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STAR・BLAZES  作者: 水無月 明
第1章,星の精鋭達
15/21

蘇る闇

◎今回登場する敵:

☆降魔族

★首領・魔皇アスラ

★骸兵

 時は1年前ほど前に遡る。


 シルバー・クレスト第5惑星フォジャン、この銀河で最大の規模と最大の人口を誇り、未だ未開の土地を擁するその惑星に高い山脈と深い樹海に閉ざされた場所があった。

 年中霧が立ち込め、コンパスや電子機器も役に立たず、一度入ると二度と返って来れない事からその地は『魔境』と呼ばれ、近隣の住人達は近づこうともしなかった。

 その霧に入り樹海を奥へ奥へと進んで行く度に生物の鼓動が1つも無い死の世界に変わって行った。全ての痩せこけた幹の枝から葉が落ち、そこに棲んでいたはずの鳥・獣は白骨化し、川の水は腐り落ちて魚が1匹も泳いでおらず、腐敗ガスがボコボコと白い泡を立てていた。

 さらにその先を進んで行むと、今度は破壊の限りを尽くされて焼け焦げた瓦礫の山が広がっていた。かつては立派な建造物で、そこに住む人々で栄えていただろう、しかし今ではその集落には猫の子一匹おらず静寂だけが支配していた。

 その集落の奥にひと際大きな建造物があった。その造りから立派な神殿だったのが分かるが、今では他の建物同様崩れ落ちていた。


 その神殿の地下に巨大な空間があった。

 蝋燭も焚かれておらず電気も無い……、石を切って天井高く積み重ねられて作られた暗闇の部屋の中を小指の先端ほどしかない無数の球体がほのかな光を放ちながら宙を浮かびながら照らしていた。

 夥しい人骨が散乱する中に1つ、ボロボロの玉座があり、そこには1人の少年が座していた。

 年の頃は16~7程度だろう、まだ少年のあどけなさを残した顔立ちに黒く癖のある髪と青い瞳、血の気が無いような青白い皮膚の上から白く裾は長いがボロボロの服を着て黒い靴を履いた少年が手を伸ばすと光の球体の1つが手の中に降り立った。

 少年はそれを細めて見ているとその耳に不気味な声が響いた。


『どうやら傷は癒えたようだな、そろそろ動けるか?』

「ああ、所詮虫や獣では時間が掛かりすぎた」

『そうだな……、その分我等『契約』は遠のいた』

「くっ、これと言うのもあいつが……」


 少年は眉間に皺を寄せて目をギラつかせた。

 すると声の主は微笑しながら言い返した。


『まぁ、そう焦る必要はあるまい、最早お前を邪魔する者はもういないと言う事だ。直ちに我等の手足となる者達を集めて『アレ』を回収するのだ。行け、『アスラ』よ!』

「フン、望むところだ」


 アスラと呼ばれた少年は立ち上がると、その吊り上げた瞳の中に怪しい光が輝いた。


 それから今に至る。

 

 剣帝会の事件から3週間後。

 フェニックスはフォジャン第33支部を訪れていた。

 用意された格納庫では整備班による機体の点検・整備が行われ、さらに輸送班がトレーラーを使って水や食料、医療品や必要な機材などを船内に積み込んでいた。その間何もやる事の無いスター・ブレイズ達にとっては最大の骨休めとなった。


 アレン達は私服に着替えると街へと繰り出した。

 勿論軍人である事は忘れていない、何かあった時の為にルイスとジンを待機させ、残りの者達はライセンス・ギアと武器を携帯していた。

 リリーナは元々魔法が使えるので丸腰だが、アレンとサリーはレーザー銃、アイファは分解した昆を服の下に隠し、ユウトは刀を袋に入れて持ち歩いていた。


 銀星系連合軍は軍直属の金融機関を持っていて、そこから各個人に作られた口座に給与が支給される、しかし普段宇宙にいるスター・ブレイズ隊には給料を使う暇が無いので、こう言った惑星に降り立った時にしか使う事が出来なかった。

 元々問題ばかり起こすので給料自体は普通の軍人と比べて少ないが、それでも数ヶ月に一度しか惑星やコロニーに訪れない為にかなりの貯金額があった。

 デパートでの買い物(マーカー達への土産も含む)、ゲームセンターでゲームをしたりと、年相応の若者に戻った彼らは平和なひと時を楽しみ、ふと時計を見ると時刻は正午を迎えていた。

 食事をする事にしたアレン達はとあるレストランを訪れた。緑の垣根と白塗りの壁、入り口には『龍神飯店』と書かれた7つ星のレストランだった。

 注文をしてから数十分後、自分達が席に付いている白いクロスがかかった丸いテーブルのさらに上の回転テーブルには豪華な料理が並べられた。

 回転テーブルを回しながら小皿に料理を取り、それを口に運んだ彼らはあまりの美味さに舌鼓を打った。


「おぉ~~いしぃぃ~~~っ!」

「美味ぇ、こんな美味ぇの食ったの初てだぜ!」


 アイファは右手の箸で春巻きを食べると左手で頬を押さえながら目を潤ませ、ユウトは勢いよく麻婆豆腐を蓮華で口の中に掻っ込んでいた。

 一応フェニックスの食堂でも食べられる料理もあるし値段も張るのだが、本場のフォジャン料理は一味も二味も違った。


「まぁまぁですわね……、私を唸らせるには後一歩足りませんけど」


 リリーナは素直ではないが内心はここの料理を認めていた。

 リリーナは貴族ゆえに幼い頃から一流料理を食べ続けて来た為に舌が肥えていた。元々いたベルシエール支部本部でも昼休憩は外食に出かける事が多かった。

 スター・ブレイズに配属されてからは外食はロクにできなったが、幸いフェニックスの料理を作るシェフが三ツ星以上の腕を持つスタッフが料理しているのでリリーナも食事に困る事が無かった。

 勿論アレンも大満足だった。


「本当に美味いな……、サリーの言うとおりにして良かったよ」


 アレンは隣に座るサリーを見た。

 実はこの店はサリーが選んだ店だった。

 出かける前日、昼は外で食べようと言う話になった時、第33支部の管轄内でどの店に行こうかと議論になった。

 この店以外にも有名なレストランはたくさんあって収集が付かなかったのだが、サリーがグルメサイトや投稿サイトなどを調べて選んでくれたのだった。

 するとサリーはアヒルの丸焼きを食べながら言って来た。


「情報は最大の武器、ただ実際食べてみなければ分からない」


 サリーの言うとおりだった。

 今の世の中、ネットを使えば簡単に物事を知る事は出来る、しかし人間の味覚は人それぞれ、まして情報自体が間違っている可能性もある……、最終的に決めるのは自分自身だった。


 いずれにしろ食事を楽しんでいる時だった。

 突然表の方が騒がしくなったと思い、ふと窓の外を見たアレンは1台の車が店の前に止まったのに気が付いた。

 駐車場でもない道路に止まった車のドアが開くと1人の男が降り立った。

 黒い散切り頭に左目に傷を負い、口から下は赤い覆面で隠し、上半身には黒いジャケット、下半身は黒いズボンとブーツ、左肩にはスポーツバックが通され、両手にはライフルが持っていた。

 男はライフルを高く掲げて引き金を引くと表で待っていた客達は発砲音に驚いて悲鳴を上げた。


「きゃあああっ!」

「うわあああっ!」


 客達は男を見ると一目散に逃げて行った。

 男は左右に避ける人々の間を走って店内に侵入してきた。


「全員動くな! 床に伏せろ!」


 男は再びライフルを天井に向けて発砲すると店内の人間達は怯えて悲鳴を上げた。

 客達は食事を止めるとテーブルや椅子の陰に隠れ、人々の笑顔で溢れていたレストランは店内は阿鼻叫喚の地獄に変貌した。


「あいつ何?」

「見た感じ強盗だな」

「ってか見たまんまですわね」


 テーブルのクロスを捲り、顔を合わせたアレン達は話あった。


 すると表の方からサイレンが聞こえると数台のバッファローが店の前に止まった。

 扉が開くと中から防弾チョッキを着込み、ライフルや刺股などを武装した第33支部の人間達が飛び出して店を包囲した。

 さらに周囲の建物から何事かと集まってきた野次馬達の前にテープが張られ、そこから入れないようにした。

 するとこの事件の指揮官だろう、1人で初老の軍人が拡声器を持って叫んだ。


『連続強盗班『リ・ガオウ』に告ぐ! この建物は完全に包囲した。大人しく人質を介抱いて投降しろ!』


 軍人は男の名を呼んだ。

 ガオウと呼ばれた男は入り口近くの窓を開けるとライフルを向けて表の者達に向けて発砲した。


「うるせぇ! 黙れ!」


 ガオウは完全に逆上していた。下手に刺激すれば人質が危なかった。

そんな中、サリーはライセンス・ギアを取り出すと銀星系連合軍のサーバーにアクセスしてガオウの事を調べた。

 すると画面にガオウの顔写真とデータが映し出された。


「リ・ガオウ、38才、前科4犯、強盗殺人で宇宙中に指名手配されている」

「とんだ悪党だな、俺達で捕まえちまおうぜ」

「いや、人質の命が最優先だ。何とかして注意を反らそう……、いい考えがある」


 アレンはサリーを見て言った。


 アレンは立ち上がるとガオウに向かって叫んだ。


「おい、もう止めろ!」

「テ、テメェ! 誰が立って良いって言った? とっとと伏せろ!」


 ガオウが銃口をアレンに向けた瞬間、アレンの後ろからレーザー銃を持ったサリーが飛び出して天井にあるスプリンクラー目掛けて発砲した。

 光の銃弾はスプリンクラーに当たると大量の水が天井から降り注ぐと店内は水浸しとなった。


「うわあああっ!」


 ガオウどころか店内にいる人間がずぶ濡れとなる中、アレンは銃を引き抜くと注意が反れたガオウに向かって発砲した。


「ぎゃああッ!」


 光の銃弾はガオウの右肩を打ち抜いた。

 真っ赤な血飛沫が舞い、ライフルが床に落ち、ガオウは左手で右肩を抑えながら蹲った。

 その瞬間ユウトが飛び出し、得物を拾おうと手を伸ばしたガオウよりも早くライフルを蹴り飛ばすと右手で頭を床に叩きつけ、更に馬乗りになると左手を後ろに回して押さえ込んだ。


「大人しくしやがれ!」

「ク、クソォ! 離せ! 離しやがれ!!」


 ガオウは暴れるが最早どうにもならなかった。


 表に出たアイファとリリーナは第33支部の軍人達にこの事を伝えると店内に軍人達が突入した。

 たちまちガオウは拘束されて連れて行かれると、人質も全員無事解放されて事件は幕を閉じた。

 その後、アレン達は第33支部に戻るなり事情聴取を受ける事になった。勿論スプリンクラーの水を浴びたので着替えた後での事だった。

 全ての事が終わった時には夕方になっていた。アレン達は指令室に戻ると報告書を作成した。


「はぁ、何だってこんな事しなきゃいけないのよ~」

「全くですわ、折角の休暇ですのに……」


 珍しく意見があうリリーナとアイファ、すると飲み物を運んできたルイスが言って来た。

 勿論この飲み物は土産様に買ってきたフォジャン茶だった。


「仕方ないでしょう、事件だったんだから」

「ルイスはあそこにいなかったからそんな事が言えるんだよ~」

「オレ達は軍人だ。ほおって置く訳にもいかない、まだ明日もあるんだからとっとと終らせな」


 確かに喋っているだけでは仕事は終らない、アイファは口を尖らせると渋々指を動かし始めた。

 すると指令室へマーカーが入ってきた。


「お前達、ご苦労だったな」

「司令、大変なんてモンじゃ無いっスよ~」

「しかし怪我人は1人もいなかった訳だし、お前達のおかげだよ……、ここの支部の人間達も礼を言っていた」


 マーカーは上機嫌だった。何故なら部隊に対する評価が変りつつあったからだ。

 今までは厄介者としてしか扱われなかったスター・ブレイズだったが、最近では上層部からも賞賛の言葉を貰ったのだった。

 問題ばかりを起こし、その度に胃を痛めていたマーカーにとっては嬉しい事だった。

 するとアレンが尋ねてきた。


「しかし司令、あの男はこれからどうなるんですか?」

「強盗殺人の上に篭城、フォジャンでは確実に死刑は免れない」

「でしょうね、私とアレン様とのデートを邪魔したんですから当然ですわ」

「はぁ? アンタと隊ちょ~がいつデートしたってのよ!? 隊ちょ~とはアタシがデートしてたんだから!!」

「妄想もここまで来ると滑稽ですわね、貴女みたいなチンチクリンのお子様がアレン様と御付き合いできる訳ありませんわ」

「はああっ? アンタみたいな賞味期限ギリギリの叔母さんと同じにすんじゃないわよ! アンタこそ隊ちょ~と釣り会う訳無いじゃない!」

「んなっ? 私はまだ21ですわよ! 私のどこが賞味期限ギリギリなんですのっ!?」


 再び始まったリリーナとアイファの喧嘩を見て指令室にいる者達は溜息を零した。

 隊の外側からの評価よりも内側のいざこざを何とかする方が大切だと言う事が分かった。


 それから1週間後、フェニックスの整備と積み込み作業が終ったスター・ブレイズ達は宇宙へ旅立った。

 その日の深夜、生憎の土砂降りでゴロゴロと雷雲が轟く中を第33支部の留置所に収容されていたガオウを乗せた護送車が走っていた。

 オレンジの囚人服に着替えさせられたガオウは手錠で繋がれ、逃げられないように車内には拳銃を持った軍人5名も同乗していた。

 ガオウは壁際の座席に腰を降ろし、うな垂れたガオウは先日自分を捕まえた者達の事を思い出していた。


(クソッ、クソッ! あの小僧供ッ!)


 完全な逆恨みだが、ガオウにとってはレストランの事が頭を過ぎる度に腸が煮えくり返る想いだった。

 奴等がいなければ自分が捕まる事は無かった。あのままレストランの客……、特に子供を人質にでもすればして逃げられた。頭の中でそう思いこんでいた。

 勿論完全に逃げられる訳が無い、指名手配されて完全に逃げ切れる犯罪者はごく僅かで、大半は捕まるか罪の意識に苛まれ自首するかのどちらかだった。

 だがそんな事はガオウには関係なかった。あるのはスター・ブレイズや銀星系連合軍に対する憎しみだった。


(クソッ、何でオレがこんな目にあわなきゃならねぇんだ?)


 ガオウは両手の拳を握り締めて歯を軋ませた。


 護送車の前部車両に乗っていた軍人2人の内、ハンドルを持って運転していた男が言って来た。


「ああ~、面倒臭ぇ……、何でこんな雨の中行かなきゃならねぇんだよ」

「ぼやくな、元々決まってた事だろ、つべこべ言わずにしっかり運転しろ」


 助手席でライセンス・ギアの地図を見ていた軍人が言い返した。

 確かに決まった任務である以上断る事も文句を言う事も許されない、しかし人間である以上不満はあった。

 何しろ夜の森の中を、特に土砂降りの雨の中では気が滅入ってしまう……、一応第33支部からは護送の仕事が終れば特別に非番が与えられているのだが、一刻も早く帰りたいと思うのが本音だった。

 そんな事を考えている時だった。突然何もいていないのに車のヘッドランプが点滅し始めた。


「あ、あれっ? そんなバカ?」

「どうした? 何やって……、なっ?」


 助手席の軍人はライセンス・ギアを見た。

 ライセンス・ギアの画面は画像が乱れて見れなくなっていた。

 ライセンス・ギアは週に一度、メンテナンスの義務があるので故障が起こる事は考えられない、まして護送車の方も支部を出る1時間ほど前に点検をした時はどこも異常が見られなかった。

 ふとフロントガラスを見た時だった。目の前に数人の人だかりが出来ていたので慌ててブレーキを踏んだ。


「うわあああっ!」


 地面がぬかるんでいるので車体は大きく揺れてスリップしてしまった。

 幸い横転はしないが、運転席と後部車両を塞いでいる壁にある小さな窓が開くとガオウを見張っていた軍人の1人が尋ねてきた。


「何だ? どうした?」

「あれだ。目の前に人影が!」


 運転手はブザーを鳴らすが一向に影達は動こうとしなかった。

 仕方なく助手席の軍人と後部座席でガオウを見張っていた5人の内3人が表に出てくると、ずぶ濡れになりながらも懐からレーザー銃を取り出して構えた。


「貴様等何者だ? 何が目的だ? 答えろ!」

「そこを退け! 場合によっては射殺するぞ!」


 軍人達は目の前の者達に尋問をする。

 銀星系連合軍は職務の妨げになるようなら、止む終えない状況の場合のみ射殺を許される、勿論20歳未満の未成年の場合は逮捕となるが、目の前にいる者達はどうみても未青年と呼べる身長ではなかった。

 明らかに20代前半から後半くらいだろう、ライトが消えているので良く見えないが、人影達は引くどころかおぼつかない足取りで迫ってきていた。


「止まれ! 聞こえないのか? おいッ!」

「仕方ない、撃つぞ!」


 軍人の1人が言うと止む無く引き金を引いた。

 勿論急所に当てるつもりは無い、足や肩などを撃って動けなくする程度だった。しかしどういう事だろう、レーザー銃の銃口からレーザーが出る事はなかった。

 何度引き金を引こうとも銃はうんともすんとも言わず、ただカチカチと音が鳴るだけだった。


「な、何だ? これも故障か?」

「うわぁぁぁぁっ!」


 すると軍人の1人が悲鳴を上げた。彼が恐る恐る指を差すとその理由が直ぐに分かった。

 雷雲から雷鳴が轟き、稲光が発せられると周囲が眩い閃光に包まれた。その時に見えた連中の顔や体からは皮が剥がれて肉が崩れ落ちて腐敗しており、瞼が無いので血走った目玉が崩れ落ちそうになり、全身からどす黒い瘴気を発していたのだった。

 その瞬間軍人達の顔色が強張り、背筋に悪寒が走った。


「うっ、うわあぁぁぁっ! 化け物だぁぁあぁぁーーーっ!!」

「落ち着けっ! こうなったら魔法だ!」


 軍人は銃を捨てると右手を翳した。

 途端足元に赤や黄などの魔法陣が浮かび上がった。

 彼らはフォジャン人だがベルシエール式の魔法も使う事ができる、最早魔法は宇宙共通の物で、それを教える為の専門学校的な場所も存在する、だがその惑星で育った環境からか、1番得意な魔法は生まれ育った惑星の魔法の可能性が高かった。

 それでも銃よりは強力だ。軍人達が魔法を唱えようとしたその時、突然足首を何かがつかんだ。


「うっ! な、何だ?」


 軍人達は足元を見る。

 すると地面の下からボロボロに腐敗した手が飛び出して自分の足首をつかんでいたのだ。

 それだけでは無い、周囲の地面がボコボコと盛り上がるとそこから異形の者達が土の中から這い出てきた。

 異形の者達が出て来た瞬間、辺りに我慢できないほどの腐敗臭が立ち込めた。今までは雨の影響で臭いが消されていて気付かなかったが、異形の者達は鼻が曲がるほどの異臭を放っていた。

 それだけでは無い、足首を握られた軍人のズボンの裾がボロボロに朽ち、さらに素足の部分が熱を持ち始め激痛を放った。


「ぐあああああっ!」


 まるで高濃度の硫酸をかけられた蚊の様二皮膚が焼け爛れ、肉が焼る嫌な臭いのする煙が立ち込めた。

 軍人は両足を持って振り払おうとするが、異形の手はまるで張り付いたかのように離れない、それどころか物凄い腕力で指が肉に食い込み、骨がギシギシと軋み始めた。

 すると他の異形の者達が両手を広げると軍人につかみかかり、覆いかぶさって押し倒した。


「うわああっ! たっ、助け! 助けっ、ぎゃああぁぁ……」


 異形の影に埋もれて軍人の声はかき消されてしまった。


「くっ、くそ!」


 直ぐ側の軍人が助けようと呪文を唱えようとした瞬間、左右から異形の者達が手を伸ばして彼を拘束した。

 そして残ったもう1人も前後左右から襲われてなす術も無く倒された。


「うわああぁぁ……」

「あああぁぁ……」


 せめてもの抵抗か本能的な物か、異形の者達の体の隙間から伸ばしていた手から力が抜け、糸が切れた人形の様に手首がガクリとうな垂れた。


 一方、護送車の方も異形の者達の襲撃を受けていた。

 腐敗した両手でフロントガラスをバンバンと叩きつけ、車体をグラグラと揺すって中に残っていた者達を襲っていた。

 運転席に残っていた軍人はライセンス・ギアで本部へ救援を求めようと連絡を取った。


「本部! 本部! 応答願います! こちら護送車……、謎の異形の襲撃を受け……」

 

 ザザッ! ザザザザッ!


 無線機から酷いノイズが放たれて使い物にならなかった。

 軍人はライセンス・ギアを助手席に放り投げると右足に力を入れ、アクセルを踏んで異形の者達を跳ね飛ばそうとするが、車体は僅か数センチ進んだだけで止まってしまった。

 勿論足場もあるだろうが、異形の者達の凄まじい腕力で止められ、タイヤがスリップして泥を弾くだけで進もうとしなかった。

 するとライフルさえも弾くフロントガラスや窓ガラスに亀裂が入ると粉々に砕け散った。


「うわあああっ!?」


 軍人は恐怖に慄く。

 異形の者達は砕かれたガラスに身を乗り出して車内に侵入し、手を伸ばすと軍人の顔や体をつかんだ。

 そして顎が外れるくらいに口を空けるとボロボロな歯を剥き出しにして噛み付いた。首・肩・腕、   

 各部を食いちぎられると車内に鮮血が舞い、窓ガラスやドアにこびり付いた。


 一方後部座席でも同じ惨状となっていた。

 扉がこじ空けられるとガオウの監視として残っていた軍人達も異形の者達に襲われていたが、ガオウだけは護送車の片隅でガタガタ震えていた。

 しかも人が襲われ食われる場面を直面したガオウは胃の中の物が込み上げてその場で吐き出した。

 すると異形の者達は今度はガオウの方に目を向けた。


『ううぅぅぅ……』

『あああぁぁ……』

「ヒッ! ヒィィッ!」


 ガオウは恐怖に慄く。

 自分も人を殺して相手の死を見てきた。だがいざ自分が殺される側になって恐怖が込み上げてきた。しかも自分が怪物に襲われるとなれば尚更だった。

 ガオウは壁にすがり付いて目に涙を浮かべ、恐怖のあまり小水を漏らしてズボンの股間部分を濡らした。

 そんなガオウにお構い無しに異形達がガオウに向かって手を伸ばした時だった。


「待て」


 聞き慣れないがちゃんとした人間の声がガオウの耳に入った。

 すると車内にいた異形の者達が振り向いて車を降りて行った。そして恐る恐る目を開けてみるとそ   こには1人の少年が立っていた。

 年は後半だろう、まだあどけなさは残るが血の気が引いたような青白い顔に血に染めたような赤く鋭い目、上半身は呪文のような文字が描かれた袖口の白い着物の上から左右の肩に1本角が生えた黒い髑髏のような形状の肩当てを着込み両腕には黒いリストバンドに右手には赤黒く幅の広い片手剣、下半身は白いブカブカの穿き物の上から膝の丈まである黒い具足を装着していた。

 すると少年は車内に飛び乗るとガオウに近づいて目の前の座席に足を組んで座った。


「そう怯えるな、話があるだけだ」

「……えっ?」


 ガオウは眉間に皺を寄せる。

 すると少年がガオウに向かって目を細めると赤い瞳が怪しい光を放った。

 途端ガオウの瞳から光が消え、恐怖で強張っていた顔が和らいだ。それを見た少年が不適な笑みを浮かべると、少年の体から黒い影が噴出した。


『アスラ、本当にこの者で良いのか?』

「さぁな、だが試してみない事には分かるまい?」


 するとアスラはガオウに向かって左手を伸ばすと言って来た。


「貴様の心の内を我に見せてみろ、そして全てを解放するのだ」


 アスラが言うとガオウは自分の過去を語った。

 

 ガオウはとある貧しい農村で生まれた。しかし両親から愛情は一切受けられず劣悪な環境で育った。

 父親は働きもせずに朝から酒びたり、母親は男遊びが激しくてロクに家におらず、代わりに自分が働きに出されて学校にも通わせて貰えなかった。

 その稼いだ金も自分の手元には一切入らず両親の酒代と博打代に全て消え、さらに暴力を振るわれるのは勿論、ロクな食事も与えられずに飢えを凌ぐ為に残飯を漁り、周囲からも白い目で見られて来た。

 毎日毎日馬車馬の様にこき使われ、搾取される日々に耐えかねたガオウはついに15歳の誕生日、両親を刺し殺して刑務所にぶち込まれた。その後出所し真面目に働こうとしても刑務所にいたと言う事でまともな仕事に就く事ができず、それどころか今まで以上に迫害されるようになった。

 それ以来自棄になったガオウは恐喝と強盗を繰り返し、終いには銀行を襲って高飛びしようと考えた。

 しかし銃砲店で銃を奪い銀行で襲ったまでは良かったが、金の詰め込みの最中、銀行員の1人が非常ベルを鳴らした事で銀星系連合軍に知られる事になった。

 そして最後はアレン達が偶然いたレストランに逃げ込んだのだった。

 そもそも自分がこうなったのは誰の責か……、それはロクな教育も受けさせずに自分を働かせた両親? 迫害してきた人々? 大人しくせずに非常ベルを押した銀行員? 自分を捕まえた子供達の責? いずれにしろこの世界は腐っている……、そうだ。自分自身がそうなったのは腐った世界の責だ。


「……世界が憎い、世界が、憎い憎い憎い憎い憎いッ!!」


 ガオウの眉間に皺が寄り、野太い眉が釣りあがると歯を軋ませて振るえる両手を見た。

 先ほどまでスター・ブレイズに向けられていた怨みの念は世界その物に向けられ、内に秘められた憎悪の炎は勢いを増した。

 その瞬間、アスラは立ち上がると剣を振るって手錠を切断し、さらに切っ先を突きつけて訪ねた。


「ならば我が一族に加わるが良い、そうすれば貴様には『最強の力』をくれてやる、その力を使いこの世界に復讐してやれ」

「最強の……、力」


 ガオウは目を皿のように広げて呟いた。

 ガオウの心を支配していた恐怖の感情はいつの間にか完全に消えていた。

 自分の話を聞いてくれた。自分を認めてくれた。今のガオウの目にはアスラが神か仏のような存在にしか映っていなかった。

 するとガオウは堅唾を飲み込み、その場に膝を付けると自分より年下のはずのアスラに縋りつきながら言って来た。


「力が欲しい! 頼む、オレに力を……、力をください!!」


 その姿を見たアスラは剣を下ろすとガオウに背を向けて歩き出した。

 車を降りたアスラは左手をかざすと自分と死肉を貪っていた骸兵の目の前に大きな黒い渦が出来上がり、それに気付いた骸兵達は黒い渦の中へ消えて行った。

 するとアスラはガオウに向かって首を捻ると微笑しながら振り向きながら言った。


「着いて来い」

「は、はいぃ!」


 ガオウは満面の笑みを浮かべて頷くと車を降り、アスラと供に消えて行った。

15話です。

気に入らなかったので書き直しました。

大変ご迷惑をおかけしますがご了承ください。

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