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STAR・BLAZES  作者: 水無月 明
第1章,星の精鋭達
13/21

龍の秘宝

◎今回登場する敵:

☆剣帝会首領

★剣帝、帯刀梗士朗

★四刃将、魁面圭吾・胴凱玄弥

★小刀衆(戦闘員)

 今から数年前だった。


 シルバー・クレスト第5惑星『フォジャン』のとある農村近くの小川に1人の赤ん坊が流れ着いた。

 その女の子は田舎町の子供のいなかった夫婦に引き取られたが、それ以来村に不思議な事が起こった。

 彼女が10歳の頃、枯れ木に触れると枝に花が咲き乱れ、翌年の猛暑では水不足になった時に彼女が指差した場所を掘ると水が湧き出てきたりと信じられない事ばかりが起こり続けた。

 初めは誰しもが奇跡と喜び、その少女を大切にした。

 しかし村が豊かになる度に村人達は気味悪がるようになった。勿論それは世話をしてくれた養夫婦達さえもだった。


 その後、彼女は捨てられたも同然に町の方の施設に押し込められる事になった。

 しかしその施設でも生活は良い物でもなかった。ふとした事で転んでしまい、膝を擦り剥いた彼女の怪我が瞬時に治ってしまった事に大人や子供達は驚いた。

 その光景に子供達は気味悪がり、大人達は多少は理解はあったが、かつての村人達の様な目で見られるようになった。

 やがて彼女の存在は連合軍の耳に知られる事になり、軍の関係者により取調べが行われた。その結果、魔力の反応がずば抜けて高いと判断され、直ちに研究施設に送られる事になった。

 それは彼女が12歳の頃だった。

 フォジャンでは魔法はかつて『気功』と呼ばれ、ベルシエール式とグラム式を掛け合わせたような物で、かつて『氣』と呼ばれていた魔力を自分を他人に分け与える事で傷ついた相手を治癒・回復できると言う物だった。

 しかし気功は他人を回復は出来るが自分自身を治す事はできない…… つまり気功に似て異なる物だった。

 研究員達は彼女に『その力を軍の為、引いては人々の未来の為に役立てよう』と言われた。しかしそれは嘘と分かっていた。

 思考まで読めないが、笑顔と言う仮面をかぶった彼らの内心に潜む黒い物が彼女には見えた。

 必要なのは自分では無くこの能力、能力を解明して上層部に報告すれば自分達の大きな手柄となり株も上がる、そうなれば元フォジャンの小さな一研究機関で、無理やり組み込んで貰っただけの研究所の存在も大きく跳ね上がる……、その為の実験動物としか思われていなかった。

 

 彼女が13歳を迎える頃。

 彼女の存在は連合軍三大派閥の1つである『軍直属魔導開発局』に知られる事となり、エンフィールドにある本部へ移される事が決まった。

 研究所の方は講義したが聞き入れられず、それどころか『施設を解体する』と脅されて渋々彼女の引渡した。

 エンフィールド本部に移された後も彼女は同じセリフを吐かれ、研究と言う名の実験が行われた。

来る日も来る日も行われる実験についに彼女は心を閉ざしてしまった。いっそ私刑で死んだ方が楽になれた。そう思った時、1人の軍人が現れた。

 その軍人は自分の責任で着任先の上司を死なせてしまった事から塞ぎ込んでいたが、特別な計らいで彼女の世話をする事になった。

 その際にその上司の残された遺児の事を聞かされた彼女の凍りついた心は次第に解けて行き、笑顔が戻っていった。

 その際に自分の能力の事を話し、『自分も未来が欲しい』と言うと、彼は直ちに上層部と話をつけてくれて彼女に自由を与えてくれたのだった。

 それからしばらくして彼は彼女の元から離れたが、彼女は彼に憧れて軍人になる事を決めた。

 元々勉強をした事が無かった為に一から読み書きを覚え、体を鍛えて武術を習い2年後、彼女は正式に銀星系連合軍に入隊、さらにその2年後、個人型バリア・メイルが与えられ、今の部隊に配属してもらうように頼んだのだった。


 そして今に至る。


 血の気の失せた顔に血行が戻り、瞳を開けるとゆっくりと上半身を起こした。

 アレンは少々息を呑むとアイファから身を退けた。それは進一も同様だった。

目の前で人が殺され、しかも確実に死んでいた。漫画やアニメなら良くある事だろうが、現実にありえない事に2人は空いた口が塞がらなかった。

「た、隊ちょ~……」

 アイファはか細い声で言った。

 傷自体は治癒したようだが、体内はまだ完全に回復しきってはいない様子だった。

 するとアイファは自分の左手で右肩を抑えると目を反らしながら言った。

「……バレちゃったんだ」

 アイファは分かっている、アレンは自分の拒んでいるのだと。

 自分を助けてくれた彼だけではない、高飛車でケンカばかりしていた元エリート魔導士や、無口でぶっきら棒だが根は優しい不器用なオーガ族など、他にも一癖も二癖もある者達だし、呆れる事もあったが、今では心の底から楽しいとも思える家族の様な者達が存在していた。

 しかし夢とはいつかは覚める物、望んでいた部隊に入り、自分は決めた。今まで生きてきて辛かった分『皆を笑顔にしよう』、『辛く苦しんでいる人がいたらその人達を笑顔にしよう』そう思っていた。

 自分の辛さなんてもう感じていないが、悲しさまではどうにも出来なかった。

 せめて憧れている人にはこんな形でバレたく無かった。

 決して笑顔は絶やさず、人前では涙を見せないと自分自身に決めていた。だがその誓いは守れそうに無かった。

 アイファは目を細め、口を紡いだその瞬間、自分の目の前が暗くなった。

「……えっ?」

 自分をアレンの強い腕が包み込んだ。

「良かった。本当に……」

 アレンは枯れそうな声で言った。

 腕や肩が震えている、恐らく泣いているのだろう。

 思った事は違う反応にアイファは戸惑った。

 そのアレンの行動にアイファの瞳から涙が零れ落ちた。

 初めてだった。今までこの能力を見た人間の反応は大きく分けて2つ、拒絶するか受け入れてくれたかだった。

 後者の方は予め知らされていた事だった。アイファの世話をしてくれていた彼は施設の科学者からカルテを受け取って説明を受けた。

 無論半信半疑だっただろうが、元々子供がすきだった為に悪い事にはならなかった。

 しかしアレンは彼とは違った。確かに実際にこの能力を見て混乱はしただろうが、それでも尚自分が生きていた事を喜び、抱きしめて涙を流してくれた。

 最早辛い事や苦しい事で流れる涙はない、しかし嬉しさで涙が流れるのは初めてだった。


 しかし感動している場合ではなかった。

 アレンは事の経緯をアイファに話した。

 剣帝会の首領が現れた事、沙耶が連れて行かれた事も全部だった。

 しかし1つだけ謎が残った。

 それは何故沙耶が連れて行かれなければならなかったかだ。

「まさか……、古墳に関係があるのかな?」

「コフン? 何それ?」

「ああ、衛星写真で撮ったんだ。この辺りには古墳が埋まってて、その古墳に伝わる伝説があるらしいんだ」

「龍神様……」

「えっ?」

 小さい声にアレンは振り向いた。

 すると進一は息を呑むと静かに肩を落とした。

 最早進一には星人と言う差別はない、アイファが生き返った事は自分も嬉しい、しかしそれとこれとは話が別だった。

 進一は明らかに村が襲われた理由を知っている、今まで言おうとしなかったのは村のタブーなのだろう、バラせば子供とは言えば子供とは言えなんらかの処罰があるのだろう、だがどうしても自分は姉を助けたかった。

 進一は目を吊り上げるとアレン達に言って来た。


 遥か昔、この辺りには文明があり、そこに住む人々は守り神である『龍神』と供に暮していた。

 豊かな自然と龍神の加護で平和な生活していた彼らだったが、それを妬んだ者達が龍神の力を得ようと侵略を始めた。

 だがその度に龍神が侵略者達を追っ払っい、民達を守っていたが、絶え間なく襲いかかる侵略者達についに龍神も力尽き、最後の力を振り絞った龍神は黒い涙を流しながら全ての敵を焼き払った。

 そして龍神は最後に『自分の亡骸で武器を造れ』と言い残し、静かに息を引き取った。

 民達は言いつけを守り龍神の亡骸で武器を造ると、その武器で外敵を蹴散らして永い繁栄を築いて来たのだった。

 だが永く続いた文明もやがて衰退し、龍神の秘宝は封印され、民達の殆どは新天地を求めて旅立った。

 そして文明を捨てられないと残ったごくわずかな者達は龍神の秘宝の守人になったのだった。


 進一はそれだけ言うと3人の間に刹那の沈黙が走った。

 するとアレンは口元に手を当てながら言って来た。

「……そうだったのか、じゃあ君達はその子孫って事か」

「でも何でお姉さんが? 封印なら普通に解けば良いじゃん」

「僕の祖先は遺跡の扉を封印した術者の家計なんです、つまり開くには一族の女の人にしか開かれないんです」

「そうか、分かった。お姉さんを今から助けに行く……、遺跡の場所は分かるかい?」

「……分からない」

「えっ?」

「お父さんなら知ってた。でも……」

 進一はうな垂れて顔を顰めると袴を強く握り締めた。

 その時にアレンは2人の進一の父親が無理やり吐かされたのだと言う事を察した。

 父親は時が来たら子供達に話すつもりだったのだろうが、拷問にかけられて用済みとみなされたならば最悪な事態を想定しなければならない。

 そうなれば封印を解かされた後の沙耶の安否も不安だ。

「不味いな、一度フェニックスで衛星写真を……」

「あっちじゃない?」

「アイファ?」

 アイファはアレンに背を向けると1つの山を指差した。

「あっちに向かって嫌な気配が進んでる、アタシ分かる」

「本当か? じゃあアイファ、君はここに残ってシンイチ君を保護してくれ、オレはこのまま遺跡に向かう」

「ええっ? 何でぇ~!?」

「シンイチ君をこのままにしては置けないだろ、それに村の方はルイス達が解放しに行ってる、だから君もそっちに……」

「ダメだよ!」

 アレンが説明してる最中、アイファが叫んだ。

 アイファは息を呑むと言い返した。

「アタシ、お姉さんに約束したの! お姉さんとシンイチ君はアタシが守るって! だから連れて行って!」

「無茶言うな、大体何かあった時にナイトを用意してないんだぞ!」

「ナイトなんて無くても大丈夫だよ、アタシなら大丈夫だよ、どれだけやられても死なないし!」

「そう言う問題じゃないだろ、これは命令だ。シンイチ君と一緒にここで待機だ!」

「イヤッ! アタシも行くっ!」

「アイファ!」

 アレンは命令を下すがアイファはその度に首を横に振った。

 真剣なのは分かる、しかし現実はそうも行かない、現にアイファは2回も危険な目にあった。

 今までは運が良すぎた。今回も同じく助かるとは思えない……、進一と供にここに残り、アレンはルイス達に報告して合流させるのがベストなやり方だった。

 一方アイファのはいわば感情論、非合理的だった。

 気持ちは分かる、自分が逆の立場ならきっとそうしてるだろう、しかし人は心を鬼にしなければならない時もある、それは事実だった。

「……分かった。ただし条件がある」

「条件?」

 アイファは首をかしげた。


 アレンはペガサスに乗ると荷台にアイファ、自分の手前に進一を乗せて走り出した。

 無論一般人を戦場に連れて行くなど軍人としてはあってはならない事、しかし川原に1人ほおって置く事は出着ないので連れて行く事になった。

 一気に森を抜け、山道を越えて行くと岩だらけの山道に突き抜けた。

「アイファ、本当にこっちなのか?」

「うん、このまま真っ直ぐだよ」

 アイファはアレンの方から首を伸ばすと前方の道を見た。

 アイファの瞳には地中からどす黒い煙のような物が一直線に直進しているのが見えていた。

「じゃあ舌噛むから黙ってろ、シンイチ君もだ!」

「うん!」

「分かった」

 2人が答えるとアレンはアクセルを噴かした。


 その頃、ルイス率いる別働隊が村を開放していた。

 衛星写真で村の状況を理解したルイス達は隠密作戦を開始した。

 確かに上空からも陸上からも不可能、ならば地底から行けば良いだけの事だった。

 剣帝会もまさか自分達と同じような手で来るとは思わず、地下洞窟まで兵隊を忍ばせてはいなかった。

 ルイスは指揮をする為にフェニックスに残り、サリーはバッファローに乗って鎖された入り口で待機、リリーナ・ジン・ユウトの4人が隠密行動で地下を通って村の敷地に潜入した。

 当初はジメジメした洞窟に入るなど嫌がっていたリリーナだったが、アレンに株を上げるチャンスとルイスが説明すると例のように手の平を返してやる気を出した。

 スター・ブレイズの中で1番扱い易いのはリリーナだと言うのが皆理解した。

無事に村の敷地内に無事潜入すると、まずリリーナが魔法で霧を作って村中を包み込んだ。

 霧が出た事で視界を封じ、村の入り口を固めていた4人を素早く眠らせると内部に侵入した。

 そしてリリーナから連絡を受け取るとサリーがバッファローの2重砲で大岩を粉砕すると、その轟音は村の方まで響いた。

 剣帝会の小刀衆は責めて来たと認識するが時既に遅し、集会場に忍び込んだ3人が小刀衆を撃退して行った。

 小刀衆の戦闘力はハッキリ言って対した事は無い、メサイアのような特殊アーマーを着込んでいる訳ではないので普通の倒す事が出来た。

 作戦開始から僅か30分程で村は開放されると、その報告をフェニックスのマーカーとアレンに伝えた。

 アレンはヘルメットに装着されている無線機で村が開放された事と調べていた剣帝会の情報を知らせた。

『隊長、村人は全て解放されました。怪我人は1人もいません』

「そうか、良かった」

 アレンは安心して肩を落とした。

 その会話はアイファや進一にも聞こえて胸を撫で下ろした。

『そして剣帝会の事だけど、彼らはジパーダで暗躍するDランクのテロ集団よ』

 ルイスは説明してきた。

 剣帝会はジパーダ政府に敷かれた廃刀令により刀を捨てざるおえなくなった侍達や、政府を快く思わない者達が集まってできた武装集団だと言う。

 彼らは『剣こそ全て、剣こそ真理、剣こそ正義、その頂点に君臨する剣帝こそ天下を統べるべき』と称して攘夷活動を行っていると言う。

 しかしよほど資金面に苦しいらしく、各地で押し込みや強盗を繰り返していると言う。

「……何が攘夷活動だ」

 アレンは呆れた。

 言っている事は立派だがやっている事はただのチンピラと同じだった。

 しかし連中の思想はあながちハズレてもいなさそうだった。それは首魁である帯刀梗士郎の事だ。

 アレンはその事を話した。

「ルイス、剣帝会の首領にあった。確かタテワキ・キョウシロウって言ってたけど……、データ・ベースにはないのか? 恐らく崖が崖を切断させた張本人だ」

『剣帝会の首魁? データベースには何も書かれていなかったわ、剣帝については何も知らされてないみたいね』

「そうか、分かった。オレはこのまま遺跡の方に向かう、剣帝会の戦闘員達は全員拘束してユウトに見張りをさせておいてくれ、そしてジンとリリーナとサリーとアイファのナイトを運んで遺跡に来るように命令してくれ」

『えっ、ナイトを? 剣帝会は人間でしょう? それに……、アイファ? でもアイファは……』

「アイファは無事だった。戦闘も可能だ。それに今回はロスト・テクノロジーが絡んでるらしい、頼む」

『分かったわ、ならジン達のナイトを投下した後、アイファのナイトを運ぶわ』

「頼む、場所はオレのライセンス・ギアの信号をたどってくれ」

『了解!』

 するとルイスは通信を切った。

「隊ちょ~」

「ま、仕方ないだろ、その代わり沢山働いてもらうからな」

「了~解!」

 アイファは頷いた。


 その頃。

 岩だらけの山岳地帯にぽっかりと空いた穴があった。

 その内部では篝火が焚かれ、真っ暗な洞窟内部を照らしていた。

 奥には大きなドーム状にくり貫かれ、20を超える剣帝会の小刀衆が自分達の得物を手前の地面に置いて跪いていた。

 その手前には四刃将の2人である魁面真澄と遺跡の鍵である御堂沙耶を押さえつける胴凱玄弥が立ち、その前には首領である剣帝・帯刀梗士郎が岩壁のに取り付けられた巨大な龍が彫られた青銅の扉があり、その左側には別の通路があった。

「これが遺跡の扉か」

「左様にございます。我等が持ち至る爆薬・火薬を使い込みましたが傷1つ着ける事は出来ませんでした」

「やはりその娘が鍵か、早く開けろ」

「御意! さぁ、来い!」 

 胴凱は沙耶を引っ張ると門の前に連れて行った。

 そして巨大な右手で沙耶の細く白い右手をつかむと、彼女の手の平を扉に押し付けた。

 これで封印が解かれたかと誰しもが思った。しかし……

「何も……、起こらない?」

 胴凱は目を見開いた。

 周囲の者達も互いの顔を見合わせると、梗士郎は目を細めながら言った。

「やはりな、その娘が自らの意思で望まなければ扉は開かんと言う事か……」

「おい、貴様! さっさと扉を開けんか! 我等剣帝会の……、いや、剣帝のお役に立てる事を光栄に思わんか!」

 魁面は沙耶に叫んだ。

 しかし沙耶の心境は変わらなかった。

 村を襲い、弟を含めた多くの人を苦しめた者達に協力する事など出来なかった。

 すると胴凱が左手で沙耶の胸倉をつかみ上げながら怒鳴りつけた。

「とっとと開け! 開けなければタダでは済まんぞ!」

「ううっ!」

 締め上げられた沙耶は苦しさに美しい顔を顰めて背けた。

 しかしどれだけ苦しめられようと開く気はなかった。

 龍神の秘宝がどのような物か知る由はないが、少なくともこいつらに渡す事は出来なかった。もし渡したとなれば村人は全員始末される……、いや、それどころかもっと大変な事になるのは目に見えている。

 自分達が長い間守り続けて来た秘宝で多くの血が流れるのは確実だ。

 業を煮やした胴凱は握り締めた右手を震わせると沙耶の顔に向かって振り下ろそうとした。

「貴様ぁ!」

「止せ!」

 梗士郎が一喝する。

 身を刺すような殺気に胴凱の体が強張った。

 それはここにいる小刀衆や魁面達も例外ではなかった。

 一間置くと京士郎は言った。

「娘に何かあれば封印は解かれない、違うか?」

「そ、それはそうですが……、一体どうやれば?」

「簡単だ。聞けば言いだけの事だ」

 梗士郎が右手を上げると左側の通路から2人の小刀衆が1人の男を連れてきた。

 その男は40代前半と言った所だろう、不精髭を生やして黒いオールバックの長い髪をうなじで束ねていた。

 首から下は官職の着物を着ており、頭に包帯を巻いて両手を後ろに回されて交差させた手首に縄を巻いて拘束されていた。

 男の顔を見た瞬間、沙耶は目を丸くして叫んだ。

「お父様!」

「さ、沙耶……」

 沙耶の父はか細い声で言った。

 怪我の具合から見て相当痛めつけられたのが分かる。

 すると梗士郎は小刀衆に命じた。

「やれ!」

「「御意っ!」」

 すると2人の小刀衆は沙耶の父親を痛めつけ始めた。

 片方が両腕を持って立ち上げるともう片方が拳で顔や腹を殴りつけた。

 その度に体中に鈍い痛みが走り、顔に痣ができると口の中を切っただろう血が吹き出た。

 父の拷問を目の前にした沙耶は胴凱の腕を振り払おうと抵抗するがビクともしなかった。

「止めて! もう止めてください!」

 沙耶はたまらなく叫ぶが小刀衆は止める事はなかった。

 すると梗士郎は沙耶に言った。

「それをどうするかはお前次第だ」

 梗士郎は手を上げると暴行を加えている小刀衆が動きを止めた。

 沙耶は震わせる両肩に首を引っ込め、瞳に涙を浮かべた。

 そんな沙耶に梗士郎はある提案を述べた。

「もしお前が協力すれば、父親と村人……、そしてお前の弟は助けてやっても良いのだぞ」

 沙耶は目を見開くと息を呑んだ。

「迷っている暇は無い、三つ数える間に決めろ」

「……さ……や……駄目……」

 最早父の声にならない声で制止する。

 しかし沙耶は口を紡いで立ち上がると父の願いとは裏腹に背を向けて扉に近づくと扉に手を当てた。

 すると扉はほのかに輝き、龍の目が赤く光ると音を立てながら左右に開いた。それを見た沙耶の父は最早これまでと両肩を落とした。

 その奥は長い通路となっていて、どう言う仕組みになっているのだろう、左右の岩壁の燭台に炎が灯って長く暗い道を照らした。

 道が開かれた事に梗士郎が鼻で吐き捨てると魁面が立ち上がり京士郎の横に付きながら大げさに言って来た。

「おお、やりましたな剣帝、これで後は秘宝を手に入れればこのジパーダは剣帝の物ですぞ!」

「「「「「おおおおおぉぉ!!」」」」」

 後ろにいた小刀衆の歓喜の雄たけびが洞窟内に響き渡った。


 明るくなった通路を京士郎と配下の者達と沙耶に抑えられた父親が進んで行った。

 100メートルほど歩くと先ほどよりも数倍大きく手入れされた部屋に出た。

 天井と壁は白く切られた石で固められ、その天井は龍が絡まった無数の石の円柱が支えていた。

 そして部屋の奥には10段ほどの階段の祭壇があり、その上には大きく長い石棺が安置されていた。

 梗士郎・魁面・胴凱の3人は祭壇を上がって行くと炎の明かりで照らされる石棺を見た。

 やがて胴凱が蓋に手を当てて棺を開くと、中に納められていた物を見た。

「こ、これは、まさか……、外れ?」

「そ、そんな……、剣帝!?」

 魁面は梗士郎の顔を見る。

 梗士郎は眉間に皺を寄せて舌打ちをした。

 どうやら欲しかった物は自分達が望んでいた物とは違うようだった。

 するとその時、背後の方から駆けつける無数の気配と足音が聞こえてきた。

 振り向いたその途端、小刀衆が後から来た者達によってふき飛ばされた。

 それはあの川原にいた星人達と幼子だった。


 アレンとアイファは得物を片手に遺跡の中に飛び込んだ。

 アイファの場合は洞窟前で見張りをしていた小刀衆から奪った槍をいつも使っている昆の代用品にしていた。

 数人の小刀衆を薙ぎ倒して部屋の中に入ると得物を構えて矛先を向けた。

「そこまでだ。剣帝会!」

 アレンは叫ぶ。

 すると魁面は長槍を構え、胴凱が腰を低くして両拳を握り締めた。

「き、貴様ら、こんな所まで……、って、その娘は!?」

「バ、莫迦な! 貴様は剣帝が始末したはず???」

 魁面と胴凱は目を皿のように丸くして驚いた。

 勿論アイファを攻撃した梗士郎本人も驚いていた。確実にアイファは始末した。確かに直接触れてはいないので心拍停止、脈を測った訳ではないので死亡の確認はしていない。

 しかし手ごたえはあった。しかも出血の量から考えて助かる訳が無かった。

 

 剣帝会の連中は混乱している。

 アレンは左手で進一を後ろにやるとアイファはその進一を隠すようにアレンに背を当てた。

 正直言うとアレンもアイファも恐怖を拭いきれてはいなかった。

 ちなみに魁面や胴凱は眼中に無かった。京士郎の威圧感が強すぎて2人の存在は霞んで見える。

 しかし気合負けしてはいられなかった。戦わなければならない、守る物がある限りはだ。

 するとアイファが周囲を見回して沙耶の存在を確認した。さらに直ぐ側には進一と同じ服を着て、傷だらけで中年の男を発見した。

「隊ちょ~、あそこ!」

 アイファが見た先をアレンを見る。

 そして状況を整理したアレンは一間置くとアイファに言った。

「アイファ、君に命令するよ」

「うん、お姉さん達を助けりゃ良いんでしょ?」

「そういう事だ。出来るよな?」

「もちろん!」

 アレンが言うとアイファは頷いて槍を構えた。


 星人の娘がどうやって助かったのかは分からない、しかし敵が現れた以上、自分達のやるべき事はただ1つだ。

 相手がやる気だと言う事が分かった魁面は葉を軋ませて小刀衆に命じた。

「お前達! 剣帝をお守りしろ!」

「「「「「御意ッ!」」」」」

 剣帝会の連中は得物を引き抜いてアレン達を取り囲んだ。

「行くぞ、アイファ!」

「うんっ!」

 2人は同時に石畳を蹴って走り出すと渾身の力を振るって小刀衆を蹴散らして行った。

 立ち止まっていると沙耶達が危ない、アレン達は一気に突っ込んだ。

 沙耶の側までやってくると進一は姉と父に抱きついた。

「お父さん、お姉ちゃん」

「進一っ!」

 沙耶は進一を抱きしめ、その2人に父が手を回した。

 離れ離れになった親子が再会する、感動の場面と言った所だろうが、状況が状況だけにそうも言っていられなかった。

 小刀衆はたちまち鎮圧され、10人にも満たない数になると魁面は地団太を踏んで歯を軋ませた。

「不甲斐無い奴等め! たかがガキ2匹に何を手こずっているのだ!」

「帰るぞ」

「はっ? け、剣帝っ??」

 突然の言葉に魁面、胴凱はキョトンとした顔になった。

 すると梗士郎は祭壇を降りながら言った。

「目的の物が無かったのだ。最早このような場所に用は無い……、胴凱」

「御意!」

 すると胴凱は両膝と右耳を石畳に着けると静かに目を閉じた。

 待つ事数秒、胴凱は近くにあった岩壁を右拳で粉砕した。するとそこには人1人は入れるだろう、奥に続く道が現れた。

 胴凱が頭を下げると京士郎と魁面は隠し通路に向かって歩き出した。

「待てっ!」

 アレンが飛びかかろうとした瞬間だった。

「隊ちょ~っ! ダメッ!」

 アイファは叫んだ。

 その瞬間、アレンの背筋に凄まじい悪寒が走った。

 それはまさに瞬き程度の一瞬の出来事だった。

 梗士郎は目を細めると左手に持っている刀の柄を右手で握り締めると一気に抜刀した。

 途端川原の時と同じ、空気の刃がアレンを襲った。

 だがアレンはとっさに身を低くして攻撃を交わした。髪の毛が数本切断されただけだったが、アレン本人には何の怪我も無かった。

 しかし背後にいる者達はそうも行かなかった。

「ぐわあああっ!」

「ぎゃあああっ!」

 小刀衆は梗士郎の放った空気の斬撃は背後にいた数人の小刀衆を切り裂いたのだった。

真っ二つに切り裂かれた小刀衆の体から夥しい量の鮮血が噴水の様に噴出すと、糸の切れた人形のように倒れて動かなくなった。

 事前に危機を察知していたアイファもそうだが、元々身を屈めていて御堂親子は更に身を丸めていたので助かった。

 何人か助かった小刀衆もいたが、京士郎の恐ろしさに顔を青くし、息を呑んで震え出した。

方や梗士郎は自分の部下の命を奪った事に何の抵抗も無かった。まるで蚊でも払ったかのように平然としながら刀を鞘に納めながら背を向けた。

「胴凱、後は任せる」

「ぎょ、御意っ!」

 胴凱は頭を下げた。

 梗士郎は青ざめる魁面を引き連れるとそのまま隠し通路を後にした。


 その後、胴凱は拳で岩壁を殴って粉砕すると通路を塞いだ。

 そしてその前に仁王立ちすると両手甲の中に仕込んだ刃を取り出した。

「最早こんな村には用は無い、だがお前らの首、そっくりそのまま剣帝に差し出してくれる!」

「勝手な事を、お前らの目的は何なんだ?」

「フン、知れた事だ。このジパーダは元々我等侍の国だった。それをお前ら星人が横から来て奪ったのだ!」

 胴凱は忌々しく顔を顰めて吐き捨てた。

 それは小刀衆も同じだった。たちまちアレン達に憎しみの篭った眼差しを向けた。

 すると胴凱は言って来た。

「我々はこの国を元に……、否、さらに強力な国を作るべく、いずこかに眠る『究極の力』を探しているのだ!」

「究極の力?」

 アレンは眉を細めた。

 ハッキリ言ってどこにでもあるような言葉だ。

 どの惑星にも神話や伝説などがあり、それには天地創造・究極の武器や能力が記されている。

 大半は眉唾物だった。無論信じる者は誰もいないだろう、だがこの遺跡や進一の話を聞く限りでは満更と言う訳ではなさそうだった。

 神話や伝説自体はデタラメだったとしても、それなりの確証や証拠と言う物が存在するからだった。

 すると胴凱はさらに言って来た。

「しかしここにあったのは目的の物とは違った。全くとんだ無駄足だった物だ。こんなチンケな村に無駄な時間を費やしたと思うと腹立たしくて仕方ない」

「ふざけるな!」

 アレンは一喝した。

 剣帝会の言っている事はただの逆恨みや言いがかりだからだ。

 こいつらがどんな思想を掲げようとやっている事はただの強盗や殺人……、早い話がただのテロだ。

「苦しめられた人々の為にお前達を検挙する! 今までの罪を償え!」

「フン、卑しい星人風情に罪と言われたくは無い、貴様らこそこの国を汚した罪を知れっ!」

 胴凱は重機関車の様に突進してきた。 

 アレンも突進すると自分の刃を振るった。

 アレンの白刃と胴凱の凶刃が鈍い金属音を上げると、アレンは相手の刃を受け流して死角となった右側に移動した。

 胴凱は体を捻って右腕を振るった。しかしこれもアレンは読んでいて、刹那の一瞬の間に長剣を逆手に持ち替えたアレンが胴凱を切り裂いた。

「ぐがああ!」

 胴凱の鎧が右胴から左肩まで切り裂いた。

 この鎧がどんな素材で作られているかは知らないが、銀星系連合軍の開発した調合金の方が上だった。

 胴凱の鎧は鈍い音を立てながら砕けた。自慢の鎧を台無しにされた胴凱は完全に頭に血が上り、両手を強く握り締めて振るい上げた。

「こ、このぉおおっ! 糞ガキがぁああっ!」

 2つの刃がアレンの頭上に向かって振るい下ろされるが、アレンも渾身の力で剣を横一一線に振るった。

 アレンの剣が胴凱の2本の刃をバキン! と言う音を立ててへし折ると宙に舞ってカランと言う音を立てながら石畳に転がった。

「くっ!」

 胴凱は刃を失った手甲を見ると、次にアレンを見下ろした。

 アレンの鋭い視線が胴凱を突き抜けると胴凱の背筋に悪寒が走った。

 梗士郎とは違う気迫に胴凱はたじろぎ、頬を脂汗が流れ落ちた。自分より年下の若造に恐怖を抱くと言うプレッシャーに胴凱は冷静さを失っていった。

「うあああぁぁああぁぁぁーーーっ!」

 我を忘れた胴凱は刃の折れたままの拳を振るってアレンを攻撃した。

 だが最早アレンの相手ではなかった。アレンは後退しつつ敵の拳を左右に避けて交わし続けた。

 ハッキリ言って胴凱の突きはジンの突きとは全く違った。ジンの突きには魂が込められている、しかし胴凱の突きは比べれば速いだけで何の意味も無かった。

 アレンは祭壇まで追い込まれると後ろにある石棺と自分の間の距離を考えた。大体1メートルあるか無いかだった。

 途端好機とみなした胴凱は右手に渾身の力を入れた。

「うおおおぉぉおおぉぉーーっ!」

 強力な右ストレートが頭上に解き放たれた。

 アレンは横に飛んで交わすとアレンのいた場所の石畳が粉々に砕け散った。

 しかし素早く背後に回ったアレンは長剣を構え直したと両膝に力を入れて飛び上がった。

 そして振り返った胴凱の唐竹に渾身の一撃をお見舞いした。

 会心の一撃が炸裂し、胴凱は兜を切り裂かれると兜の下に纏められて見えなかった癖のある長髪が飛び出した。

「がはぁあああ!」

 胴凱は巨体を揺らしながら石棺に倒れ込んだ。

 すると胴凱が倒された事に残った小刀衆は言葉を失い得物を投げ捨てた。

「ど、胴凱様が負けた!」

「逃げろーーっ!」

 頭を失った小刀衆は全て逃げ出した。

「あ、待ちなさいよーーっ!」

「アイファ、大丈夫だ」

 アイファが小刀衆を追おうとするがアレンが止めた。

 ここに来るまでの道のりや相手が逃げ出すだろう逃走ルート(隠し通路までは把握してなかったが)は全て把握している、逃げた者達はルイス達と鉢合わせになり拘束されるだろう。

 それよりも自分達がやるべき事は存在する。

 アレンは長剣の切っ先を胴凱に向けた。

 無論最善の注意を払っていた。胴凱の手口は見えている、正々堂々と言っておきながら所詮闇討ちやだまし討ちなど平気でしてくる奴だからだ。

 胴凱は自分を見下すアレンに向かって顎を低くしてにらみつけて低く唸った。

「ぐぅぅ……」

「部下達は逃走した。大人しく降伏しろ!」

 アレンもこれ以上は戦うつもりは無い。

 しかし胴凱は吐き捨てながら言って来た。

「ハッ、誰が降伏などする物か……、そんな事をする位なら死んだ方がましだ! ましてこんな物の為にな!」

 そう言いながら石棺の中に手を入れると中に収められていた物を取り出した。

 それは真紅の宝玉に巻きつくようにとぐろを巻いた龍の置物だった。

 アレンやアイファ、はたまた守り手である御堂一家も何故それが龍の秘宝になるのか分からなかった。

 それはそうだろう、ただ秘宝と言うだけでどう言う物なのか聞かされていなかったからだ。

 胴凱が顔を顰めて秘宝を握り締めたその瞬間、突然龍の水晶が眩い光を放った。するとアイファの背筋に悪寒が走った。

「隊ちょ~、逃げて!」

 アレンはアイファに言われてとっさに交わして長剣を構えた。

 アイファの危機管理能力を信用しているアレンは顔を顰めて身を引き締めた。

 光が晴れると龍の秘宝の正体が分かった。

 そこに現れたのは真っ赤な龍を思わせる鎧を装着した胴凱だった。

13話、アップしました。

楽しんでいただければ幸いです。

新型ウィルスが流行っていますが、皆さまお体に気を付けてください。

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