黒い体液が噴出して地面に落ちると雑草が黒ずんで腐食した。しかし案の定と言うべきだろう斬撃も通用しなかった。

 黒い体液をドロドロと流しながらアレンの方へ振り返った。しかも最悪な事はまだ続く、何とアレンの長剣の刃先がホンの僅かだが溶して異臭を放っていた。


「……くっ!」


 アレンは顔を顰めて舌打をした。

 軽症だが負傷しているジン、怯えているアイファと混乱しているサリー……、今のこのメンバーでは勝てる勝負も勝つ事はできなかった。

 最早勝ち目が無いと判断したアレンは撤退しようと考えた。しかし今のジンを抱えて逃げ出す事は不可能、少し時間を稼いで回復させるべきだった。


「アイファ、ジンを回復してくれ!」

「う、うん」


 アイファはまずジンの右足に手を翳すと掌から温かい光が発せられ、負傷した細胞が復元して傷口が治って行った。

 アレンは長剣を構えて直した。だがどう言う事だろう、異形の者達はたじろいでそれ以上先に進もうとはしなかった。


『ううぅぅ……』

『ああぁぁ……』

 

 異形の者達は唸り声こそ上げているものの、一向に襲って来ようとはしなかった。

 恐らく本能的に脅威だと思っているのだろう……、フォジャン式のみが苦手なのか、はたまた魔法と言う存在その物が苦手なのかは分からないが、魔法による攻撃なら通用するかもしれないと思った。


「ジン、尚って早々悪いけど頼めるか?」

「ああ、やってやるぜ!」


 ジンは破れたグローブを取ると懐から代わりのグローブを取り出して両手にはめ直し、その両手を頭上で交差させると一気に左右に振り下ろした。

 途端ジンを中心に大気が振動し、木々がざわめき、空を覆っていた青葉が揺れだした。

途端ジンは目にも止まらぬ速さでその場から走り出すと異形の者達に向かって拳を振るった。


「オラアアアァァーーーーッ!!!」


 無数の連打により一気に数体の異形の者達が吹き飛ばされた。

 普通に殴り飛ばされるよりもグラム式でパワーアップした腕力で殴り飛ばされた異形の者達はかなりの距離を飛ばされ、その内1体の異形の者が背後にあった木の幹にぶつかるとリバウンドして地面に倒れた。

 だがやつらを攻撃して倒しても拳で戦えばダメージを負ってしまう……、アレンはジンに尋ねた。


「ジン、大丈夫か?」

「……ああ、少しズキズキするがな」


 ジンは顔を顰めながら言った。

 確かにグローブがほんの少しだが破れかけて指の皮も爛れているが、魔法を使う前と後では大違いだった。

 グラム式は体内に圧縮して細胞を強化しているので拳へのダメージは低いらしい、防御面の対処の1つではあるが、攻撃に関してはあまり意味が無いようだった。

 なぜなら攻撃を受けた異形の者達は立ち上がり、再びアレン達に襲いかかってきたのだった。

 ジンの拳を受けた箇所は白い煙を発してへこんでいたが、異形の者達は何食わぬ顔で歩いていた。

 アレンは舌打をしながら長剣を構えた。


「やっぱりダメなのか……」

「隊長、あれ!」


 サリーはある1体の異形を指差した。

 それは木にぶつかって倒れた異形だった。その異形は地面に頭をぶつけた影響か、額の結晶体が砕けていた。

 両手を地面に押し付けて立ち上がろうとしている異形の全身から白い煙が噴出し始め、指先や頬などが熱を帯びたチョコレートの様に溶け始めた。


「ああ、がががぁ……、あああぁぁぁ………」

 

 他の異形の者達の唸り声と違い、この異形の者の声はまるで断末魔のようだった。

 地面に溶け落ちた肉片に片手がスリップして地面に倒れると、骨以外の全てが地面に溶け出して動かなくなった。勿論その辺りの雑草は全て腐り落ちた。

 どうやら額の結晶体が弱点の様だった。偶然とは言え弱点は分かった。このまま撤退するべきなのだろうが、今後の為にも少しでも事実確認をするべきだった。

 アレンは瞬時に作戦を組み立て、各隊員に指示を出した。


「アイファ、君は周囲の状況を確認しつつジンの後ろについて回復し続けるんだ。そしてサリーは結晶体や奴らの肉片をサンプルを回収してくれ、分析できるだけで構わない……、そしてジン、君は数体で良いからオレと戦ってくれ!」

「了解!」

「了~かい!」

「おう!」


 各自役割が決まるとアレンとジンが異形の者達に飛び掛った。

 弱点さえ分かればこちらの物だった。迎え撃つ異形の者達の猛攻を掻い潜り、アレンの剣、ジンの拳と蹴りで異形の者達の頭部を攻撃をした。

 頭部の結晶体を失った異形の者達の体がドロドロに溶け、骨だけになると地面に転がった。

 アイファはジンの後ろに回ると両手をかざしてフォジャン式を放ち続けた。回復しながら戦うのでジンの体への負担は0も同然だった。

 アレン達が攻撃をしている最中、サリーは懐に手を入れると薄手のビニール手袋を取り出して両手に装着し、腰のウエストポーチのジッパーを開くと中にあった無数の小瓶とピンセットを取り出した。

 素早く地面に膝をつけて蓋を開けると砕かれた結晶体、ドロドロに溶けた肉片、枯れた雑草などをピンセットで回収した。

 しかしいくらアレン達が倒しても次から次へと異形の者達が地面の下から這いずり出てきた。ジンのグラム式の制限時間もあと僅かだった。

 すると一通りの物を回収し終えたサリーがウェスト・ポーチに荷物をしまうとアレン達に向かって叫んだ。


「隊長、回収が終った!」

「了解した! アイファ、君から見て敵の少ない方向はどっちだ?」

「えっと……、こっち! こっちの方は敵が少ない!」


 アイファが指を差しながら言った。

 アレンはそれを確認すると隊員達に命令する。


「よし、じゃあ撤退だ!」

 

 アレンとジンが先陣を切ってその方向にいる異形の者達をなぎ払い続け、その後ろをサリーとアイファが続いて戦線を離脱した。


 その頃。

 アレン達が戦っていた場所より離れた場所に1つの洞窟があった。

 ポッカリと口を開いた洞窟の奥深くでは、赤黒い血管が生えた緑色の繭のような物が天井からぶら下がり、その手前では腰を降ろして座禅を組んでいたアスラが何かに気付き目を開けた。

途端アスラの背後に黒い影が浮かび、不気味な2つの目が浮かび上がりながら言って来た。


『アスラ、見張りの骸兵がいぺいがやられた』

「フン、あれ等が本領発揮するのは夜からだろう? いくらここが太陽の影響が低いとは言え、十分に力が発揮できんのは致し方ないさ」

『そんな悠長に言ってる場合か? 生きて帰られたら我々の計画に支障がでるのだぞ?』

「まぁ、そう慌てるな、生まれ変わった『これ』の力を試す絶好の機会だ。どうせならこの状況も楽しもうではないか」


 アスラは顔を上げると目の前に映る肉の繭を見つめた。

 その不気味に脈打つ繭に口の端を上げてアスラは静かに笑うのだった。 

第16話アップです。

こちらも気に入らなかったので書き直しました。

ご迷惑をおかけしますがご了承ください。

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