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黒い霧

その現象が終わった時、騎士にはもはや美しさは微塵もなかった。

先ほどまでは憎たらしいほど月夜に映えていた銀の鎧は、夜の闇よりも暗く、鈍い金属光沢を放っている。

手に握りしめられたランスだけが、まるで抵抗するかのように白銀の輝きを保ち、その異常な光景を際立たせていた。

騎士の兜の隙間からは先ほどまで感じた好敵手の視線は一切感じられず、沈黙を表すかのような黒一色の空間があるのみだ。

まるで全身が生命という色を失ったかのような風体に、ラッセも戸惑いを隠せなかった。先ほどから一切動きを見せない騎士に、嫌な予感が汗となって頬を伝う。


――何かの罠か? 燃料切れなんてことはないだろうが……。


動きを見せなくなって既に一分。ラッセも戦闘中にこれだけ長く静止していたことは無い。

できることならこちらから仕掛けて一気に決めに行きたい。

しかし一見隙だらけに見えるが、これほどまでに容貌が変わると迂闊に手を出していいものかどうか判断に困る。


「!?」


せめるか様子を伺うかを秤にかけていたその時、ついに騎士に動きがあった。黒に染まった兜が、ゆっくりとスカイキャットへ向く。


「来るか……?」


 こうやって視線を向けられるとその不気味さと異様さが際立つ。

兜の奥、先ほどまでは確かにあった機械の瞳がそこには無く、ただの空洞と化している。何より先ほどまで確かに感じ取れた“中身”の雰囲気が今は一切ない。


「くそっ!」


 顔を向ける。たったそれだけの動作に、凶悪な猛獣に睨まれたかのような恐怖を感じる。その感覚を振り払うようにラッセはレヴォを向けた。

 己の中のよくわからない恐怖心を振り払うように弾丸を放つ。

 光の帯が糸を引きながら黒い騎士へと向かっていく。


「どっちだ……どっちに避ける」


 距離はそこまで離れていない。このままなら確実に直撃コースだ。レヴォの光弾は威力は高くないが無視できるほど弱くもない。確実に上下左右のどこかに移動して避けるはず。ラッセは回避動作後の追撃に備えてペルケレを構える。


 黒騎士はじっくりと見極めるようにその軌跡を見つめると、ラッセの予想だにしない行動をとった。


「なに!?」


 騎士は手に持っていた槍を弾丸の嵐の中央に力いっぱい投げ込んだ。

 恐るべき速度で空中を駆ける白銀の槍は光弾を弾き飛ばしながら迫ってくる。己の最大の武装を軽々しく手放すなど考えられない――そんなラッセの意表を突いた行動だった。


……今機体を動かしても間に合わねえ!


 咄嗟にペルケレを何もない空間に向けて、放つ。

 爆音と共に暗闇に一筋の太い光が生まれ、辺りを明るく照らす。そしてその美しさと反比例するような強力な反動がスカイキャットの機体を反対方向へ吹き飛ばす。


「ぐっ……!」


 クランカイゼンの効力でも抑えきれない強力なGが全身に降りかかる。

 右から左へと猛烈な力で吹き飛ばされるような感覚。

 脳が揺さぶられ、強烈な吐き気とめまいに襲われる。

 しかしその威力のおかげで機体は瞬時にその場から離脱することができた。

スカイキャットが元いた場所を巨槍が通り過ぎる。あとコンマ一秒でも判断が遅れていたら確実に機体に致命傷となる大穴が開いていたことだろう。

 あの槍がどのような素材でできているのかわからない以上、たとえペルケレほどの威力があっても焼き切れていたかは怪しい。それが無くても高速で迫る点の攻撃に、大味なペルケレを確実に当てれる保証はどこにもない。まさにこれしかない回避動作だった。


 しかしそれは逆に言えば敵も予想している行動だった。


「がっ!?」


 一息付く間もなくコクピット内を激しい衝撃が襲う。慌ててモニターを確認すると背中に張り付いている敵の姿が映った。

 いつの間に移動したのか、銀……黒騎士が背中にがっしりとしがみつきながらレヴォを握る左腕をつかんでいた。


「この……離しやがれ!」


 三種の操縦桿をすべてを高速で動かしていくが、黒騎士は一切離れることは無い。馬力で圧倒されている。完全にマウントポジションを取られた形だ。

 そんな状況で、騎士は何も行動を起こさない。圧倒的優位に油断していうのか……いや。


「なんだ……?」


 疑問に思うのも一瞬、突如機体全体にガコン! という強い衝撃が襲った。背中に敵の攻撃を食らったようだ。

 ラッセは慌ててモニターから異常個所を探す。しかし――


「何の異常もねえ……なにしやがったんだ!」


 当然返事は無いが、ラッセにはなぜか表情すら見えない敵の顔がにやりと笑ったかのような錯覚をうけた。


「ちっ! ……いつまでもしがみついてんじゃねえ!」


 ようやく五分のクールダウンを終えた両腕のバネを開放する。

 通常の何倍もの馬力を発揮する両腕のバネ相手には、さすがの騎士も押さえつけてはいられなかったようで、拘束を解いて離れていった。

 その際に再び機内を強い衝撃が襲うが、そんなこと気にならないくらい、ラッセの頭には疑問が渦巻いていた。


――なぜとどめを刺さなかった? さっきの拘束した状態なら攻撃し放題のはずだ。さっきの背部の衝撃はなんだ?


 決めるならばさっきの段階でラッセを殺せたはずだ。これも油断? いや、ラッセは表情を険しくする。


――何か企んでやがるのか?


 それが何かはわからない。ただ、先ほどの機体の背中を襲った衝撃がどうも気になる。ラッセを殺す以上に惨いことを行うための準備をしていた気がしてならないのだ。

 黒騎士の動きに注意しながら、己の勘に従って、モニターの画面をサーモグラフィに変更する。


「これは……」


 すると、スカイキャットの背中に奇妙な熱源反応を確認できた。

 アルファベットの「W」のような奇妙な記号。それが異常な熱を発しながら背中に刻まれていた。どうやら先ほどの背中への衝撃はこの記号を刻まれた時のもののようだ。


「焼きごてか? そんなものMSGに打っても仕方ないだろ」


 狙いが読めない。黒騎士の行動パターン、そのすべてにどういう意図があるのかラッセには見当もつかなかった。

 銀騎士のために用意したデータはとうに捨てているが、それにしたって先ほどまで相手にしていた敵と今の黒騎士の行動パターンは違いすぎる。


「ちっ、嫌な予感がしやがる……」


 元々ラッセは勘が鋭い操縦士だ。何か嫌な事が起こるときは決まって胸騒ぎがする。今回のそれは過去最大級のものだった。


「焦ってもしかたねえ。アイツのぺースに引っ張られるな……」


深呼吸して自分に言い聞かせる。

今わかることは、この背中の刻印ともいうべきものが何か良くないものだということくらいだ。痕のことは直接敵機体に聞いてみるしかない。

スカイキャットを急制御しながら黒騎士と再び向かい合う。


「……なんだ?」


そこで改めて黒騎士の異常に気が付いた。

 元より黒い全身がぼやけている。いや、なにかが黒騎士の周囲に漂っているのだ。


「霧?」


……それは霧だった。

薄黒く、決して何も見えなくなるものではないが、視界がかすかにぼやける程度の霧が黒騎士の周囲を漂っている。


――まずい


 再び胸がうずく。あの霧が何かはわからないが、明らかにまずいものだということが直感で伝わってくる。

その時、黒騎士の肩口の装甲が開き、中から黒いダクトのようなものが顔をのぞかせた。


「てめえ、何を――!」


 その不振な動作にラッセがレヴォを向けると同時に、周囲を漂っていたものと同じ霧が、ダクトから勢いよく噴き出した。


「くっ……!」


 思わずラッセは動きを止める。

 それはもはや霧というよりは火山の噴煙のような勢いで、周囲に広がっていった。黒騎士を中心として周囲に拡大していく霧。

 それはあっという間にあたりを包み込み、なおその範囲を拡大させていった。周囲一帯、視界をぼやけさせる不気味な暗さとなる。


「しまっ! 夜明島のやつら……!」


 霧の速度はすさまじく、二キロは離れたはずの夜明かり島へもそろそろ到達しようかというところだった。

ラッセは慌ててオフにしていた無線をオンにする。


「管制室! 聞こえるか!? 無事か!?」


 考えたくはないがこれが毒ガスなどの化学兵器の類だった場合、霧の範囲にいる島の住人はもろに影響を受けているはずだ。


「やっとつながったわね……」

「その声はソアラか!? そっちは無事なのか!?」


 そこから聞こえてきたのは疲れの色が見えるソアラの声だった。だが衰弱した様子は感じられない。


「こちらは今のところ大丈夫だけれどこの霧……」

「毒ガスの類じゃねえだろうな」

「いえ、それはないわね。毒性のガスや生物兵器に対しては私も警戒していたから、それらの感知装置及び対策も島中のあちこちに設置してあるわ。それらが一切作動しないということは――この霧事自体が毒性のあるものではないということね。息苦しくも無いし本当に害があるものなのかどうかもわからないわ」


「っつーとますます意味がわからねえな。一体この霧にどんな意味があるんだ。まさかこけおどしなんてことは無いだろうが……」


 それらの会話をしている間も黒騎士は物言わずこちらを見下ろしている。しかし頃合いと見計らったか。姿勢を低くした。


「悪いソアラ、あの野郎ようやく戦いを再開する気になったみてえだ。詳しいことはあとだ」

「ええ。でも気を付けて。あの機体は不思議な感じがするわ。さっきまでの銀騎士なら私の世界でも納得できる性能だった。ただ今の敵の雰囲気は明らかに私の時代のものとは異なっている、妙な感じ……」

「つまりよくわからないってことだろ? それをこれから確かめてくるから精々今後の敵の判断材料にしといてくれよ!」


 ラッセは機体を傾け、背中のブースターを震わせた。


「待ってラッセ! まずは出方を探るために右手の銃を――」

「まあ見てろって!」


 そんなことは言われなくてもわかっている。しかし人間心理は近づいてくる敵を嫌がるものだ。その場に留まって銃を撃つより、多少なりとも突進しながら撃つ方が対処が難しい。

 もちろん狙いはつけにくくなるが、もとより面での攻撃を仕掛けるレヴォにそんな弱点は無いに等しい。

 突進を開始して数秒でラッセはレヴォを放つ。

 まだ彼我の距離は二百メートルはあるが、レヴォの速度なら一瞬だ。


「さあ今度はどう出る?」


 もうランスは無い。今度こそ確実にどちらかに動くはずだ。

 予想通り、黒騎士は上空へと急加速した。

 そしてラッセの予想だにしない攻撃を繰り出した。

 騎士の胸部装甲がパカリと割れ、そこからいくつも枝分かれした黒い閃光がレヴォの光弾を一方的にかき消し、スカイキャットに襲い掛かってきたのだ。


「ぐっ! てめえそんなもん今まで隠してたのか……!」


 慌てて旋回動作に入る。

 銀騎士の対策は積んできたつもりだが、今の敵の動き、武装、行動は何もかも銀騎士の行動とはかけ離れたものばかりだ。

 やはりデータをすべて捨て去って初対面の敵と思ってやるしかない。


「舐めるなああああああ!」


 敵の黒い閃光の威力は明らかにレヴォよりも高い。となると相殺は難しいので避けるしかない。

 ラッセは微速で機体を操縦し、最小限の動きで閃光を避けていく。

 しかしいかんせん数が多い。決して気を抜いていたわけではないが、敵の閃光の一発がスカイキャットの左腕の装甲を掠めた。

 

その瞬間。


「ぐ、がっ!」

「きゃあああああああああああああああああ!」


 悲鳴を上げたのは自分の喉。そして無線の向こうにいるソアラだった。


――なに、が……

 自分の左腕に突然走ったひりつく痛み。まるで燃え盛る火に炙られたかのような激痛だった。

 どうにか意識を保って攻撃をかわし切ると、恐る恐る左腕を確認した。

 痛みを感じた箇所は赤く腫れあがっているのみで、まるで骨まで炙られたかのような痛みを感じた箇所とは思えないほどだ。


「ら、ラッセ……」

「ソアラ、無事か? どうした!」


 よく聞くとソアラ以外からも無線の向こうからうめき声が聞こえる。

 その場にいる全員に被害があったようだ。


「突然、腕が焼けたように痛んで……」

「!? それはどっちだ!」

「え?」

「どっちの腕が痛んだって聞いてんだよ!」

「左腕よ。管制館にいる全員同じ感じね……何人か気を失っちゃったみたい」


 左腕。ラッセが痛みを感じた場所と同じだ。


「クソ! 何だってんだ!」


 ラッセはひとまず黒騎士から距離をとるように操縦する。騎士も迫っては来るが本気では追ってきていないようで、楽しむようにゆっくりとついてくる。


「野郎、こっちの反応を見て楽しんでやがんのか……つくづく銀色の時とは別人だな」


 仕留めるならばいつでもできる。そんな余裕を見せつけるかのような態度に、舌打ちをする。

ラッセは銀騎士に対しては、私的な因縁こそあれ、戦いに臨む姿勢に関しては認めているところがあった。

 民間人は巻き込まず、基本的に大損害になるような不意打ちもしない。ラッセの友人が巻き込まれて死んだのだって、裏を返せば必死に銀騎士に抵抗をしたからだ。

 戦場で攻撃を受けている以上、敵からの攻撃を受けるのも止む無しだ。

 その教えは軍で嫌というほど頭に叩き込まれた。

 友人が敵を攻撃し、銀騎士はそれを迎え撃ち、破った。言ってしまえばそれだけのことだ。

 戦闘に関して明確な信念をもち、敵すべてに敬意を払う。そういう姿勢は素直に感心していたが。


「今のてめえにそんな信念は感じねえ。そんなやつに負けるわけにはいかねえよ!」


 一人強く、しかしどこか残念そうに口にし、ラッセは思考を切り替える。

 黒騎士の攻撃を避けながら、高速で勝つための算段を構築する。

 まず気になるのは先ほどの痛みだ。

 理由はよくわからないが、ラッセが受けたダメージを島の全員にまで同じように伝える攻撃。共感覚とでもいうのか。これがもし可能ならば、一人を殺すだけで大勢の人間を殺めることも可能だろう。


 どうなってる……いったい何が原因だ……。


 その間にも後ろから迫る黒騎士の銃撃は迫る。フットブレーキと操縦桿を駆使しながらすべて躱していく。

「左腕……突然の痛み……はっ!」


そういえば、スカイキャットが被弾した箇所は――


――まさか、スカイキャットの受けたダメージが俺たちにまで返ってきているのか……?

 その考えに至ったと同時に、先ほどから沈黙を続けていた無線からソアラの声が響いた。


「ラッセ、あなた敵になにかされなかったかしら? 変なものをつけられたり傷つけられたり……」


 その問いに、半ば確信するように答える。


「……あるぜ。背中にでっかい入れ墨みたいなものがな」

「やっぱり。おそらく原因はそのマーキングと霧よ」

「霧……」


 息苦しいわけでも視界が著しく低下しているわけでもないので無視していたが、いまだに霧は周囲を覆っている。これが先ほどの痛みの原因?


「目印にした機体に与えられた痛みを、霧の範囲にいる全員に伝える特殊能力……おそらくそんなところね」

「にわかに信じられねーな」


 ソアラの口から改めて告げられた言葉が、半信半疑だったラッセの思考にトドメとなって突き刺さる。常識という壁が今取り払われた。


「私の時代にはこんなオカルトじみた特殊兵器は存在しなかったはずよ。私たちがいなくなった後にも開発されたのかしら。……ただ聞いて、今ものすごくまずい状態なの」


 ソアラの口調が焦燥感を増す。


「どうしたんだ?」

「霧の効果範囲がまだ拡大しているの。このままだとあと十分で本土まで到達するわ……」

「なんだと!?」


 今の痛み。機体の塗装を剥がす程度のかすり傷だけで、クランカイゼンを飲んでいたにもかかわらず一瞬操縦に支障が出るレベルのものだった。

 それほどの痛みを見ず知らずの無関係な人々にまで及んだとしたら、ましてや直撃を食らおうものなら……


「さっさと倒すしかねえか……いや、どのみち島のやつらはもう霧の中だ。もう一発も食らえねえ」


これまでに無いほどの緊張感が全身を包む。それも気持ちのいいものではなく、最悪に近いものだ。

 訓練学校でペイント弾をつけられないようにするのとはわけが違う。正真正銘、自分がやられれば周囲の全員が命を落とす。


「ラッセ、あまりこういう手は取りたくはないけど、マーキングされたあなたの機体は一度下げるべきよ。逃げに徹して遠目からの射撃で……」

「それを許してくれる相手ではないさ。速さで負けてんだから打ち合いで勝たないとよ」


 実際、敵が銀騎士のままであればかろうじて逃げることもできただろうが、今の黒騎士の動きは完全に想定の範囲外だ。

 今は遊んでいるからこちらの速度に合わせてはいるが、本気の速度で先ほどみたいに背中に張り付かれたらそこで終わりとなる。

それに黒い閃光のような飛び道具がまだあるかもしれない。そうなると逃げ出しても背中を打ち抜かれるのが関の山だ。


「――っ!」


 咄嗟に操縦桿を前に倒す。

 スカイキャットのボディ数センチのところを黒い閃光が走り抜ける。

 ラッセは耐Gスーツの下、胸から腹にかけてゾワリとした熱を感じた。

 黒騎士の左腕から伸びた、嫌に生物的な砲塔から伸びた銃口から煙が上がっていた。


「……そんなもんさっきまで見せてくれなかったんじゃねーかよ」


 これではっきりした。黒騎士は銀騎士とは違って、完全に中・遠距離タイプということなのだろう。

 霧の中、敵がなすすべなく逃げることまで想定して近距離ではなく後ろから打ち抜けるよう、遠距離武装が主体となているのだ。

 今の射撃は無言の警告だ。周囲を覆う霧はデスマッチの金網。目の前には逃走を許さないこれまでで最大の難敵。

 まさに人生を掛けた大一番といえる。


「逃げた背中を無抵抗に打ち抜かれて死ぬよりは、全力で向かって行って無傷で帰ってくるほうがいいな」

「ちょっとラッセ、あなた……」


 ソアラの忠告を遮って大仰に言う。


「ソアラ、俺が軍にいた時の渾名を教えてやるよ。今すぐ島中のスピーカーにつなげ」

「はあ?」

「いいから!」

「え、ええ。ちょっと待ちなさい」

 

 ――といってもすでに何発か黒騎士に土つけられちまっているから説得力薄いかもな……


 しかし、だからこそ、ある意味皮肉が聞いているとも言えるその名を、一度も誇ったことの無いその名を、あえて口にする。


 ソアラから「いいわよ」という言葉を聞くと同時に、大きく息を吸い込み、自分にも言い聞かせるかのように吠えた。


「俺はラッセ・ユリウス・フルスカイネン! フィンランド空軍が誇る“無傷のエース”だ! 島にいる奴ら全員! 安心して俺に任せておけ!」


 それは島中の意識ある者すべてに響き渡る声量だった。

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