剣帝登場
◎本日登場する敵:
☆剣帝会首領
★剣帝、帯刀梗士朗
★四刃将、魁面圭吾・胴凱玄弥
★小刀衆(戦闘員)
「銀星系連合軍だ! 全員武器を捨てろ!」
レーザー銃を剣帝会の者達に向けてアレンは叫んだ。
剣帝会の小刀衆は覆面越しに刃を軋ませながら後ずさりした。
いくら侍の国の星とは言えジパーダにも銃器類は存在している、当然その有用性も知っている、実際シルバー・ウォーズ時もジパーダ兵は銃を使用した。
ただ銃と刀では分が悪すぎる、勿論刀が弱いとは言わないが異星の武器は威力・性質共々に未知数だった。
しかしそれが通じない者もいた。胴凱は忌々しく顔をしかめるとアイファから足をどけると小刀衆を掻き分けてアレン達の前に出た。
「おのれ、星人が次から次へと…… 蟲の様に沸いて出おって!」
「星人? それって確か差別用語じゃないのか? そんな言葉を使えば……」
「黙れ! 星人を星人と呼んで何が悪い! 我が祖国を蝕む害虫供が!」
胴凱は鼻息を荒くしながら叫んだ。
胴凱の一喝にアレンは口を閉じた。
すると後ろの小刀衆も胴凱に賛同して言って来た。
「そうだ! この国はお前達の者じゃない!」
「我々の誇りを奪った星人供め!」
「ジパーダから出て行け! 星人供が!」
星人…… その言葉がアレンに突き刺さった。
勿論今の言葉はアレンにだけでは無い、今は相手にされていないがアイファの耳にも入っていた。
自分より年下で、しかも言葉の意味も知らない子供に言われたならともかく、敵とは言えこれだけ大勢の大人達に言われたアイファは怒って両手を握りしめて歯を食いしばった。
するとアレンは目を見開くとレーザー銃の引き金を引いた。途端圧縮された光の弾丸が銃口から放たれた。
しかしその放たれた光の弾丸は胴凱の鎧の右肩に当たった。
「ぐおっ?」
レーザー銃の衝撃に胴凱の巨体が揺れた。
胴凱は恐る恐る右肩を見ると、元々黒かった鎧なのでよく見ない限り焦げ目は目立たない物の、肩当の一部が熱を帯びて煙を吹いていた。
銀星系連合軍のレーザー銃はグリップ部分の裏についているダイヤルで威力を調整する事が出来る、最大出力ならば厚さ2メートルの鉄板を打ち抜く事が出来る。
アレンは予め最小に変更して置いたのには理由が2つあった。
それは本気で撃てば胴凱の肩当てどころか右腕もふっ飛んでいたかもしれないからだ。いくら命を奪わずとも重傷にしても良いと言う理由も無かった。
もう1つは威力が強くなれば銃に内蔵されているバッテリーの消費が早くなる上に反動が強くなる、下手をすれば手首を痛めてしまうし、戦闘時に戦いが不利になる…… そうなればアイファどころか村人の救出が困難になってしまうからだった。
アレンは更に目を細めると一言だけ胴凱達に言った。
「武器を捨てて投降しろ!」
だがアレンの心の中にはほんの少しだけ迷いがあった。
それは『最悪の場合』だった
実はアレンはまだ人を殺めた事が無かった。
勿論覚悟はある、遅かれ早かれこうなる事は分かっていた。
何しろ軍人と言う職に付く以上は非情にならなければならない、士官学校でも耳にタコが出来るくらい聞かされる事でありアレン本人も十分に承知していた。
テロリストでも許可なく命は奪えないが、隊長はその場の判断で射殺する事が許される。
だがそれはあくまで正当防衛、相手が投降に応じず、抵抗して来た場合の話だった。
しかもこれだけの人数である以上襲いかかってくる可能性が高い、そうなればついに覚悟を決めるしか無かった。
出来る事ならアレンも人を殺したくは無い、なるべく血を流さずに決着を付けたい…… 確かに綺麗事で甘い考えだが誰しもが望む事だ。
すると胴凱は鼻で吐き捨てると口の端を上げて言って来た。
「フン、下賤な星人どもが、そんな物を使わねば勝てんのか? とんだ臆病者だな」
「何だと?」
アレンは眉を細めた。
それを見た胴凱は目を細めながら笑うと両手を広げながら言った。
「我々は見ての通り自らの肉体で戦っているのだ。それを飛び道具を使うなど臆病もの以外の何物でもない!」
「バカバカしい、人質取ってつるまなきゃ何もできないまなきゃ何もできないお前等に言われたくない!」
「なんだと、貴様ぁ~~っ!」
胴凱は挑発を跳ね返されて逆上した。
挑発をする者も意外と挑発に弱かった。
戦いとは一見数が多い方が有利と見られがちだが、それで必ず勝てるとは限らない、小数の軍勢で大軍を撃破した例は沢山ある。
その場合は相手の指揮官を叩き潰す事だった。
いくら胴凱の鎧が硬くとも、出力を少し上に上げれば動けなくする事は可能、それは銃撃を受けた胴凱自身が1番分かっていた。
勿論相手のレーザー銃のエネルギーをが調整できるのは分からない、だが鎧を伝わってダメージが伝わるほどの衝撃を受け続ければいくら硬い鎧でも崩壊するし、体の方も耐えられないだろう。
すると胴凱はアレンに指を差して言って来た。
「抜かしおったな! ならば俺と戦ってみろ! そうすればこいつらは解放してやる!」
「ど、胴凱様ッ! さすがにそこまで時間が……」
「ええい、黙れ! 貴様それでも武士かッ!? ここまでコケにされて引き下がっては面子が丸つぶれだ!」
小刀の言葉を遮った。
アイファと戦ってさすがに時間を使いすぎた。
アイファは偵察としてもアレンが来た以上、一刻も早く御堂姉弟を剣帝の前に連れて行かなければならなかった。
しかし今の胴凱には彼らの言葉や剣帝の命令は通らなかった。あるのは忌むべき星人への怒りだけだった。
そんな中、胴凱の後方で倒れているアイファが両腕に力を入れて上半身を起こした。
胴凱の手口は目に見えている、正々堂々と見せかけて実は相手から武器を取り上げた後で相手を嬲りものにする算段だ。
それを知っているアイファはアレンに伝えようと左手を伸ばそうとした。
「た、隊…… ちょ~……」
アイファはか細い声で喋った。
無論この距離ではアレンには聞こえない、だがアレンはアイファの視線の意味に気づいていた。
アレンはアイファを見て顔を顰めた。あの愛くるしかった顔が腫れあがった上に泥で塗れていたからだ。
その原因は見れば分かる、それは少し離れた場所で抱き合っている…… アレンも初めて見る異星の神官の服を着た2人を守る為だったと言う事をだ。
アイファの言いたい事は分かっている、本来なら挑発に乗るべきではない、自分達の任務は2人を守り、村人をテロリストから解放する事、それが最優先事項だ。
ここでアレンまでやられたら日下部村の解放が困難になるどころかさらに状況が悪化するのは間違いなかった。
だがアレンの出した答えは……
「良いよ、やってやる」
アレンはあっさりと吐き捨てた。
アイファは目を丸くして息を呑んだ。
銀星系連合軍では私闘は禁止されている、破ればたちまち規律違反となってしまう。
無論『ただの私闘』ならばそんなに重い処分にはならない、一週間程の謹慎と3ヶ月の減俸処分になる程度だが、テロリストの挑発に乗ってしまったのならば話は別だ。
万が一の事があった場合、スター・ブレイズ自体の存在が危うくなる。
アレンはそんな事などお構い無しのように銃を腰のホルダーに仕舞うと懐からライセンス・ギアを取り出して武器召喚のアプリを押して自分の長剣を召喚した。
その長剣を逆手に構えて地面に突き刺すとそのまま上着を脱ぎ、さらにベルトからホルダーを取り外すとライセンス・ギアと供に遠くに放り投げた。
アレンがライセンス・ギアを手放すと言う事は勝利の可能性がさらに薄くなる、アイファならば通信と武器召喚のどちらかだが、アレンの場合は個人型ナイトの召喚が出来なくなる、相手が人間とは言え切り札は取っておくべきだ。
黒いノースリーブの薄いシャツだけとなった上半身のアレンはジンほどではないが引き締まって鍛え上げられた物だった。
アレンは両手の間接をバキバキと鳴らしながら胴凱に言った。
「時間が無いのはこっちも同じだ。御託はいい…… さっさとかかって来い!」
アレンは長剣の柄を握って地面から引き抜いて身構えた。
するとそれを見た胴凱はしてやったりと言わんばかりに白い歯を見せた。
思った事とは違ったがアレンは銃を手放した。飛び道具さえなければ負ける事は無いと確信したのだった。
純粋なパワーとリーチは胴凱の方が上、さらに固い鎧を身につけているがスピードもある、さらに胴凱の鎧にはまだ収納されている暗器がいくつもあった。
手甲の伸縮可能な刃は飛び出ているので今更隠しようが無いし、肩当てに仕込んでおいた矢も放ってしまい、装填して無いので使う事は出来ない…… だがそれを抜いても勝機は自分の方にあった。
さらにいざとなれば小刀衆を差し向ければ良いだけの話だった。
胴凱は威嚇のつもりだろう、手甲の刃を擦り合わせて火花を散らせると腰を低くして身構えると小刀衆に命令した。
(莫迦め、俺をコケにした事を後悔させてやるわ!)
そう思った胴凱はカッと目を見開くと地面を蹴って走り出した。
敵が仕掛けたのに対し、アレンも勢い良く走り出した。
一気に間合いを詰めると先に仕掛けたのは胴凱だった。
胴凱は突然足を止めると大きく両腕を引いて胸を張って息を吸った。
アレンが気づいた時にはすでに遅し、胴凱が口の中から紫の煙のような物を噴出した。
胴凱の奥歯を抜歯して入れ歯になっており、その奥歯には毒液が仕込まれており、奥歯を噛み締める事で毒が噴出すと言う物だった。
「くっ!!」
アレンは毒液をモロに食らって顔を顰めると足を止めて腕を組んで顔を抑えた。
「ああっ!」
その光景にアイファは息を呑んだ。
いや、御堂姉弟も同じだった。やはり挑発に乗るべきじゃなかった。
その一瞬の隙が胴凱の目が妖しく輝かせ残忍な笑みを浮かべさせた。
胴凱は右手を大きく振るうと手甲の刀身が太陽光を受けて鈍い光を返した。
「死ねぇぇぇーーーーっ!!」
胴凱が叫ぶ。
渾身の力を込めた刃がアレンの頭上に振り下ろされようとした。
だがその瞬間、毒の霧の中からある物が飛び出した。それは小さなナイフだった。
鍔が無い、銀製の柄の先端に銀星系連合軍の紋章が入った白い片刃のナイフは胴凱の顔に向かって空を切った。
「ぬうっ!」
胴凱は眉間に皺を寄せると首を右に曲げ体を仰け反らせてナイフを回避した。
だがその反動で右の足がほんの僅かだが後退しする、するとアレン本人が左斜めに飛び出して素早く後ろに回り込んだ。
アレンの見た目では胴凱は右利き、無論両利き腕と言う可能性もあるが、それでも攻撃をしようとしていたのは右手、しかもナイフを交わした瞬間右足に重点が入ってしまった為に左手側は力が入らずに死角となった。
するとアレンは身を翻すとガラ空きとなった胴凱の左膝を蹴り飛ばした。
「ぐおおお!?」
胴凱はバランスを崩してその場に倒れた。
そして背の上にアレンが乗り上げると胴凱の顔のすぐ近くの地面に長剣を突き刺した。
目の前…… ホンの数センチ先にある刃を見て胴凱は顔を強張らせて固唾を飲み込んだ。
「ヒィ!」
「こんな事だろうと思ったよ」
低く悲鳴を上げる胴凱にアレンは言った。
幸い部下達には胴凱の悲鳴は聞こえていないが、自分の部下が地に伏せ、さらにその上に星人の少年が足蹴にして見下すと言う光景に小刀衆は息を呑んだ。
本来ならば自分達にとって由々しき光景で腸の煮えくり返る思いなのだが、本来の任務を忘れて自分達の制止を振り切ったので自業自得と言わざる終えなかった。
尚且つこの中で指示を出せるのは胴凱だけ、つまり胴凱を抑えてしまえば後の小刀衆はただの木偶の棒だった。
その胴凱は指示を出す事が出来ずに歯を軋ませた。一言でも言葉を洩らそう物なら自分の命が危うかったからだ。
「動くな! 彼女達を解放しろ!」
アレンは胴凱が妙な気を起こさない様に気を配りながら小刀衆に命令した。
小刀衆は鋭い目をさらに鋭くしてアレンを睨み付けるが、アレンが右手に力を入れて刃を胴凱の顔に近づけるとやむなしと判断して御堂姉弟やアイファから離れた。
解放された御堂姉弟はアイファの方へ向かい、片膝を地面に付きながら尋ねた。
「アイファさん、立てますか?」
「……う、うん」
アイファは頷くと体を起こした。
そして服に付いた砂を払うと沙耶達と供にアレン達の方へ歩き出した。
しかしそれを見ていたアレンは不思議な違和感を持っていた。それは御堂姉弟ではなくアイファ本人にだった。
アレンの願っていた通り無事だったのは良い、それは喜んで良い事だ。
しかしさっきアレンが見た時の怪我を考えると決して歩く事はおろか立つ事すら出来ないはずだった。
しかし心なしか、アイファの傷が先ほどより少なくなっているように見えた。
(……まさか、な)
アレンは目を細めた。
アレンはアイファの過去の経歴を思い出した。それはとても信じがたい事だった。
そもそも銀星系連合軍が嘘などを書くはずが無い、いくら疑り深いアレンでもそれは信じているが誰しもは疑う内容だっだ。
アイファ達がアレンの側まであと数メートル、丁度あと半分くらいの所だった。
アイファは顔を顰めると右手でわき腹を抑えて立ち止まった。
「痛つつぅ……」
「アイファさん、本当に大丈夫ですか?」
「ん、ああ、大丈夫大丈夫」
心配しそうに見て来るアイファは苦笑しながら左手を振った。
そして一間置くと沙耶に言った。
「言ったでしょ、アタシは少し特別だって…… ッ!!」
「アイファさん?」
「危ないっ!」
アイファは顔を強張らせると森の方を見た。
そして沙耶が首を傾げた瞬間、アイファは両手で沙耶と押し倒した。
「きゃっ!?」
「わあっ!」
2人は河原に倒れた。
「アイファ、何を…… っ?」
アレンは何かに気付き森の方を見た。
アレンの耳に正体の分からない音が響いた。
すると突然、アイファの右わき腹から左肩から真っ赤な鮮血が吹き出した。
「……えっ?」
それは瞬きも許さない、ほんの刹那の出来事だった。
アイファ本人さえ何が起こったのか分からず、糸が切れた人形のように倒れると目を見開いたまま動かなくなった。
アイファの傷口から溢れ出た血は石と石の隙間を塗って広がった。
「アイファァーーーーっ!」
アレンは叫んだ。
その途端、森の方の木々が倒れるとその数メートル奥にいた連中が丸見えとなった。
全部で7人…… その内左3人と2人の5人は小刀衆だが右から2番目の小刀は鞘の付いた長槍を持っていた。
そして中央にいる2人の内1人は魁面なのだが、その魁面の左隣にいる抜刀した刀を持った男は明らかに違う不意気を持っていた。
「………ッ!」
アレンは指一本動かす事が出来なかった。
だがそれはアレンだけでは無い、アレンの足元にいる胴凱や小刀衆もその男を見て顔を青くした。
年は30後半~40代前半だろう、氷のような冷く、そして刃の様に鋭い目、細い顎、白髪交じりの長い髪をうなじ辺りで結んだ背の高い、紺色の着物と黒い羽織りを羽織ったジパーダ人の男だった。
すると胴凱はガタガタと震えながら震える唇で言って来た。
「け、剣帝……」
「剣帝?」
アレンは胴凱を見る。
胴凱は尋常じゃないほど怯えていた。
アレンは男を見ると男は氷のように冷たい視線をアレンに向けた。
目と目があったその瞬間、アレンの背筋に今までに無い悪寒が走った。
「くっ!」
慌ててその場から飛び退くと長剣を構えて切っ先を剣帝に向けた。
しかしその剣を持つ手が震えていた。これは恐怖だった。
アレンは今まで恐怖を抱いた事は以外にも3回程あった。
1回目はずっと小さかった頃、ルイスをイジメていた3つ年上のガキ大将とケンカになった時。
2回目は士官学校時代に初の怪獣討伐に出かけ、ターゲットである怪獣は討伐できた物の、帰る途中で別の怪獣に遭遇した時だった時。
そしてこれが3回目だった。
1回目はただの人間、殺される事はまず無い。
2回目の場合は命には関わるが何とか倒せないレベルではなかった。
むしろ危険ならば逃げれば良いだけの話、正規の軍人でも危険と判断すれば降伏が認められている、まして怪獣は自然の生物なので逃げれば良いだけだ。
しかし今はそうもいかなかった。何しろアレンは正規の軍人となり、守らなければならない者がすぐそこにあった。
ここで退いたのならば名前を聞いていない姉弟が危険に晒される、アイファが命を落としてまで守った事が無駄になってしまう…… しかし頭では分かっているが体の方は違っていた。
アレンは剣を使うが自分を剣士とは思っていない、しかし剣をメインに戦うからこそ分かる、自分じゃこの男には勝てないと……
(こいつ、本当に人間か?)
アレンがそう思うのも無理も無い。
ほんの一瞬だが前回のメサイアのハーデスの様に変身する事を考えたのだが、ハーデスとは別のプレッシャーだった。
ハーデスが訓練された猟犬ならばこちらは野生の狼と言ったところだろう、潜って来た修羅場が違う。
「何者だっ!?」
「ええい、頭が高いっ! こちらにおわす御方は我等が偉大なる剣帝会の首領、剣帝『帯刀・梗士朗』様なるぞ!」
アレンが尋ねると魁面がまるで自分の様に名乗り出した。
すると小刀衆は片膝を着くと持っていた武器を地面に置いて跪いた。
だが魁面だけは両手を広げて大げさに立ち回りながらさらに続けた。
「そして拙者は剣帝の片腕にして四刃将の一の知将、魁面・圭吾……」
「魁面」
魁面が喋っている途中で梗士朗が割って入った。
首を回して目を細めた梗士朗の目を見た魁面は全身の血の気が失せたかの様に青ざめると両肩をビク突かせた。
すると梗士朗が言って来た。
「そこに転がっているのが貴様の言っていた星人の娘だとして、もう1人星人がいるが?」
「そ、それは…… おい、胴凱! これは一体どう言う事だ? 剣帝にご説明しろ!」
「あ、そ、それは……」
胴凱は剣帝に土下座をするが口ごもった。
この辺りには麓まで抜け道がいくつかあるのは事前の調査で知っていた。
勿論その抜け道がいくつあるかまでは数えてはいないが、剣帝会が使ったのは正規の入り口から少し離れた場所にある通路だった。
そこを抜け出た彼等はそのまま村には向かわず入口の崖を崩に向かい、先ほどの様に梗士朗が一太刀の元に崖を切断して崩したのだった。
アレンが現れたのは自分達と同じ方法を使ったと言えばそれで良い…… しかし問題はその後の事だった。
突然現れた星人に戦いを仕掛けて負けて無様に足蹴にされていたなど口が裂けても言えなかった。言おうものなら首と胴が生き別れだからだ。
胴凱が歯を食いしばり、分厚い唇をワナワナと震わせていると、痺れを切らした魁面は眉を吊り上げて怒鳴り散らした。
「胴凱っ! 何とか言わんか!」
「まぁいい、目的の者は手に入った」
梗士朗は溜息を零すと御堂姉弟を見た。
途端沙耶と進一は全身身も毛もよだつ程の悪寒に包まれると金縛りにあったかのように動かなくなった。
アレンでさえようやく動けると言うのだ。一般人等正気を保っていられるのがやっとだろう。
次に梗士朗は胴凱を見下ろして命じた。
「胴凱、今回の事は遺跡発掘の手柄に免じて許してやる、しかし次は無いと思え」
「はっ、ははぁ! ひらにご容赦を!」
「直ちに娘達を連れて遺跡に向かう」
「お待ちを剣帝、まだ星人が残っております、ここはこの魁面の槍の餌食にしてごらんにいれましょうぞ!」
魁面は隣にいた鞘付きの槍を持つ小刀から槍を受け取った。
そして梗士朗の前に出ると槍を軽く振るって鞘を外すとその鈍い光沢を放つ穂先をアレンに向けた。
アレンは刃先を魁面に向けた。
だが梗士朗は魁面に背を向けると森の中を歩きながら言った。
「聞こえなかったのか? 遺跡に向かうぞ」
「えっ? あ…… ぎょ、御意!」
魁面は首を捻って間の抜けたような返事をすると、槍の先をアレンから引っ込めて梗士朗の後を追って森の中へ消えて行った。
胴凱も立ち上がると自業自得とは言え自分の面子に泥を塗ったアレンを忌々しそうに睨みつけた。
「小刀衆! 星人を足止めしろ!」
「「「「「ぎょ、御意!」」」」
小刀衆は刀を抜くと一斉にアレンに襲い掛かった。
一方アレンは長剣を構えて小刀衆の刃を受け止めた。
アレンが見ると胴凱が御堂姉弟に向かって進み出した。
御堂姉弟は剣帝の恐怖が残っているのだろう、足が竦んでその場から逃げ出す事が出来なくなった。
「早く逃げろ!」
アレンは御堂姉弟に叫んだ。
しかし全く耳に入っていなかった。
まるで野兎の目の前に熊が現れたような状況だった。
アイファは倒れて仲間もいない、つまりアレンは1人で戦うしかない…… アレンは両手に力を入れると両足に入れて刀を弾き返した。
「どけぇぇぇーーーっ!」
アレンが叫ぶと胴凱の方へ向かっていった。
すると胴凱は近づいてくるアレンに対して舌打ちをするとベルトのバックルにあるスイッチを押した。
途端鎧の間接中から黒い煙が勢いよく噴出すとアレンはその場に足を止めて左腕で顔を収めた。
先ほどのような毒霧の可能性が高かったからだ。
仕込んだ本人ではないと分からないが、これは麻痺毒でも神経毒でも無い、ただの煙幕だった。
例え黒い煙でも視界を封じるので危険な事には変わり無いが、黒い煙の向こうから胴凱の声が聞こえて来た。
「娘! さっさと来い!」
「きゃああっ!」
「お姉ちゃんっ!」
まず最初に御堂姉弟の悲鳴が聞こえ、次に何かが削れるような音が耳に響いた。
アレンは目を細めながら飛び込むが、そこには胴凱の姿は無かった。
代わりに地面には爆発したような跡と両膝と手を地面について泣いている進一の姿があった。
目の前で姉が拉致されたのだから無理は無い、しかしそれはアレンも同じだった。
アレンは直接御堂姉弟を助けると誓った訳ではない、しかしテロリストに襲われている者を助けられず、目の前でみすみす逃してしまったのは明らかにミスだった。
アレンはその悔しさに首をうな垂れ、口をへの字に曲げると剣を持つ手を下ろした。
そこへ丁度煙が晴れると小刀がアレンに襲い掛かった。
「きええぇぇーーーっ!」
小刀は渾身の上段に持った刀をアレンの頭上へ振り下ろした。
するとアレンは身を翻して横に避けると同時に体を捻って横一線に剣を振った。
小刀は自分を攻撃してきたアレンの刃を受け止めようと刀を構えて防御するが、アレンの斬撃は刀の刀身をへし折った。
バキン! と言う音とともに白銀の刀身が宙に舞うと地面に突き刺さった。
小刀は折られた刀身を見るが、やがてアレンの顔を見ると背筋に悪寒が走った。
「くっ!」
アレンは目を吊り上げて眉間に皺を寄せ、唇の間から僅かに見せる白く並びの良い歯を軋ませていた。
アレンは怒っていた。
沙耶が拉致されたのもアイファが惨殺されたのも、どんな理由だろうと隊長である自分の責任だった。
さすがこの場で自害は卑怯な逃避になるし無責任過ぎる、だから帰還後はどんな懲罰でも受けようと思った。
降格、身分剥奪…… 左遷と言うならどこの場所へでも飛ぶ覚悟はあるし、除隊しろと言うならいつでも辞表を提出する、しかしそれは全てが終わってからだ。
少なくともここにいる子供は守り、村は取り戻し、テロリストは排除する、償いはそれからだ。
「うおおぉぉーーーーっ!」
アレンは両手に剣を構えると小刀達に向かって行った。
その中で1番近場の小刀と刃を合わせると右手を自分の剣の柄から離して小刀の刀の鍔を握り締めた。
そのまま右手を引くと小刀は上半身が倒れて少し前かがみになる、そこをすかさずアレンが左足を引くと右足に力を入れて飛び上がり、左膝を小刀の腹部に付きたてた。
「ぐはぁ!」
小刀は腹部に入る激痛に呼吸が止まり、顔を顰めた。
水月は人体急所の1つ、呼吸が止まってしばらくは動けなくなる…… 途端小刀の手から力が抜けるとアレンは刀を奪い取った。
刀を奪われた小刀はその場に蹲って動かなくなるが、アレンは異星の二刀流で小刀衆へ向かって行った。
襲い掛かる敵の凶刃を自分の剣で刀を受け止めると奪った刀で峰撃ちにして倒して行った。
すると小刀衆はバッタバッタと倒されて行き、1人、また1人と数を減らして行った。
「うおおぉぉーーーっ!」
アレンは全ての怒りを込めて剣を振るった。
「ううっ……」
一刻たった。
最後の小刀が小さくうなりながら倒れた。
アレンは右手の指から力が抜けると刀が滑り落ちて地面に音を立てて落ちた。
「はぁ……はぁ……」
アレンはすっかり体力を使い果たして息を切らしていた。
何しろ1人で20人も相手にしたのだから無理は無い、しかしそれでも誰1人命は奪っていなかった。
後は武装を奪い縛り上げた後胴凱を追うだけだった。多少時間はかかるだろうがこいつらが目覚めた場合の事を考えなければならなかった。
「ふぅ……」
アレンは深く息を吐くとその場から動こうとしたその時だ。
突然背後で倒れている小刀から刀を奪った小さな影がアレンに向かって襲い掛かった。
「うわあああっ!」
「っ!」
アレンはとっさに反応して横に飛んで交わした。
アレンは地面に転がるとそのまま体制を整えて長剣を構えた。
だが自分を襲った者を見ると目を見開いた。それは進一だったからだ。
空振りした刀の切っ先が地面にめり込んだ。進一は息を荒くしながら目を吊り上げると両手に力を入れると切っ先をアレンに向けた。
しかし刀は非力な子供が持つには重過ぎる、まして戦った事の無い進一の全身が震えていた。
頭には完全に血が上り、その目には殺意の炎が燃えていた。
「ふぅ、ふぅ!」
「待て!」
アレンは左手を出すが、進一の耳には何も聞こえなかった。
「お前の……お前達の責で……っ!!」
子供の目には銀星系連合軍も剣帝会も同じに見えていた。
村を襲ったのはあくまで剣帝だ。しかし剣帝会が日下部村にやって来たのは異星人が原因だった。
家族を二度も…… 特に姉を目の前で進一にとってはアレンも胴凱達もいきなりやってきて自分達の平和を奪った存在でしかなかった。
アレンが何も言い返す事は出来ずに口をつむいで眉間に皺を寄せていると、進一はアレンに向かって突進してきた。
がら空きになった腹部に向かって切っ先を向けて突進した。
「ぐっ!」
足元にアレンの鮮血が滴り落ちる。
アレンは痛みに顔を顰めるが、進一の刃はアレンの腹には届いていなかった。
アレンは刀の切っ先を右手でつかんで止めていた。皮製のグローブは切り裂かれ、手の皮と肉が裂かれて血が流れていた。
子供の力なので止めるのは容易だった。
すると頭に上っていた血が治まり、正気を取り戻した進一は自分が持っている刀がアレンを刺している事に気づくと慌てて手を放して一歩下がった。
逆上のあまり覚えてはいないだろう、しかし落ち着きを取り戻した今、自分の仕出かした事の大きさを思い知った。
頭の中では悪い事をしたとは思っていないだろう、しかし人を攻撃するという事は『ある事』を意味していた。
それはいくら自分が子供とは言え、失敗すれば『自分も殺されても仕方が無い』と言う事だった。
「あっ、ああ……」
進一は声にならないほど低い悲鳴を上げた。
アレンは自分の傷口をしばらく見ていたが、やがて進一の方を見て目と目が合った瞬間、子供の小さな肩がビクついた。
アレンは長剣の柄から左指を放すと、そのまま左手を進一の方にゆっくりと伸ばした。
「ひっ!」
殺される……
そう思った進一は目を閉じて亀のように首を引っ込めた。
だがアレンの大きな手は進一の頭に優しく覆いかぶさった。
進一が恐る恐る目を開けると、そこには悔しさに顔を顰めて瞳を潤ませているアレンの顔があった。
その震える唇が開かれるとアレンは小声で呟いた。
「……すまない」
その瞬間、アレンも悔しいと言う気持ちを理解した。
生まれた星は違えど人間だ。失敗する事もあれば苦しい時もある…… まして殴られたり斬られたりすれば痛いし血も出る、そしてその血は決して自分達とは違う色はしていなかった。
いや、たとえ血の色が緑でも青だったとしても関係ない、アレン達は自分達の為に戦ってくれただろう、その意思は本物だった。
今頃になってだが、何故沙耶がアイファを星人と呼んだ時に自分を怒ったのか分かった気がした。
沙耶の場合は過去の悪習や差別に捕らわれてはいけないように言った事だろうが、進一は全てを理解してでの事だった。
すると一間置くとアレンが言って来た。
「お姉さんは必ず取り戻す、だからもう一度だけチャンスをくれないか? 頼む!」
アレンは深々と頭を下げた。
勿論進一にとっては許される問題ではない、しかしアレンの本当の謝罪を見て心の底の怒りや蟠りは次第に収まっていった。
これは大人や子供、人種等では無い、心を持つ人間同士のやり取りだった。
凍っていた少年の心はすっかり解け、アレンが信用できる人間だと分かると進一は力強く頷いた。
アレンは川岸に放り投げたライセンス・ギアを手に取った。
そして村の入り口で待機しているルイス達に連絡を入れた。
「ルイス、村はテロリストに占拠されていた。衛星写真で村の状況を確認した後、突入して村を開放しろ、指揮はルイスに任せる」
『隊長はどうするんですか?』
「奴等の目的地に向かう、まだ理由は分からないが人質が捕られて一刻を許さない状態だ。至急テロ・バンクにリンクしてテロリストのデータをこっちに伝送してくれ」
『了解、それで…… アイファは?』
「アイファ…… アイファは……」
アレンは口ごもった。
さすがに嘘の報告をする訳にもいかない、しかし言うのが辛かった。
何しろ自分の部隊の初めての殉職者だからだ。
するとアレンの気持ちを察したのが、数秒後にルイスが言って来た。
『分かったわ隊長、後は私に任せて』
「……すまない、帰ったら皆に説明する」
『了解』
その後、アレンは剣帝会と言う組織名と、名前が分かっている構成員を伝えると通信を切った。
そして次に横に転がっているレーザー銃が納まっているホルダーをベルトに固定し、左手で上着を取ると羽織らずに左肩にかけるとそのまま歩き出た。
そして最後はかなり離れた場所に転がっている銀星系連合軍の支給ナイフを手に取った。
アレンはそのナイフを見て複雑そうな顔をするが、左膝を曲げて座ると右ズボンの裾を上げてその下の足首に皮製のベルトで固定されている鞘に収めた。
するとそこに進一が歩いてきて言って来た。
「あ、あの……」
「ん?」
アレンは進一を見た。
進一は目を泳がせて口ごもっていたが、やがて人差し指をアレンの右手に向けた。
アレンは右手の傷を見る、幸い血はもう止まっていた。
するとアレンは鼻で笑うと上着からハンカチを取り出すと右手に巻きつけながら言って来た。
「大丈夫だよ、怪我をするのも軍人の仕事だよ」
「そのお姉ちゃんも、同じ事言ってた」
進一はアイファを見た。
アイファの皮膚は最早赤みが無くなって蒼白になっていた。
全身の血が抜けてしまった証拠だ。
アレンはアイファの亡骸に向かって歩くとその場に膝を付いて冷たくなった頬に触れた。
最早体には体温が通っておらず、皮膚も血の気が失せて蒼白になっていた。
そんなアイファの光の失せていた瞳を右手で閉じると左肩の上にかけた上着を両手で取って言った。
「安らかに眠ってくれ、君の意思…… 無駄にはしない!」
アレンは瞳を閉じながら上着を上半身に被せようとした。
するとその時だった。
突然アイファの体がほのかな光を放った。
「なっ?」
アレンは目を見開いた。
いや、後ろにいる進一も驚いていた。
何と刀也につけられた傷口が見る見るうちに塞がってゆき、肌に艶と血の気が戻っていった。
アレンは慌てて左手の指でアイファの首筋に触れてみた。
「……ッ!」
アレンは言葉にならずに息を呑んだ。
なんと脈が戻っていたのだった。
信じられない事だが冷たかった体に体温が通っていた。
するとアレンが閉じたはずの瞳がゆっくりと開いた。
何とアイファが生き返った。
投稿したと思いきや投稿出来ておりませんでした。
誠に申し訳ありませんでした。




