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発覚

 ソアラの口から語られた真実、そして一週間後に行われる会議の内容は、想像を絶するものだった。

 遼河達三人はその内容を理解することに必死で、気が付くと時間はすでに夕方の五時を大きく回っていた。


「……ここまでね。あとは来週の会議の時に詳しく説明するわ」


 だからこそソアラが腕時計を確認してそういった時、遼河は少しほっとしていた。これ以上は頭が追いつかない。


「……なんか、とんでもない話を聞かされちまったな」


 ラッセの言葉に内心同意する。正直まだ半信半疑ではあるが、ソアラの話を現実と重ね合わせてみると、色々とつじつまが合うのも事実だ。


「それじゃあ、とりあえず下の階に行って休憩でもしない? 私喉乾いちゃった」

「そうだね、ちょっと羽も伸ばしたいし、一度外に出ようかな」


 唯花の提案にうなずき、唯花、ラッセの後に続いて遼河も出口に歩き出した。

 その時。


「遼河、あなたは残りなさい」


 遼河の背中に、ソアラの言葉がかかった。日本語だ。遼河と唯花、そして言葉が分からないラッセが戸惑いながら振り返った後、その視線が遼河を向く。


「……俺?」


 その場にいる全員の視線を一身に受けた遼河は、何かの間違いではないかと言う思いを込めてソアラに視線を送る。

 ソアラは当然といった風にうなずいた。


「ええ。遼河なんて名前、あなた以外いないでしょう。あ、ごめんなさいね。唯花とラッセは外してくれるかしら? 二人だけで話したいことなの」


 会議室へ再び戻ろうとする二人に、ソアラは申し訳なさそうに、ラッセにも分かるよう英語で言った。

 ラッセは残念そうに半歩下がって部屋から出る。唯花も少し考えるように視線を上に向けると、頷いた。


「うんわかった。それじゃあソアラ、遼河くん、また後でね」


 と手を振り、部屋を後にする。


「さて」


 二人の姿を見送ると、ソアラが手近にあった椅子に腰かけ、簡易机を引き出すと、両手で頬杖をついた。


「あ、あのー」


 中規模の会議室とはいえ二人きりとなると流石に広大に感じる。未だになぜ自分が残されたのか理解していなかった遼河は、おずおずとソアラに声を掛けた。


「なにをしているの? あなたも座りなさい」


 ソアラが自分の座っている対面を指差す。


「あ、うん」


 取りあえずその言葉に従い、ソアラの前の席に腰かけた。固定式の椅子なので向かいあうためには後ろを振り向くしかない。高校にいたころ、後ろの席の級友とよくこうして話をしていたな、と懐かしい感覚を覚えながらソアラと向き合う。


「うっ……」


 そして予想外にソアラの顔が近くにあったことから、思わず顔をそむけてしまった。


「何? 私の顔になにかついていたの?」

「い、いやそうじゃないけどさ」

「なら顔をこっちに向けなさい」

「……はい」


 恐る恐る目線を上げる。

 ソアラの少しイライラした顔が、相変わらず近くにあった。今までは距離を置いていたから大丈夫だったが、こうして間近で見るとその美貌が際立つ。

 ここが街中で、服装が白衣じゃなくてもっとしっかりしたものだったら、モデルと勘違いしてもおかしくは無いだろう。

 途端に心臓が鼓動を始めた遼河に気付かず、ソアラが一枚の紙を取り出した。


「遼河、あなたの家族の話を聞かせてもらってもいいかしら?」

「家族?」


 意外な質問に、思わず言葉を返す。

 どうやらソアラの手に持っている紙は履歴書のようだ。この島に訪れる前に書いておいた必要書類のコピーだろう。


「ええ。あなたのご両親について、教えて貰える?」

「いいけど、なんで……?」

「それはすぐに話すわ。それで、ご両親は今どこで何を? 元気にしているの?」


 身を乗り出してくるソアラに遼河は慌てて答えた。


「いや、その、両親はもうこの世には――――事故で死んじゃったから」


 不幸な事故だった。両人共に技術屋だった遼河の親は、航空機の部品を製造しており、その腕前も将来を期待されているものだった。

 そんな二人の仕事を知ったメーカーから問い合わせは増え続け、やがて海外からも受注が来るようになっていた。海外の企業との取引のため、二人が乗り込んだ飛行機が事故に遭い、唐突に命を落としたのだ。

 一人残された遼河は父方の祖父母に引き取られ、今日までを世話してもらった。

 そういった事情もあり、四方寺重工の研修期間中に受け取った給料は――社員扱いとなるため給料も出る――、ほとんど仕送りに割いている。祖父母からは自分のことに使え、と言われているが、頭を下げて受け取ってもらっている。


「――ってわけなんだ」


 そのことを遼河が告げると、ソアラは目を大きく見開き、


「嘘……亡くなったの……?」


 といって俯いてしまった。急に顔色が悪くなり、明らかにふつうじゃない。


「だ、大丈夫? 気分でも悪くなったとか?」

「……いえ、少しショックだっただけよ。でもそうね……ちょっと時間がほしいかもしれないわ」


 ソアラは声を震わせながら顔を挙げる。


「ごめんなさい……ここで話を終わらせるはずだったのに……ねえ遼河」

「な、なにかな」

「今晩、格納庫に来てもらえる?」


 真っ青な顔で告げられたその言葉に、遼河はただ頷くしかなかった。



  ◆


 夜中、夕飯を済ませた遼河は、隆市に外を散歩してくると告げ、寮を出た。食堂では唯花とラッセはいなかった。恐らく管制館に移っていたのだろう。


 第二格納庫の入り口に立つ。いつもは居るはずの第一格納庫の警備員も、今日はいなかった。

 カードリーダーを無視して入口に近づくと、ピーと軽快な電子音がして、扉が開いた。

 側にあったスイッチで照明に明かりをつけると、格納庫の中の様子がはっきりと目に入る。

 中央には、鋭意修理中の隼風が膝立ちで座り込むようにそこにいた。整備待機中のF-A01もこの時ばかりは隼風に場所を譲るように脇に並んでいる。

 少し視線を巡らせると、隼風の反対側の位置に青色の無骨な機体が鎮座しているのがわかる。ラッセが乗ってきたEX-Gだ。ちなみに名前は先ほど聞いており、『FSスカイキャット』と言うらしい。

 猫というには大型すぎる機体だが、そのデザインは無駄な装甲をそぎ落とした隼風と対照的で、こちらもほれぼれする出来だ。


 ――今度ラッセに触らせてもらえないか聞いておこう。


 心の中でそう誓い、ひとまず視線を隼風に戻す。

 今日遼河達が会議室に呼ばれている時も、隼風は整備班達によって大修理を行われていたのだろう。その修理に関われなかった事に若干の心残りはある。明日からはしっかりと修理に参加しようと心に決め――


「だーーーー! ダメだ! 我慢できない!」


『こんなこともあろうかと』持ってきておいたマイツールボックスから整備道具一式を取り出す。こういった非定例作業は整備士なら良くあることで、見習いとはいえ遼河も例外ではない。

 とは言え、見習いの自分が勝手に精密な機材を弄るのは大問題だ。そのため、修理では無く、今の隼風がどれだけの損傷を受けているのかを調べることにする。そうすることで明日の整備箇所の予習ができる。

 隼風に立て掛けられた梯子を上り、まずは胸部の辺りを確認する。


「どれどれ……ってもうエンジン周りは完璧じゃないか」


 急務だったエンジン周りは、微細な箇所も含め完璧に仕上がっていた。なんならこのまま隼風を機動したとしても飛ぶことだけなら容易であるくらいに。


「さすが中根さん達エンジンチーム……と、装甲の方はもう取り替えないとだめかな」


 一方で左肩を中心に、ボディの三分の一程度の装甲は黒く煤けており、次の攻撃に耐えられるとは思えない。恐らく明日、予備部品から装甲の交換が行われることだろう。

 頭にチェックシートを思い浮かべ、修理箇所を逐一書き込みながら隼風の全身をくまなく検査していく。


「よし、大体こんなところかな」


 おおよそ全身を検査し終えたところで、遼河は隼風の右肩に座り込んだ。

 今この場所は、格納庫の全体が見える場所だ。肩の位置は隼風の頭部とも近く、最も隼風の見る景色を感じられる場所でもある。


「……ありがとう、唯花さんを守ってくれて」


 隼風の肩に手を当てながら、遼河はつぶやいた。

 敵の攻撃をまともに受けきるというとんでもない使い方をした唯花。そんな唯花を、自分が傷つきながらもしっかりと守ってくれた機械の巨人に、遼河は心から感謝した。

 当然返事は無いが、それでも隼風の一部の装甲が一際輝いたような気がした。


「……いやちょっと待て。ホントに光ってる!?」


 遼河のいる場所から少し下の部分。つまり胸部コクピットのあたりが淡い光を放っていた。

 慌てて梯子を降りて確認する。エメラルド色の光が、コクピットの中から外へと漏れだすように輝いていた。

 その光を見てハッとする。


「この光……森の中で見た時の……」


 記憶が思い起こされる。赤鬼との戦闘で気を失った唯花を助けた時、少しの間輝いていた光。それと同じものだった。


「やっぱりそうなのね」


 その時、後ろから良く通る声が聞えた。


「ソアラ……」


 そこにはいつの間に格納庫にいたのか、白衣のポケットに手を入れ、遼河と同じように隼風の胸部に目を向けるソアラの姿があった。

 目は泣きはらしたように赤くなっているが、顔色は戻っており、体調も回復したようだ。


「はあ……まさかこんな簡単に見つかるなんてね。いや、見つからなかったからこそ、とも言えるのかしら?」


 ソアラはそう言いながら遼河に近づき、目の前で止まった。紺碧のその瞳をまっすぐ遼河に向けると、衝撃的な言葉を放った。


「おめでとう遼河。あなたは今この瞬間から、『複座式』MSG“隼風”の副操縦士に決定したわ」


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