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一週間前

忙しすぎてかなり長いこと放置していました。落ち着いてきたので再開していきます。

どんな長い夜にだって朝は来る。

 一夜明けた遼河は、いつもと変わらない冷たい風を感じながら第一格納庫までやってきた。早朝の空気に触れてぼんやりとした頭をすっきりさせ、格納庫の扉を開く。

 まだ閉じられた格納庫内の明かりをつけると、探すまでも無く、最奥に鎮座する隼風の姿が目に飛び込んできた。

 まだ所々に傷の残る遼河達の希望のマシンは、それがどうしたと言わんばかりに証明の光を眩しく反射させた。眠気が一気に吹き飛ぶ。

 複雑な気分等どこ吹く風で、目の前の機体に抱きつきたくなる。我慢の限界を迎えて、いざ欲望のままに隼風に走り出そうとした身体を、突然の声が止める。


「ふぁ~あ。話に聞いた通り、あなたこんなに朝早くから来てたのね」


 同時にコツ、コツとヒールの音が後ろから聞こえてくる。この島の住人は殆どが技術者と研究者なので、ヒールを履く人は限られてくる。しかし投げかけられた声は、そのイメージから最も遠い人物のものだ。

 そんな違和感をぬぐえないまま、遼河は振り向いた。 


「おはよう、ソアラ。そっちこそ随分と早起きなんだねって……ええええええええっ!?」

「うるさいわね……ちょっと事情があったのよ。いつもならあと五時間は寝ているところだったけれど……」


 言いたいことは分かる。今日はソアラのかつての仲間達と、各々が手掛けた最高のEX‐Gが一同に会する特別な日だ。流石のソアラも気分が高揚して寝ていられなかったのだろう。いや、今はそんなことより気になることが、目の前で起こっている。


「ソ、ソアラ? その恰好はいったい……」

「ああ、コレ? どう、似合うかしら?」


 ソアラがその場でくるりんと一回転する。似合うも何もない、これまでのソアラの印象を大きく変えるような姿だ。

 柔らかな印象を与えるクリーム色のブラウスに、黒地の高級そうなスーツ。下はスーツと同色のスリムパンツスタイルで、ソアラの細い脚を強調するかのようにぴたりと包み込んでいる。

 髪も今日はポニーテールでまとめるだけじゃなく、サイドポニーにして可愛らしくしてある。メイクもバッチリ決めており、素材の良さを更に引き立てている。

 一言で言うと、相当可愛いらしいオフィスレディのようだった。


「えっと、どうしたの? 今日誰かの誕生日だっけ?」


 混乱したままついそんな言葉が口を出る。整備士仲間が休日に本島で合コンに行く時、よく茶化すときに使うちょっとしたジョークだが、残念ながらソアラには通じなかったみたいで、視線が一気に冷たくなっていく。


「ああ、いや、ものすごく似合ってるんだけど、ほらいつものイメージがあったからつい!」

「ジョークを言うにしても、もっと面白みのあるものにしてほしいわ」


 ソアラがやれやれといった風に、溜息を吐く。そうは言うが、遼河の反応も無理ないことだ。

 なにせ、おしゃれなんか興味なし! 白衣にスニーカー! といったイメージが定着しすぎていた所為で、本人を目の前にした今も脳が同一人物だという思考を拒否している。

 勿論そんなこと言えるはずもないが。


「イメージと違って悪かったわね。今朝波見に叩き起こされて無理やりこんな格好させられたのよ。この恰好になれるために早い段階から準備したかったみたい」

「ああ波見さんが……なるほど。でも良く似合っているっていうのは本当だよ。凄く可愛い」

「あら、どうもありがとう。でも最初からそういってくれた方が嬉しかったわね」

「うっ……ごめん」


 なにせ、これまでの人生で女性の服を褒めたことなんて一度も無いのだ。そんな遼河にソアラをほどの美少女の服装を褒めろと言われても、緊張でしゃべれなくなってしまう。

 この島には特に女性が少ないのだから余計――――


 ん? ちょっと待て。ソアラがメイクをしているっていうことはつまり――――


「あ、そうそう、唯花も当然きれいになっているから、楽しみにしていなさい」

「なっ! いや、俺は……!」


 当たり前のように考えを読まれている。しかし正式な場での唯花の服装は確かに気になる。さりげなく周囲を見渡すが、ソアラについてきた人はいない。

 そんな遼河の様子を目ざとく気が付いたソアラは。呆れたように言った。


「唯花はいないわよ。妙に恥ずかしがって部屋にこもっているわ。どうせ会議の時間になったら出てくるんだから、それまで楽しみは取っておきなさい」


 そういいながら、ソアラは眉間にしわを寄せて心配そうに続ける。


「……ま、出てこられない理由は他にもあるのだけれど」

「他の理由?」

「ほら、先週の」


 その言葉ですぐに理由に思い至る。ここ数日忙しくてうやむやにしていたが、確かにあれだけのことがあれば気まずくなっても仕方がない。


「唯花さん、そんなに気にしてるの?」

「まあ、ね。なにせ、あなたに見られたわけだから」

「いや、確かにあの時はびっくりはしたけどさ、別に俺はそんなこと気にしないし」

「あなたが気にしなくてもあの子は気にしてしまうわ。意外と繊細なのよ、唯花は」


 あの時とはそう、ラッセが黒騎士との決死の戦闘に挑んだ夜のことだ。

 その影ではソアラ、唯花と遼河も独自で動いていた。

 唯花の変化を目にしたのは、その時のことだった。


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